016 森の生活 ②
わたしの森での日課が決まった。
猫は薄明薄暮性。薄暗いときから起きて活動を始める。
毎日、日替わりで動物たちが迎えに来る。
猫科は、だいたいが豹のお姉さん。
他の動物たちはお猿さんやリスさんがやってくる。
熊さんや猪さんは森で待っていてくれる。
鼠さんやトカゲさんが木の上や切り株に隠れている。
森でやることは決まっている。
『鬼ごっこ』と『かくれんぼ』よ。
そして、この頃はもう1つ遊びが加わった。
それは『お相撲』なの。
相手は熊さん。
ふふ、ここまで来ると金太郎の物語ね。
「ムッキー! 今日も逃げられた」
お猿さんが木の上でお尻を叩いている。悔しい!
跳躍で木に登ることはできる。でも、それだけ。
幹の途中で止まったり枝が無いすべすべした所をよじ登ったりはできない。
豹のお姉さんはとても上手。
爪を幹に食い込ませて、丸太を抱えながらひょいひょいと登っていく。
「フィリちゃん。わたしにも爪がないとダメね」
イメージはできている。
豹のお姉さんは、幹に飛びつく瞬間に爪だ出している。後ろ足の爪は意識して出していると言うより踏ん張った瞬間に出てきている。
猫も普段は爪をしまっておけるのよね。その方が歩くときに邪魔にならない。これ、凄い工夫よ。
うーん、わかった。前足の爪は自分で使いたいときにシュパッて出すの。そして、後ろ足は踏ん張った瞬間に自動で出るようにする。
これが正解ね。
わたしの思考回路は1つだけ。意識できるのは前足だけよ。
「神装力開放、神装結界『猫の爪・後ろ足はオート』発動」
うん、完璧よ!
爪が人の手の指のように動くし伸びる。後ろも同じ。足の指で踏ん張るときに爪が自動で出ている。
うん、いける!
「神装力50パーセント。イメージピザ5切れよ」
体の中でF1レーシングカーのエンジンが「バリバリバリー」って爆音を上げている。
クラッチが繋がったら一気にフルパワーで走り出す。
ダメよ。ここは30キロ規制の生活道路、ゆっくり走らなければいけないのよ。
木登りも同じ。パワー全開で飛びついたら大木が粉々になってしまう。
爪先に集中。
エンジン全開パワーは緩めない。
でも、指先の力はやんわりよ。
猫パンチと同じ。言葉でイメージを固定する。
「猫爪米粒ぐらい」
うん、イメージ通り。これならいける。
跳躍から爪を出して幹を抱え込む……できた。
わたしは今、枝も何もない幹の途中で止まっている。
ニャッと鳴いて上を見る。
ふふ、お猿さんから余裕の顔が消えたわね。
あなたたちは木の枝を伝わるだけ。でも、わたしは幹から幹に飛びうるれるのよ。
あ、逃げた。
長い手としっぽを使って枝から枝に飛び移っていく。
わたしは、幹から幹へ直接飛び移る。爪があるから自由自在に動けるの。
ふふ、追い詰めたわよ。
逃げていく方向にあるのはす『べすべの木』の林。つかまる枝はないわよ。さあ、どうするの?
