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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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10/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 10

エレベーターの扉が開いた…


 まるで、私とバニラを導くように、扉が開いた…


 この扉の向こうには、なにが、待っているのか?


 天国か?


 それとも、


 地獄か?


 おおげさに、言えば、考え込んだ…


 いや、


 そうではない…


 この向こうに、あるのは、アラブ…


 アラブの王族だ…


 私は、思った…


 アラブの王族が、酒池肉林で、大勢で、美女たちを抱きながら、酒を飲んでいる…


 そんな光景が、ふと、脳裏に、浮かんだ…


 矢田トモコの脳裏に、浮かんだ…


 アラブの王族=男が皆、ブロンドの美女を、抱きながら、酒を飲んでいる…


 男も女も、ご機嫌…


 ご機嫌だ…


 その中には、当たり前だが、このバニラや、あのリンダもいた…


 皆、セクシーなドレスを身にまとっている…


 いわば、上流階級の社交場だ…


 すると、


 なぜか、私が、その上流階級の社交場で、グラスや料理を必死になって、運んで、汗をかいていた…


 両手に、たくさんのグラスや、料理を、これでもかと、持っている…


 そんな光景が、ふと、脳裏に浮かんだ…


 これは、白昼夢でも、なんでもない…


 つまりは、この矢田は、無意識に、自分の立場が、わかっていたのだ…


 バニラも、リンダも、とびきりの美女…


 それに対して、この矢田トモコは、平凡…


 平凡の極み…


 だから、このバニラと、あのリンダと、同じ立ち位置では、パーティーに参加できない…


 パーティーに参加できるとなると、それは、接客係というか、裏方…


 つまり、パーティーを催す、裏方のひとりとして、パーティーに参加するのに、あっている…


 ふと、思った…


 それを、考えれば、正直、惨めだったが、それは、それで、仕方がない…


 人間は、皆、平等ではない…


 それぞれ、立場が、違う…


 地位が、違う…


 パーティーでいえば、このバニラや、あのリンダは、パーティーの主役…


 まるで、優れた芸術品のような存在だから、おおげさに、いえば、誰もが、バニラやリンダを見にくる…


 鑑賞にくる…


 そして、私はと、いえば、その関係者…


 それが、美術館ならば、さしずめ、受付のおばちゃんとか…


 それが、似合っている(涙)…


 我ながら、悔しいが、それが、現実だ…


 私は、それが、わかっている…


 理解している…


 ふと、思った…


 そして、それが、私の強みだと、以前、ひとから、言われたことを、思い出した…


 以前も話したが、バイト先で出会った、険のある目の男について、語ったことがある…


 その男も、そうだが、同じように、自分の能力が、わからない人間を何人も見たことが、ある…


 そして、後年、つくづく考えたのだが、彼ら、あるいは、彼女らには、共通する点が、あった…


 それは、一言で、言えば、自分の能力も相手の能力もわからないのだ…


 たとえば、険のある目を持つ男が、入社したのは、ITバブルのときだった…


 だから、当たり前だが、景気がいい…


 すると、当然、その時期に、入社した人間は、採用が緩くなるから、採用された人間のレベルが、落ちる…


 誰が、見ても、一見して、わかるものだが、その険のある目を持つ男は、わからなかった…


 なぜ、わからないのか?


 考えた…


 答えは、自分のことで、精一杯なのだろうと、思った…


 バイトでも、正社員でも、与えられた業務がある…


 与えられた仕事がある…


 それを、うまくこなすことが、一番大切なのだが、それを、こなすだけで、他のことが、まったく見えない…


 わからない…


 例えば、当時、身近に、英語が堪能な女子がいたが、彼女は、4年生の大学を出ていなかった…


 私と同じ、短大出身だった…


 しかも、その彼女には、悪いが、この矢田と同じく、偏差値が決して、高い短大ではなかった…


 だが、英語が堪能だった…


 英検が一級で、社内試験でも、同じだった…


 すると、普通ならば、今度は、どこの高校を出ているのか? とか、気になってくる…


 学歴=偏差値がすべてではないが、やはり、それほど、英語が堪能となると、出身高校が、気になってくる…


 当然、偏差値の高い高校を出ているのでは? と、考えるからだ…


 だが、その険のある目を持つ男は、まったく、そんなことを、考えもしないようだった…


 つまり、関心が、なにもないのだ…


 自分が、仕事をこなすことだけで、満足している…


 だから、他の同僚を、見ても、要するに、与えられた仕事ができるか否かだけが、彼の判断基準だった…


 与えられた仕事を、すばやくこなせるから、自分は、優れている…


 そう、自負していた…


 つまりは、自分のことだけで、周囲の変化にまったく気づかなかった…


 普通ならば、明らかに、見ていれば、採用レベルが下がっているのは、わかるし、仮に、わからないでも、誰かが、ここ数年、この会社の採用レベルが下がっているな、とか、言った噂話を耳にするものだ…


