018 森の生活 ④
お猿さんたちが手伝ってくれたので床と壁の作業はあっという間に終わってしまった。
何となく物足りなさそうだったので、同じ物をもう一個作ってもらったの。なんと、二重サッシならぬ二重壁になってしまった。
これは思わぬ拾いもの。この壁の間に断熱効果がある植物を詰めたら……断熱住宅のできあがりよ。
うん、絶対に住みやすくなる。
そして壁も柱も使っている蔦は火にも強いの。
火事にも強い。素材は全て天然の植物。そして断熱。もはやエコ住宅ね。
* * * * *
森の夜は長い。
作業が早く終わったこともあり寝るにはまだ早い時間なの。なのでアルはんの話を聞きながら『葡萄蔦の鞄』作りを始めることにした。
アルはんの木の枝の先がLEDライトのように明るく光りわたしの手元を照らしてくれる。
真っ暗な世界でここだけほんわかと明るくなっている。
この灯りは精霊の力を借りているらしい。
蔦をなめす手を動かしながら話しかけた。
「アルはん、精霊にお願いすれば何でもしてくれるの」
「全部は無理やで」
「何ができるの?」
「太古から受け継がれたイメージされた事だけやな」
「……?」
「エニシはん。人や動植物が生きていくために必要な基本物質は何やと思う?」
「はへぇ、わからないわ」
「ふふ、聞き方が悪かったかいな。ほなら、例えば『水』やな」
ああ、でもそう言う物ならわかる。
「『お日さまの光』『土』『植物』『空気』……後は何」
「『金属』『火』、まあ簡単に言えば『木火土金水』が基本で、そこに『日』と『月』が加わるんや」
まるで日本の1週間みたいだわ。
「それが、創造主がイメージした精霊の基本なんやで」
うん、わかった。それが精霊術。
でも、『日』はなんとなく分かるけど『月』ってなにかしら。
この星にもお月さまはいる。それのこと?
「アルはん。『月』って、あの黄色い月のことなの?」
「まあ、それもあるけどな、肉月、つまり『生き物の体や命』のことでもあるんや」
ああ、漢字にも『筋肉』や『心臓』に『月』がついている。なるほど。
「エニシはん、魔物がどうやって誕生するか知っとるか?」
「え、知らないです」
「精霊は創造主がイメージしはった自然発生する超常現象や、魔物はな、太古の動植物の恐怖や絶望が生み出したものなんや」
何となく分かる。魔物みんな怖い姿をしている。
「エニシはんもこれから魔物と戦うことも出てくるさかい、あの子達のことも少しずつ話していこうかね」
「うん、おねがい」
アルはんの話はいつも分かりやすい。
私のお母さんみたい。
お母さん、お父さん、お兄ちゃん……みんなも異世界にいるのかな。なら、会いたいな。
南の森の夜が静かに深まっていく。
* * * * *
さて、今日は仕上げの屋根よ。
仕上げの屋根に使う蔦は『撥水傘蔦』これは『かさつた』ね。日本語オンリーのわたしでもこのカタカナ読みは知っている。
『アンブレラ・ヴァイン』に違いない。
なんと、この蔦は細かい毛がびっしり生えているの。この毛が水を弾くので、防水効果が抜群なのよ。
ただね、この毛、刺さるのよ。真色眼は青なので毒は無いけど、刺さったらけっこう痛いと思うのよね。
「フィリちゃん。わたしは神装結界で手を保護できるから棘は刺さらないけど、お猿さんたちが素手でこの蔦に触るのは無理そうね」
「うん、彼らもこの蔦には近づかないよ」
残念だけどお猿さんたちに手伝ってもらえるのはここまでね。
屋根に使う編み方は『六つ目編み』よ。
蔦を交差させて『六角形の編目』を作る。これ、『ハニカム構造』って言うのよ。わたしだってこのぐらいは知っているのよ。
六角形は揺れや強風にも耐えられるらしい。蜂の巣みたいな感じかな。
ただ、隙間が空いてしまうから、昔の家の屋根みたいに茅葺きにしなくてはいけないの。
大きく隙間を作った六つ目編みの蔦が垂木の代わりになる。その上に茅を敷いてからこの蔦で縛って固定する。
どう、考えたでしょう。
でも、その茅になる植物はまだ見つかっていない。
ああそうか、お猿さんたちにはそれを探してもらおう。
「ウキッ!(気をつけ!)」
お猿さんがぴしっと直立した。
