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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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35歳のシンデレラ アラブの女神編 6

…バニラ…


 …バニラ・ルインスキー…


 世界を股にかけた、有名モデル…


 身長、180㎝の白人のブロンド美人…


 歳は、23歳だが、すでに子持ち…


 私の夫、葉尊の父、葉敬の愛人で、葉敬との間に、幼い娘がいる…


 私は、バニラの視線に、気付きながら、それを、思い出した…


 考えた…


 このバニラは、目障りな女…


 なにがあっても、私にたてつく、生意気な女だ…


 しかも、たった今、そのバニラに、もっとも、見られたくない場面を見られた…


 あのスーパー・ジャパンの矢口トモコとのやりとりを見られた…


 これは、私にとって、想定外の事態だった…


 まさか、こんなところで、あの矢口トモコと出会うとは、思わなかった…


 そして、それ以上に、想定外だったのは、この場に、このバニラが、いたことだ…


 私が、もっとも、弱みを見せたくない、女がいたことだ…


 …一体、どうするか?…


 考えた…


 普通なら、ぶん殴ってでも、


 「…今、見たことを、しゃべるな! 誰にも、言うんじゃないゾ!…」


 と、言うところだが、なにしろ、私は、身長が、159㎝…


 対するバニラは、180㎝…


 殴り合って、私が、バニラに勝てるわけがない…


 かといって、


 「…頼む…バニラ…今、見たことを、誰にも言わんでくれ…この通りだ…」


 と、頭でも、下げれば、この女に、私の弱みを握られたことになる…


 そして、それは、どんなことがあっても、避けねば、ならんかった…


 そんなことをすれば、この先、このバニラになにをされるか、わかったものじゃ、ないからだ…


 私は、バニラの長身を見ながら、そんなことを、考えた…


 すると、バニラもまた、一時も目を離さず、私を見ていることに、気付いた…


 …これは、マズい…


 私は、悟った…


 だから、仕方なく、私から、バニラに歩み寄った…


 すると、バニラが、笑った…


 そして、


 「…お姉さん…さっきのひと、知り合い?…」


 と、聞いた…


 私は、一瞬、どう答えていいものか、悩んだが、すでに、このバニラに、決定的な瞬間を見られてる…


 だから、仕方なく、


 「…そうさ…」


 と、だけ、答えた…


 すると、バニラが、楽しそうに、


 「…へえー、お姉さんって、知り合いに、まるで、皇族かなにかに、接するように、頭を下げるんだ…」


 と、笑った…


 …やはり、最初から、見られていた…


 私は、あらためて、思った…


 このバニラに、あの矢口トモコとのやりとりの、一部始終を見られたことを、あらめためて、悟った…


 もっとも、見られたくない相手に、矢口トモコとの一部始終を見られた…


 さて、どうするか?


