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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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12/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 12

…矢口トモコ…


 やっぱり、いたか?


 私は、驚かなかった…


 なにより、さっき、この矢口トモコが、白いロールス・ロイスから降りて、このクールの本社ビルに入るのを見ていたからだ…


 だから、驚かなかった…


 この矢口トモコは、スーパー・ジャパンの社長令嬢…


 日本中に知られた、激安スーパーの社長令嬢だ…


 このクール本社に一体、なんの用事で、やって来たのか、わからんが、社長令嬢が、やって来るぐらいだから、会う相手は、会社のお偉いさん…


 クールのお偉いさんだ…


 そして、本来、社長令嬢に、匹敵するのは、社長…


 クールの社長、葉尊に他ならない…


 だから、私は、驚かなかった…


 ここに、この矢口トモコが、現れるのは、私にとって、想定内…


 想定内の出来事だったからだ…


 と、ここまで、考えたとき、


 「…矢田…」


 と、当の矢口トモコが、上から目線で、偉そうに、口を開いた…


 「…オマエは、相変わらず、ダメな女だな…」


 …ダメな女?…


 どういう意味だ?


 いや、


 そうではない…


 それ以前に、どうして、六年ぶりに、再会したばかりなのに、いきなり、


 「…ダメな女…」


 と、断言されなければ、ならんのだ…


 私は、それが、疑問だった…


 いや、


 許せんかった…


 だから、


 「…お嬢様…どうして、この矢田が、ダメな女なのでしょうか?…」


 と、聞いた…


 下手に出て、聞いたのだ…


 が、


 それに対する、答えは、辛辣だった…


 「…バカか、オマエは?…」


 「…バカ?…」


 「…どこの世界に、社長室のある階の廊下を全速力で、走るバカがいる…」


 「…」


 「…しかも、それが、社長夫人だ…」


 矢口トモコが、自信たっぷりに、言った…


 「…これが、世間に知れれば、オマエの夫の葉尊さんも、恥ずかしくて、仕方があるまい…どうして、そんな女と、結婚したんだ? と、世間で、陰口を叩かれるゾ…」


 矢口トモコが、上から目線で、断言した…


 私は、その通りだと思った…


 一ミリも反論できんかった…


 しかし、


 しかし、だ…


 言っていることは、もっともで、納得のできることだったが、この矢口トモコから、聞くと、その話も怪しく思えた…


 なぜなら、威厳がまるで、ないからだ…


 まるで、私を見ているようだった…


 私、矢田トモコが、偉そうに、上から目線で、ものを言っているのと、同じ…


 だから、言っていることは、正しいのだが、イマイチ、納得できんかった…


 この矢口トモコを見ると、つくづく、ルックスは、大切だと、思う…


 いや、


 ルックス=見た目ではない…


 威厳が大切なのだ…


 イケメンや美人ということではなく、ただ威厳が大切なのだ…


 威厳がないから、偉く、思えない…


 ブスでもブザイクでも、構わないが、威厳がないと、偉く思えない…


 そして、この矢口トモコは、その威厳が、まるでなかった(笑)…


 だから、あらためて、威厳が大事だと、気付いた…


 この矢口トモコは、生まれが、良く、頭もいい…


 だから、つい上から目線で、言ってしまうのだろう…


 しかしながら、それが、まったく、似合わんかった(笑)…


 そして、それを見れば、この矢田トモコもまた、決して、上から目線で、周囲の者に接してはいかんと、肝に銘じた…


 なにしろ、似合わない(笑)…


 だから、私が、それをすれば、周囲の人間が、陰で笑うに決まっているからだ…


 私は、この矢口トモコを見ながら、そんなことを、考えた…


 この矢口トモコは、鏡…


 まるで、私が、鏡に映った姿のようだ…


 だから、この矢口トモコを見れば、私が、他人から、どう見られているか、わかる…


 それを、思えば、実に、好都合な人材だった(笑)…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…ホント…そっくり…」


