017 森の生活 ③
アルはんのいる場所は他の森よりも少し高い丘になっている。広さはそうねえ、東京の皇居がある場所ぐらいかな。
そこには大きな樹木はなく、芝生のような草が一面に茂っている。きっと手入れをすれば日本の公園みたいな場所になるだろう。
森には葉っぱが大きい木がいっぱいある。そしていろいろな木の実がたくさんなっている。
キノコや食べられる草もたくさんある。
それらの食材をロゼが美味しく料理してくれる。
羽のない鳥さんが毎日卵を産み落としていく。
猿さんやリスさんが森の恵みを届けてくれる。
優しい森。あたたかい森。アルはんみたいよ。
「さあ、みんな、家を編むわよ」
ふふ、手伝ってくれる人は誰もいないけどね。雰囲気は大事よ。
「うん、エニシ何でもするよ」
おっと、フィリちゃんがいたわ。あぶない、あぶない。
作り方はこうよ。
土台や柱は『鉄幹蔓』を使うの。漢字の読み方は分からない。だって、ルビがふられていないんだもの。だから呼び方は適当よ。
「まず、『てつつた』を使うわよ」
「うん、『アイアン・ヴァイン』のことだね」
く、そうとも言うわね。
「柱は下から編んでいくの。えーとね、私がいた国にある技術かな、3Dプリンタって言うのがあってね。粘土を貼り付けていくみたいに浮き上がってくるのよ。それと同じ感じよ」
「うん、ぼく知っているよ」
え、そうなの。なんでかな? まあいいか。
「ゼウス、家ってどのぐらいの大きさにすればいいの」
「エニシが住んでいた家ぐらいでいいぞ」
え、わたしが住んでいた家……5歳までは本当の両親と住んでいた家。
今は自分勝手な人たちが好き勝手をしている家になってしまった。
楽しい思い出もあるけど、辛く悔しい思い出に全部上書きされてしまった。
いやだな。あの家は。
「わかった、日本の家のイメージでいいのね」
うーん、2階建てはまだ無理ね。だから平屋ね。
「部屋は4つ位あればいいかな。大きなリビングと寝室が3つ。あと、台所とトイレは必要ね。それとお風呂、これは絶対ないとダメ」
まず、部屋のイメージを決める。そして、神装力の結界で底面積を作るの。たぶん4年生の算数よ。簡単よ。
「神装力展開、イメージ『日本の家』で神装結界発動」
詠唱なんて適当でいいのよ。わたしの頭の中に具体的な姿が浮かんでいれば、その通りになる。
神装力100パーセントの威力を見よ!
ここは異世界。魔法が使える世界。
昔見たアニメみたいに半透明な紅色の光が広がっていく。
玄関、リビング、寝室、台所、トイレ、お風呂、そして収納スペースが図面みたいに生い茂った芝生の上に展開した。
ここからは微調整。実際に歩いてみて間取りの大きさや動線を確かめる。作ってから後悔するというお話をよく聞くからね。わたしは慎重なの。
よし、イメージ通り。これで固定よ。
ここからは地味な手作業なの。
底面積の端に柱を立てる。いえ、編んでいく。
これが家の骨組みになる。
柱は3Dプリンタで積み上げるように編んでいく。木材と違って釘や金具でつなげるなんて事はできない。全部つなげて編んでいくの。でも、だから凄く丈夫なはず。
建築の知識も技術も無いわたしが家を作るならこの方法しかない。
竹細工の応用よ。竹で筒を作るイメージで家の柱を編んでいく。
本当は壁や床も一緒に編んでいけばもっと丈夫なんだろうけど、骨組みと床や壁で使う蔦は別にする。
その方が蔦の性能を活かした家づくりになる。
どうよ、このアイデア。
わたしは適応力だけはある。そうしないと生きて行かれない場所で生活してきたの。
ここは異世界。なら、その異世界にも適応してみせるわ。
地面に直接床ではダメよ。床はある程度高い場所になければ湿気が逃げない。