ふふ、降参ね。
手を合わせて謝っている。まあ、許してあげるわ。
今度のエンジンは大型トラックよ。ものすごい力が出せるの。
「熊さん、力比べよ」
神装力開放、80パーセント。ピザ8切れよ。
巨大な力を生み出すモンスターエンジンは全開よ。
体中に神力がみなぎる。
車ほどある大きな岩を持ち上げられるパワーなの。
でも、全てを開放したら岩は粉々に砕けてしまう。放り投げれば数キロ先まで飛んでいく。なんなのこの力。笑っちゃうわ。
だから、言葉でイメージを調整して固定する。ネーミングは結構得意。
「剛力豆粒ぐらい」
「ふふ、どうしたの。それが全力?」
わたしは指1本でおでこをちょっと押さえているだけ。なのに熊さんは一歩も動けない。勝負ありね。
ふふ、パンダのへそ天は動物園で見たけど熊さんは初めてね。
そして、お昼寝タイムは最高なの。
豹さんのお腹は弾力があって枕にぴったり。
お猿さんがしっぽで頭を撫でてくれる。
フィリちゃんが隣で寝息を立てている。
リスのしっぽが顔に当たってくすぐったい。
猫は一日16時間寝るのよ。
そんなに寝られるかと心配したけど、もうぐっすりよ。
だいたい90分で起きてまた遊びの続きをするの。
初めの3週間ぐらいは辛かった。
でも、3ヶ月過ぎた今ではすっかり体が神装力開放に馴染んでいた。
「ゼウス、体が馴染んだみたいよ」
「そうか、案外早かったな。どれ、ちょっとみてやろう」
「いくよ、神装力開放、100パーセントピザ10切れ」
体中に、神力を運ぶ血液細胞達が巡っているのを感じられる。もう、わたしの意志で自由自在に行き先を指示できる。細胞達も目的地に向かってまっしぐらよ。
「どう、完璧でしょう」
「……」
あれ、ゼウスが静かね? どうしたのかしら。
「精密コントロールをして見ろ。この卵を100パーセントの力で割ることができるか」
ふん、舐めないでよ。できるに決まっている。
だって、完璧にイメージできているもの。
「猫爪ごま粒」
爪をひょいっと出してパカンと割ってあげたわ。どうよ。
「エニシ、ごま粒とは何だ」
「え、力加減のイメージよ。エンジン全開を考えながら弱い力にしなければいけないでしょう。強い弱いの言葉や数字だと頭がこんがらがるのよね。だから小さいのイメージでごま粒なの」
「おいおいエニシ、お前がやっていることは『位相差コントロール』だ。パワーを弱めるのではなく、出力されている神力の『次元位相をずらす』という行為を無意識に行っているんだ」
は、なんですかー?
「エネルギーを減衰させすに次元位相をずらして伝達力を調整する……つまり『位相制御』だな。それを言葉だけで成立させてしまうのか。エニシはイメージの天才だな」
きっと褒められているのね。でも、何を褒められているのかさっぱりよ。後でアルはんに聞いてみよう。
「よし、神装力開放になれる特訓は終了だ。次の段階に入る」
いったい何をさせるつもりかしら?
「エニシ、大きな家を建てるぞ」
は、どういうこと?
「神装力開放100パーセントのまま細かな作業をしてもらう」
あ、なるほど。
「わかった。やってみる」
ロゼがこっちを見ている。
最近はずっとフィリちゃんと一緒だった。
本当はロゼとも一緒に森で過ごしたかった。近くにいてわたしの成長を見てほしかった。
でも、今のロゼはゼウスのお手伝いをしている。
わたしがこれから旅で使う移動用の車を作ってくれている。
ゼウスは見えない手を出して作業ができるらしい。でも、ものすごく細かい作業はまだ苦手だと言っている。
その点、ロゼの爪は旅の神獣として進化した特別仕様になっている。
だから細かい作業もできる。そしてロゼは丁寧に素早く組み立てができる。ゼウスがお願いするのも頷ける。
ありがとう、ロゼ!
うん、わたしも頑張る。
さあ、家づくりを始めようか。
今の家は試作品よ。わたしだってちゃんと考えているのよ。使える蔦の素材はもう集めてもらった。
もちろん動物たちに手伝ってもらったの。
乾燥させないと使えない蔦はもう干してある。
逆に、水につけて柔らかくしなければいけない蔦もある。
それらが全部わたしの時間停止の収納に入っているのよ。
仕事は段取りが9割。
任せなさい。準備は完璧よ!
次話投稿は明日の7時10分になります
【位相差コントロール/次元位相をずらす/位相制御】
空間やエネルギーの「存在している層」をわずかにズラす技術。
エニシの場合は、力を弱めるのではなく余分な力だけをカットしているという感覚。




