Disc1 Track11 蹂躙
大通りは、帰宅途中の学生やサラリーマンやらで、ごった返しているにも関わらず……脇道を数メートル進んで角を曲がると、人気は全く感じられない。
オレは男たちの一人に肩を掴まれ、囲まれながら───遊具など一つも設置されていない公園とは名ばかりの空き地に連れていかれた。
「……よし……ここがええやろ……」
先頭を歩いていた───坊主頭で比較的体格の良い男が、タバコを吹かしながら告げた。歩きタバコやめろ。
どういう訳か……祭りの開催地にはDQNが湧く。
オレの地元───『北の大地』でもそうだった。夏になると納涼祭が近所で開催されていたが、中学生時代の夏休みは毎日のように揉め事に巻き込まれていた。
よって、こういう事態には割と慣れていた。
「……さっき、こいつ───いきなり殴ってきてん!! ほんまありえへんわ」
さっき、ベルの腕を掴んでいた男は、坊主頭の男に怒りをぶちまけた。こういう輩は自分に非があるクセに、都合よく話を塗り替えて自分を正当化する。
オレはため息をこぼしながら、周りを見渡した。
木々が生い茂っており、空き地の外から中の様子を覗くことは難しそうだ。目を凝らすと木々の隙間から、神社の広場へと続く階段が見えなくもないが。
空き地の広さは、テニスコートくらいだろうか……地面は砂が敷いてあるが、ところどころ雑草が生えていた。手入れは施されていないのだろう。だが、それなりに平坦で足場は悪くない───しっかり踏ん張りは効きそうだ。条件は……悪くない。
「……はあ……どうせ、お前ら……相手にされんくて言いがかりつけたんやろ……?? ほんで仕返しされた……そんな感じやんな??」
「……うっ……まあ……そうやけど……」
坊主頭の男は見かけによらず察しがいいようだ。こいつが『リーダー』だろうか?? それで、もう1人のナンパ男が『副リーダー』……そんなところだろうか。
数は───さっきのナンパ2人と……新手が4人……合計『6人』か。まあ大丈夫だろう。
坊主頭の男以外は、体も細くて弱そうだ。まあ坊主頭の男も───ガッチリしているのは上半身だけだ。オレンジ色のタンクトップから伸びる腕はそこそこ太いが、半ズボンの下から覗くふくらはぎは細い。上半身だけ少し鍛えて満足しているイキリキッズなのだろう。
「……早くやっちまおうや!!」
「近くで見ると、ほんまにかわいいやん……この間、回した女はいまいちやったやんかあ……?? ばり興奮してきたわ!!」
「男はいたぶって終わりだけど、女だと続きもあるもんなぁ……」
どうやら、こいつらは───こんなしょうもないことを頻繁に行っているらしい。虫唾が走る……二本足で歩く『害虫』だ。
「……ツッ……ったく……自分らほんまに悪趣味やんなぁ……」
坊主頭の男は、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。
「……わりい……女を痛めつけんの、趣味じゃないねんけどな……こいつらのガス抜きも必要やねん……堪忍してや」
坊主頭の男はオレに背を向けて、ペンキが剥がれて朽ちかけたベンチの方へ歩み寄っていった。それと入れ替わる形で、手下どもがオレに距離を詰めてきた。
そのうちの2人が、オレの後ろに回り込もうとしているのが、何となく分かった。ぐるりと取り囲んで袋叩きにして……大人しくさせた後に、『お楽しみタイム』へ興じるつもりなのだろう。
───オレは、目の前まで距離を詰めて来た男目掛けて、駆け出した!!
「!? ……えっ……ちょっ!? ……ぶはっ!! 」
相手がにじり寄ってきた時は、あえて距離を潰す───こうすることによって、予想外の挙動に相手はテンパってしまい、上体が硬くなる。こいつはさっき「この間、回した女は~」とか抜かしていた下衆野郎だ。
そいつの制空権に侵出すると、オレは跳躍!!───容赦なく必殺の『とび膝蹴り』を、お見舞いしてやった。
「!! ……いっ……ふがっ……」
左足の膝小僧に、鼻っ面の柔らかい軟骨が砕ける感触を覚えた───その場に着地して地面を見下ろすと、そいつは鼻血を垂らしながら、うずくまっていた。しかし、この程度じゃ、被害者の女の子は浮かばれないだろう。
オレはそいつ後頭部の髪の毛を鷲掴みにして、頭の位置を固定すると───左足で思いっきり脳天めがけて『サッカーボールキック』を放った!!
「……ゔぁ……」
ブーツを履いているため、その蹴りは素足で繰り出すよりも増強されていたんだろう。そいつは、うつ伏せになって動かなくなった。
「!? ……はあ?? 」
先ほど、ベルの手首を掴んでいた男を沈めた時は、状況を飲み込めていなかったもう1人のナンパ男も───流石に今回は、把握したのだろう……『オレの力』を。次はお前だ……!!
もう1人のナンパ男にオレは駆け寄る。そいつはオレの革ジャンの襟首を掴もうと右手を伸ばした……だが、のろいっ!!
オレは半身を切りながら、そいつの右足の外側へと回りこみ背後をとった。格闘技の勝敗の大部分は『ポジショニング』で決まる。背後をとったら───勝ちも同然。
左足首に力を込めて下駄をはかせた状態を作り、そいつの左脚のふくらはぎにひっかけて、足元を掬い取った!!
「!? ……うわっ!! 」
そいつはバランスを失い、背中から地面に倒れる───そして後頭部を思いっきり強打し、泡を吹いて気絶した。コンクリートではないので、死にはしないだろう。
「うああああ!!」
「……よっ!! 」
手下の1人……が、オレの右隣から奇襲をかけようとしたのだろうか……フックなのかストレートなのか分からない───左のパンチを軽くサイドに躱しながら、左の下突きをすれ違い様に叩き込む。
───ピチンッ!!
その瞬間に、乾いた音が空き地の空気を揺らした。さっきは隣にベルがいたので、自制していたが───今は少し力を込めて放ったので、肋骨の2本くらいは折れたのだろう。
「!? ……うあああ……うっ……あ……ああああ!!!! ……っ……」
前のめりに倒れこむや否や、服が砂まみれになることなど構うことなく……そいつは腹を抑えて、地面の上を───のたうち回り出した。まあボディの痛みは地獄だからな。
(さて……すでに3人やっつけた。残すは───あと3人)
襟足部分の柔らかい髪の毛を、右手で梳いて整えると───オレは鎌首をもたげながら振り返る。
「……すでに残り半分───どうする??」
「ぐるり」とオレの背後に回り込もうとしていた取り巻き2人は、予想外の事態に狼狽していた。
ベルの腕を掴んでいたナンパ男は唇を小刻みに震わせながら……
「!!……うっ……うそやろ……??」
お決まりのセリフを呟いた───もう1人も同様に、
「……ありえへんわ……!! ……全く見えへんかった……なんやあの動き……!? 絶対素人やないやろ……!?」
これまたバトル漫画にありがちな、雑魚の『常套句』を零していた。雑魚2人は既に戦意を喪失している。もう一度前へと向き直り───坊主頭の男を一瞥すると、
「まだやる??……オレ結構強いよ……??」
オレは彼に投降を促した。
「……みたいやな……」
坊主頭の男は、吹かしていたタバコの火を地面に擦り付けて消すと、それを投げ捨て───ベンチから立ち上がった。
……ポイ捨てやめろよ。




