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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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85/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 85

来た!


 来た!


 来た!


 ついに、来た!


 私は、思った…


 ついに、このときが、来た…


 クール主催のサウジの使節団の接待の日が、近付いたのだ…


 それが、わかったのは、今朝の朝食のときだった…


 いつものように、葉尊と二人きりで、朝食を食べていると、


 「…いよいよです…お姉さん…」


 と、葉尊が、言った…


 {…なにが、いよいよなんだ?…}


 と、私は、一杯に、お茶碗に盛った、ご飯を、かき込みながら、言った…


 食事は、基本…


 健全な精神は、健全な肉体に宿る…


 その基本だ…


 だから、朝から、腹一杯に食べるに限る…


 食べねば、健全な肉体は、得られんからだ…


 健全な精神は、得られんからだ…


 だから、私は、ダイエットとは、無縁…


 無縁の人生だ…


 「…我がクールが主催するパーティーです…」


 「…パーティーだと?…」


 「…ほら、以前も、お姉さんに言ったように、サウジのお歴々を、招いて、接待するんです…」


 そうだった…


 すっかり、忘れていた…


 あのマリアが通うセレブの保育園で、オスマン殿下と知り合った…


 あの一件のインパクトが、強すぎて、すっかり忘れていた…


 なにしろ、お遊戯大会という名目で、集まっても、中身は、まったくの別物だった(笑)…


 思えば、あれほど、強烈な体験もなかった…


 なかったのだ…


 だから、サウジの王族を招いてのパーティーなんか、すっかり私の頭の隅から、消えていた…


 きれいさっぱり、忘れていた…


 「…で、オスマン殿下は、来るのか?…」


 「…オスマン殿下? 一体誰ですか? それは?…」


 「…なんだと? …オスマン殿下を知らないだと?…」


 「…ハイ…知りません…」


 葉尊は、真顔で言った…


 私は、考えた…


 葉尊と葉問は、繋がっている…


 以前は、そう思っていた…


 例えば、今、私が、葉尊としている会話…これを、すべて、葉問は、知っていると思っていた…


 が、


 違うかもしれない…


 ふと、思った…


 葉尊も、葉問も、互いが、相手に知られたくないことは、隠すことが、できるのかもしれない…


 自分に都合の悪いことは、相手に知らせずにいることができるかもしれないと、考え直した…


 「…誰ですか? それは?…」


 葉尊が聞いた…


 当たり前だ…


 私は、どう言おうか、迷ったが、


 「…マリアの通う保育園の園児さ…」


 と、だけ、言った…


 「…マリアの通う保育園ですか?…」


 「…そうさ…セレブの保育園で、日本人は、ほとんどいない…皆、外人だ…だから、マリアの外人の友達さ…」


 「…友達?…」


 「…そうさ…オスマンという名前だ…サウジの王族らしい…きっと、オスマンも、パーティーに来るゾ…」


 「…子供が、パーティーですか?…」


 葉尊が、苦笑した…


 当然だ…


 だから、私は、


 「…子供といっても、頭がいいゾ…それに、パーティーに出席することで、色々、世界が広がる…だから、きっと、パーティーにやって来るゾ…」


 と、私は、言った…


 「…子供が、パーティーに?…」


 そう言って、葉尊は、考え込んだ…


 「…たしかに、お姉さんの言う通り、社会勉強には、最適だと思いますが…」


 「…そうだろ?…」


 私は、勢い込んで、言った…


 「…大器晩成という言葉が、あるが、アレはウソさ…」


 「…ウソ?…」


 「…優れた人間は、最初から、優れているさ…例えば、偏差値40の高校や大学を出て、社会で、成功することは、ありえないさ…成功しても、それは、小さな成功さ…」


 「…お姉さん、なにを言いたいんですか?」


 「…つまり、頭のいい人間は、生まれつき、頭がいいということさ…頭が、悪ければ、成功は、するが、大きな成功は、しないということさ…生まれつき、美人や、イケメンに、生まれるのと、いっしょさ…」


 「…」


 「…だから、大器晩成という言葉は、ただ、生まれつき、頭のいい人間が、それまで、運に恵まれずにいたのに、突然、仕事が軌道に乗ったりして、うまくいった結果さ…能力があっても、それまで恵まれなかった人間が、恵まれた結果さ…」


 葉尊は、私が、なにを言いたいか、わからず、きょとんとした表情になった…


 「…だから、私が、言いたいのは、パーティーに、マリアを連れて行けと、言いたいのさ…」


 「…マリアを? …なぜ、マリアをパーティーに連れて行くんですか?…」


 「…今も言ったように、経験さ…」


 私は、半ば強引に、言った…


 「…マリアは、バニラの娘だが、オマエの妹でもある…だから、子供でも、幼いときから、パーティーに参加させて、場数を踏ませるに限る…そうすれば、大人になったときも、きっと、その経験が生きる…」