 バニラを見ると、まるで、勝ち誇ったような笑いを浮かべている…


 すでに、勝敗は、決した…


 このバニラに、矢田トモコの弱点を握られたのだ…


 だが、そんなことは、納得できんかった…


 この矢田トモコが、バニラ風情の下につくことなど、どうしても、納得できなかったのだ…


 …さて、どうしたものか?…


 私は、ジーンズのポケットに、手を突っ込みながら、考えた…


 すると、思いがけず、ポケットの中に、バニラを説得できるものが、見つかった…


 私は、それに、気付くと、ポケットに手を突っ込んだまま、バニラの元に、向かった…


 それを、見た、バニラは、明らかに動揺した…


 戸惑った…


 「…なに? …その顔?…」


 バニラが、言った…


 「…一体、どうしたの? …お姉さん?…まさか、そのポケットの中に、拳銃を持っているとか?…」


 バニラの問いに、私は、


 「…」


 と、無言だった…


 無言のまま、ゆっくりと、バニラに歩み寄った…


 「…お姉さん…それとも、刃物でも、持っているの? …お姉さん…こんな大通りで、私を刃物で、脅す気?…」


 が、


 私は、答えなかった…


 ゆっくりと、バニラに歩み寄った…


 そして、すぐに、バニラの目の前に立った…


 すると、バニラは、動揺した…


 明らかに、動揺した…


 「…一体…なにをする気?…」


 私は、バニラに答えず、無言で、ゆっくりと、ポケットから手を出した…


 途端に、バニラは、目をつぶった…


 拳銃か刃物でも、出てくると、思ったのだろう…


 「…オマエに、コレをやろう…」


 私は、言った…


 目をつぶったバニラは、私の言葉に、ゆっくりと、瞼を開けた…


 そして、私の手のひらの中のモノを見た…


 「…なに、それ?…」


 途端に、拍子抜けした声で、答えた…


 「…キットカットさ…」


 私は、言った…


 「…オマエの好物だろ?…」


 「…好物って?…」


 バニラが戸惑った…


 「…ごまかすな…バニラ…この前、リンダの家で、私が、このキットカットを食べているときに、文句を言っただろ? …アレで、このキットカットが、オマエの好物だと、見抜いたのさ…」


