013 家を編む
朝が来た。
今はたぶん初夏ね。
この世界にも四季があるのかしら。
この大陸の事もこの世界のこともまだ何も知らない。
でも、全く不安はないの。
むしろ、ワクワクしている。
生きていることがこんなにも嬉しいと思えたのは、本当の両親が生きていた5歳までね。
ああ、憂鬱になるから思い出すのはやめよう。
ミドリちゃんが本能で動いていたときは日が昇ると同時に起こされた。
でも、今はゆっくり寝ていられる。隣にはロゼとフィリちゃんが寝ている。
フィリちゃんの羽が上掛けになっている。羽毛布団みたいに軽くてフワフワしていて気持ちがいい。ぐっすり眠れる。
なので、気分爽快! 自律神経ステータスも爆上がりよ。
「ゼウス、起きるわよ」
顔ができたゼウスも夜寝るようになった。まあ、目を閉じることができるようになったから、寝ているとわたしが分かるようになっただけなんだけどね。
でも、これってとても大事だと思うの。
気持ちを表す表情って、一緒に暮らすときには必要よ。
「エニシ、何回も言うがおれは寝ていないぞ。ただ、思考回路を異次元につなげて切り離し別の思考をしているだけだ」
「わたしだって夢を見るの。それと同じよ」
「……おまえにそう言われるとそうなのかと思えてくる。不思議だな」
全くゼウスは理屈っぽい。神様ってみんなそうなのかしら。もしそうならすごく面倒だわ。
「さあ、今日も忙しくなるわよ」
「エニシ、何でも言いつけてくれ。しっかりお手伝いをさせてもらうよ」
「わたしもだ。ずっと1人だったからな、みんなで何かをするという事が楽しいと知らなかった」
ロゼもフィリちゃんも素直だわ。ゼウス見習いなさい!
朝食はロゼに任せている。
正直に言うわ。
ロゼが作ったご飯の方が美味しいの。
仕方ないのよ。生きるために必要な調理しかしてこなかったの。味なんて関係なかった。
「ロゼ、この木の実は何? それとこの目玉焼きの卵は誰に分けてもらったの」
「えーと、木の実はお猿さんが持ってきて、卵は羽があっても飛べない鳥さんが産み落としていきました」
ニワトリね。この世界にもいたのね。
「ふむ、白身の外周部に生じた微細な焦げが香ばしいな。それと、全て凝固させるのではなく半分だけ液体化された黄身は、潰した瞬間にあふれ出る脂質とアミノ酸が口腔内で混ざり合い絶妙な味わいを出している」
……また難しい事を言い出した。
「ゼウス、ご飯は『うん、うまい!』この言葉だけでいいの」
「ゼウス様、エニシの言っていることはほぼ正解です」
「……わかった。以後気を付ける」
ふん、分かればいいのよ。
それにしてもロゼの作った目玉焼き、確かに絶品よ!
「うん、ロゼ美味しい!」
「さて、お腹もいっぱいになった。やるわよ!」
まずはどんな性質があるかを調べないといけないわね。
うーん、ひとつひとつ触って確かめていくしか方法はないわ。
「ゼウス、わたしがつぶやいたことを記録していける」
「問題ない」
こういう時は本当に頼りになる。ありがとね。
天才君は全部暗記していたらしいけどわたしには無理。ゼウス、任せたわ。
「真色眼ステータス表示で常時発動」
これでわたしが意識して見た物の名前が表示される。
赤なら危険。でも、それは鳥さんが運んできたときにもう選別した。
性質や効能は自分で調べる。
たぶん、これは天才君の基礎研究者としての拘りね。
うん、わたしもやってみる。
「端からね。これは『アイアン・ヴァイン』え、名前でだいたい想像できそう。鉄みたいに堅くて丈夫なのよきっと」
「次、『ウィービング・ヴァイン』く、わたしは日本語オンリーよ。漢字で表示できないのかな。物は試しね」
「真色眼ステータス漢字表示」
「え、『織層蔦』読めないけどイメージはできる。すごい。じゃ、さっきのは『鉄幹蔓』……はは、まんまね。でも、これなら分かる。次よ!」
「『撥水傘蔦』……傘ね。つまり屋根用ね」
「次は何かしら、ちょっと楽しくなってきた」
「『綿身蔦』うーん綿みたいにフワフワするのかな。ならソファーとかに使えるかも」
「次は『 』あれ、未発見の蔦ね。でも用途は不明ね」
* * * * *
ふー、なんとか全部調べられた。
「ゼウス、記録したよね」
「ばっちりだ。エニシ、この森の蔦はかなり優秀だぞ。おかげで車作りに役立ちそうなのも見つけることができた」
「ふふ、そっちのことは任せるわ。あ、編むのはわたしができるから言ってね」
「もちろんだ。任せる」
「なら、まず試しに編んでみるわね。そして、しばらく置いておくの。もしかすると時間で変化するかもしれないのよ」
「ほー、詳しいな。それも基礎研究者の受け売りか」
「ええ、昔の研究者は『総当たり』と言ってね、全部のパターンを試しながら一番良いのを選んだんだって」
コンピュータがない時代はみんな手探りだったのよ。
「うむ、理にかなっている」
へー、いつもの難しい理屈が無いわね。
「おれもその基礎研究者に会ってみたくなった」
うん、きっと話が合う。ずっと喋っていそう。
「ええ、いつか会えるはずよ。でも、今どこにいるのかしら」
「この大陸にはいないな。情報根網の記録に出てこなかった」
「えー、ならどこにいるのよ」
神様がいずれ会えると言っていた。神様は偽りを言わない。いつか会える。楽しみだわ。
* * * * *
「結果が出たわ」
「家づくりに必要な蔦が決定よ」
準備は完璧よ。仕事は段取りが九割。誰かが言っていたわ。
編むのは得意なの。それにね、ロゼの爪が凄く器用なのよね。細かい所を任せられる。
さあ、編むわよ。
鉄幹蔓は乾くと鉄みたい堅くなり強度もでる。でも、1本ではダメ。
竹細工の『四ツ目編み』を使うのよ。
竹細工の基本なの。縦と横を碁盤の目のように交差させるだけ。そして、柱はそれを丸めるだけ。
丸めた柱を縄みたいに編んだ紐できつく縛る。
大きな家でなくていいの。まずは、小さい家をしっかり作る。そして、問題点を見つけて改善する。
問題点が改善されたら、次にもっと大きな家にする。
壁も同じ作り方。ただ、丸めないだけ。
今はこれでいい。他の編み方はこれがしっかりできるようになってからよ。
「エニシ、きっと、お前の考えは正しい」
なによ、ゼウスったら、いつもの難しい理論はどうしたのよ。
そう、今できるのはここまでよ。
時間はたっぶりあるの。
天才君、見ていなさい。びっくりさせてやるんだから。
こうして、わたしとロゼがやっと寝られるぐらいの家を編むことができたの。
「できたわ。上出来よ。ロゼ、今日からここで寝るわよ」
ん、フィリちゃんが元気ないわね。どうしたのかしら。
「エニシ、わたしはどうやってこの中に入ればいいんだ」
へぇっ!
しまった! フィリちゃんのことすっかり忘れていた。
どうしよう、きれいな瞳にじわじわと涙が浮かんできた。
ゼウス、どうしよう。
思わずゼウスの方を見てしまった。
「問題ないぞ。ゼフィリア、お前が小さくなればいいんだ」
え、そんなことできるの?
ゼウスがものすごいどや顔をしているの。
何か嫌な予感がするの……。
次話投稿は明日の7時10分になります