まず、柱を編む。
神装結界で円柱を作る。その柱に巻き付けるような感じで編んでいく。編み終わったら結界解除で柱の完成。
『てつつた』は、乾くと鉄みたいな強度が出る。だから、水につけて柔らかい状態の蔦を素早く編んでいく。編み方は試作の家を作ったのと同じ。
『四ツ目編み』よ。縦と横を碁盤の目みたいに交差させるだけの編み方。
他の蔦よりも太いこの蔦を編むにはこの方法が一番速い。
「てつつた取り出し」
収納から使う分だけ取り出して、どんどん編んでいく。蔦の長さは全部揃えてある。これはロゼがやってくれた。だから丁寧で正確なの。
ふー、1日で編める量は限られているわね。でも、これはわたしが神装力を使いこなすための訓練でもある。
わたし頑張るわ。
* * * * *
あれから3週間。あ、この世界にも暦ってあるのかしら。まあいいか。
とにかくたくさん時間を掛けたのよ。でも、完成したわ。
床は地面から1メートルぐらい離したの。これなら床上浸水の被害は出ないわ。完璧よ。
今できあがっているのは柱だけの骨組み。あれね、竹ひごで作った模型みたいな感じよ。
ここからは、床や壁を編む作業になるわ。
使う蔦は『織層蔦』これは『おりつた』よ。
フィリちゃんが『ウィービング・ヴァイン』だと教えてくれたけど、わたしは日本語オンリーよ。
この蔦はもともと平たいままで木に巻き付いている。そして、簾みたいに枝だからぶら下がっているの。
編むには丁度いいのよね。
編み方は『網代編み』。
縦と横を『1本越えて1本潜るをずらしながら隙間なく詰めて編んでいく技法』なの。籠やザルの編み方よ。
雨や風を防ぐには隙間が無いように編まないといけないの。まあ、それでも完全には防げないから完成してから補強は必要ね。
それにしても、これだけの面積となるとけっこうな時間がかかりそうね。
ん、と少し伸びをする。
ふと下を見ると視線が合った。
「……」
1週間ぐらい前からずっと見ている人……いや、お猿さんがいるのよね。別に見ていてもいいんだけどずっとだとちょっと気になるかな。
「エニシ、あのお猿さんたち、エニシの手つきを真似してずっと動かしていたよ」
ああ、『猿まね』ってやつね。言葉の使い方は間違っているかもしれないけど今の状況にはぴったりの言葉ね。
「何がしたいのかしら。蔦を編んでみたいのかな」
ふーん、この子達、結構器用なのよね。
じっとお猿さん達を見つめた。
目が合う。日本のお猿さんなら牙をむいて威嚇されるだろう。でも彼らは違う。
目をキラキラさせながら何かを期待するような目でじっと見てくる。
うん、ものは試しね。
「神装力開放『多言語翻訳様』対象『お猿さん』発動」
う、体がむずむずする。
頭の上にちょこんと乗っていた三角の耳がお猿さんの耳に変わった。そしてしっぽも少し長くなる。色もお猿さんと同じ毛色になった。
「ウキッ!(気をつけ!)」
お猿さんがぴしっと直立した。
「ウキキ!(整列!)」
お猿さんが横一列に並んだ。
「ウキ、ウキキキキ?(やりたいの?)」
お猿さんがウンウンと頷いている。
ふーん、ならやってもらおうじゃないか。
「ウキ、ウキキキキ、ウキ(こうやるの)」
実際にやってみせる。
お猿さんがウンウンうなずき親指を立てた。
「ウキ、ウキキ!(え、できるの!)」
お猿さんが蔦を持って編み出した。
凄く上手。わたしより手際がいいかも。
「ウッキー!ウキキ(ラッキー! お願い)」
なんと、30匹ぐらいのお猿さんたちが一斉に作業に取りかかった。
まじ、これ、あっという間かも。
こうして、私達の家の床と壁が見事にできあがったの。
次話投稿は明日の7時10分になります