 そして、それを耳にすれば、自分なりに、周囲の人間の出身校を調べてみて、ああ、そういうことか? とか、思うものだが、それがない…


 だから、単純に社内情報を耳にして、


 「…あのひとは、将来、出世するよ…」


 とか、いう噂話を聞き込んで、自分は、社内に通じていると、思いこむ…


 仕事をする上で、問題は、まったくないが、それでは、誰がどう考えても、出世は、難しいだろう…


 なにより、以前も書いたが、仮に、その険のある目を持つ男が、出世して、課長や部長に昇進しても、他の課長や部長たちと、話が合わないだろう…


 「…この数年、この会社の採用レベルが下がっているね…」


 と、いう話になって、


「…なに、それ?…」


とでも、言いかねない…


そして、それを口にすれば、周囲の同僚も唖然とするだろう…


 私は、おおげさに言えば、そのとき、初めて、人間の差に、気付いた…


 能力の差に気付いた…


 それまでは、学校で、勉強ができるとか、できないとか、わかりやすい基準でしか、ひとを判断できなかったが、その険のある目を持つ男は、私にとって、衝撃的だった…


 はっきり言えば、


 「…こんなことも、わからないの?…」


 と、いうことが、わからなかった(笑)…


 ただ、彼の肩を持てば、それは、仕事には、なんの問題もないことだった…


 彼は、与えられた業務を忠実にこなしていた…


 その点では、むしろ、優秀だった…


 だから、なんの問題もなかった…


 ただ、それでは、入社以来、ずっとその業務を続けさせられるに違いないと、私にもわかった…


 ただ、肝心の彼自身は、少しもわからなかった(笑)…


 与えられた仕事を、忠実にこなせるのだから、次は、自分が、当然、ステップアップして、ワンランク上の仕事を任せられると、信じ込んでいたからだ…


 そして、それは、彼だけではなかった…


 彼とは、身近に接していたから、わかったが、周囲には、彼に似たヤカラが、結構というか、それなりにいた(笑)…


 そして、それは、残念ながら、学歴が劣るひとが、多かった…


 だから、周囲が見えない…


 そして、自分は、与えられた業務が、しっかりできる…


 だから、出世できると、単純に思い込む人たちだった…


 そんな人間が、その会社には、大勢いた…

 

 皆、ITバブルの時期に入社してきた人たちだった…


 そして、それを考えたとき、正直、人間の能力について、考えざるを得なかった…


 それは、さっき、私が、言った、


 「…バニラもリンダも、私も同じ人間…」


 と、いう言葉にも通ずる…


 たしかに、同じ人間だが、それは、たとえば、異星人が、地球人を見て、思うこと…


 現実には、誰が見ても、抗いがたい差がある…


 が、


 やはりというか…


 今の私のように、バニラとリンダと仲良く接していれば、自分と、バニラとリンダの差がわからないヤカラも、確実に存在する…


 自分は、クールの社長夫人だから、偉いんだと、心の底から、思う人間が、存在する…


 それは、たまたま、私が、葉尊と、結婚できたからに、他ならない…


 葉尊と結婚できなければ、ただのプータロー…

 

 フリーターだ…


 たまたま、葉尊と結婚できたからで、しかも、離婚すれば、たちまち、その地位も追われる…


 それが、現実だ…


 つまりは、私は、葉尊あっての私…


 葉尊が、いなければ、私に存在価値はなにもない…


 仮に私と同じ立場になっても、それが、わからない人間もまた、数多く存在する…


 そして、それは、どうしてなのだろう?


 当時、真剣に悩んだ…


 考え込んだ…


 そして、それは、おそらく、個人の能力もさることながら、他社の人間に接したことがないからだと、思った…


 私は、フリーター…


 短大を卒業して、就職もしないで、何社も渡り歩いた…


 だから、色々な会社を知っていた…


 それが、大きかった…


 つまりは、比べる会社があったということだ…


 だから、ITバブルのときしか、会えない人間も、かなりいた…


 はっきり言えば、景気が良くなければ、決して、入社できないレベルのひとたちだった…


 だから、ITバブルがはじければ、会社を放り出された人間も、多かったに違いない…


 人間は、何事も経験だ…


 経験に勝る体験はない…


 いくら、本やネットで、知っても、ひとから聞いた話でも、経験しなければ、実感は湧かない…


 これは、誰もが、同じだろう…


 と、考えて、ふと、気付いた…


 アラブの王族のことだ…


 仮に、アラブの王族が、たくさんの美女をはべらかせて、酒池肉林のパーティーを催していたとする…


 だが、だとしたら、どうだ?


 その中には、バニラやリンダを超える美女がいるのではないか?


 ふと、思った…


 バニラも、リンダも、美女だが、世の中には、この二人よりも、美女は、存在するだろう…


 また、バニラやリンダを超えられずとも、互角に美しい女もまたいるに違いない…


 すると、どうだ?


