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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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35歳のシンデレラ アラブの女神編 8

私とバニラは、並んで、エレベーターを待った…


 そして、ふと、気付いた…


 …どうして、このバニラが、ここにいるのか?…


 ふと、気付いた…


 まさか、偶然では、あるまい…


 当然、なにか、用事があって、このクールの本社ビルにやって来たに、決まっている…


 このバニラは、私の夫の葉尊の父、葉敬の愛人であり、子供まで、産んでいる…


 だから、今、ここにバニラがやってきても、おかしくはないのだが、やはりというか、仕事場にやって来ることは、普通ないだろう…


 それは、例えば、バニラは、仕事がモデルだが、その仕事場に、私の夫の葉尊が、顔を出すようなものだからだ…


 絶対ないとは、言えないが、なにか、特別な用事でもない限り、普通は、ありえない…


 …ということは?…


 …ということは、普通に考えれば、私の夫の葉尊に呼ばれて、やって来た…


 そう考えるのが、正しいのではないか?


 ようやく、私は、その事実に、気付いた…


 だから、私は、バニラと並びながら、


 「…バニラ?…」


 と、声をかけた…


 「…なに? …お姉さん?…」


 「…オマエも、やっぱり、葉尊に呼ばれたのか?…」


 と、聞いた…


 すると、バニラは、その美貌を歪ませた…


 「…お姉さん…」


 「…なんだ?…」


 「…まさか、そんなこと、今頃、気付いたの?…」


 「…なんだと?…」


 「…まさか、このバニラ・ルインスキーだって、お姉さんのように、暇じゃないのよ…」


 「…私のように、暇じゃないだと?…どういう意味だ?…」


 「…だって、お姉さんは、専業主婦でしょ?…」


 「…そうさ…」


 「…だったら、暇じゃない…」


 「…バカにするな!…」


 私は、怒った…


 「…専業主婦だって、暇なんかじゃないさ…」


 「…ちょっと、それは、子供がいたりする場合でしょ? …お姉さんは、葉尊との間に、子供はいないでしょ?…」


 「…」


 「…たしかに、専業主婦は、暇というのは、言い過ぎかもしれないけれども、専業主婦のお姉さんが、このモデルのバニラ・ルインスキーよりも、忙しいわけはないでしょ?…」


 …たしかに…


 …言われてみれば、その通りだった…


 …反論できんかった(涙)…


 「…葉尊もリンダのことで、色々頭を悩ませているのよ…」


 バニラが、言った…


 その言葉で、私は、ようやく、今日、葉尊にいきなり呼び出されたのは、リンダの一件だと気付いた…


 いや、


 やはり、それは、おかしい…


 仮に、リンダの一件で、呼び出されたとしても、会社というのは、おかしい…


 会社に呼び出すのは、おかしい…


 普通に考えれば、自宅だ…


 リンダの一件というのは、おかしい…


 私は、思った…


 そして、相変わらず、このバニラは食えん女だと、思った…


 私に今、本当のことを、言ったか、どうか、怪しいものだからだ…


 私にウソを言った可能性が、高いからだ…


 私は、さっき、用心するのは、矢口トモコ…


 あのスーパー・ジャパンの矢口トモコだと、考えたが、やはり、このバニラにも、油断するわけには、いかないと、気付いた…


 そして、それを思えば、この矢田トモコの周りは、敵だらけだと、今さらながら、気付いた…


 バニラも、敵…


 矢口トモコも、敵…


 信頼できるのは、夫の葉尊ぐらいのものだ…


 いや、


 夫だけではない…


 夫の父の葉敬も、なぜか、私を気に入っている…


 しかし、


 しかし、だ…


 そこまで、考えて、気付いた…


 夫の父の葉敬は、このバニラの愛人…


 ということは、私とバニラを選べと言われれば、当たり前だが、バニラを選ぶ現実に、だ…


