↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 9

「…なあ、バニラ…」


 私は、バニラと並んで、エレベーターを待ちながら、聞いた…


 「…なに、お姉さん?…」


 「…やっぱり、オマエもリンダが心配か?…」


 私の質問に、バニラは、


 「…」


 と、答えなかった…


 私は、どうしたのか? と、バニラを見上げた…


 なにしろ、バニラは、180㎝の長身…


 対して、私は、159㎝…


 バニラの表情を知るには、見上げるしかないからだ…


 すると、バニラは、今にも、泣きそうだった…


 すごく、哀しそうな表情をしていた…


 私は、驚いた…


 こんな表情をした、バニラをこれまで、見たことがなかったからだ…


 だから、


 「…どうした?…」


 と、バニラに聞いた…


 声をかけた…


 すると、


 バニラは、すぐには、答えなかった…


 哀しみをこらえている様子だった…


 「…ごめんなさい…」


 しばらくして、バニラが、口を開いた…


 「…なんだ? …どうした?…」


 「…リンダのことを、思うと…」


 「…どういうことだ?…」


 「…今、リンダは、メチャクチャ悩んでいると思うの…」


 「…どうしてだ?…」


 「…アラブの王族…」


 「…クールの接待か?…」


 「…そう…どうしても、私やリンダのように、美人を売りにする仕事に、接待は、欠かせない…」


 「…」


 「…その結果、嫌な思いをしたり、危険な目に遭うことも、しばしばっていうか…それが、半ば、日常になっている…」


 「…なかば、日常だと?…」


 私は、驚いた…


 開いた口が塞がらなかった…


 「…そう…日常…美人を売りにして、仕事をする…それは、ある意味、危険と隣り合わせ…」


 バニラが、深刻な表情で、告白した…


 私は、考え込んだ…


 まさか、ただだか、モデルや女優を続けることが、そんなに危険と隣り合わせだとも、思わなかったからだ…


 私は、驚き、かつ、同情した…


 たしかに、このバニラの言うことは、わかる…


 納得できる…


 が、


 美人を売りにすることが、そんなに危険と隣り合わせだとは、思わなかったからだ…


 私は、それがわかると、


 「…美人に生まれるのも、大変だな…」


 と、声をかけた…


 すると、バニラが、それまでとは、一転して、


 「…いいえ…」


 と、短く答えた…


 …いいえ? だと?…


 私が、驚いて、バニラを見ると、


 「…美人を売りにする以上、その覚悟はできていた…」


 と、笑った…


 が、


 その笑いは、寂しいものだった…


 「…これは、日本のAV女優も、アメリカのポルノ女優も皆、同じ…」


 「…同じ? …どういう意味だ?…」


 「…性を売り物にする以上、一生、それに縛られる…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…リンダは、ハリウッドのセックス・シンボル…まだ、スクリーンで、脱いではいないけれども、性=セックスを売りにする以上、危険は、伴う…」


 「…」


 「…どうしても、はずせない接待で、無理やりお酒を飲まされて、強引に、ベッドに連れ込まれそうになったことは、一度や二度どころじゃないはずよ…」


 「…」


 「…これは、今も言った、日本のAV女優も、アメリカのポルノ女優も、同じ…たとえ、脱いでも、脱がなくても、美人を売りにする以上、避けては、通れない道…」


 いつしか、バニラは、自分に言い聞かすように、言っていた…


 「…だから、それが嫌なら、美人を売りにする職業には、就かないこと…」


 と、バニラが笑った…


 「…有名になって、金は稼げるかもしれないけれども、危険と隣り合わせ…まあ、私もリンダも、大金を稼げるようになったから、十分、リターンは、あるっていうか…美人を売りにした見返りは得られたけれども…」


 「…」


 「…でも、これは、一般のひとでも、同じね…」


 「…一般のひとでも?…」


 「…日本の会社でも、学校でも、同じ…美人は、目立つでしょ? …だから、さまざまな男たちに告られる…言い寄られる…」


 「…」


 「…だから、それが、嫌で、家に引きこもったりする女もいる…どこに行っても、口説かれていたんじゃ、気が休まらないし、そのうち、外に出ることが、嫌になっても、おかしくはない…」


 「…」


 「…それに、比べれば、私も、リンダも、美人を売りにして、成功して、大金を得られたのだから、文句を言う筋合いでも、ないのかもしれない…」


 バニラが笑った…


 「…世の中には、美人は、いっぱいいる…でも、その美人を売りにして、成功するのは、ほんの一握り…日本でいえば、東大に入って、トップクラスの成績を収めるようなもの…信じられないくらい、低い確率…」


 「…」


 「…でも、そんな低い確率で、成功しても、今回のリンダのような悩みは、尽きない…ホント、世の中は、不公平ね…いや、公平なのか…美人に生まれ、美人を売りにして、成功しても、依然として、悩みは尽きない…美人であるというだけで、男に狙われ続ける…」


