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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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79/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 79

…アレは、一体、なんだ?…


 …なぜ、カメラを回している?…


 私は、思った…


 すでに、ファラドは、捕まえた…


 いわば、反乱の芽を摘んだのだ…


 だから、カメラは、必要ない…


 今さら、撮る必要は、ないからだ…


 いや、


 撮る必要うんぬんではなく、あのカメラは、明らかに、この矢田トモコを撮っている…


 すでに、ファラドが、いなくなった今、まだ、リンダ=ヤンや、バニラを撮るのは、わかる…


 だが、カメラが、撮っているのは、明らかに、この私…


 この矢田トモコだ…


 私は、そのカメラが、気になって仕方がなかった…


 そして、それは、リンダや、バニラも、同じだったようだ…


 私は、カメラが、気になって仕方がないから、どうしても、カメラの方を、見る…


 すると、ヤン=リンダが、


 「…お姉さんも、気付いていた?…」


 と、小声で、囁いた…


 「…当り前さ…」


 すると、バニラが、


 「…ホント、あのカメラは、謎よね…」


 と、口を挟んだ…


 「…謎だと? …どうして、謎なんだ?…」


 「…だって、考えて見て…」


 バニラが、せっかちに、言った…


 「…普通なら、リンダに化けた私を撮るか、ヤンの格好をしているリンダを撮るでしょ? …ヤンの正体が、リンダだと知って…」


 「…そ、そうだな…」


 「…でも、あのカメラは、明らかに、お姉さんを撮っている…だから、謎なの…」


 たしかに、バニラの言う通りだった…


 普通なら、リンダに化けたバニラか、ヤンの姿をしている、リンダを撮る…


 リンダ・ヘイワースが、実は、普段は、男の格好をして、世間の目を欺いているとでも、いえば、絶好の話題になる…


 しかも、その隣には、真紅のドレスを着た、リンダに化けた、バニラが、いるのだ…


 話題にならないはずは、ない…


 が、


 あのカメラは、明らかに、この私を撮っている…


 この矢田トモコを撮っている…


 だから、謎なのだ…


 私が、悩んでいると、


 「…まあ、気にしても、仕方がない…」


 と、あっさりと、ヤン=リンダが、言った…


 「…少なくとも、パパラッチじゃない…それに、こんなことを言っては、お姉さんに失礼だけれども、私やバニラを狙っているわけじゃないから、安心…」


 そう言って、ヤン=リンダが、笑った…


 そして、そう言われると、私も反論できんかった…


 リンダの言う通りだからだ…


 リンダやバニラは、世界的に有名だから、いつもパパラッチに付け狙われてる…


 だから、どんな私生活でも、話題になると、判断されれば、世間に発表される…


 いわば、言葉は、悪いが、有名税…


 一流の芸能人や、皇室のひとたちのように、世間で、誰からも知られた人間には、ありがたくないが、逃れることのできないことだからだ…


 が、


 私には、それがない…


 葉尊と結婚して、35歳のシンデレラと知られ、最近まで、世間で、話題を呼んでいたが、今や、すっかり、その報道は、影を潜めた…


 影を潜めた原因は、一言でいえば、私の賞味期限が、切れたこと…


 別段、美人でもなんでもない私が、台湾の大富豪の跡取り息子の葉尊と結婚した…


 しかも、35歳と、もう若くもない…


 だから、世間で、話題になった…


 35歳のシンデレラと、話題になった…


 が、


 それも、束の間…


 なにしろ、その後が、続かない…


 この平凡な矢田トモコには、話題を提供し続ける中身が、なにもなかった(涙)…


 だから、潮が引くように、世間から、私の話題が消えた…


 これが、リンダやバニラならば、違った…


 二人とも、有名人…


 スターだ…


 そのスターが、葉尊と結婚すれば、今でも、世間で、話題で、あり続けている…


 いや、


 そこまで、言わなくても、私が、リンダやバニラのような美人ならば、きっと、今も世間で、話題にしてくれるかも、と、思った…


 が、


 にも、かかわらず、今も、カメラは、明らかに私を撮り続けている…


 これは、一体、なぜだ?


 一体、どうしてだ?


