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Disc1 Track20 ロアンヌ


 その後……私達は電車に1hほど揺られ、会場の最寄り駅に到着した。さらに500メートルほど道なりに進み、大きな鉄橋を越えて……もう200メートルほど歩いた。そして長い旅路の果てに──会場にたどり着いたのは、19時を回った後であった。


 フェスの開催日は明日だというのに──他の観客も場所を確保するためだろうか?? 既に、会場を訪れているようだった。ここはちょうど会場全体を見渡せる小さな丘の上なので目を凝らして見たところ……会場内の見晴らしの良さそうな場所に並べられているパイプ椅子───アリーナ席は、すでに半分近く埋まっていた。ちなみに会場は野球場のような構造になっており、観客席には屋根がない。



「早めに来て大正解だった……あのあたりなんか……いいんじゃないですか……!?」



 ヴィークは、アリーナ席の中でも特に見晴らしの良さそうな正面の座席を運よく発見したようであった。珍しくテンションが高い。子供のように、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。


 しかし、その瞬間……



ビューーーーー!!!!!!!



「!? ……!! ふわっっっ!!!????」



挿絵(By みてみん)


 突風が吹き荒れ、ヴィークのワンピースが捲《まく》りあがり──おへそのあたりまで見えてしまった。そして……可憐な姿からは、とても想像がつかないほど……ゴニョゴニョな下着が──私の目に飛び込んできた。



「!? ……ええ……えっと……」


「……見まし……たか…??」



 ヴィークは……顔を、ほんのりと赤らめる。恥ずかしそうに、口元をモニョモニョとさせながら上目遣いで、私の顔を見つめてくる……(やばい……めっちゃ可愛い……)


 どうしよう……下着が見えたこと自体に関しては、特に何も感じなかったが───恥ずかしそうにしているヴィークの様子が堪らなく愛おしい。



 とここで、モニカが何を思ったのか……



「ルルくんが、『屋敷に帰った後に……今のこと《ヴィークちゃんのパンツ》思い出しながら××××××(自主規制)しよっ』──って、小声で言ってる」


「!? ……えええ!!! そそ……そんなこと!!!」


「!? …………!! もおおおおおお!! バアアカァァァ!!!!!!!!」


「!? …ぶべらああ……!?!?」



 ヴィークは、私の左の頬を──思いっきり、ビンタした。



~♪♫~♫♪♫~~♪♫~♫♪♫~



「……はあ……びっくりした……」


「……ごめんなさい……つい……」



 私は、ヴィークに平手打ちされた頬を、さすっていた。



「あっははははは!!!!」


「……ヴィークちゃん、羨ましい……もう一回、強い風──吹かないかなぁ……今度は、私(・)の(・)が……」



 ベルがお腹を抱えて笑っている横でマリアが何か言ったような気がしたが、あえて聞こえていないふりをした。それにしても……モニカの悪戯好きには、困ったものである。



「痛かったですよね……おもいっきり叩いちゃったから……」



 ヴィークは流石にやりすぎたか──と反省しているようである。アリーナ正面口まで続く道路を歩いている私の隣を、彼女はパタパタと併走《へいそう》する。私の横顔を心配そうな面持ちで、見上げながら。



「……そうですね……流石に少し──って……あれ?? おかしい!? ……全然、痛くない??」



 歩《ほ》を少し緩め、右手側のポケットの中から手鏡を取り出して……私は、自分の顔を眺める。


 心なしか、左頬に塗ったコンシーラーが──右頬に比べると、少しだけ、よれているような気が……しなくもない。しかし、特に赤くなっているような様子は……ないっ!!



「あっ……そうか!! ヴィークさんって──力、弱いから……」


「……そういえば、この間──大学で、ヴィークちゃんとバッタリ会ったの。その時、ヴィークちゃん……手に持っている缶ジュース開けられなくて、『うーん!! うーん!! 』──って、ずっと唸《うな》ってたんだけど、もう半泣き状態だったから……代わりに開けてあげたことあったなぁ…」



