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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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11/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 11

エレベーターが、社長室のある階に着いた…


 私は、まるで、ロボットのように、ギクシャクした動きで、エレベーターを降りた…


 まるで、無理やりにでも、カラダを動かしている感じだった…


 そして、それを見た、バニラが、


 「…プッ!…」


 と、吹き出した…


 「…ナニッ? …お姉さん…どうしたの?…」


 「…なんでもないさ…」


 私は、ロボットのように、ギクシャク動きながら、言った…


 「…なんでもないって…なんでもないわけじゃないでしょ? その動きは…」


 「…自分でも、わからないのさ…なぜか、緊張して…カラダが自由に、動かないのさ…」


 「…カラダが、動かない?…」


 「…そうさ…」


 私の答えを聞くと、バニラが、面白そうに、


 「…お姉さん…それは、きっと予感よ…」


 と、言った…


 「…予感だと? …どういう意味だ?…」


 「…きっと、葉尊は、社長室で、人目のつかないところで、美人の秘書と、イチャイチャしているのよ…」


 「…なんだと?…」


 「…お姉さんは、それを予感したの…だから、その事実を見たくなくて、カラダが動かなくなったんだと思う…」


 …バカな?…


 …葉尊が?…


 …私の夫が?…


 …そんなバカなことはない!…


 私は、心に、誓ったというか、ありえないと、思った…


 葉尊は、私に首ったけ…


 なぜか、知らないが、首ったけだ…


 正直、私は、自分のルックスに自信はないが、だからといって、葉尊が、私以外の女と不倫しているとは、思わない…


 なにより、それなら、葉尊の身近には、このバニラや、あのリンダのような美女が、いる…


 この二人と、不倫するのが、筋というか…


 一番ありえるからだ…


 私は、そう思った…


 私は、そう信じた…


 その一方で、違うかも? とも、思った…


 葉尊は、私と同じ…


 同じだ…


 なにが、同じかと言えば、近過ぎるのだ…


 バニラとリンダと近過ぎるのだ…


 私が、バニラやリンダと仲良くなって、身近に感じるのと、同じで、葉尊も、バニラとリンダと親しい…


 すると、不倫はできなくなる…


 恋は、できなくなる…


 親しければ、親しいほど、互いに、相手に異性を感じなくなるからだ…


 男女とも、幼稚園児時代から知っている幼馴染(おさななじみ)同士が、互いに、異性を感じないのと同じだ…


 恋というものは、見知らぬ者同士だから、できる…


 互いに、昔から相手を知り過ぎていると、当たり前だが、ときめかない…


 ドキドキしない…


 だから、恋は生まれない…


 そういうことだ(笑)…


 なにより、バニラは、葉尊の父、葉敬の愛人…


 葉尊が、バニラに手を出すわけがない…


 それを思えば、リンダも同じ…


 リンダは、葉尊の幼馴染(おさななじみ)…


 だから、恋をするはずがない…


 不倫をするはずがない!


 私は、そんなことを、考えた…


 カラダは、ロボットのように、ギクシャクして、動かなかったが、その代わりに、頭は、めまぐるしく回転した(笑)…


 回転した結果、葉尊は、このバニラとも、リンダとも、不倫をしていないと、決定づけた…


 だから、会社の身近な秘書たちとも、不倫していないと、決定づけた…


 そして、安心した…


 葉尊が、不倫をした証拠はないが、私の頭の中で、葉尊は、不倫していないと、決定づけたからだ…


 だから、安心した…


 ホッとした…


 すると、


 「…お姉さん…なにをホッとした顔をしているの?…」


 「…葉尊が、不倫していないと、気付いたからさ…」


 「…どうして、そんなことが、お姉さんに、わかるの?…」


 「…わかるさ…」


 「…どうして?…」


 「…だって、葉尊の周りには、オマエやリンダのようなとびきりの美女がいるだろ? …その美女のオマエたちに手を出さない以上、葉尊は、誰とも、不倫しないさ…」


 私は、自信満々に断言した…


 私の言葉に、バニラは、絶句した様子だった…


 言葉を失った様子だった…


 「…葉尊は、私を裏切らないさ…」


 「…どうして、そんなこと、お姉さんにわかるの?…」


 「…葉尊は、私に首ったけだからさ…」


 私は、言った…


 むろん、冗談だ…


 が、


 私の言葉を聞いたバニラが、考え込んだ…


 「…たしかに、それはある…」


 じっくりと、考え込みながら、呟いた…


 「…お姉さんには、ひとには、ない魅力がある…」


 …魅力?…


 …どんな?…


 …この矢田に、どんな魅力が?…


 「…なぜか、憎めない…嫌いになれない…」


 「…」


 「…それでいて、目立つ…決して、美人でもなんでもない…でも集団の中にいると、いつのまにか、お姉さんが、集団の主役になる…決して、リーダーとか、そういうものじゃなく、ただ目立つ…なぜか、目が離せなくなる…」