 叫び出したい気持ちだった…


 が、


 そんなことを、考えていると、


 「…矢田…」


 と、声がかかった…


 私は、その声のする方向を見た…


 矢口のお嬢様だった…


 「…疲れは、取れたか?…」


 「…ハイ…なんとか…」


 私は、答えた…


 「…では、今度は、みんなで、恋するフォーチュンクッキーを、踊ろう…せっかく、こんな大型モニターをここに運んで来たんだ…」


 矢口のお嬢様が、言った…


 私は、一瞬、驚いたが、考えて見れば、驚くことでもなかった…


 ついさっきまでは、この大型モニターで、AKBの恋するフォーチュンクッキーを踊る映像を見て、園児たち、みんなで、踊ろうと、言っていたのだ…


 だから、矢口のお嬢様が、休んでいる園児たちに向かって、


 「…園児のみなさん…この休憩が、終わったら、この矢田のお姉さんをセンターにして、みんなで、AKBの恋するフォーチュンクッキーを、踊りましょう…踊り方は、このモニターを見て、習いましょう…」


 と、園児たちに呼びかけた…


 園児たちは、最初、キョトンとしていたが、すぐに、マリアが、


 「…みんな…踊ろう!…」


 と、声をかけた…


 「…なんといっても、センターは、矢田ちゃんだから、きっと、楽しいよ…」


 と、付け加えた…


 …た、楽しい?…


 …一体、私のどこが、楽しいんだ?…


 私は、大声を出して、叫びたい気持ちだった…


 が、


 それに対して、マリアの母のバニラが、


 「…お姉さんと、踊ると楽しいのよ…」


 と、言った…


 「…私と踊ると楽しい? …どうしてだ?…」


 「…お姉さんは、ホント、楽しそうに踊るの…ううん…踊りだけじゃない…子供たちと、いっしょに、遊んでいるときも、心底楽しそうに、しているの…目が笑ってるの…」


 「…目が笑ってるだと?…」


 「…そう…子供たちもバカじゃない…大人が、嫌々、自分たちと遊んでくれているか、どうかは、見れば、わかる…お姉さんは、いつも真剣…子供たちと対等に接してくれる…」


 「…」


 「…だから、子供たちは、お姉さんになつく…マリアが、なつくのと、いっしょ…」


 バニラが、言った…


 「…さあ、みんな、どうする?…」


 マリアが、園児たちに、問いかけた…


 「…矢田ちゃんと、踊る?…」


 「…うん…踊る…」


 「…ボクも、踊る…」


 「…アタシも、踊る…」


 そんな声が、あちこちから、上がった…


 そして、驚くべきことに、マリアが、


 「…オスマン…アンタは、どうするの?…」


 と、オスマン殿下に、聞いた…


 「…いや、ボクは…」


 当然ながら、オスマン殿下は、躊躇った…


 が、


 マリアは、そんなオスマン殿下に、


 「…オスマン…アタシの言うことが、聞けないの?…」


 と、容赦がなかった…


 「…いい? …オスマンは、黙って、アタシの言う通りにしていれば、いいの…」


 と、マリアが、まるで、姉さん女房のように、オスマンに、言った…


 いや、


 命じた…


 すると、オスマンは、


 「…わかった…マリアの言う通りにしよう…」


 と、笑いながら、答えた…


 その笑いは、心底、楽しそうだった…


 オスマンの目が笑っていた…


 まるで、溺愛する娘に、


 「…さあ、お父さんも、踊って…」


 と、言われるようなものだったのかもしれない…


 溺愛する娘に言われるものだから、断れない…


 本心では、嫌でも、溺愛する娘に言われるから、嫌ではない…


 そんな気持ちだろうか?