 と、驚いた声が、近くでした…


 私は、振り返るでもなく、誰が、言ったか、わかった…


 その声の主は、バニラだった…


 「…さっき、このビルの外で、偶然見かけたときは、あまりにも、似過ぎて、驚いたけれども、こうして、間近で、見ても、そっくり…」


 バニラが、感嘆した…


 「…いや、良く見ると、違うよ…」


 葉尊が言った…


 「…お姉さんの方が、一㎝ぐらい、背が高い…それに、お姉さんの方が、愛想がいい…」


 葉尊が、告げる…


 「…お姉さんは、いつも、ニコニコと笑っている…だから、周囲の人間も、お姉さんの笑顔に癒される…でも、この矢口さんは、失礼ながら、そこまで、愛想が良くない…」


 葉尊が、私と、矢口トモコとの違いを説明した…


 そして、私は、その説明に納得した…


 たとえ、一卵性双生児でも、まったく、同じ顔やカラダを持つ人間はいない…


 どこかが、微妙に違う…


 当たり前だ…


 一方が、他方のコピーではないからだ…


 一卵性双生児でも、そうなのだから、他人ならば、余計に違いが出る…


 はっきり言えば、私と矢口トモコは、他人の空似レベル…


 たしかに、一見、すごく似ているが、ジッと見れば、違う…


 そういうことだ…


 そう考えたとき、


 「…いや、今日、お姉さんに、急に、この社長室に来てもらったのは、この矢口さんが、おっしゃったからです…」


 葉尊が、いきなり言った…


 …な、なんだと?…


 …この矢口トモコがだと?…


 …一体、この女がなにを?…


 「…今日、この矢口さんが、社長室に来る前に、お姉さんを、知っていると、電話で、おっしゃるものだから、それが、本当なら、ぜひ、お姉さんと、旧交を温めるのが、いいと…」


 …なるほど、そういうことか?…


 私は、気付いた…


 この矢口トモコは、したたか…


 実に、商売人としても、したたかな女だ…


 いや、


 商売人としてだけではなく、人間として、したたかな女だ…


 なにしろ、以前、自分そっくりな私を知るや、私を影武者に仕立て、その間に、会社の重大な契約をするという離れ業を演じた…


 普通ならば、重要な契約は、社長室か、どこかで、行うものだが、それでは、関係者に邪魔されると、考えたのだろう…


 こともあろうに、自分の結婚式を隠れ蓑にして、私を影武者に仕立て、私に自分の代わりに、結婚式に出席させ、自分は、その間に契約をしたのだ…


 まさに、常人では、思いつかない発想…


 離れ業を演じたといっても、過言ではない…


 それを、思い出せば、今回、私をこの場に呼んだのは、驚くべきことでも、なんでもない…


 自分そっくりの私を、ここへ呼ぶことで、自分の商売に、少しでも、有利になるように、仕向けたのだ…


 なにより、クールの社長の葉尊と会って、葉尊の妻である私を知っているといえば、話のとっかかりができる…


 まったく、見知らぬ人間よりも、親近感が湧く…


 これは、誰でも、同じだろう…


 会社でも、学校でも、いわゆる、共通の知人がいれば、話のとっかかりができる…


 「…誰々と、仲が良かった…」


 あるいは、


 「…誰々を知っている…」


 と、でも、いえば、親近感が、湧くものだ…


 共通の知人がいるというだけで、少なくとも、これまで、会ったことのない初対面の人間でも、少しは、身近に感じる…


 おそらく、この矢口トモコは、それを、狙ったのだろう…


 少しでも、自分の商売を有利に進めるためだ…


 と、


 そこまで、考えて、相変わらず、


 「…食えない女…」


 と、思った…


 「…油断できない女…」


 と、思った…


 この矢口トモコの目的がなにか、わからんが、油断は大敵…


 油断すれば、たちまち、この矢口トモコに食い物にされるとまでは、言わんが、利用されるに、決まっている…


 私は、それを固く肝に銘じた…


 なにしろ、この矢口のお嬢様は、信用できん…


 ルックスも中身も私そっくり…


 だから、信用できんのだ(笑)!


 一㎜も信用できんのだ(笑)…


 大体、私自身、私を見れば、まったく信用できん女だと、思う(笑)…


 つまり、そういうことだ(笑)…


 私の思いが目に出たのだろう…


 バニラが、


 「…お姉さんの目が真剣になっている…」


 と、驚いた…


 「…なんだか、知らないけれども、物凄い目で、矢口さんを見ている…」


 「…バニラよ…この矢田トモコとて、いつも、笑っているわけじゃないのさ…」


 と、言いたかったが、言えんかった…


 さすがに、矢口トモコの前では、言えんかった…


 心の中で、呟くのみ…


 その代わりに、睨んだ…


 私の細い目をさらに細くして、睨んだ…


 だが、


 この矢口トモコは、その視線を嫌というほど、感じているに違いないが、無視した…


 気付かないフリをした…


 私は、


 「…今に見ていろ!…」


 と、内心、怒鳴った…


 必ず、ほえ面をかかせてやる…


 六年前に、私を影武者に仕立て、私にウエディングドレスを着させて、式場で、全力疾走させた過去は、忘れたくても、忘れられん…


 文字通り、黒歴史…


 この矢田トモコの黒歴史だった…


 この恨み、晴らさず、だ!


 積年の恨み、晴らさず、だ!


 私は、それを思うと、私の細い目が、さらに細くなった…


 さらに、睨みつけたのだ…


 睨むには、目を細める必要がある…


 だから、細い目がさらに、細くなったのだ…


 「…今に見ていろ!…」


 「…目にもの、見せてやる!…」


 私は、心の中で、叫んだ…


 何度も、何度も、叫んだ…


 が、


 一向に、この矢口トモコは、私の挑発に乗らなかった…


 涼しい顔で、私の視線を無視した…


 それが、余計に、私の怒りに、火をつけた…


 勘弁できん!