 「…」


 「…でも、それが華かも…」


 …どういう意味だ?…


 「…さっき、お姉さんが言ったように、歳を取れば、男から、告られなくなる…女として見られなくなる…」


 バニラが、笑った…


 「…でも、それは、それで、それで、残念ね…これまで、星の数ほど、口説かれていたのに、それが、一切なくなるなんて…」


 バニラが、告げる…


 私は、バニラの話を聞きながら、美人に生まれるのも、実に、大変だと思った…


 この矢田トモコも、これまで、さまざまなバイトをしていて、それなりに、美人の女を見てきた…


 ただし、それは、すべて、一般人…


 このバニラや、リンダのように、有名人ではない…


 そんな有名人ではない、一般人でも、美人のお姉さんと接して、大変だなと、感じたことは、ある…


 好きでもない男に好意を持たれて、困っている姿を、何度も見たことがあるからだ…


 ただし、あくまで、一般人…


 目の前のバニラや、あのリンダとは、違う…


 このバニラや、あのリンダは、男に口説かれるのも、一般の美人の比ではないだろう…


 それは、この矢田トモコにも、わかる…


 そして、それは、今、バニラが言った、危険に遭遇することでもある…


 男に変な薬でも飲まされて、意識がもうろうとして、気が付けば、ベッドに連れ込まれていたなんて、映画のような展開になったら、えらいことだ…


 私は、バニラの話を聞きながら、つくづく、美人に生まれなくて、良かったと思った…


 平凡なルックスに生まれて、良かったと、心の底から、思った…


 この矢田トモコは、実は、気弱…


 結構、気が弱かった…


 だから、無理やり薬でも、飲まされて、ベッドに連れ込まれでもしたら、大変だ…


 おおげさに、言えば、メンタルが崩壊するかもしれん…


 私は、思った…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…どうしたの? …お姉さん…そんな難しい顔をして?…」


 と、聞いた…


 私は、


 「…いや、私も、オマエやリンダのように、美人に生まれなくて良かったと、つくづく思って…」


 「…エッ?…」


 「…だって、そうだろ? 今、オマエが言ったように、美人に生まれたら、生まれたらで、大変な思いをするぐらいなら、私ぐらいがちょうどいいさ…」


 私は、断言した…


 「…お姉さんぐらいが、ちょうどいい?…」


 「…そうさ…」


 私は、半ば、冗談で言ったつもりだったが、バニラが、しばし、深刻に、考え込んだ…


 だから、逆に、心配になった…


 「…どうした? …冗談だ…冗談…本気にするな…」


 私が、言っても、バニラは、考え続けていた…


 「…いえ、確かに、お姉さんの言う通り…」


 バニラが、口を開いた…


 …なんだと?…


 …どういうことだ?…


 「…お姉さんのその愛されキャラ…それは、お姉さんの今のルックスがあってのもの…美人過ぎれば、お姉さんが、同じことをしても、周囲から、愛されないかもしれない…美人は、どうしても、敵を作りがちだから…だから、かえって、美人が邪魔になる…」


 …うまいことを言う…


 私は、思った…


 「…なんてね?…お姉さんが、美人に生まれるわけ、ないじゃない…」


 「…なんだと?…」


 私は、怒った…


 「…そもそも、お姉さんは、このバニラ・ルインスキーに馴れ馴れしくし過ぎ…」


 「…なんだと? …どういう意味だ?…」


 「…このバニラ・ルインスキーは、世界に名の知れたトップモデル…もちろん、リンダも、よ…」


 「…」


 「…それが、葉尊と結婚したからって、まったく無名の一般人だった、お姉さんが、馴れ馴れしくし過ぎ…私とリンダと、お姉さんとは、天と地ほどの差があるの…」


 「…差なんてないさ…」


 「…あるの…」


 バニラが、ムキになって、反論した…


 「…ないさ…」


 「…ある…」


 「…だったら、オマエは空が飛べるか? 天使のように、オマエの背中に羽が生えているか? 生えてないだろ? それを、思えば、私も、オマエも、リンダも、皆、同じさ…ただの人間…地球人さ…」