「ウキキ!(整列!)」
お猿さんが横一列に並んだ。
「ウキ、ウキキキキ、ウキッ!(これをさがす!)」
茅に似たススキみたいな植物を見せた。
ん? ウンウン頷いている。これは期待できるかも。
「ウキッ!(行け!)」
30匹のお猿さんたちが一斉に走り出したの。
がんばってねー。
「ボクも行ってくるね」
なんと、フィリちゃんも飛んでいった。
まあいいか。あの姿でも森の守護者だ。心配はいらないだろう。
さて、ボチボチと始めましょう。
細かく編まなくていい。でも、強度は必要になる。
試しながら作って見るしかないか。
* * * * *
穴の大きさが決まってからは早かった。
神装力100パーセントで指先の力だけの力を逃がすの。他の部分の力はエンジン全開なので早い早い。
ビデオの早送りみたいな感じで作業を進めることができたの。これ、今後もいろいろ応用できそうな方法だわ。
「ウッキィー!(できたぁー!)」
あ、この姿だから自然にお猿さん言葉になっちゃった。まあいいか。
「エニシ、できたぞ!」
ん、ゼウス。久しぶりに声を聞いた気がする。
「ウキキ?(なにが?)」
「……人の言葉で話せ!」
あ、つい……。
「おほん、で、何ができたのよ」
「エニシ専用車です」
あ、ロゼー。やっぱりかわいい。
「で、どこにあるのよ」
「ああ、すまん。今出す」
は、何を出すの?
びっくりよ! 何もない空間から小型のバスが出てきたの。前に顎が付いていて丸い目をしているバスよ。
「すごい、これ、昔のバスよね。昭和時代に走っていたはずよ」
たぶん本物はもっと大きい。このバスは10人乗りぐらいの大きさかな。
「よく分かったな。人族の町で普通に使われている形状だ。獣人族の町で走っていてもそれほど違和感はないはずだ」
「獣人族の町はトカゲ型の魔物が引く車両が一番使われています。もしかするとちょっと目立つ事になるかもしれません」
「ふふふ、ロゼよその点は抜かりがない」
ゼウスがどや顔したの。
嫌な予感しかしないわ。
「いいか、車体骨格は『ドラゴノイド・ヴァイン』でできている。軽量でありながら超高強度の素材だ」
あー、大きい鳥さんが一番最後によたよたしながら運んできたあの太いやつね。
「ボディーは『カーボン・ヴァイン』でできている。言葉通り熱処理加工することで炭素繊維同等の強度と軽さを持つ。そして何よりもこのつや消しの黒光りだ。これが質素な高級感を出している」
確かに、高級車ってみんな黒ね。
「タイヤは『エラスト・ヴァイン』を採用した。驚異的な耐摩耗性と弾力性を兼ね備えている。ノーパンクタイヤのような衝撃吸収力を発揮してくれる。多分だが、乗り心地は最高だぞ」
なんですとー! お尻が痛くならないのね。でかしたわゼウス。
「まだまだ隠し機能が満載だ。先ほどの獣人族のトカゲ車両の事だが、なんとこの車はタイヤを収納して車輪を出すことができるようになっている」
え、まじですか。
「どうだ、これも隠された機能のほんの一部だぞ」
杖が腰のあたりで曲がって背中が反っている。
腕があったら腰に手を当てて「わっはっはっは!」って大笑いしている姿ね。
「わかった、ゼウス、ありがとう。もう説明はいいわ。使う場面が来たらその時にお願いね」
これ以上調子に乗せてはいけないわ。ここらへんが潮時よ。
「ん、そうなのか。まだ、シャワーのことを話してないぞ」
なんですとー! それを早く言いなさいよ。
「……聞くわ!」
その時なの。フィリちゃんが凄い勢いで飛んできたの。
「エニシ大変なのだ。北の森の底なし沼に「蛇ワニ」がでたよー」
は、蛇とワニが出たの?
「蛇みたいに長い体がありワニみたいな強靱な顎を持った凶暴な魔物です」
ロゼの表情が硬い。これは緊急の案件ね。
「ススキを取りに言った猿さん達が木の上で待っているの。蛇ワニは数匹いてボク1人ではお猿さんを全部は助けられない。一緒に来て」
「わかったわ。直ぐ行く」
「エニシ、丁度いい。この車の性能を見せてやる」
ゼウスがにんまり笑っている。
でも、緊急なの。
その提案、承認よ!
次話投稿は明日の7時10分になります




