Disc1 Track14 ギャップ萌え
『一触即発』のピンチ……!!!
なんとか空気を柔らかくしないと……んっ?? そうだ!! ……私って、『ものまね』が得意だった!! ……よおし!!
私は、大きく息を吸い込んだ。そして、声を張り上げるために喉の調子を整えると……
「……うおおおおおおお!!!!!!!!」
「!? ……えっ……なに……??」
「!! ……ルルちゃん……!?」
私は石畳が敷かれた通路をショートカット!! 芝生の上を気合いの咆哮を上げながら駆け抜ける……!! その疾走感といったらまさにチーター!! 2人は私が残した残像を目で追う!! そして私は2人が火花を散らしている間に割って入るなり……
「第32回!!! 帝国主催!!! ものまねグランプリ……かいさあああぁぁぁぁい!!」
「「…………」」
突如乱入してきた私に面食らったのか───ついさっきまでの白熱っぷりはどこへやら。2人は気勢を削がれたように、点になった大きな瞳を私に向けた。しかし、私の勢いはもう止まらない!!
「エントリーNo1ルル!! キックボクシングのレフェリーやる時の角⚪︎師範のものまねしまーす──「テイクスターン…ファイ!! 」」
「ぽかーん……(ベルが口を開けて、こっちを見ている)」
「はぁぁぁ……(モニカが真顔でこぼすガチのため息)」
(うわあああ!!!! 焼石に水だあ!!!! ……どうしよう!!!! )
なんとか場を和ませようと渾身の一発芸を披露したのだが……効果はいま一つ……!!
(──そしたら……『奥の手』だ………!!)
私は「ごほん!!」───とわざとらしく咳払いをする。そして気を取り直して再び……
「……えっと!! ……!! したっけ、ヴィークさんが電話に出る時のものまねしまーす!! ──『はい♪ こちらミシテリア家専属メイド──ヴィークことヴィクトリアが承ります♪♪』」
「ぽかーん(ベルは口を開けたまま、今度は首をかしげる)」
「はあああ………(モニカが溢すさっきより露骨で大きなため息)」
「……あはは……(ヴィークの愛想笑い……というか、いつの間に来た??)」
(うわあああ!!!! 2回目も滑ったああ!!!しかも、本人の前で、ものまねして滑る──って、絶対あとで怒られるやつううう!!!)
───奥の手も通用せず……
(どうしよう……そうだ!! ……ベルが買ってきてくれた───アレがあるじゃないか……!! とっておきの切り札が、まだ残っている……よおおし!!!)
動き回ったことで、すっかり乱れてしまった自慢のダークブラウンヘア───その数cm上に豆電球が灯った直後───私は通路の脇に置いてある手提げ袋を手に取る……
「モニカさああん!!! お土産買って来たんですよ!! ……『ねこやき』!! 一緒に食べましょう!!」
ベルが買ってきてくれた『ねこやき』を───高々と掲げた!! さあ……どう出る……??
「……あのさ……ルル《《くん》》……私の『嫌いなもの』忘れたの??」
「……あっ……!!」
深い金色で煌めいている瞳を、瞼で覆い……腕を組み直しながら唸るように彼女が呟いた瞬間───私は『肝心なこと』を思い出した……!!
