015 森の生活 ①
アルはんがいる場所は密林というよりも森という感じなの。
ミドリちゃんと通ってきた所はうっそうと茂った植物でお日さまの光は地上まで届かない。なので薄暗くジメジメしていた。
見かけるのはナメクジみたいなウネウネした生き物や蛇みたいな爬虫類ばかりだった。
真色眼がいつも赤く点滅していたから毒をもった生き物がたくさんいたと思う。
でも、アルはんがいる森は空気が違う。
フィリちゃんが魔素が濃いが大丈夫かとあの時に聞いてきた。その理由が分かった。
夜のお話でアルはんが教えてくれた。
この世界の人間の体内には魔素を作る細胞がたくさんあって、空気中の魔素を口から取り入れることで血液に魔素を届けることができる。
魔素は魔素を含んだ動植物からも取ることができる。
人間達は、高濃度に凝縮した液体で魔素を過剰に取り入れることをしている。これは、地球で言うと栄養ドリンクみたいな物ね。
それで魔素を取り入れすぎると中毒を起こすらしい。地球なら塩分取り過ぎって所かしら。ちょっと違う気がするけどわたしに分かるのはその程度よ。
ここの魔素は濃い。だから中毒を起こして最悪命がなくなるらしい。
何でわたしは平気なのか聞いてみた。
なんと、わたしは魔素を取り入れない体なんだって。
代わりに、神力をだす細胞があるんだって。
異世界の小説によく出てくるパターンよ。
「おまえは魔力無しだ。役立たずめ。でていけ」
これね。
魔法が使えないのはちょっと残念だけど、そこら辺に浮いている精霊達にお願いすれば魔法と同じ事ができるの。
精霊は見えないけどね。でもそこら中にいるんだって。
まだ、わたしでは精霊にお願いができない。
く、これからよ。わたしの適応力を舐めないでね。
しまった、話がだいぶそれたわ。
アルはんがいるこの森はあたたかいの。
優しさが満ちている。
わたしはこの森が好きよ。
「ゼウス、わたしは猫になりたいの」
「……今も半分猫だろう」
「ええ、猫科のお友達とお話しするにはこの姿が一番いいのよ」
多言語翻訳様の力よ。今のわたしには、猫耳としっぽがついている。
特定の種族と話をするときは、その種族と同じコミュニケーションツールが自動で生えてくるのよ。便利だわ。
「この姿だと意思は伝えられるけど彼らと同じ動きはできないの」
「エニシ、猫は神が作った最高傑作の姿と能力を持っているのだぞ。そんなに簡単に真似ができるわけがない」
「ええ、何となく感じるわ」
「いいか、関節は柔軟だ。地球では液体化できるのではと真面目に研究しているやつがいるほどだ。何しろ頭さえ通ればどんな隙間も抜けられる」
ええ、ミドリちゃんがそうだった。中にいる私は潰れたけどね。
「衝撃を完全に吸収する肉球としなやかな脊柱による運動エネルギーの効率変換……まさに物理工学の奇跡だ!」
あれね、空中で体をよじって着地するウルトラCよ。
「ヒゲは完璧な空気流体センサーだ。耳の可動域と周波数帯域は神装通信の受信アンテナとして採用できるレベルだぞ」
「……」
「足音を消すサイレント歩行、瞬間的な跳躍力、気配を消す待ち伏せの知力、まさに『美しき暗殺マシーン』といってもいい」
だんだん大げさになってきたわね。そろそろ止めようかしら。
「エニシ、あのゴロゴロ音は好きか」
「もちろんよ、癒やされるし撫でたくなるわ」
「ふふふ、それは精神干渉を受けている証拠だ」
え、そうなの?
