011 山葡萄の価値
どの位の動物達が集まっているのかしら、森中の生物が集まってきているんじゃないかと思えるぐらい、いろいろな色の上毛が風になびいている。
昆虫や爬虫類達の外皮がお日さまの光を浴びて七色に輝いている。
「ぎょうさん会いに来てくれてありがとな。みんな元気にしてはったか?」
うわー、みごとな大阪弁……いや関西弁かな。でも、そういう感じの言い方で伝えているのよね。多言語翻訳君がきっと優秀すぎるからこう聞こえているんだわ。
「長いこと眠っとってかんにんな」
あれ、動物たちが泣いているように感じる。動物って、嬉しかったり悲しかったりしても涙は流せないのよね。
「森の安全はゼフィリアが守ってくれた。ありがとな」
ふふ、フィリちゃん嬉しそう。馬もしっぽを振るのね。
「今後はわてが全部取り仕切るさかい安心しなはれ。竜人族の横暴に対しても同じや。あんたらには指一本触れさせへんで」
ん、竜人族ってなにかしら。トカゲの事かしら?
「エニシはん、ひとつ頼みがあるんやけど、ええかな?」
え、なにかしら?
「あんさんが採った山葡萄の実を、ここに集まった動物らに分けてあげてほしいんや」
うわー、この人数全部に配るってこと。ちょっと大変そう。でも、もちろんOKよ。
「もちろんいいけど、どうやって配るの。かなりの数がいるのよ」
「それは問題ないのよ、精霊に頼むからあっという間やで」
なら問題なし!
「いつでも取り出せる。精霊を呼び出していいわよ」
「……」
ん、どうしたの。おばさんが不思議そうに見ている。
「エニシはんは、その実の価値を知っとるんか?」
へ、ジャムとワインよね。美味しいのよね。
「もちろんよ、美味しいジャムとワインになるわよ」
「そうなんやけどな、その実一粒、この大陸の権力者達が買うとしたら金貨100枚になるんよ」
は、金貨って何よ?
「エニシ、金貨1枚が日本円なら10万円だ。その百倍だからゼロが2つ増える」
えーと、1つ増えて100万、2つ増えると……
「1000万円! マジ。」
すごい、たぶん何十万房もある。私大金持ちよ。
「わかったやろ、えげつない価値があるんよ。それでも配ってくれるんか?」
ああ、そういうこと。ならば何の問題も無し!
「あたりまえよ。この葡萄の実はこの森の恵みよ。わたし1人が独占していいもんじゃないわ」
「……はぁー、あははははははっ! 即答かいな! こりゃたまげたわ。人族ちゅーのは、たった数万年でここまで精神が進化するんかいな」
「エニシはこの世界の人族とは別格だ。高度に発達した社会の中で身につけた資質になる」
「あー、そういうことかいな。なるほどな」
は、私が育った場所は最悪な場所よ。理不尽がまかり通る吐き気がする所よ。
「おばさん、配るんなら早くやっちゃいましょう。動物たちの口からよだれが流れているわ」
「だれがおばはんや! わての神名は『アルヴァニス』や。アルはんとでも呼びなはれ」
ずいぶんフレンドリーな世界樹ね。でも、気に入ったわ。わたしと性格が合いそうよ。
「わかった、アルはん、とっととやることやっちゃいましょう」
アルはんが精霊達を呼び出したの。ちっちゃなリスみたいなのがたくさん湧き出てきた。そう、地面から湯気がでるみたいにモクモクでてきたの。
かわいい!
「エニシはん、その子たちに実を渡してやってくれへんか。動物らのところへ運んでくれるさかい」
「わかった」
真色眼の応用。わたしは適応力だけは優れているのよ。
「真色眼 適応『リスの精霊』」
ふふ、すべてに青いマーカーが付いたわ。
「銘柄指定『山葡萄の実』取り出し配布」
イメージ通りよ。空間からりんごのような山葡萄が一粒ずつでてきて、マークされたリスの精霊に一気に配ったの。
それを、よだれを流している動物たちに届けたの。
そう、一粒金貨100枚の葡萄を何十万個も届けたの。
葡萄の実をもらった動物たちが、美味しそうに食べている。
大きな動物には大きな一粒が渡った。
小さな動物には小さな実が渡る。
ポンと地面に置かれた大きな実に、小さな昆虫や爬虫類が群がっている。
そう言えば、私もまだ味見していなかった。
「ロゼ、あなたも食べてみる。フィリちゃんもどうぞ」
2人に葡萄を渡して私も一粒食べてみた。
「うーん、おいしい」
食レポ私には無理。だって、食べる物は全て美味しいんだもの。
「エニシ、我々にも分けてくれないか」
「え、ゼウス。物を食べられるの」
「前にエニシが言っただろう、食べられるようになれと」
ああ、言った。
「うん、わかった。アルはんも食べる」
「いただくわ」
収納からポンと出したら、ゼウスから見えない手みたいなのがでてキャッチしていた。器用ね。
アルはんは、枝が伸びてキャッチした。まあ、これはありね。
「うん、うまい」
「こんな味やったんやねぇ」
はは、この2人にも食レポは無理そうね。
満足した動物たちが帰って行く。
ふたたび、聖域に静寂が訪れた。
「エニシはんはこれからどうするんや?」
「うーん、町に行きたいかな」
「そうか、ならゼフィリアに送らせようかね」
「アルヴァニス、1つ頼みがある」
ん、ゼウスは何を頼むのかしら。
「しばらくここに滞在させてくれないか」
なんですとー!