 と、思ったのだ…


 気が付くと、いつのまにか、周囲が、凍っているのが、わかった…


 私の行為に、引いているのが、わかった…


 私は、遅まきながら、それに、気付いた…


 夫の葉尊と、バニラを代わる代わる見ると、二人とも、明らかに、引いていた(笑)…


 …これは、まずい!…


 私のイメージが地に堕ちる…


 バニラは、ともかく、夫の葉尊の前で、こんな姿は、見せちゃ、いかん…


 私は、それに、気付いて、何事か、矢口のお嬢様に、話しかけようとした…


 しかしながら、つい今の今まで、殺してやるとでもいうように、睨みつけていたにも、かかわらず、


 「…お嬢様…お久しぶりで、ございます…」


 と、言えるわけがない(爆笑)…


 態度を豹変できるわけがない…


 だから、私は、困った…


 どうしていいか、わからず、困った…


 悩んだ…


 すると、矢口のお嬢様が、


 「…葉尊社長…」


 と、口を開いた…


 「…なんですか?…」


 「…いつまでも、ここにいても、仕方がない…奥様もいらしたことですし、社長室に戻りましょう…」


 「…そうですね…」


 葉尊が、ホッとしたように、言った…


 葉尊とて、自分の妻が、いつまでも、矢口トモコを睨んでいるのを見て、どうしていいか、わからなかったに違いない…


 実際、私もホッとした…


 この後、どうして、いいか、わからなかったからだ…


 ホッとして、葉尊や矢口のお嬢様が、歩き出した後に、続いて歩いた…


 すると、いきなり、矢口トモコが、背後の私を振り返った…


 まるで、勝ち誇ったような顔だった…


 「…矢田…オマエのやることなど、すべて、お見通しさ…」


 と、でも、言うように、ニヤリと笑った…


 途端に、私の闘志に火が付いた…


 「…矢口トモコ…なにするものゾ…」


 とでも、言わんばかりな、気持ちになった…


 六年前は、日本中に知られた、激安スーパー、スーパー・ジャパンの創業者令嬢と、平民の私の差があったが、今は、違う…


 今は、世界中に知られた、日本の総合電機メーカー、クールの社長夫人だ…


 オーナー社長夫人だ…


 しかも、矢口トモコは、たかだか、日本の激安スーパー…


 片や、日本の総合電機メーカー、クールは世界に知られている…


 だから、私の勝ち…


 会社の規模も、知名度も、今や、私の方が上…


 矢口トモコより、この矢田トモコの方が上なのだ…


 そもそも、矢田は、矢口にプラス(+)と、書く…


 だから、矢田は、矢口より、偉い…


 矢口よりも上なのだ…


 矢口よりもプラス(+)なのだ…


 私は、必死になって、自分に言い聞かせた…


 ほとんど、念仏を唱えるがごとく、必死になって、自分自身に言い聞かせた…


 なぜならば、そうでもしなければ、この矢口トモコに対抗できないからだ…


 精神的にすでに、気後れてる私が、自分自身を無理にでも、鼓舞しなければ、この矢口トモコに、食い物にされるからだ…


 この矢口トモコが、私の前に再び姿を見せた以上、どうにかして、この矢田を利用しようとするに違いないからだ…


 そして、平凡な私は、それに、対抗できない…


 だから、今は、非常時と、心に言い聞かせて、行動することだ…


 常に、今は、非常時と、心に言い聞かせて、行動すれば、少しは、この矢口トモコに食い物にされる危険を避けることができる…


 私は、思った…


 そして、ふと、気付いた…


 六年前は、私一人だった…


 この矢口トモコに、対抗するのは、私一人だった…


 が、


 今は、違う…


 私には、夫の葉尊や、このバニラや、あのリンダがいる…


 今の私は、一人ではない…


 だから、もしかしたら、この矢口トモコに対抗できると、思った…


 勝てると、思った…


 私一人では、無理…


 歯が立たない…


 矢口トモコは、東大出身で、生粋のお嬢様…


 片や、私は、ソニー学園出身で、平民出身…


 とてもじゃないが、比べるまでもない…


 全然、比較にならない(涙)…


 が、


 これに、葉尊や、バニラ、リンダが加われば、違う…


 葉尊は、台湾の大金持ちの子息だし、バニラもリンダも世界中に知られた有名人…


 美の化身だ!…


 私が、この3人と、スクラムを組んで、この矢口トモコに立ち向かえば、十分、勝機はある…


 が、


 それには、このバニラを手なずけておかねばならん…


 ふと、気付いた…


 夫の葉尊は、私の言いなり…


 それは、あのリンダも同じ…


 言いなりといえば、おおげさだが、二人とも、私の力になってくれる…


 私が頼めば、力を貸してくれる…


 だが、


 このバニラは違う…


 葉尊や、リンダに比べて、性格が悪く、ねじ曲がってる…


 その圧倒的な美人の外観と、中身が、まったく、違っている…


 うーむ…


 どうすれば?…


 どうすれば、このバニラを味方につけることができるか?


 矢口トモコに対抗するには、このバニラの力が必要…


 必要だ…


 私は、悩んだ…


 悩み続けた…


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