「20から50ヘルツの周波数は、周囲の生物への精神的負荷を限りなくゼロにする効果がある」
なんですとー! 完璧ね。
「わかった、やっぱりわたし猫になる」
「エニシ、その思考に至った経緯は何だ」
「この森に滞在する理由の一つは、わたしの体を鍛えることだったでしょう」
「うむ、そうだ」
「わたし、考えたの。多言語翻訳様は、その場所で一番使われている言葉に翻訳される。ならば、獣人族の国なら絶対わたしにしっぽと耳が生えるわ」
「……アルヴァニス、どう思う」
あれ、めずらしい。ゼウスが他の人の考えを聞いている。
「エニシはんの考えは正解やね」
やっぱり、わたし間違っていなかった。
「なら、猫の姿のまま特訓した方がいいと思うの」
あ、ゼウスが考えている。
「理にかなっている。エニシ、完璧だ」
え、褒められているの? ふふ、ちょっと照れくさい。
「ゼウス、わたしは何をすればいいの」
筋トレでもするのかしら。それとも走り込みかな。
「やることは2つだ。1つ目は『神装力ミニ開放』を通常の『開放』で使えるようにする。2つ目はその状態での力のコントロールだ」
なんだ、そんなに難しい事ではなさそうね。
「甘いぞエニシ!」
く、また心、いえ、表情を読まれた。
「なんでよ」
「いいか、猫化した体でそれをするのだぞ。つまり、神の領域に足を踏み入れる事になるんだ」
ああー、そっちの事ね。はー、わかった。頑張る。
ゼウスの言っていることは本当だったの。わたしの考えが甘かった。
「エニシ、みんなもう遠くに行っちゃったよ」
小さくなったフィリちゃんが心配してくれる。でも、ダメな物はダメ。体が言う事をきかない。
猫科のお友だちが猫の動きをいろいろ教えてくれる。それはうれしい。
ミニ開放なら簡単について行ける。
でも、『神装力開放』は手強い。体が重いの。
「だめね、筋トレでもしないとダメなのかしら」
「違うよ。エニシの体は高次元で具現化した特別製だよ。体は神力を使えるようになっているの。特別に何かをしなくてもいいんだよ」
フィリちゃん、ゼウスから何か聞いたのね。詳しいわ。でも、アドバイスは助かる。
「つまり、時間を掛けて慣れろという事ね」
最低でも半年。その言葉の意味が分かったわ。
神装力に慣れる。それも大事、でも、体を猫みたいに動かすには慣れるだけではダメね。工夫しなきゃ!
ゼウスみたいに難しい言葉を使わないからアルはんの説明は凄くよく分かる。
神装力とは、40兆個の細胞の中にあるミトコンドリアが作るの。でも、その細胞の半分を占めているのが血液細胞になる。
そして、血液細胞はミトコンドリアを持っていない。でも神力を届けることはできる。
つまりこうよ!
細胞の半分が作る神力を残りの半分が運ぶの。なら、運ぶ血液達が道に迷わないで目的地に辿り着けるように練習をすればいいのよ。
ふふ、避難訓練みたいなのものね。
うん、イメージできた。できる。
見せてあげる、わたしの適応力の高さを!
動物たちとやることは『鬼ごっこ』と『かくれんぼ』。
毎日追いかけて、隠れているお友だちを見つける。
それだけよ。
「まちなさいー!」
く、小さいくせに何て逃げ足が速いのかしら。
鼠君を追いかける。これ、猫としては王道よね。
でも、まだ1回も捕まえたことが無い。
神装力開放は、ピザ丸々1枚を100パーセントとすると、今は2カット分……つまり20パーセントね。このぐらいなら動けるようになった。
ミニ開放のイメージなら120パーセントね。もう上限を超えている。
「ねえフィリちゃん。ロゼだったらどうやってつかまえると思う」
「うーん『美しき暗殺マシーン』になっているからだと思うよ」
ゼウスが言っていたやつね。
確か、足音を消すサイレント歩行、瞬間的な跳躍力、気配を消す待ち伏せの知力だったはず。
猫化しても、生えてくるのはしっぽと耳だけ。手に肉球はない。
どうやって音を消したらいいんだろう。
神装力はイメージでいろいろなものを作れる。これがカギね。
よし、やってみるか!
「神装力開放、神装結界『猫の肉球』で発動」
ふふ、分かるわ、わたしの手が猫ちゃんの手になっている。ぷにぷにの肉球もある。完璧よ!
瞬発力は血液の流れのコントロールよ。足に集中して神力を届けてもらうの。それを覚えてもらう。
イメージよ! うん、行ける。
ちゅー!
出た、く、小さいくせに挑発しているのね。手招きをしている。生意気よ。
四足歩行よ。これはできるようになったんだから。
肉球で音を消す。少しずつ近づく。
お尻をあげて、しっぽをゆっくり振りながらタイミングを計る。そう、リズムよく振るの。
相手の動きをよく見る。
呼吸を感じる。
スーハーを合わせる。
一瞬の隙を見逃さない。
よそ見をした。今だ!
神装力開放『猫の跳躍』
「にゃーご」
猫パンチ超弱め。
「えい」
「やったー! 捕まえた!」
ふふふ、降参ね。へそ天よ。
鼠のへそ天は初めて見たわ。
よし、コツはつかんだ。
こうして、わたしの身体強化の特訓が始まったの。
次話投稿は明日の7時10分になります




