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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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35歳のシンデレラ アラブの女神編 7

「…お姉さん…なにをグズグズしているの? …葉尊が、待っているんでしょ?…」


 先に歩いた、バニラが、私を振り返って、言った…


 が、


 すでに、神様から警告を受けた私は、このバニラに、油断しなかった…


 あの矢口トモコにも、だ…


 それが、わかった私は、


 「…すまん…バニラ…」


 と、謝った…


 いいひとを、演じたのだ(苦笑)…


 「…バニラ…すまんかった…」


 と、さらに、謝罪を重ねた…


 「…もう、お姉さん…グズグズしないで…」


 じれったそうに、バニラが、呟いた…


 私は、自分の短い足を全力で、動かした…


 すると、バニラは、そんな私を見て、


 「…お姉さん…背が低いんだから、さっさとしないと…私より、20㎝は、低いんだから…」


 と、私の気にすることを、わざと、言った…


 …相変わらず、性格の悪い女だ…


 …ひとの身長のことをネタにして…


 私は、頭にきたが、なにも、言わなかった…


 今は、このバニラに関わっている暇はない…


 今の問題は、バニラではない…


 あの矢口トモコだ…


 スーパー・ジャパンのお嬢様だ…


 一体、なにが、目的で、このクールの本社にやって来たのか、わからないが、油断はできない…


 あの矢口トモコの狡猾さは、このバニラの比ではない…


 バニラは、直情径行…


 常に、思ったことを、口にして、思った通りに、行動する…


 だから、ある意味、わかりやすい…


 非常に、行動が、単純で、わかりやすい…


 が、


 あの矢口トモコは、違う…


 正直、なにを、考えているか、さっぱり読めん…


 わからん…


 この矢田トモコの頭脳を持ってしても、だ…


 そもそも、口にすることと、やっていることが、まったく、違う…


 常に、本音を隠しているからだ…


 だから、行動が、さっぱり、読めん…


 だから、ある意味、これほど、怖い人間は、いない…


 なにしろ、行動が、読めんのだ…


 その言動を詳細に、見ていても、さっぱり、わからない…


 常に、本音を隠して、行動しているからだ…


 こんな人間が、身近にいては、一大事…


 たとえ、会社で、席を並べて、何年もいっしょに、仕事をしていても、なにを考えているか、さっぱりわからないのだ…


 これに、比べれば、バニラは、まるで、子供…


 お子様だ(笑)…


 思ったことを言い、その通りのことを、行動する…


 だから、行動が、読める…


 なにを、考えているか、手に取るように、わかる…


 思えば、これ以上、わかりやすい人間は、いない…


 だから、バニラが、なにをしようと、全然、怖くない…


 怖いのは、なにを考えているか、さっぱり、わからない人間…


 あの矢口トモコだ…


 私は、あらためて、思った…


 私は、あらためて、肝に銘じた…


 そして、クールの本社ロビーに向けて、歩き出した…



 私は、クールの本社ビルに、バニラと並んで、入った…


 本社ビルといっても、案外、殺風景なものだ…


 まるで、ホテルのロビーのようだった…


 奥に受付があり、その前に、来客が、安らげるように、多数のソファが、用意されている…


 私は、そんな光景を目の当たりにして、一瞬、気後れしたが、バニラは、違った…


 なにしろ、世界のトップモデルだ…


 どんなところも、場慣れしているのだろう…


 躊躇する、私とは、対照的に、スタスタと、ロビーに行き、


 「…バニラ…バニラ・ルインスキーと、言います…今日、社長の葉尊さんに、呼ばれて…」


 と、受付の女のコに、告げた…


 私は、その陰にいた…