 バニラが、考え込みながら、言う…


 「…だから、お姉さんを見ると、このバニラや、リンダが、持つルックスという武器が怪しくなる…自信がなくなる…最初は、誰もが、私やリンダに憧れるけど、いつのまにか、お姉さんに取って代わられるというか…葉尊が、そのいい例ね…」


 私は、驚いた…


 まさか、このバニラが、まるで、この矢田に負けたようなことを、言っているのだ…


 驚かないわけには、いかなかった…


 いや、


 やはり、このバニラは、頭がおかしくなったのかもしれない…


 いや、


 もしかしたら、


 私は、このバニラが、私をからかっている? と、思った…


 が、


 その表情を見ると、真剣だった…


 次に、


 お芝居をしている? と、思った…


 が、


 やはり、お芝居をしているようには、見えんかった…


 だとすれば、結論は、一つしかない…


 このバニラは、頭がおかしくなったのだ…


 思えば、初めて会ったときから、少々、変なヤツだと思った…


 日本でいえば、ヤンキー上がりの世界のトップモデル…


 しかも、この矢田トモコを、葉尊の妻だと知りながら、平然と、ケンカを売る性格の悪さ…


 だが、それも、すべて、このバニラが、頭がおかしいと思えば、わかる…


 理解できる…


 そして、頭のおかしなバニラと、このまま、いっしょにいれば、いつ、この矢田トモコに、襲いかかってくるかもしれんと、気付いた…


 何度もいうように、この矢田トモコは、身長159㎝…


 対する、バニラは、身長180㎝…


 闘って、勝てる相手ではない!


 かといって、頭がおかしいのだから、私が、涙ながらに、


 「…助けてくれ…許してくれ…」


と、バニラに土下座しても、許してはくれんだろう…


 なにしろ、頭がおかしいのだから、仕方がない…


 と、そこまで、考えると、


 …逃げよう!…


 と、思った…


 一刻も早く、社長室に逃げ込もうと思った…


 今、エレベーターから、降りて、社長室までは、後少し…


 社長室には、当たり前だが、葉尊がいる…


 夫の葉尊がいる…


 葉尊ならば、たとえバニラと殴り合いになっても、勝てるだろう…


 葉尊も、身長は、バニラと同じ180㎝…


 ただし、葉尊は、男だから、当然、殴り合いになれば、バニラに勝てる…


 それに、気付いた…


 だから、急いで、駆ければ、間に合う…


 なんとかなる…


 バニラから逃げ切れる…


 そう、気付いたら、途端に、私のカラダが、動き出した…


 まるで、別人のように、動き出した…


 ギクシャクしたかカラダが、ウソのように、なめらかに動き出した…


 恐怖のためだ…


 頭のおかしくなったバニラから逃れるために、私は、いつしか、全速力で、廊下を走り出した…


 それを見た、バニラが、


 「…一体、どうしたの? …お姉さん…急に走り出して…」


 と、私に声をかけてきたが、私は、振り返らなかった…


 振り返れば、バニラの餌食になることは、明らかだったからだ…


 私は、まるで、陸上競技者のように、全速力で、廊下を走った…


 私は、元々、スポーツ万能…


 走ることには、自信がある…


 「…ねえ…どうしたの? …お姉さん…ちょっと、待って…」


 と、背後から、声をかけてきたが、私は、振り返らなかった…


 振り返れば、私の負けだからだ…


 負け=死だからだ…


 私はただ、ゴールを目指して、走った…


 ゴール=社長室を目指して、走った…


 私の姿を見た、社長室の受付の女のコが、


 「…お…奥様…」


 と、目を仰天させた…


 「…な、なんで?…走って?…」


 「…わ…わけは、あ…あとで、話す…さっさと、葉尊に会わせろ!…」


 いち早く、社長室の受付に辿り着いた、私は、叫んだ…


 私は、スニーカー…


 それに対して、


 バニラは、ヒールを履いていた…


 だから、バニラは、走れない…


 この矢田トモコの勝ちだ…


 いかに180㎝と長身のバニラでも、ヒールを履いていては、走れない…


 私は、そこに勝機を見た…


 勝機を見抜いたのだ…


 「…は…はやくしろ! バニラが来る…私の命がかかってるんだ!…」


 「…奥様の命?…」


 「…そうだ!…」


 私は、短く、かつ、力強く言った…


 なにしろ、緊急時…


 私の命が、かかっているんだ…


 本当なら、この受付の女にも、


 「…お仕事、ご苦労様です…」


 とか言って、日頃の苦労をねぎらってやるのが、社長夫人としての役目だが、それは、無理…


 できんかった…


 なにしろ、頭のおかしい、バニラが、今か今かと、背後から迫っているのだ…


 「…早くしろ! 葉尊に連絡するんだ…頭のおかしなバニラが、私に迫っている!…」


 そう言ったときだった…


 背後から、


 「…誰が、頭がおかしいんだって…」


 と、不気味な声が聞こえた…

 