 「…お姉さん…本気で、言っているの?…」


 「…本気も、本気さ…この矢田トモコは、いつも本気さ…」


 私とバニラは、いつのまにか、睨み合っていた…


 私の細い目と、バニラの青い目が、睨み合った…


 文字通り、バチバチと、火花を散らして、睨み合った…


 私は、なぜか、バニラが怖くはなかった…


 なぜだかは、わからない…


 が


 ただ、怖くなかった…


 私が、正論を言っている自信があったからだ…


 正直、自分でも屁理屈を言っている自覚もあったが、まったくのウソを言っているわけではない…


 ひどく大きな視点で見れば、私も、バニラもリンダも、皆、同じ…


 いっしょだ…


 空を飛べるわけではないし、地中に潜れるわけでもない…


 同じ人間という範疇で、考えれば、同じだ…


 だから、私は、自信があった…


 バニラは、憎々しげに、その青い瞳で、私を睨んでいたが、臆することがなかった…


 しかしながら、バニラは、強気の私の態度が、不思議だったようだ…


 「…どうして、お姉さん…そんなに強気になれるの?…」


 「…私が、間違ってないからさ…」


 「…間違ってない?…」


 「…そうさ…」


 「…そんな屁理屈をこねて…間違ってないなんて…」


 言いながら、


 「…そうか…」


 と、声を上げた…


 「…約束ね?…」


 「…約束だと?…」


 「…さっきした約束…私が、お姉さんに逆らえば、金輪際、お姉さんが、娘と、遊んでやらないという約束…」


 「…」


 「…それがあるから、お姉さんは、そんなに強気なんだ…」


 と、バニラは、自分自身に納得させるように、言った…


 私は、驚いた…


 私自身は、そんな気はまったくなかったが、なぜか、そんな展開になっていた…


 いつものことだった(笑)…


 だが、これで、私の有利な展開になったことは、間違いがない…


 なにより、急に、バニラの敵意がなくなったのが、手に取るように、わかった…


 見る見る敵意がなくなったのだ…


 「…ゴメンナサイ…」


 と、バニラが、いきなり、謝った…


 文字通り、平身低頭だった…


 「…お姉さんとの、約束を忘れていました…」


 「…わかれば、いいのさ…」


 私は、自慢げに言った…


 またも、私の鼻の穴が少しばかり、広がった…


 得意満面になった…


 「…実は、葉敬にも、言われてました…」


 「…なにを、だ?…」


 「…お姉さんには、決して、逆らっては、ならない、と?…」


 「…なんだと?…」


 「…これは、リンダも同じです…なにが、あっても、お姉さんには、逆らってはならないと、葉敬は、私たち二人に厳命しています…だから、それもあって、私とリンダが、お姉さんに、逆らうことは、そもそも、ありえないです…」


 …そうか?…


 …そういうことか?…


 だから、リンダも、このバニラも、私に逆らわないんだ…


 ようやく、納得がいった(笑)…


 本当は、私よりもはるかに、美人で、世界的に有名な、リンダとバニラが、なぜ私風情を相手にしていることが、よくわからなかった…


 理解できなかった…


 このバニラとリンダは、私から見れば、雲上人…


 文字通り、雲の上のひとだ…


 たとえ、知り合いになっても、相手にしてくれるわけがない…


 にもかかわらず、親しくしてくれる…


 まるで、昔からの友人のように、接してくれる…


 それが、なぜだか、わからなかった…


 なぜ、そんなにも、身近な距離感で、私に接してくるのか、わからなかった…


 しかし、それが、今、このバニラの言葉で、葉敬の指示だと、わかった…


 私の夫、葉尊の父、葉敬の指示だとわかった…


 が、


 すると、今度は、どうして、葉敬が、そんな指示を、このバニラと、あのリンダにしたのか、謎がある…


 それは、やはり、私が、息子の葉尊の妻だからだろうか?


 だから、だろうか?


 葉尊の妻だから、そのように、接しなさいと、バニラとリンダに厳命しているのだろうか?


 疑問だった…


 が、


 おそらく、それが、答えだろうとも思った…


 世界的に有名なバニラとリンダが、私と、身近に接することで、大げさにいえば、私の株が上がる…


 あのハリウッドのセックス・シンボルのリンダ・ヘイワースと、この世界的に著名なモデル、バニラ・ルインスキーが、私、矢田トモコと、親しく接していることを、周囲の人間に見せることで、私という人間の評価に下駄を履かせるというか…


 実際以上に、凄い人物だと、周囲にアピールすることができる…


 それが、狙いだと気付いた…


 そして、それが、わかると、正直、意気消沈した…


 あまりにも、自分が、たいした人間じゃないと、気付いたのだ…


 元々、自分でも、自分が、たいした人間だとは、これっぽっちも思ってなかったが、この事実が、わかると、余計に、落ち込んだ…


 葉敬が、私に気を使ってくれるのは、ありがたかったが、それが、かえって、嫌だった…


 葉敬には悪いが、そうやって、私に気を遣うことで、余計に、自分自身が、たいした人間じゃないことを、悟らせることになったからだ…


 私は、それまで、このバニラと、まるで、殴り合いのケンカをするような勢いだったのに、それが、ボクシングでいえば、グラブを交えることなく、相手にノックアウトされたようなものだった…


 相手が、なにもしていないのに、自分から、リングに倒れ込んだようなものだった…


 正直、惨めだった…


 自分が、惨めだった…


 そして、そんなことを、考えていると、目の前に、エレベーターがやって来て、扉が開いた…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。