Disc1 Track10 一人称
これは俗にいう『ナンパ』というやつだ。
ちなみにナンパというのは『1対1』で行うよりも、今の私とベルのように2人でいるところを狙って、2人で声をかける───『2対2』で行う方が成功率が高いらしい。
そして、繁華街に近いこの付近───“魔天祭”の準備で賑わっている神社前は『ナンパスポット』として有名なのだ。夕方頃になるとナンパ師がうじゃうじゃと蔓延りだす。
「その髪型すごい似合ってるやん!! ボーイッシュな女の子むっちゃ好きなやねん!! オレ!!」
自転車の荷台を掴んでいる男は、私の髪の毛に手を伸ばしながら軽薄な笑みを浮かべている。私は首を振って拒絶の意志を示しながら、その手から逃れる。
「君むっちゃスタイルええやん!! どっかのアイドルグループに所属してんの!?」
もう一人の男は、ベルの身体を舐めまわすように見ていた……気持ち悪る……
私の荷台をつかんでいる男は、つま先が尖がった革靴に七分丈のスキニーパン……いや面倒くさいので服装の説明は割愛。その辺に掃いて捨てるほどいるナンパ師を想像してほしい。大体そんな感じだ。
ベルの様子を見ると……めちゃくちゃ嫌そうな顔をして露骨に顔をしかめていた。
「はあ?? ……まじキモイんだけど!!」
ベルのもう一つの『ギャップ』───意外と口が悪い。
と、そこまで明確に嫌悪感を示されるとは、向こうも流石に想定外だったのか……
「……ツッ!! ……ああ?? ……なんやと?? 」
ベルに絡んでいた男は舌打ちをして逆上しだした。
「……ちょっとかわいいからって……調子のんなや」
私の頭を撫でようとしていた男も、自転車の荷台から手を放し───ベルの方へと、にじり寄った。うわあ……やだなぁ。
ベルの身体がやや硬直しているように見えたが、彼女は負けじと……二人の男を見上げて交互に睨み返していた。向こうも流石に、女の子相手に手を出すことはないと思う。
しかし、ベルを放っておくわけにはいかないので……
「すみません……私たち、このあと『アルバイト』なんで……」
適当に急ぎの要件があることを告げ、足早に去ろうとしたのだが、一人はベルの右腕の手首を掴み……
「ええ?? ……じゃあ君たちのバイト先に行くわ!! 」
「あっ!! ……ええなぁ!! ……客として行くならええやろ?? ……なあ?? 」
向こうは私たちがガールズバーかなんかで、働いていると思い込んでいるらしい。まあ……半分正解だけど。
しかし、屋敷までついて来られてはたまったもんじゃない。この大通りは今朝の私が下ってきた坂道へと通じている。要するに道なりに真っすぐなので、適当に巻くこともできない。
どうしたもんか───そう頭を捻っていると……
「マジでしつこいから!! 離せ……よっ!! 」
ベルは掴まれていた腕を大きく振った。しかし、予想以上に強く掴まれていたためか───彼女は男の手を振りほどけなかった。流石に私も苛立ってきた。
自分だけなら、ここまで苛立つことはなかっただろう。しかし、大切なベルを───薄汚い手で汚されて黙っているほど……オレはチキンじゃない。
オレはその場で、自転車のスタンドをかけた。いつもなら、押し込むように優しくストッパーを留めるのだが……この時のオレは、膝のスナップを利かせ、わざと音をたてて留めた。
───ガチャンッ!!
「「「……!? 」」」
思っていたより、大きな音が鳴った。さっきまで言い争っていた2人の男とベルは───オレの方へと一斉に振り返った。オレは悠然とした足取りで、2人の男の前に立ちふさがった……背後にベルを庇うように。
「……ルル……ちゃん?? 」
ベルは、吃驚した様子で───背後から、オレの名前を呟いた。
「へえぇ……『ルル』っていうんやな!! ……かわいい名前やん??」
「遊ぼおよぉ……『ルル』ちゃん!!……へへへ」
下卑た笑い声を挙げながら、2人はニヤケヅラで───オレを見下ろしていた。2人の男とベルの間に割って入ったため……間合いはかなり近い。50cmもないくらい。
「……気安く呼ばないで……」
「……はあ?? ……なんや……うっ!?」
さっきまで、ベルの手首を掴んでいた男は、急に苦しそうに蹲りだした。オレの左の下突き───ボディブローが鳩尾にめり込んだのだ。この間合いはフルコンタクト空手の選手が最も得意とする間合い……僅かな初動すら見せずに、『一撃』をお見舞いすることなど造作もないこと。
「……えっ……?? 」
もう一人の男は面食らっている様子だ。仲間の一人がオレの手で葬られたことに───まだ気が付いていないらしい。よし……
「!! ……ベルちゃん!!……あそこの神社に『ねこやき』っていう看板の出店あったんだ!! 悪いんだけど4つくらい買ってきてくれないかな!?」
オレは、今朝……自転車に跨りながら眺めていた、境内の広場に並んだ出店の中に───珍しい看板があったのを思い出した。ベルを逃がす口実に丁度いいと思ったので、場違いかなと思いつつも、そんなお願いをした。
「……あっ……うん……分かった」
ベルもまた、オレが男を1人沈めたことに気が付いていないらしい。何が何だか……といった感じで不思議そうな表情を浮かべていたが、何かしらの意図があると察したらしく、足早に神社へと続く階段を駆け上がっていった。
───さてと……
「……おいおい、なんや……こいつ??」
「へえ……かわええやん?? ……ナンパ成功したん??」
脇道から何人かの男たちが、こちらへ練り歩いてきた。3人……いや4人か……
「……ってええな……なんやこいつ??」
さきほど、オレがボディブローをお見舞いした男は、のそのそと立ち上がった。未だに少し苦しそうではあるが、動けるらしい……手心を加えすぎただろうか。
「……一応成功やな……まあ、ここやと人目に付きそうやし……そこに小さい公園あったから、そこまで連れて行こうや……」
……おや??……やる気満々のようだ。
面倒くさいなあ……と肩をすくめつつも、オレの口の端は緩んでいた。ベルに乱暴を働こうとしたんだ───もう少し痛い目を見てもらわないと困る。