 私は、自信たっぷりに言った…


 すると、バニラが、


 「…」


 と、沈黙した…


 …やはり、私の目に狂いはなかった!…


 私は、確信した…


 バニラの沈黙が、それを証明している…


 「…オマエにやろう…」


 私は、言った…


 すると、途端に、バニラが、すばやく、私の手のひらの中のキットカットを奪った…


 そして、


 「…お姉さん…キットカットは、お姉さんの言う通り、私の好物だけど、まさか、こんなキットカット一枚で、今、見た光景を忘れろと言うわけじゃないんでしょうね?…」


 「…なんだと?…」


 「…このバニラ…バニラ・ルインスキーをいくつだと、思っているの? 23歳よ…23歳の女が、キットカット一枚で、買収されるわけないでしょ?…」


 …言われてみれば、その通り…


 …バニラの言う通りだった…


 私は、仕方なく、ポケットから、もう一枚のキットカットを出した…


 「…仕方がない…欲深い女だ…もう一枚やろう…」


 私は、言った…


 それから、


 「…これで、最後だ…今は、もう持ち合わせがない…もっと、欲しければ、ウチに来い…」


 と、付け加えた…


 途端に、バニラが、難しい顔になった…


 悩んだのだ…


 「…まさか…お姉さん…本気で、このバニラ・ルインスキーを、キットカットの一枚や二枚で、買収できると、思ってないでしょうね…」


 私は、バニラの質問に、


 「…」


 と、答えることができなかった…


 なぜなら、バニラの言う通りだからだ…


 当たり前のことだからだ…


 だから、とっさに、


 「…だったら、娘にでもやれ!…」


 と、言った…


 「…娘に?…」


 「…そうさ…まだ3歳の子供だろ? …喜ぶゾ…」


 私の言葉に、バニラが、またも、黙り込んだ…


 そして、しばらく、考え込んだ挙句、


 「…そうか…そういうことか…」


 と、納得した…


 「…このキットカットには、そういう意味があるのか?…」


 …なんだと?…


 …意味だと?…


 …一体、どんな意味があると言うんだ?…


 「…お姉さん…私が今見たことを、ひとに話せば、娘と遊んでやらないって、言いたいんでしょ?…」


 …なに?…


 …一体、どうして、そうなるんだ?…


 「…さすがね…お姉さん…このバニラ・ルインスキーも、まさか、そんな意味があるとは、思わなかった…」


 しみじみと、漏らした…


 「…娘は、お姉さんが、大好き…いえ、うちの娘だけじゃない…子供はみんなお姉さんが好き…お姉さんを、まるで、本当のお母さん以上に、慕っている…」


 …そうなのか?…


 …知らんかった!…


 …そんなに、私は、子供に好かれているのか?…


 今、初めて、知った…


 「…やはり、お姉さんは、したたかね…」


 …したたか?…


 …どういう意味だ?…


 「…ひとの弱点を突いてくる…」


 …なんだと?…


 …なんで、そうなるんだ?…


 「…もし、今見たことを、私が、誰かに話せば、娘と、金輪際、遊んでやらないっていうんでしょ? 見事に、ひとの弱点を突いてくる…」


 私は、バニラの言葉に、驚愕した…


 私は、まだ、そこまで、言っていない…


 にもかかわらず、話が飛躍している(爆笑)…


 バニラが、勝手に、話を作っている…


 その事実に、驚愕した…


 「…わかったわ…お姉さん…今、見たことは、誰にも、言わない…私とお姉さんの秘密…約束する…」


 と、なぜか、バニラが、微笑みながら、私に言った…


 正直、私には、なにがなんだか、わからなかった…


 だが、これは、有利…


 実に有利な展開だった…


 これを見逃すわけには、いかなかった…


 だから、私の口から、思わず、


 「…わかれば、いいのさ…」


 と、いう言葉が出た…


 「…私は、ただ、オマエにチャンスをやろうとしただけさ…」


 「…チャンス? なにそれ?…」


 「…オマエが信用できる女か、どうか、わかるチャンスさ…」


 「…どういう意味?…」


 「…オマエが今、見たことを、世間に口外すれば、オマエの信用が失われる…」


 「…どうして、信用が失われるの?…」


 「…簡単さ…言ってはならないことを、言ったからさ…私との約束を破ったからさ…」


 「…」


 「…バニラ…」


 「…なに? …お姉さん?…」


 「…約束を破るのは、簡単だ…」


 「…どういうこと?…」


 「…だが、信用を得ることは、難しい…見たことを、忘れる…見なかったことにする…それを、守って、ひとは、信用を得てゆくものさ…」


 私は、強気に、断言した…


 すると、


 バニラが、


 「…相変わらず、自分に都合がいいというか…」


 と、ブツブツ呟いた…


 「…なんだ? …なにか、言ったか? …」


 私は、わざと、言った…


 バニラの忠誠心を試したのだ…


 バニラが、どう出るか、試したのだ…


 「…わかりました…お姉さん…今、見たことは、すべて、忘れます…」


 「…よし、それでいい…」


 私は、バニラを褒めた…


 「…だったら、行こう…」


 「…どこへ?…」


 「…クールの本社の社長室さ…葉尊に呼ばれたのさ…」


 「…葉尊に?…」


 「…そうさ…」


 言いながら、これは、好都合と思った…


 このバニラ…


 バニラ・ルインスキーは、有名人…


 生意気な女だが、有名人だ…