「理由を聞こうか」
「2つある。1つはこの大陸を移動するための乗り物を作りたい。2つ目は、エニシの身体能力の強化だ」
は、1つ目は納得、でも、わたしの身体能力の強化ってなによ?
「ああ、なるほど、獣人族やね」
さっぱり分かりませーん。
「エニシ、これから行く町には獣人族がたくさん暮らしている。そして、かれらの本能は強さだ。弱い者は軽く見られて理不尽な目にあう。逆に、強いものは尊敬される」
はい、理解しました。
「つまり、舐められないように強くなれって事ね」
「正解だ」
く、ゼウス、いい顔するようになったじゃない。いいわ、その提案受けるわ。
「わかった。で、どのぐらいここにいるの」
「最低でも半年だ。無理なく体の強化をするにはそれぐらいは必要だ」
「わかった。なら、住む場所が必要ね」
丁度いい、この森の蔦を片っ端から集めて性質を確認してみましょう。ミドリちゃんを作った蔦みたいな優秀なのがきっとまだまだあるはずよ。
「住む家はわたしが蔦で作る。ロゼ、フィリちゃん、手伝ってね」
「お任せください」
「もちろんだ」
「ふふふ、しばらく賑やかになりそうやねぇ。それとエニシはん、あんさんが配った実を食べた動物らは、みんなあんさんの言うことを聞くようになりよる。その子たちにも手伝ってもらいなはれ」
え、マジですか。モフモフ仕放題ですか。幸せかも。
「エニシ、よだれが出ているぞ。ふけ!」
く、杖のくせに生意気よ。
まあいいわ、しばらくここで暮らす。
モフモフ仕放題。
蔦の素材も集められる。
鞄も作る。
移動用の乗り物も作る。
やることはいっぱいよ。凄く楽しみだわ。
「さて、まずは家を作れそうな丈夫な蔦を探すわよ」
といっても、今のとこといい考えが1つも浮かんでいないのよね。
「ねえ、フィリちゃん、シルフェリ見たいな便利な蔦がたくさんある場所知らないかな」
「すみません、そういう事にはあまり詳しくないんです」
「アルはんなら知っているかな」
「うーん、名前ぐらいなら分かるがねー。性質となると難しいかねー」
く、ダメか。
「エニシ、丁度いい。『多言語翻訳君』を『様』にレベルアップだ」
ゼウスがまた変なこと始めようとしているわね。
でも、確かに今のままだといつかトラブルを起こす事になりそうよ。わたし自身が今話している言葉が何語なのかを意識できないときっと困ることになる。
「賛成よ、で、できそうなの」
「ああ、高次元空間であの方が自ら手がけた仕事だ。おれが自由にレベルアップできるような仕様になっているはずだ」
あ、またうんちスタイル。
「……違うぞ!」
はは、ごめんなさい。もう言わない、いや思わない。
「アルヴァニス、お前の情報根網を借りるぞ」
「ええよ、好きに使いなはれ」
杖が光り出したの。
いえ、顔があるんだからもう体ね。
体がどんどん輝いていく。
光がだんだん帯になっていくの。よく見ると、何かの記号がたくさん並んでいる。見たこともない記号よ。
それが輪になってゼウスの体を包んで回っている。
とてもきれいなの。
何かをものすごい速さでしている事は分かるわ。
あれね、スーパーコンピュータがチカチカ光っているのと同じ感じよ。
「よし、できた」
「エニシ、進化した『多言語翻訳様』だ」
ゼウスがものすごいどや顔でそう言ったの。
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