 むろん、バニラの声だった…


 私は、振り返らんかった…


 頭のおかしなバニラになにを言っても、無駄だからだ…


 私は、震える声で、


 「…オ…オマエさ…オマエが…あ、あたまが、おかしくなったのさ…」


 と、言った…


 「…ど…どうして、わ…わたしが、頭がおかしいの?…」


 バニラが、息を切らせながら、怒りを抑えた声で、聞いた…


 だから、私は、震える声で、


 「…さ…さっき、オマエは、わ、わたしが、オマエや、リ、リンダに勝っていると言ったな…そ…それで、気付いたのさ…」


 と、答えた…


 「…オマエは、あ…あたまが、おかしい…平凡な私が、どうあがいても、オ…オマエやリ…リンダに勝てるはずがないさ…」


 私が、震える声で、言うと、バニラが、なにも、言わんかった…


 沈黙した…


 だから、私は、バニラの反応が、気になり、恐る恐る、背後を振り返った…


 振り返って、バニラを見た…


 バニラは、


 「…なに? …なんだ? …そういうこと?…」


 と、自分自身を納得させるように、言った…


 「…お姉さん…私が、頭がおかしくなったと思ったんだ…」


 と、納得するように、言った…


 と、そのときだった…


 「…い、一体、ど、どうしたんですか?…」


 と、葉尊が、息せき切って、社長室から走って、現れたのだ…


 受付の女のコが、急いで、葉尊に連絡したのだった…


 「…お姉さんの命の危険があるって?…」


 葉尊は、言いながら、私を見た…


 そして、ホッとした…


 「…お姉さん…大丈夫だったんですか?…」


 「…全然、大丈夫なんかじゃないさ…」


 私は、言った…


 「…危なかったさ…」


 「…危なかった?…」


 葉尊が、言いながら、近くのバニラに気付いた…


 「…バニラ…キミが、いて、お姉さんが危険に遭うのを、防げなかったのか?…」


 「…バカ…葉尊…私に危害を加えるのは、コイツだ…」


 「…コイツ?…」


 「…このバニラだ…」


 私は、私の太く短い指で、目の前のバニラを指差した…


 すると、当たり前だが、葉尊が仰天した…


 「…バニラが、お姉さんに危害を加える? …どういう意味ですか?…」


 葉尊が、当惑する…


 すると、バニラが、


 「…このお姉さんは、私が、頭がおかしくなったと思ったの…」


 と、葉尊に告げた…


 「…バニラが、頭がおかしく?…」


 「…そうさ…バニラは頭がおかしくなったのさ…」


 と、私は息せき切って、葉尊に告げた…


 「…どうして、頭がおかしく…バニラは、いつもの通りですが…」


 葉尊が、バニラを見て、言った…


 「…そうじゃないさ…頭がおかしいのさ…」


 「…どこが?…」


 葉尊が、当惑した…


 すると、バニラが、


 「…このお姉さんに、お姉さんは、私やリンダよりも、魅力があるって、言ったの…そしたら、私が、頭がおかしくなったと思って、いきなり走り出して…」


 と、葉尊に告げた…


 「…当たり前さ…私が、オマエやリンダに勝てるわけがないだろ? …それを、オマエが、本気で言うから、頭がおかしくなったと、悟ったのさ…」


 「…だったら、葉尊も頭がおかしいんじゃないの?…」


 「…なんだと?…」


 「…だって、私やリンダが身近にいても、お姉さんを選んだわけでしょ?…」


 「…」


 「…お姉さんが、私が、頭がおかしいと思えば、葉尊も同じ…しかも、葉尊は、お姉さんと結婚したんだから、私以上に、頭がおかしいはず…」


 …そう言われると、なんと言っていいか、わからなかった…


 いや、


 違う…


 「…それは、オマエやリンダが葉尊の身近にいるからさ…」


 「…どういうこと?…」


 「…身近過ぎれば、恋に落ちない…異性を感じなくなる…だからさ…」


 「…だったら、葉尊は、どうして、お姉さんを選んだの? …たしかに、お姉さんの言うことは、わかるけど、葉尊の立場なら、私やリンダ以外にも、美人は、たくさん知っているはずよ…それでも、お姉さんを選んだ…それは、お姉さんに魅力があるからよ…」


 バニラが、ダメ出しをした…


 しかしながら、


 そんな、


 …魅力…


 …魅力…


と、言っても、誰が、どう見ても、私が、このバニラや、リンダに勝る魅力があるとは、思えんかった…


 バニラやリンダに勝てるとは、思えんかった…


 このバニラの話は、わかるが、どうしても、納得できんかった…


 だから、


 「…」


 と、黙った…


 なんと、答えていいか、わからんかったからだ…


 すると、近くで、


 「…矢田か…相変わらず、ダメな女だ…」


 と、いう声がした…


 …ダメな女?…


 私は、その言葉に、敏感に反応した…


 …この矢田が、ダメな女だと?…


 …どこのどいつが、そんなことを言うんだ?…


 …許せん!…


 私は、その声の主を確かめるべく、声のした方を振り返った…


 と、


 そこには、私がいた…


 いや、


 正確には、私そっくりな女がいた…


 私そっくりな女=矢口トモコが、立っていた…


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