Disc1 Track9 ベル
実は“マリオネット症候群”には……専門医のみが処方を許可されている“特効薬”が存在する。私が先ほど身体を動かしている時に、仄めかした『薬』──というのは、この"持病"の“特効薬”のことだ。
“特効薬”は1日に1度……基本的には朝食後に服用を開始する。 効き目は12時間。その間だけ、私は健常者と同じ……とまで はいかないが、幾分かマシな精神状態に落ち着くことが可能となる。
───この“特効薬”が私の人生を大きく変えた。
元来より、知能面では大きな問題はなかったため、学業成績自体はそれなりによかった。しかし、感情面が安定したことで、まさに『鬼に金棒状態』となった。
中学入学後に行われた最初の模試ではなんと、全国『99位』!!
中学2年生の時に測定したIQは、なんとなんと上限値の『143』!?
その後、私は故郷である『北の大地』に存在する高校の中で、一番偏差値が高い高校を受験。結果はもちろん……合格。しかし、それだけではない。
なんとなんと……なんと……!!
高校入試の成績は『No.1!!』──よって、私は入学式にて全校生徒の前でスピーチを披露した。
「“薬”も確かにすごいかもしれないけど、ルルちゃんの元々のポテンシャルが高かったんだよ!!」
「ありがとう……そう言ってもらえて、ほんとに嬉しい!!」
まあ、テンションが上がると喋り倒してしまうところは変わっていないが……
しかし、先程も述べたようにベルはそんな時も……嫌な顔一つせずに私の話を最後まで聞いてくれる。
ベルは確かに、容姿だって素晴らしい。だけど、彼女の一番のよさはそこじゃない。
私の全て受け止めてくれる──半端じゃない『包容力』だ。
豊満なバストだって──彼女の『包容力』を体現している部位だと、私は捉えている。
そんなベルは、肩に掛けている通学用のバッグがずり落ちてきたのか──少しだけ右肩をすくめて位置を調整、そのまま会話を続行する。
「それにしても、早いねぇ〜大学に入って半年かぁーあっという間に大学も卒業しちゃうのかなぁ……」
「そうだね……そして私はメイドのバイトを初めて今日で3ヶ月……!! 」
「!! ……そっか!! もうそんなに経つんだね……おめでとう……!! 」
メイドという仕事はマルチタスクのオンパレードであるため、本来は『私のような特性』を持つ人間とは非常に相性が悪い。
実際この屋敷でメイドとして働き始める前は、様々なアルバイトに取り組んでいはいたものの、1ヶ月ともたずにクビになってしまうことが大半だった。
───スーパーのレジ打ち、カフェの店員、飲み屋の皿洗い……
挙げ句の果てに──「得意な勉強を教える仕事ならなんとかなるかも……!! 」と思って始めた塾講師のアルバイトも、教室長とのコミュニケーションが上手くいかずにクビになった。
成績のいい生徒からの評判はものすごくよかったのだが……これも世の中の難しいところなのだろう。
状況に応じた『言葉選び』が上手ではなかったり、瞬時に状況を把握するのが遅れるなど……小さなことひとつひとつが積み重なってしまい、やがてそれが周囲との軋轢を産む。
しかし、メイドという仕事に関しては──思いの外、性分に合っているらしい。
「……あの時のベルちゃん……本当に可愛かったなぁ……」
全てのバイトを首になり、憔悴しきっていた私。そんなある日、傷心を癒してくれる存在を求めて、私は街から外れた丘を散歩していた。
高級住宅地が広がる丘の上には、立派な建物が立ち並んでいた。その中でも一際目立つ大きな屋敷。上品なホワイトレンガで造られた門前には────かわいい衣装に身を包んだ『メイドさん』が、箒を両手に携えて掃き掃除をしていた。
その屋敷は、もちろん私が現在住み込みで奉公している『お屋敷』であり、そのメイドさんは──今私の隣を歩いている『ベル』である。
「私……最初は屋敷のこと──メイド喫茶だって勘違いしていたんだよ……!! 」
「ええ!! そうだったの!?」
メイドの衣装に身を包んだベルは、この世のものとは思えないほどに可愛らしく、まさか給仕係として雇われている本物のメイドだとは思わなかったのだ。
「それで、入店しようと思って屋敷の中に入ったら──ヴィークさんに『メイドの採用面接を受けに来た女の子』だって勘違いされて……」
「気が付いたら『採用』された──ってこと……!? 」
「コクン……」
「あっはははは!!!! ……やばぁ〜!! めっちゃ笑けるんだけどぉ〜!!」
ベルは口を大きく開けて豪快に笑い出した。圧倒的な美貌から醸し出される近寄りがたい雰囲気とは裏腹に──彼女は意外とゲラで、よく笑う。
「でも、結果オーライ。本当に良かった……私みたいに『癖の強い人間』を快く受け入れてくれる皆に巡り会えたこと──本当に幸せ 」
「………うん……アタシも幸せだよ。難しいことかもしれないけど……いつまでも一緒にいられたら……いいよね」
私達の進行方向である──西の空から夕陽が差し込んでいるためか、彼女は少し目を細めながら……そんなことを口にした。
──と、そんなセンチな気分に浸っていると……
「ねえねえ!! 少しだけでいいからさ〜お姉さん達!! オレらとお茶してくんない!?」
誰かに話しかけられたような気がしたので、私は反射的に振り返った……
私達の後ろには──身長180cmほどで細身の男性が2人ほど、ピッタリと付いてきていた。
しかも、私の自転車の後輪の荷台をガッチリと掴んでいる。
(───参ったなぁ……)