 いや、


 正確には、決して、バニラの陰にいたわけではない…


 ただ、180㎝と長身のバニラの陰に、隠れる形になったのだ…


 身長159㎝の私は、バニラの陰に隠れて、見えなかったに過ぎない…


 が、


 私自身は、まったく、そんなことを、気にしなかった…


 なぜなら、そんなことより、いますぐ葉尊に会うことが、大切だからだ…


 むしろ、バニラが、受付で、葉尊を、呼び出して、くれて、ありがたかった…


 私では、ことによると、不審者扱いされるかもしれないからだ…


 私が、葉尊の妻であることを、知っているか、どうかも、怪しいからだ…


 たしかに、先日、クールの大運動会で、若手女子を率いて、私が、センターで、AKBや、乃木坂のように、華麗に、ダンスを披露したが、それを、知っているか、どうかも、怪しかった…


 なにしろ、社長の妻といっても、一般人…


 それほど、社内で、知られているわけでは、ないだろうからだ…


 が、


 あろうことか、その受付の女のコは、私に気付いた…


 「…お…奥様?…」


 と、突然、席を立ち上がり、私に呼びかけた…


 「…社長の奥様ですよね?…」


 私は、驚いたが、


 「…そうさ…」


 と、すぐに、答えた…


 「…よく、わかったな…」


 「…ハイ…先日、奥様と、いっしょに、ダンスをいっしょにやって…私の顔に見覚えはありませんか?…」


 私は、その顔を見た…


 たしかに、見た覚えは、あるかもしれんが、名前までは、わからなかった…


 だから、


 「…すまん…見たような顔だとは、思うが、名前までは、思い出せん…許せ…」


 と、私は、正直に、告白した…


 すると、その女のコは、


 「…たぶん、名前は、名乗っていませんよ…」


 と、告げた…


 …なにっ? 名乗ってない?…


 …だったら、どうして?…


 私は、思ったが、言えんかった…


 不用意に、口を開けば、その女のコを、傷つける可能性もあるからだ…


 さすがに、35歳ともなれば、二十代前半の眼前の女のコを、不用意に、傷つけるわけには、いかなかった…


 すると、


 「…あのときは、秘書課にいたんですよ…」


 と、受付の女のコが、続けた…


 「…秘書課だと?…」


 私も、つい口を開いた…


 「…だったら、なぜ、受付に?…」


 「…移動になったんです…」


 と、女のコは、笑った…


 「…奥様といっしょに、あのステージで、ダンスを踊ったのは、私の一生の思い出です…」


 ニコニコと、笑いながら、実に楽しそうに、私に語りかけた…


 …この娘…案外、悪い人間では、ないのかもしれん…


 私は、思った…


 私と踊ったことが、一生の思い出とは?…


 実に、いい娘ではないか?


 気付いた…


 素直な、いい娘だ…


 そう思った…


 心の底から、思った…


 と、そのときだった…


 「…さっき、奥様と、ホント、良く似た方が、受付に来られて、ビックリしました…」


 …なんだと?…


 …やはり、あの矢口トモコは、ここへ来たのか?…


 私は、動揺した…


 みっともないほど、動揺した…


 やはり、あの矢口トモコが、ここへ来たのかと、これで、確信を得たが、どうして、ここへやって来たのか、までは、わからない…


 私は、真っ先に、その理由を知りたかったが、この受付の女のコに、それを聞いても、当たり前だが、わからないに違いない…


 「…私、本当に、驚きました…世の中に、あれほど、似た人がいるなんて…」


 女のコが、続けた…


 私は、当然、矢口トモコを知っていたが、


 「…世の中に、似たような人間は、案外、いるものさ…」


 と、言っただけだった…


 極端な話、ここで、この私と、あの矢口トモコとの因縁を語っても、仕方がないからだ…


 それは、このバニラも同じだった…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…いけない…すぐに、社長室に電話します…」