 私は、思った…


 ルックスは、互角とする…


 それならば、その美女たちが、なにが、バニラやリンダに負けているかと、問われれば、知名度に他ならない…


 この世界的に有名なバニラ・ルインスキーや、あのハリウッドのセックス・シンボルのリンダ・ヘイワースと、いっしょに酒を飲む…


 一夜を共にする…


 それが、この上なく嬉しいのだ…


 そして、私もそうだが、二人と親密になれば、中身は、どこにでもいる普通の人間だと、悟るだろう…


 そうしたら、どうだ?


 関心がなくなるかもしれない…


 ふと、思った…


 自分の身近な美女と、中身は、なにも変わらない…


 それに、気付けば、急速に、関心がなくなるかもしれない…


 いや、


 違うかもしれない…


 トロフィーワイフ…


 つまり、バニラや、リンダと、付き合ったり、結婚したりすることが、この上ない名誉と、感じる人間が、一部には、確実に存在する…


 まるで、トロフィー=名誉を手に入れた気持ちになるのだろう…


 仮に、日本でも、たとえば、佐々木希のように、美人で有名なタレントと結婚することが、この上のない名誉と、考える…


 はっきり、言って、佐々木希は、美人だが、世の中には、確実に、彼女と、肩を並べる美人が、ごくわずかだが、存在するだろう…


 しかしながら、それが無名では、嫌なのだろう…


 あの有名な佐々木希だから、付き合いたい…


 結婚したいと思うのであって、いくらキレイでも、無名の女は、嫌だと思う人間も、また確実に存在する…


 要するに、クルマや、バック、時計も、また皆同じだが、いくら、性能が良くても、ブランドでなければ、嫌だということだ…


 そして、もし、これから、リンダが、接待する、アラブの王族が、その手のタイプだとしたら、困る…


 非常に、困る…


 一度、会っただけでも、リンダに執着しかねないからだ…


 下手をすれば、ストーカーになりかねないからだ…


 そして、リンダ・ヘイワースの接待を希望するので、あれば、九分九厘、リンダの熱狂的なファンに違いない…


 つまり、リンダの隣に、リンダよりも、若く、美しい女がいても、見向きもせずに、リンダに執着するだろう…


 それを考えると、厄介…


 非常に、厄介な存在だった…


 この矢田トモコが、リンダの盾になって、守ってあげたい気持ちは、山々だったが、なにしろ、私は、身長が、159㎝…


 対するリンダは、175㎝…


 リンダが、私の盾になって、私を守ることは、できても、私が、リンダの盾になることは、できない(涙)…


 うーむ…


 困った…


 実に、困った…


 私は、悩んだ…


 悩み続けた…


 と、


 私が、悩んでいると、いきなり、扉が開いた…


 エレベーターが、目的の階に着いたのだ…


 社長室のある階に着いたのだ…


 私が、色々なことを、考えている間に、知らず、知らず、バニラといっしょに、エレベーターに乗り込み、しかも、その間にエレベーターは、上昇した…


 最上階の社長室に向かって、上昇した…


 しかも、


 しかも、だ…


 このエレベーターは、社長室に直行するものだった…


 社長室に直行するものだから、途中の階では、一切、停まらないのだ…


 だから、エレベーターの中は、私とバニラだけだった…


 他に誰もいなかった…


 だから、余計に、私は、自分の考えに、没頭できたのかもしれない…


 妄想にふけることができたのかもしれない…


 エレベーターの中は、私とバニラだけ…


 他に誰かいれば、緊張するに決まっている…


 だから、妄想にふけることができないに決まっている…


 エレベーターの中に、私とバニラだけだから、緊張しないで、いられたのだ…


 だが、考えてみれば、社長室に直行するエレベーターの中に、大勢、ひとがいるわけがなかった…


 なにしろ、社長室に直行だ…


 エレベーターの行き先は、社長室だけだ(笑)…


 すると、どうだ?


 当たり前だが、社長に用のある人間は、そうはいないということだ…


 だから、私は、バニラとエレベーターの中で、二人きりだったわけだ…


 私は、今さらながら、その事実に、気付いた…


 そして、それを、考えると、私は、緊張した…


 緊張の極みにあった…


 なにしろ、これから、葉尊に会うのだ…


 正直、今朝も、家で会ったが、会社で会うとなると、話が、違う…


 夫の葉尊は、クールの社長であることは、わかっているが、やはり、社長室で会うとなると、緊張した…


 会社はオフィシャル…


 プライベートではないからだ…


 なにより、社長秘書ではないが、会社のスタッフが、葉尊の周りにいる…


 それが、自宅との決定的な違いだ…


 私は、それを思うと、緊張した…


 会社での葉尊に会うという行為に、緊張した…


 自分でも、驚くほど、緊張した…


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