 「…経験が、生きる…」


 「…そうさ…どんなことも、経験さ…私が、大器晩成は、ウソだと言ったのは、成功するには、そもそも、能力が、必要だと、言いたかったのさ…マリアは、その能力がある…だから、子供の頃から、いろんな経験を積ませるに、限る…それが、マリアが、大人になったときに、役に立つからさ…」


 私は、半ば、強引に、葉尊に言った…


 要するに、ただ、マリアを、パーティーに連れてゆきたかったのだ…


 パーティーにオスマン殿下が、来ることは、予想できる…


 だから、どんなことをしても、マリアをパーティーに連れてゆきたかった…


 そうすれば、オスマン殿下を、喜ばすことが、できるし、驚かすことも、できる…


 そして、なにより、マリアは役に立つ…


 オスマンは、マリアの言いなり…


 マリアに惚れている…


 これを利用しない手はなかった…


 こう言えば、この矢田が、随分、ずるい人間と思うかもしれんが、そうではない…


 マリアは、保険…


 この矢田トモコにとっての、保険だった…


 なにか、あっては、困る…


 パーティーで、なにか、あっては、困るのだ…


 それには、保険が、必要…


 保険をかけるに、かける…


 つまり、そういうことだ…


 なにより、あのオスマンには、敵が多そうだ…


 名探偵コナンではないが、パーティーのように、ひとが、多く集まる場所で、事件が、起こっては、困る…


 だから、マリアを連れて行くに、限るのだ…


 マリアが、役に立つかもしれんからだ…


 だから、私は、大器晩成の話を持ち出して、マリアを、パーティーに出席させようとしたのだ…


 どうやって、マリアをパーティーに出席させるか、悩んでいる中で、いきなり、閃いたのが、この大器晩成の話だった…


 はっきり、言って、意味はない(笑)…


 ただ、思いついただけだ(笑)…


 だが、これを、マリアに例えれば、マリアは、生まれつき、優れた頭脳と、容姿を持って、生まれた…


 が、


 この先、どうなるかは、わからない…


 嫌みではないが、大金持ちの家に生まれたとしても、実家が、没落する家は、枚挙にいとまがない…


 ありふれている…


 そして、なにより、お金があったからと言って、マリアが、幸せになれるか、どうかは、わからない…


 結婚と離婚を繰り返して、


 「…あの女の人生は、夫を取り換えるのに、費やした…」


 と、陰口を叩かれる人生を歩むかもしれん…


 悪口ではなく、誰もが、そうなる可能性を秘めている…


 ただ、お金があれば、生活には、困らない…


 どこの世界も、いつの時代も、夫婦が、ケンカする原因は、お金がないことに、起因することが多い…


 不倫や、家庭内暴力も、多々あるが、一番は、お金がないことだろう…


 失業した夫が、ちっとも、再就職が、決まらず、最初は、なんとかなると、思って、大目に見ていた妻が、


 「…アンタ…一体、どうするの?…」


 と、夫に詰め寄って、


 「…そんなことを、言っても…」


 と、夫が、言い訳をして、それから、ケンカになる…


 それが、毎日のように続けば、互いに相手に愛想を尽かして、離婚する…


 そういうものだ…


 そして、なにより、大器晩成という言葉を思いついたのは、実は、オスマン殿下のせいだった…


 オスマン殿下は、外見は、3歳だが、実は、30歳…


 だが、優れている…


 アラブの至宝と呼ばれるほど、優れている…


 つまり、大器早成…


 生まれつき、優れている…


 だから、大器晩成ではない…


 そう、思ったのだ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…ボクは、構いませんが、父が、どういうか?…」


 と、葉尊が、遠慮しがちに、口を開いた…


 「…いえ、父は、ボクが、言えば、説得できると思います…お姉さんが、言うように、何事も経験とでも言えば、納得するでしょう…でも、バニラが…」


 「…バニラが、どうかしたのか?…」


 「…バニラが、納得するかどうか?…」


 「…バニラが、納得するか、どうかだと? …」


 「…ハイ…バニラは、ああ見えて、お堅いというか…」


 「…お堅い?…」


 「…根が慎重なんです…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…パーティーに参加するとなると、当然ですが、あの子供は、誰の子供なのか、話題になります…パーティーに子供が参加することは、あまりありません…バニラは、父の愛人ですが、公には、知られていません…それも、あって、そんなことが、世間に知られれば、父にとっても、バニラにとっても、まずいと、思うと思います…」