 と、受付の女のコが、慌てて、席に座った…


 それから、


 「…一階のロビーの関口です…社長室ですか? …」


 と、電話した…


 それから、


 「…今、ロビーに、社長の奥様と、モデルのバニラ・ルインスキーさんが、見えられて…」


 と、話を続けた…


 「…ハイ…でしたら、このまま、お通ししても、構わないんですね…」


 と、言い、すぐに電話を切った…


 そして、


 「…今の会話をお聞きになったように、すでに、社長室では、葉尊社長が、お待ちのようです…」


 と、受付の関口と言った女子は、告げた…


 「…ありがとう…」


 と、バニラが、礼を言った…


 私も、また、


 「…すまん…手間をかけて…」


 と、礼を言った…


 すると、


 「…お二人とも、これが、私の仕事ですから…」


 と、受付の関口が、ニコニコと、告げた…


 私は、その通りだと、思ったから、なにも、言わなかった…


 が、


 バニラは、


 「…たとえ、仕事でも、自分に好意を持つ方が、連絡してくれるのは、ありがたいことよ…関口さん…」


 と、口を開いた…


 その言葉に、受付の関口は、


 「…そんな…世界的に有名なモデルのバニラさんに、そんな言葉を頂いて、嬉しいです…」


 と、感激した…


 私は、その光景を見て、


 「…バカ…関口…騙されちゃ、いかん!…このバニラは口先だけの女だ…オマエは、騙されているんだ!…」


 と、声を大にして、言いたかったが、言えんかった…


 さすがに、立場上、ここで、そんなことは、

言えん…


 クールの社長夫人という立場がある…


 そのクールの社長夫人が、


 「…この女は口先だけだ…本当は、腹黒い、性悪女だ…」


 と、その正体をバラしたかったが、黙っていた…


 まるで、貝になったように、口をつぐんだ…


 つくづく、地位を得るというのは、難しい…


 大変だ…


 思っていることの半分も、口に出せなくなる(涙)…


 私は、思った…


 だから、私は、その関口に、軽く頭を下げて、その場から、歩き出そうとした…


 すると、


 「…奥様…」


 と、私の背中に、関口が、声をかけた…


 だから、私は、足を止めて、振り返った…


 「…なんだ?…」


 「…今日は、真剣なんですね?…」


 …真剣?…


 …どういう意味だ?…


 私は、悩んだ…


 だから、


 「…どうして、真剣なんだ?…」


 と、聞こうとしたところ、バニラが、


 「…どうして、真剣なの?…」


 と、先に、関口に聞いてしまった…


 すると、


 「…目です…」


 と、躊躇うことなく、関口が、答えた…


 …なんだと?…


 …目だと?…


 …どういう意味だ?…


 そのわけを聞こうとしたところ、先に、


 「…今日の奥様は、目が笑ってません…」


 と、断言した…


 「…目が笑ってない?…」


 と、バニラが、口を挟んだ…


 「…ハイ…奥様は、いつも明るく、笑っています…たとえ、口では笑っていても、目が笑ってないひとは、世間にいっぱいいます…でも、奥様は違います…」


 「…どう違うの?…」


 「…いつも、楽しそうに、笑いながら、周囲の人間に接します…なにより、いつも目が笑ってます…だから、奥様に接した人間は、皆、奥様のファンになります…もちろん、私も、です…」


 と、関口が力強く言った…


 「…だから、そんな奥様と、ダンスを踊ったのは、私の一生の思い出です…」


 関口が続けた…


 私は、驚いた…


 まさか、たかだか、ダンスを踊ったことが、そんなに凄いことだとは、微塵も思いもしなかったからだ…


 どんな小さなことも、恩着せがましく、言う…


 それが、私のポリシーだったが、あのときは、そんなこと、微塵も考えんかった…


 なにより、35歳で、久々にダンスを踊っただけあって、一曲踊っただけで、息も絶え絶え…


 死にそうだった(涙)…


 だから、そんな余裕など、なかった…


 はっきり、言って、私にとって、思い出したくない黒歴史だった…


 それが、まさか、一生の思い出とは?


