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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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89/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 89

…葉問…


 その名前を口にして、やはりというか…


 ハッキリ言えば、葉問らしいというか…


 裏仕事にふさわしい葉問らしいと、思った…


 きっと、どこからか、この一件の騒動の裏を聞きこんだのだろう…


 そう思った…


 いや、


 それを言えば、その一件に、葉尊も加担しているかもしれん…


 ふと、気付いた…


 なぜなら、葉尊と葉問は、表裏一体…


 同じカラダを二人で、共有しているに、過ぎないからだ…


 なにしろ、一つのカラダだ…


 葉問が、知るところは、葉尊もまた、知っているだろう…


 そう思ったのだ…


 そして、そこまで、考えると、ふと、あのとき、葉問が、いきなり、現れた意味を考えた…


 私が、危うく、ファラドに襲われそうになったときに、葉問が、現れた…


 つまり、私の危機を救ってくれたのだ…


 大げさに、いえば、葉問は、私にとっての白馬の王子だった…


 なにしろ、私の危機を救ってくれたのだ…


 が、


 やはりというか…


 あらすじを知っていたというか…


 ファラドの企みを知っていたということだ…


 だからこそ、あの場に現れた…


 そういうことだろう…


 私は、思った…


 「…すべては、マリア…オスマンが、マリアを好きになったから、始まった…変な話、これは、オスマンの恋物語でもある…」


 「…オスマンの恋物語だと?…」


 「…そうよ…アラブの至宝と呼ばれる、優れた頭脳の持ち主でも、当然、隙がある…」


 「…隙だと?…」


 「…っていうか、弱みかもしれない…」


 「…弱み?…」


 「…自分が、マリアを好きだと知れれば、マリアに手出しをされれば、自分が、追い込まれる…つまりは、マリアは、オスマンの弱み…だから、ファラドは、その弱みを突いた…」