 葉敬が、どうして、私を気に入っているのか、わからないが、たとえ、私を気に入っていても、バニラを選ぶに違いない…


 なにしろ、バニラとの間には、幼い娘まで、いるのだ…


 私は、そんなことを、考えた…


 考え続けた…


 すると、


 「…お姉さん…一体、なにを、そんなに難しい顔をして、考え込んでいるの?…」


 と、隣に並んだバニラが声をかけた…


 だから、私は、とっさに、


 「…バニラ…オマエのことさ…」


 と、答えた…


 「…私のことって?…なに?…」


 「…オマエが、さっき、私とした約束をキチンと、守れるのか、考えたのさ…」


 「…約束って?…」


 「…さっき、見た、矢口トモコと、私のやりとりさ…」


 「…」


 「…アレを口外しない約束だろ?…」


 私の言葉に、バニラは、考え込んだ…


 しばし、悩んでいた…


 「…つまり、お姉さんは、こう言いたいのね…あの矢口トモコとのやりとりだけじゃない…今後、私に、お姉さんに逆らうような真似はするなって、警告しているわけね…」


 …ウソォ?…


 …どうして、そうなるんだ?…


 …そこまでは、考えんかった…


 「…つまり、これ以上、私が、お姉さんに、歯向かえば、金輪際、娘と遊んでやらないと、言いたいわけ…」


 私が、驚いて、バニラの顔を見上げると、バニラが、その彫刻のように、整った美貌で、私を、憎々しげに睨んでいた…


 私は、恐怖した…


 私は、純粋な日本人…


 当たり前だが、目が黒い…


 だから、バニラのような青い目は、普段、あまりお目にかかったことがない…


 その青い目が、怒り出すと、日本人のような黒い目が、怒るよりも、もっと怖い…


 なんというか、ゾッとする怖さというか…


 青い目が怒ることで、冷たい怖さを感じるのだ…


 本来、気の弱い私は、そんなバニラの目を見て、心底怖くなった…


 恐怖で、一瞬のうちに、身体中の血の気が引いた…


 「…バニラ…許せ…私が、悪かった…」


 と、言いたかったが、あまりの恐怖で、口が動かなかった…


 ただ、その場に立ち尽くしていた…


 恐怖で、立ち尽くしていた…


 すると、まもなく、


 「…お姉さん…」


 と、バニラがゆっくりと、私に声をかけてきた…


 私は、あまりの恐怖で、長い言葉をしゃべることも、できなかった…


 だから、ただ、


 「…なんだ?…」


 と、だけ、呟いた…


 なんだ? の3語だけなら、言えたからだ(涙)…


 「…スイマセン…」


 と、バニラが、丁寧に腰を折って、私に詫びた…


 私は、驚いた…


 まさか、このバニラが、こんなに丁寧に、私に詫びるとは、思っていなかったからだ…


 まさか、この根性の歪んだ、バニラが、こんなに、へりくだって、私に接するとは、思わなかったからだ…


 まさに、恐るべし…


 娘の存在、恐るべし、だ…


 「…お姉さん…また、うちの娘と遊んであげて下さい…よろしくお願いします…」


 バニラが、心のこもった態度で、私に頼んだ…


 私は、一体、なぜ、こういう展開になったか、わからなかったが、これを利用しない手はないと、思った…


 だから、私は、私の大きな胸の前で、腕を組んで、


 「…わかれば、いいのさ…」


 と、もっともらしく言った…


 「…さっきも言ったように、私は、オマエを試したのさ…」


 「…試した?…」


 「…そうさ…さっき、私と、矢口トモコのことを、決して口外しないと、約束して、まだ、その舌の根も乾かないうちに、私の悪口を言う…それは、約束外のことだが、そんな女に、大事な約束を守れると思うか?…」


 「…」


 「…オマエはダメな女だ…その美貌にあぐらをかいて、今日まで生きてきたに過ぎん女だ…」


 「…ハイ…」


 「…だから、オマエは、ダメなのさ…」


 「…ハイ…」


 「…少しばかり、美人に生まれたからって、周囲からチヤホヤされて生きてきたから、甘えがあるのさ…だから、オマエは、正直、その美貌が衰えるまで、その曲がった性根は、治らんだろ?…」