 わからん…


 さっぱり、わからん…


 立場が、違えば、こうも、感想が違うのか?


 ただただ、驚いた…


 そして、それを思うと、この関口になんと、声をかけていいか、わからなかった…


 だから、私は、なんと声をかけるべきか、悩んでいると、


 「…このお姉さんは、いつも、そうなの…」


 と、突然、バニラが、口を出した…


 私は、驚いた…


 一体、なにが、いつも、そうなのか?…


 悩んだ…


 考えた…


 すると、


 「…お姉さんは、いつも、自分のことは、後回しにして、周囲の人間のことを、考える…いわば、理想のリーダー」


 と、バニラが、私を持ち上げた…


 私は、バニラが、頭がおかしくなったのでは?


 と、思った…


 きっと、精神が錯乱したんだろうと、思った…


 ついに、このときが、きた…


 バニラ・ルインスキー、発狂す、だ…


 思えば、出会ったときから、少々、おかしな女だとは、思っていたが、こんなにも、早く頭がおかしくなるとは、思わなかった(笑)…


 それに、気付いた私は、いち早く、この場から逃げ出そうとした…


 いち早く、バニラから、離れようとした…


 まさかとは、思うが、いきなり、私に襲いかかってくるかもしれないからだ…


 何度も言うように、私は、身長159㎝…


 片や、バニラは、180㎝…


 身長差、実に、21㎝…


 まともに殴り合って、勝てる相手ではない…


 バニラが、発狂すれば、逃げ出すしかない…


 だから、慌てて、スタスタと、一人エレベーターに向かった…


 一刻でも早く、バニラから離れて、最上階の夫の葉尊のいる社長室に逃げ込もうと思ったのだ…


 夫の葉尊なら、バニラと殴りあっても、勝てるからだ…


 そう考えて、その場から、走り出そうとすると、


 「…ホントに、そうですね…」


 と、受付の関口が、相槌を打った…


 「…いつも、ニコニコと、笑顔で、周囲の者を元気づける、リーダーです…」


 と、関口が続けた…


 が、


 これを、聞いて、私は、この場から、逃げ出せなくなった…


 リーダーが、部下を置いて、逃げ出すわけには、いかないからだ…


 たとえ、頭がおかしくなったバニラに襲われて、殺されても、この場から、逃げ出すわけには、いかなかった…


 それを、思うと、思わず、泣きそうになった…


 自分の惨めな境遇を思うと、涙が出そうになった…


 その私の肩を、そっと、誰かが触れた…


 見上げると、バニラだった…


 「…さあ、行きましょう…お姉さん…」


 頭のおかしなバニラが、私を誘った…


 気の弱い、私は、今にも泣き出しそうな表情で、バニラに従った…


 実に惨めだった…


 バニラは、そんな私に気付いたのだろう…


 「…お芝居よ…お芝居…」


 と、いきなり声をかけた…


 「…お芝居?…」


 「…まさか、受付の子にまで、ホントは、クールの社長夫人は、根性のねじ曲がった、女だなんて、口が裂けても言えないでしょう…言えば、社内で、葉尊の立場もなくなる…」


 私は空いた口が、塞がらなかった…


 思わず、ポカンと口を開けて、バニラを見上げた…


 「…まったく、このバニラ様に、礼を言ってもらいたいぐらいよ…」


 バニラが、その美貌で、不機嫌そうな、表情を見せた…


 私は、頭にきたが、同時に、安心した…


 バニラが、頭がおかしくなってないことに、気付いたからだ…


 「…さあ、ずんぐりむっくりのおチビちゃん…早く行くわよ…」


 バニラが、私に宣言した…


 私は、


 「…なんだと?…」


 と、内心、激怒したが、これが、バニラだった…


 バニラ・ルインスキーだった…


 その圧倒的な美貌と、真逆のねじ曲がった心の持ち主…


 それが、このバニラ・ルインスキー…


 その正体だった(爆笑)…


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