 「…」


 「…そして、マリア…」


 「…マリアが、どうかしたのか?…」


 「…マリアの父は、葉敬…母親は、バニラ・ルインスキー…どちらも、利用できる…」


 「…」


 「…つまりは、ファラドにとって、駒は、揃った…」


 「…駒だと?…」


 「…利用できる駒…」


 「…」


 「…すべてが、揃った…だから、その機会を逃がさなかった…」


 リンダが、説明する…


 私は、その説明を聞きながら、なんだか、変だと、思った…


 おかしいと、思った…


 リンダの説明は、わかる…


 リンダの説明は、納得できる…


 が、


 なにかが、おかしい…


 なにが、おかしいか、わからないが、おかしい…


 私は、なにが、おかしいか、考え込んだ…


 それは、葉問…


 葉問と、リンダの関係だ…


 私は、気付いた…


 「…で、それを、リンダ…オマエに、葉問は、伝えたわけだ…」


 私は、言った…



 が、


 リンダは、またも、


 「…フッフッフッ…」


 と、笑って、答えなかった…


 私は、頭に来た…


 リンダが、私の質問に、答えないからだ…


 同時に、リンダが、なんだか、機嫌がいいことに、気付いた…


 私が、イライラしているのと、真逆に、リンダの機嫌が、すこぶるいいことに、気付いたのだ…


 だから、


 「…リンダ…オマエ、ご機嫌だな…」


 と、言ってやった…


 リンダは、またも、


 「…フッフッフッ…」


 と、笑っていた…


 私は、


 「…どうして、そんなに機嫌がいいんだ?…」


 と、直球で、聞いた…


 まさか、答えるとは、思えんが、直球で、聞いたのだ…


 が、


 あっさりと、


 「…葉問と、葉敬の関係がわかったの…」


 と、答えた…


 「…葉問と、お義父さんとの関係だと?…どういう意味だ?…」


 「…葉問の存在意義…」


 「…葉問の存在意義だと? …どういう意味だ?…」


 「…私は、これまで、葉敬は、葉問を憎んでいると、思った…」


 「…」


 「…でも、違った…」


 「…どう、違ったんだ?…」


 「…今では、利用できる駒だと、思っている…」


 「…利用できる駒?…」


 「…葉問は、葉尊には、できない裏仕事を任せることができる…」


 「…」


 「…つまり、葉問は、死なない…生きることができる…」


 私は、その言葉を聞きながら、このリンダが、実は、葉問を好きなことを、思い出した…


 このリンダ=ヤンは、葉尊ではなく、葉問に惚れていることを、思い出した…


 このリンダ=ヤンは、葉尊の親友…


 共に心の悩みを抱えている…


 このリンダ=ヤンは、性同一性障害…


 カラダは、女だが、心は男…


 それゆえ、悩んでいる…


 それと、同じように、私の夫、葉尊は、心の中に、もう一人の人格である、葉問を、抱えて、悩んでいる…


 いわば、二重人格…


 カラダは、同じでも、別の心を持つ、人間が、もう一人いる…


 葉尊は、元は、一卵性双生児…


 葉問という弟が、存在した…


 が、幼い頃に、事故で亡くなった…


 その事故は、葉尊のいたずらが、原因だった…


 その罪にさいなまれた葉尊は、いつの頃からか、自分の中に、葉問を再生させた…


 いわば、自分の力で、死んだ葉問を蘇らせたのだ…


 そして、このリンダは、その葉問に惚れている…


 いや、


 掘れているといっては、言い過ぎかもしれない…


 このリンダは、性同一性障害…


 カラダは、女でも、心は、男…


 が、


 葉問に対しては、好きというか…


 気になってならない存在だ…


 だから、その葉問が、生きることができると、知って嬉しいのだ…


 が、


 生きることができるということは、どういうことだ?


 私は、思った…


 だから、


 「…リンダ…葉問が、生きることができるというのは、どういうことだ?…」


 と、私は、聞いた…


 すると、


 「…鈍いな…お姉さん…」


 と、またも、リンダが、私を笑った…


 「…今も言ったように、葉問は、葉敬が、利用できる駒…だから、駒として、使える…つまりは、葉問は、駒として、利用価値がある…だから、葉敬は、葉問の存在を、とりあえずは、認める…」


 リンダが、嬉しそうに、伝える…


 私は、その言葉を、聞きながら、かつて、葉問が、私に言った言葉を思い出していた…


 私の存在意義について、語った言葉を、だ…


 以前、葉問は、私に、


 「…お姉さん…どうして、葉敬が、お姉さんと葉尊の結婚を認めたのか、最近、ようやくわかりました…」


 と、笑顔で、私に告げたことを、だ…


 「…どうして、お義父さんが、私と葉尊の結婚を認めたか、だと?…」


 私は、そのとき、言った…


 たしかに、そう言われれば、それは、謎だった…


 いくら、考えても、答えが出ない謎だった…


 日本の平凡な家庭に生まれて、すでに35歳と中年にさしかかった私が、台湾の大財閥の御曹司と結婚できた…


 いかに、葉尊本人が、私と結婚したいといっても、その実父である葉敬が、反対しないのが、謎だった…


 私が、葉敬の立場ならば、迷わず、反対する…


 当たり前だ…


 葉尊は、29歳…


 私は、葉尊よりも6歳も年上…


 おまけに、家庭レベルも、まったく違う…


 葉尊は、大金持ちのボンボン…


 片や、私は、平凡な家庭…


 しかも、私は、美人でも、なんでもない…


 ブスではないが、極めて、平凡なルックスだ…


 そんな平凡極まりない私と葉尊の結婚を、葉尊の実父の葉敬が、どうして、あんなにも、簡単に認めてくれたのか、謎だった…


 いくら悩んでも解けない謎だった…


 が、


 その謎をあっさりと、葉問が解いた…


 いわく、


 「…ボクを消滅させるため…」


 と、説明したのだ…


 「…葉問…オマエを消滅させるためだと? …どういう意味だ?…」


 「…簡単です…お姉さんと、いっしょにいることで、葉尊は、過去の傷を癒すことができます…」


 「…過去の傷だと?…」


 「…子供の頃、葉尊は、自分のちょっとした、いたずらで、弟の葉問を亡くしました…そして、それが、葉尊の心の傷になり、無意識に、この葉問を自分の中に作り出しました…」