 私とヴィークの──すぐ真後ろを歩いていたベルは……胸の前で、左の手のひらに、軽く握った右手の鉄槌《てっつい》部分を──ポンッ!! と打ちながら、そう呟く。



「!? ……ちょっ!! …半泣きには、なってない!!」



 ヴィークは手をバタバタさせながら、慌てて訂正するが、そんな様子がベルの嗜虐《しぎゃく》心を煽ったのか……



「さっき、ルルちゃんが平手うちされた時も──『バチンッ!! 』とかじゃなくて……『ピコンッ♡』って、音が鳴ってたし!!」


「!? ……それ!! ピコピコハンマーの音じゃないですか……!?」



 ヴィークは両手を握りしめて、頬を少し膨らませながら──プリプリ怒り出した。コックさんが、被っている帽子の形をした──白い雲が彼女の頭部付近に、浮き出ているような錯覚を覚えた。



「もお……うるさいわね。本当に、子供なんだから……」



 1番後ろを1人で闊歩《かっぽ》していた──モニカが忌々《いまいま》しげに呟く。昨日の深夜まで、馬鹿騒ぎしていた諜報人が、どの口でほざいているんだ……私は内心で、毒吐いた。



 そんなこんなやり取りをしながら私たちはアリーナの入り口に辿り着くと、他の来場客のざわめきに包まれながら天井の高い建物内部をそのまま通り抜け───ヴィークが発見した座席付近まで危なげなくたどり着いた。



 そしてすぐに荷解きを開始!!……とはいえ荷作りに比べたら楽勝なので、5分もしないうちに完了───その後は翌日のライブ開始時刻まで各々が好きなように時間を潰した。


 ちなみに、どのように夜を過ごしたかについては───結構なボリュームになってしまいダレそうなので[Disc1 Special Track ~ver2.0 閑話休題② ~フェス前夜~]をご覧いただければ幸いである。こっちも面白いよ。



~♪♫~♫♪♫~~♪♫~♫♪♫~



───翌日の16時55分頃…………



 開演時刻まであと5分と差し迫ったその時。



『ピンポンパンポーン♪♪』



 会場中に轟くほどの音量のイントロが、スピーカーから流れ始めた。何かの『アナウンス』が始まるのだろう。



「おお!!」───と会場中の観客が興奮に戦慄くのとは対照的に………私は一瞬、吐き気を催してしまった。実は昨日の電車の中での少し酔ってしまったのだが、その記憶がフラッシュバックしてしまったのだ。もはや『パブロフの犬』状態である。



 しかし、アナウンスを担当しているのが───『彼女』だと知った瞬間…………他の観客と同様に、私も興奮の渦に巻き込まれることとなる。



『会場にお越しの皆様〜!! こんにちは!! 本日アナウンスを担当いたしますのは……私……『ロアンヌ・コンスィエル』でございまあああす!! 』


「「うおおおおおお!!!!!!!!」」



 ヴィークとマリアの推しメンであり、グループ発足以来、不動のエースを務めているその人───『ロアンヌ・コンスィエル』であった。スピーカーから流れるアンプで増幅されたその声は……腹の底まで響くほどの音量であったにも関わらず、不思議とやかましさを感じさせない。世界そのものを抱擁するほどの慈愛に満ちた女神様の囁《ささや》き声のようであった。



「ええ!! やったね!! ヴィークちゃん!! 」


「ね!!! やばいね!!! アナウンスが───『ロアンヌちゃんだったらいいね』……って、話していたもんね!! やばい!!」



 ロアンヌはグループのファンだけでなく、アイドルに全く興味関心を抱いていない帝国民にとっても、慣れ親しんだ存在である。よって会場には、他のアーティストのファンも数多く存在しているのだが……虹スペのファンと同様にテンションが爆上がりしているようだ。


 朝ドラにワイドショー、大御所ミュージシャンとのコラボ番組───ファッションショー……etc


 今やアイドル活動の枠を超えて、昨今の芸能界を席巻《せっけん》している大人気タレントの1人である。


 一方で、多忙なタレント活動と並行しながらも、アイドル活動を欠席することは一切ない。つい先日デビューから丁度10年が経過したのだが、週間雑誌に取り上げられるようなスキャンダルなども無論ゼロ。一人一人のファンを大切にし、ライブや握手会などのイベントも、手を抜かずに取り組む彼女の姿には───心を打つものがある。



───そうか……今日は彼女を生で拝むことができるのか……



 こんな機会は滅多にない。改めて、チケットをくれたヴィークとマリアに感謝の念を抱きながら期待に胸を膨らませる!!


あっ……お金を払ってくれたモニカにも、もちろん感謝してます。



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