 だから、このバニラを従えて、クールの受付に行けば、私が目立たなくて、すむ…


 私一人が、クールの受付に行き、


 「…私さ…矢田トモコさ…クールの社長夫人さ…夫の葉尊に呼ばれたのさ…」


 と、説明するより、説得力がある…


 私一人で、行けば、もしかしたら、クールの受付の人間は、私を知らないかも、しれない…


 が、


 このバニラ・ルインスキーを知らない人間は、あまりいない(笑)…


 なにしろ、身長、180㎝の白人のブロンド美女だ…


 よく見知った私ですら、近くで見ると、その美貌に圧倒される…


 このバニラに匹敵する美女といえば、リンダぐらいのものだ…


 今も、間近に見て、本当に、美しいと思う…


 つい、惚れ惚れと、見とれてしまう…


 が、


 その中身は、最悪…


 常に、私に逆らい続ける、生意気な女だ…


 つくづく、外見と中身が、違う実例だった…


 「…まったく、神様も、こんなろくでもない女に、こんな凄いルックスを与えて…つくづく神様もひとを見る目がない…」


 と、私は、小さく呟いた…


 愚痴ったのだ…


 「…なにか、言った、お姉さん?…」


 バニラが、私の発言に、因縁をつけた…


 だが、


 私は、その発言を認めるのが、嫌だったから、


 「…さあな…」


 と、呟いて、目の前のクールの本社ビルに向かって歩き出した…


 そして、その瞬間、あの矢口トモコもまた、この目の前のクールの本社ビルの中に入って行ったことを、思い出した…


 「…まさか、あの女…」


 私の中に、不安がよぎった…


 私の可憐な心の中に、不安が、よぎったのだ…


 思えば、私の人生は、苦労の連続だった…


 短大を卒業して、まともに、就職もせず、バイトに明け暮れた…


 生来、頭が良く、飲み込みも早く、運動神経抜群で、なんでも、できる私だったから、たやすく、生きてこれたが、これが、私以外の人間なら、まず、無理だろう…


 そして、そんな超人のような私にも、やはり、弱点があった…


 あの矢口トモコや、このバニラだ…


 誰からも、愛され、味方に引き入れることのできる、私だったが、この二人だけは、違った…


 おそらく、性根が腐っているのだろう…


 人間が、腐っているのだろう…


 いかに、この矢田トモコであれ、腐った人間を従えることは、できん…


 心を繋ぐことは、できん…


 そういうことだ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…お姉さん…なに、グズグズしているの? …置いてっちゃうよ…」


 と、バニラが声をかけた…


 「…なんだと? この矢田を置いてゆくだと? …一体、どの口が言うんだ? …オマエは、一体、何様だ?…」


 と、声を大にして、言ってやりたかったが、言わんかった…


 なにしろ、ここは、路上…


 しかも、この場所は、クールの本社前…


 しかも、私は、そのクールの社長夫人…


 その社長夫人が、クールの本社前で、怒鳴るわけには、いかない…


 だから、


 グッと我慢した…


 拳を握り締め、グッと我慢した…


 「…今に、見てろ! バニラ…ほえ面をかかせてやる…」


 私は、心に誓った…


 この矢田トモコに、心服させてやる…


 そう、心に決めた…


 そう、心に決めて、歩き出した…


 矢田トモコ、35歳…


 勝負のときだった…


 いや、


 なぜか、わからないが、


 …勝負!…


 の二文字が、私の心に浮かんだ…


 私の可憐な心に浮かんだのだ…


 この可憐な私の心に、


 …勝負!…


 などという、邪(よこしま)な心が浮かんだのは、やはり、あの矢口トモコと、このバニラが原因だと悟った…


 この二人が、原因だと突き止めた…


 だが、


 この矢田トモコ、35歳に、そんな邪(よこしま)な心は、似合わない…


 心を鬼にして、あの矢口トモコと、このバニラを許そうと思った…


 ろくでもない二人だが、私と知り合ったのも、なにかの縁…


 心の広い私は、この二人を許す…


 そう、心に決めた…


 そして、歩き出した…


 途端に、けつまずいた…


 舗装された道路に、舗装された歩道…


 石もなにも、落ちていなかった…


 にも、かかわらず、転びそうになった…


 これは、きっと、神様からの警告に違いない…


 私は、気付いた…


 普段から、ひとの悪口を一切言わない、品行方正な私だから、神様が、警告してくれたに違いない…


 だが、


 その警告の中身とは一体?


 私は、考えた…


 あの矢口トモコと、このバニラを許すな!


 とは、神様は、決して言わない…


 なぜなら、神様だからだ…


 だとすれば、その意味は?


 考え込んだ…


 しばらく、悩んで、


 …油断するな!…


 と、いう意味ではないかと、悟った…


 ひとのいい私は、ついひとを信用して、騙される…


 だから、それに、気を付けろ!と、神様は、私に警告したのだろう…


 それを悟った私は、


 「…神様…ありがとう…」


 と、内心、呟いた…


 「…だが、この矢田トモコ…35歳、こんな女たちには、負けんさ…」


 と、いつのまにか、矢口トモコと、バニラにケンカを売っていた(笑)…


 挑戦状を叩きつけていた(笑)…


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