 「…」


 「…ですが、お姉さんと、いっしょにいることで、その傷を癒すことができます…」


 「…私といることで、その傷を癒すことができるだと?…」


 「…そうです…」


 「…バカな…そんなこと、あるわけないさ…」


 「…あります…」


 「…ないさ…」


 「…あります…」


 「…だったら、仮に、葉問…オマエの言う通りだとして、その結果、どうなる?…」


 「…ボクが、消えます…」


 「…なんだと?…」


 「…ボクが、消滅します…その結果、葉尊は、二重人格でなくなります…」


 葉問が、告げた…


 私は、今、それを思い出した…


 つまりは、葉敬の狙いは、葉問の消滅にあると、思ったのだ…


 これもまた、葉敬の立場ならば、当たり前のことだった…


 葉尊は、二重人格…


 普通ではない…


 だったら、どうすれば、普通になるか、考える…


 二重人格で、なくなるか、考える…


 それが、私との結婚だと、葉問は、告げた…


 私と結婚することで、葉尊は、癒され、過去の傷が癒える…


 その結果、葉問が、葉尊のカラダから消え去る…


 あくまで、葉問は、葉尊の心の傷から産まれた産物だからだ…


 葉尊の心の傷が、消えれば、葉問は、消える…


 それこそが、葉敬の狙いだと、葉問は、喝破(かっぱ)したのだ…


 私は、驚いたが、同時に、納得できる答えでも、あった…


 私と結婚することで、本当に葉尊の心の傷が、消えるのか、わからないことでは、あったが、とりあえずは、納得のできる回答でもあった…


 そして、もしかしたら、その葉敬の狙いを、目の前のリンダも、気付いていたのかもしれない…


 だから、方針転換したというか、葉敬が、葉問に、まだ使い道があると、思って、当分、生かしておくという選択をしたことに、安心したのだろう…


 私は、思った…


 「…葉問が、まだ、生きることができる…」


 リンダが、語った…


 「…それが、最高…」


 リンダが、まるで、夢見る少女のような表情で、言った…


 世界に知られた、ハリウッドのセックス・シンボル、リンダ・ヘイワースが、まるで、夢見る少女のような表情で、男=葉問について、語った…


 これは、リンダのファンが、見れば、驚愕だった…


 リンダ・ヘイワースは、ハリウッドのセックス・シンボルと呼ばれているが、特定の男と、噂になったことはない…


 リンダが、どんな男と付き合っているか?


 それが、一切わからないのが、またリンダ・ヘイワースの魅力だった…


 誰でも、そうだが、謎があった方がいい…


 例えば、女性のヌード写真だ…


 下半身には、下着を着て、見えない方がいい…


 その方が、その下着の下には、どんなものが、あるのか、妄想する…


 それが、いい(笑)…


 それが、すべて、脱いで、スッポンポンになると、幻滅するというか…


 ああ、こんなものかと、なる(笑)…


 それと、同じだ…


 誰でも、秘密があった方がいい…


 リンダ・ヘイワースが、男と噂にならないのは、本当は、リンダは、性同一性障害で、中身は、男だから、男に興味がないのが、真実だが、それは、世間には、知られていない…


 だから、余計に、リンダが、どんな男と付き合っているのか、世間の男は、興味が湧く…


 知りたくなる…


 そういうことだ…


 そして、そんなこともまた、リンダ・ヘイワースの魅力の一つに、加わることになる…


 つまりは、本人が、意識しようが、しまいが、すべてが、本人の知らぬところで、有利に働くのだ…


 そして、すべからく、成功する人間というものは、同じかもしれない…


 老若男女を問わず、同じかもしれない…


 すべてが、プラスに働くのだ…


 私は、思った…


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