 「…」


 「…そして、ある日、オマエは、自分が歳を取って、周囲の人間が、誰もオマエをチヤホヤしなくなる…それで、初めて気付くのさ…オマエの持つ魔法が消えたと…」


 「…魔法が消えた?…」


 「…若さという魔法さ…いくら、美人でも、歳には勝てん…オマエが40歳になれば、23歳の今のオマエに接するように、世の男たちは、接してくれんさ…」


 私は、断言した…


 「…だから、その日のために、私は、オマエに、世の中の渡り方を教えてやってるのさ…平凡な女が、どうやって、世の中を渡ってゆくのか、教えてやってるのさ…」


 私は、もっともらしく、断言した…


 実に、もっともらしく、言い切った…


 実は、それまで、そんなこと、1㎜も考えたことは、なかった…


 文字通り、1㎜も、だ…


 だが、


 このバニラのへりくだった態度を目の当たりにして、考えた…


 このバニラの風上に立てるのは、今しかないと、気付いたのだ…


 この平凡な矢田トモコが、世界を股にかけたトップモデルに勝てるのは、今しかないと、気付いたのだ…


 こんなチャンスを見逃すことはできない…


 まさに、千載一遇のチャンス…


 これを逃せば、二度とないチャンスかもしれなかった…


 だから、私は、腕を組みながら、バニラに説教した…


 そして、なぜか、私は、腕を組んでいたが、視線は、上を見ていた…


 身長159㎝の私は、身長180㎝のバニラを見上げるしかなかったからだ…


 私は、立派に腕を組みながら、バニラの言葉を待った…


 すると、まもなく、


 「…申し訳ありませんでした…お姉さんが、そんな深い考えで、私に接していたとは、気付きませんでした…」


 と、詫びた…


 私は、気持ちが良くなって、自然と、鼻の穴を大きく膨らませながら、


 「…わかれば、いいのさ…」


 と、告げた…


 このバニラ…


 バニラ・ルインスキー…


 世界的に著名なモデルが、私に屈服した瞬間だった…


 私の手下になった瞬間だった…


 私は、この瞬間を、生涯、忘れまい…


 この感動した瞬間を、生涯、忘れまい…


 なにしろ、世界を股にかける、絶世のモデル…


 バニラ・ルインスキー、そのひとが、私の手下になったのだ…


 私の配下になったのだ…


 冷静に、考えれば、これほどの感動はなかった…


 本当ならば、私の立場ならば、ペンと色紙を持って、バニラの元に、行き、


 「…バニラさん…お手数ですが、サインを頂けないでしょうか?…」


 と、土下座せんばかりに、頭を下げて、頼むところだ…


 しかも、相手は、このバニラ…


 ビックリするほど、根性のねじ曲がった女だ(爆笑)…


 性根のねじ曲がった女だ(爆笑)…


 だから、私が、土下座せんばかりに、頭を下げて頼んでも、きっと、その日の気分次第で、


 「…今日はダメ!…」


 とか、言って、サインしてくれない可能性が高い…


 私は、思った…


 一方、そうは言いながらも、仮に、バニラにサインをもらっても、私は、後生大事に、家宝のように、そのサインを大事にするかと、問われれば、それも、怪しかった…


 やはり、世の中、金だ…


 金が大事だ…


 ヤフオクやメルカリで、見て、3千円や、5千円では、サインは、売らんが、2万ぐらいすれば、心が揺らぐ…


 5万円ならば、すぐにでも、売り出すだろう…


 私は、思った…


 つまりは、この場合は、この矢田トモコが、


 「…バニラさん…スイマセン…サインをお願いします…」


 と、言ったことへの対価が、5万円なのだ…


 そう考えれば、この矢田トモコが、わざわざ、このバニラ風情に頭を下げたことにも、十分納得する価格だった…


 なにしろ、5万円だ…


 私のバイトの時給は、千円ちょっと…


 それに比べて、このバニラに頭を下げるだけで、5万円なのだ…


 つまり、この5万円は、いわば、この矢田のプライド…


 矢田トモコのプライドの価値が、5万円だった…


 つまり、頭を下げるのに、5万円、もらえれば、簡単に頭を下げますよ、と、言っているのと、同じだった…


 ふーむ…


 そう、考えると、この5万円は、高いのか、安いのか、さっぱり、わからんかった(笑)…


 ただの矢田トモコならば、いい…


 これまでの、無名の矢田トモコならば、いい…


 しかし、今は違う…


 クールの社長夫人…


 日本を代表する総合電機メーカーの社長夫人という地位がある…


 肩書がある…


 そんな偉い肩書をもった、お偉いさんの私が、たかだか、5万円で、プライドを売っていいものかどうか?