「……私は……『猫』が……だいっっっっ嫌いなのよっ!!!!!」
「そうだったああああああ!!!!!!!!」
そう……どういう訳か、モニカは猫が『大の苦手』なのだ。猫が好きという女性はたくさんいるが、猫が嫌いという女性は稀有だ。しかも彼女───『猫顔美人』だし。
私は墓穴を掘り続けた挙句……『てんてこまい《《まい》》』な状態に陥ってしまい、ますます収拾がつかなくなってしまった。そんな様子を見かねたのか、ついにヴィークは……
「……外で、何か大きな声で言い争っている人がいるな──って思って来てみれば……案の定お二人でしたか……まあ、ルルさんが何を思ったか──いきなりギャグを披露して、『滑り倒しているところ』は流石に予想外でしたけど……」
ヴィークは淡々とした口調に努めているものの……やや呆れを滲ませた声色であった。
結果的に、私の株が大暴落する──という損害は被ったものの……とりあえず、この場は収まったらしい。ひとまず、ほっと胸を撫でおろす。
“メイド長補佐”の顔に免じてこの場はこれくらいにしておいてやろう───流石のモニカもそう思ったのか、「ふんっ!!」と鼻を鳴らすと……
「……まあいいわ。正直まだ納得できていないけど……あとはルルくんでも虐めて、自分で自分のご機嫌とることにするわ──私は大人だから」
───矛先を私に向けて来た。思わず「うええっ!?」という素っ頓狂な声を上げてしまう。しかし、再び私と目が合った瞬間……彼女は急に意外そうな表情を浮かべ、
「あら?? ……ルルくん……随分とカッコいいじゃないの??」
さっきまで、いきりたっていた様子はどこへやら……私の今日のファッションを爪先から頭のてっぺんまで、ひと通り観察したあと──彼女の口をついて出てきたのは、そんな褒め言葉であった。
「……ほえ?? ……ありがとうございます♪♪」
私は、そんな彼女の拍子抜けしそうなほど──好意的なコメントに思わず肩透かしを食らってしまった。思わずテンションが上がってしまい『るんるん気分』で、その場でターンしてポーズを決める……もちろんダブルピース!!
だが、そんな気分は彼女の次の一言によりジェットコースターを彷彿とさせる速度で急降下した。
「まあ……メイド服の方が100倍お似合いだけど……いっそのこと……バキュンバキュン(自主規制)とっちゃう?? もっとかわいくなると思うよ??」
「えー!! それはやだー!! うわああああん!!」
実は、彼女は医師免許を持っている。よって、彼女の凛とした声色が冗談とは思えないレベルで狂気じみていて……私は心の底から戦慄した。
「……あっ……でもやめとくわ」
「……ほっ……」
「だって……私は人間の医者だもん。……犬の去勢手術は獣医の仕事でしょ??」
「私は犬じゃないいいい……!!!!」
彼女は、このように私を犬みたいにではなく……犬として扱う。
私は皮肉にも、「わんわん」と泣き出しそうな気分になり、屋敷の玄関の石畳の上に膝から崩れ落ちる。膝小僧にジンとした小さな痛みが走る。
一方でモニカは腕を組んで、上品ではあるが……どこか歪さを感じさせる邪悪な笑みを浮かべながら、そんな私を見下ろしていた。
彼女の異名は───『サイコパス・プリンセス』
理由は……もう説明しなくても分かるだろう。
そして彼女は私に対しては特にあたりが強い。不機嫌そうな時は彼女の顔を見るだけで、お腹が「キュー」っとなってしまう。
もっとも、頻繁に体調を崩す私やベルのために適切な介抱を(──ものすごくかったるそうに)施してくれるあたり、根っからの悪人ではない──とは分かっているのだが、やっぱり怖い……
「もお……これで満足しましたか?? 早く中に入りましょ……外も寒いですし……」
私達のやり取りを生暖かい目で見守っていたヴィークは、あえて強引に……しかしもっとも効果的な方法で『この場』を上手く収めた───流石だ。
やっと一息つけると小さくため息をついた私は、通路に置いた荷物を回収しようと玄関に背を向けた瞬間……『何か』を忘れているような感覚を覚えた。そんな『私の様子』を背中越しに察知したのか、ベルが口を開く……
「……ルルちゃん……そういえば……『自転車』は??」
「……そうだったああああああ!!!!!!!!!」
自転車を神社の目の前の大通りに停めたままだったのを、すっかり忘れていたことに気が付いた!!
「……もお……幸い今日はご主人様が留守だから大丈夫ですよ。早く取りにいってらっしゃい」
門へ目掛けて大理石調タイルが敷かれた玄関アプローチを、既に駆け出し始めていた私の背中に、投げかけられたのは──呆れと愛おしさが入り混じったヴィークの言葉だった。