 葉尊が説明する…


 そして、そう説明されると、私は、なにも、言えんかった…


 たしかに、葉尊の言う通りだからだ…


 子供が、パーティーに参加すれば、


 「…アレは、誰の子?…」


 と、誰もが、気になる…


 まさか、葉敬と、バニラの子供だとは、言えん…


 葉敬は、台北筆頭CEО…


 バニラは、売れっ子のモデル…


 二人は、父子ほど、歳が、違う…


 その二人の間にできた子供だとは、口が裂けても、言えん…


 なにより、マリアの存在が知れれば、葉敬にも、バニラにも、仕事に影響が出るかもしれん…


 いや、


 葉敬は、仕事に影響が出なくても、間違いなく、バニラには、出る…


 バニラは、まだ23歳…


 そんな23歳のバニラに、実は3歳の娘がいると知られては、絶対仕事に影響が出る…


 うーむ…


 これは、困った…


 たしかに、葉尊の言う通りだが、どうしても、マリアには、パーティーに参加してもらわなければ、困る…


 困るのだ…


 うーむ…


 どうすれば?


 一体、どうすれば、いい?


 悩んでいると、


 「…でも、もしかしたら、お姉さんなら、なんとかなるかも…」


 葉尊が、突然、言った…


 「…どうして、私なら、なんとか、なるんだ?…」


 「…お姉さんは、マリアと仲がいいじゃないですか? マリアは、お姉さんになついています…そんなお姉さんが、マリアに、パーティーに参加しないかと、提案すれば、マリアは喜んで参加するに違いありません…そうなれば、バニラも無下には、反対できないかも…」


 …そうか…


 …その手があったか!…


 私は、思った…


 たしかに、マリアは、私の言うことを、きく…


 それに、マリアが、パーティーに参加したいと、いえば、母親のバニラも、反対しないに違いない…


 私は、思った…


 「…ありがとう、葉尊…」


 私は、礼を言った…


 「…どういたしまして…」


 葉尊が、応じた…


 が、


 結果は、全然うまくいかんかった…


 「…ダメ…」


 バニラが、電話の向こうから、言った…


 「…なにが、あっても、ダメよ…」


 バニラが、まるで、相手にしなかった…


 私が、葉尊が出社してから、朝一番で、バニラに電話をかけたのだった…


 その結果が、これだった…


これだったのだ…


 「…どうして、ダメなんだ?…」


 「…どうしてって? ちょっと、お姉さん、考えて見て…」


 「…なにを、考えるんだ?…」


 「…子供が、パーティーに参加してみなさい…当然、誰の子供か、話題になる…そして、マリアが、私と、葉敬の子供だと、バレたら、困る…」


 当たり前だった…


 つい、さっき、葉尊が、言った通りだった…


 「…大体、誰のパーティーなの? …面子は、誰?…」


 …そうだった?…


 …それを、まだ、伝えてなかった…


 「…サウジの王族さ…」


 「…サウジの王族?…」


 「…ほら、以前、サウジの王族が、来日して、リンダが接待すると、言って、リンダが、怯えていたことが、あっただろ? アレさ…」


 「…アレ?…」


 「…ほら、リンダは、もしかしたら、そのパーティーで、知り会ったサウジの王族に、そのまま、サウジに、お持ち帰りされるんじゃないかと、ビビッてただろ? アレさ…」


 私の言葉に、


 「…」


 と、バニラが、沈黙した…


 まるで、聞こえてないかのようだった…


 だから、


 「…どうした? …バニラ、聞こえているか?…」


 と、私は、聞いた…


 すると、


 「…サウジの王族って、オスマン殿下は、来るの?…」


 と、バニラが、警戒するかのように、小さな声で、用心深く、聞いた…


 「…それは、わからんさ…ただ、オスマン殿下が、来るとすれば、マリアが、いれば、喜ぶと思ってな…」


 「…そう…」


 小さな声で、バニラが、返答した…


 「…それに、だ…」


 私は、言ってやった…


 「…オスマン殿下のおかげで、クールも台北筆頭も、今、アラブ世界で、進めている商談が、一気に進んだと、葉問が、言っていたゾ…」


 「…エッ?…」


 「…葉問は、私が、オスマン殿下に気に入られたからと、言っていたが、本当のところは、マリアのおかげじゃないかと、私は、思うゾ…マリアは、オスマン殿下のお気に入りだから…」


 私が、言うと、再び、


 「…」


 と、バニラが、黙った…


 「…そういうことなら…」


 小さく、バニラが、返答した…


 「…そういうことなら、断れない…」


 バニラが、言った…


 が、


 その声は、泣いているようだった…


 涙を流しているようだった…


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