 いや、


 これは、パブリックではない…


 これは、プライベート…


 プライベートの金稼ぎだ…


 そう、考えれば、構わないだろう…


 いや、


 違う…


 例えば、日本の総理大臣が、ヤフオクやメルカリで、商品を転売して、儲けていれば、なんてヤツだと思う…


 人間性を疑う…


 だから、そんなことはできない…


 それと、同じで、私も、そんなことをしちゃいかんと、気付いた…


 しかし、同時に、バレなければ、OKとも、思った(笑)…


 悪魔の囁きというヤツだ(笑)…


 バレなければ、OK…


 犯罪にならなければ、OK…


 それが、基準ではないか?


 いや、


 犯罪ではないかもしれないが、そんなことをすれば、倫理観が、問われる…


 人間性が、問われる…


 それに、気付いた…


 それに、気付くと、やっぱり、立場を得るのは、大変だと、気付いた…


 これまでの矢田トモコならば、なんでもなかったことができなくなる…


 さっきの、このロビーの受付の関口という女のコが、そうだ…


 彼女が、


 「…奥様といっしょに、ダンスをしたのは、私の一生の思い出です…」


 なんて、言うものだから、このバニラが、発狂したと思っても、逃げれんかった…


 いつもなら、真っ先に、逃げ出す瞬間なのに、それが、できんかった…


 あのとき、このバニラが、本当に、発狂していれば、この矢田トモコは、真っ先に、呆気なく殺されていただろう…


 まるで、ライオンに、襲われた、可哀そうなウサギよろしく、呆気なく、ライオン=バニラの餌になったに違いない…


 私と、バニラとは、それほどの違いがある…


 持って生まれた、カラダの大きさの違いがある…


 いや、


 カラダの大きさだけではない…


 その美貌の違いも、甚だしい…


 まるで、バニラは、神様が、時間をかけて、念入りに作り上げた、芸術品のようだ…


 それに、比べ、この矢田は、大量生産の粗製の乱発品のようだ(涙)…


 とりあえず、作っただけ…


 品質も適当…


 最低限の品質だけ、クリアすればいい…


 そんな感じだった…


 正直、違いがあり過ぎた(涙)…


 しかしながら、私は、このバニラと出会ってから、今現在に至るまで、このバニラに、負けたと思ったことは、一度もない…


 一度も、だ…


 このバニラに後れを取ったと思ったことも、一度もない…


 これは、ウソではない!


 そんなことを言えば、ひとは、私が、頭がおかしいと思うかもしれないが、そうではない…


 自分でも、わからないが、なぜか、この矢田トモコが、バニラに負けたと、心の底から思えんのだ…


 なぜだかは、わからない…


 これは、リンダも同じ…


 リンダ…


 リンダ・ヘイワースは、ハリウッドのセックス・シンボルで、このバニラに匹敵する美貌の持ち主だから、当然、私が、叶う相手ではない…


 そもそも、私風情が、比較するのが、失礼…


 それほど、違う(涙)…


 にもかかわらず、このバニラ同様、あのリンダにも、私が、負けたと、心の底から、思ったことは、一度もない…


 これは、一体、どういうことだろうか?


 やはり、私の頭がおかしいのだろうか?


 真剣に考えた…


 その結果、


 いや、


 そうではない…


 身近になり過ぎたのだ…


 と、気付いた…


 どんな偉い人間でも、身近にいれば、偉い人間だと思えなくなる…


 たとえ、天皇陛下や総理大臣でも、それは、同じだ…


 子供の頃から、知っていて、オレ、オマエの仲ならば、相手がどんなに偉くなっても、決して、心の底から偉いとは、思えなくなる…


 それと、同じだ…


 私と、バニラやリンダは、まだ知り会って、それほどの期間ではないが、すでに、仲がいい…


 ビックリするほど、仲がいい…


 親密な関係だ…


 そして、そうなると、相手が、偉いとは、思わなくなる…


 極端な話、自分と大差ない人間だと、心の底から、思えてくる…


 が、


 それは、誤り…


 間違っている…


 本当は、天と地ぐらい違っている…


 天と地ぐらい差がある…


 それが、わかっていながら、わからなくなる(笑)…


 自分と、バニラ、リンダの差が、わかっていながら、わからなくなる…


 そういうことだ(笑)…


 しかし、それが、わかっていて、なお、このバニラや、リンダが、私を相手するのは、どうしてだろうか?


 ふと、疑問に思った…


 やはり、私が、葉尊の妻だろうか?


 二人とも、葉尊と親しい…


 だから、だろうか?


 そう、考えると、やはり、謎がある…


 私は、考え込んだ…


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