 「…オスマン…お酒ばかり、飲んでないで、明日からも、アタシといっしょに、踊ろう…」


 マリアが、提案した…


 …さすがに、毎日はないだろう?…


 その言葉を聞いて、私が、内心、思っていると、


 「…マリアが、いっしょに踊ってくれるなら…」


 と、オスマンが、照れながら、応じた…


 すると、それを見た、ヤン=リンダが、


 「…プッ…」


 と、吹き出した…


 「…アラブの至宝も、好きな女の前では、形無しね…」


 と、笑った…


 が、


 バニラが、その笑いに、相槌を打つことは、なかった…


 苦笑いを浮かべただけだった…


 さすがに、オスマン殿下の恋の相手が、自分の娘では、どう言っていいのか、わからなかったのだろう…


 30歳のオスマン殿下と、3歳のマリアの恋では、どう言っていいのか、わからなかったのだろう…


 私は、思った…


 「…さあ…みんな、始めるよ…」


 気が付くと、マリアが、みんなの前で、仕切っていた…


 AKBで、言えば、高橋みなみの立ち位置だった…


 高橋みなみ、こと、たかみなの立ち位置だった…


 みんなの前に立ち、声をかけた…


 そして、私は、センターに立った…


 隣には、オスマン殿下がいた…


 さらに40人の園児たちが、私たちの背後に並んだ…


 「…よし、スタート…」


 大型モニターが、AKBの恋するフォーチュンクッキーを踊る映像を流して、私やオスマン殿下を含めた全員が、その映像を参考に、踊った…


 最初は、ぎこちなかったが、時間が、経つごとに、みんな、さまになってきた…


 「…みんな、頑張れ!…」


 マリアが、声をかける…


 マリアは、まさに、園児たちのリーダーだった…


 が、


 それを見て、ふと、気付いた…


 なぜ、私が、ここで、踊っているのだろう? と、気付いたのだ…


 本当ならば、私が、マリアの立ち位置で、みんなに声をかける役割だ…


 真逆に、マリアは、私の代わりに、ここで、踊るのが、正しいはずだ…


 うーむ…


 わからん…


 正直、わからん…


 なぜ、35歳の私が、3歳の園児たちに、混じって、踊り、片や、同じ3歳のマリアが、まるで、コーチかなにかのように、私を含め、園児たちを、指導している…


 わからん…


 実に、わからん…


 よくわからん光景だった…


 いくら、考えても、ありえん光景だった…


 なぜ、35歳の私が踊り、3歳のマリアが、指示を出しているのか?


 冷静に、考えれば、考えるほど、理解に苦しむ、光景だった…


 …うーむ…


 …わからん…


 …さっぱり、わからん…


 答えが、見つけられない私は、思わず、オスマン殿下を見た…


 オスマン殿下は、見かけは、3歳だが、実際は、30歳…


 しかも、アラブの至宝と呼ばれるほどの頭脳の持ち主…


 この矢田トモコとは、雲泥の差…


 そのオスマン殿下が、どんな表情で、恋するフォーチュンクッキーを踊っているか、気になったのだ…


 ふてくされているのだろうか?


 それとも、バカバカしくて、やってられないとでも、言って、踊るのを止めたか?


 そのどちらか? だと、思ったのだ…


 が、


 違った…


 そのどちらでも、なかった…


 オスマン殿下は、実に、楽しそうに、恋するフォーチュンクッキーを踊っていた…


 そして、オスマン殿下の視線は、あの大型モニターに向いてなかった…


 前に立つ、マリアに向いていた…


 マリアに、


 「…よし、オスマン、偉い…」


 と、褒められると、さらに、楽しそうな表情になった…


 私は、唖然としたが、なんだか、楽しくなった…


 30歳のオスマン殿下が、3歳のマリアに褒められて、嬉しそうな表情をする…


 普通なら、ありえない…


 これが、サウジアラビアで、3歳の幼児が、オスマン殿下に、こんなことを言えば、どうなるか、わからない…


 少なくとも、なにも、ないことは、ないだろう…


 が、


 オスマン殿下は、嬉々として、マリアの指示に従っている…


 おそらくは、愛の力…


 オスマン殿下は、自らが、踊ることで、マリアを喜ばせることができると、思ったに違いない…


 オスマン殿下が、踊ることで、他の園児の見本になることができると、思ったに違いない…


 オスマン殿下は、これまで、この保育園で、周囲の子供たちと、うまくいかなかった…


 それは、考えてみれば、当たり前だった…


 オスマン殿下は、見かけは、3歳だが、本当は、30歳の成人男子…


 3歳の子供たちと、いっしょに、いることに、我慢ができなかったに違いない…


 そして、それが、態度に現れ、周囲の子供たちと、うまくいかなかった…


 が、


 今は、そんなオスマン殿下が、率先して、恋するフォーチュンクッキーを踊っている…


 すると、どうだ?


 他の子供たちも、オスマン殿下を、見て、踊ろうとするだろう…


 おそらく、オスマン殿下は、それがわかっているからこそ、余計に、一生懸命に、恋するフォーチュンクッキーを踊っているのだろうと、思った…


 そして、なにより、オスマン殿下が、踊ることで、マリアを、喜ばせることができるからだ…


 私は、そんなことを、考えていると、いつしか、オスマン殿下に、負けては、ならんと、思って、踊りに力を入れた…


 30歳のオスマン殿下が、踊っているのだ…


 35歳の矢田トモコが、負けるわけには、いかない…


 そう思って、踊りに力を入れた…


 すると、それを見て、


 「…矢田ちゃん…凄い…」


 と、マリアが言った…


 …当たり前さ…


 私は、内心、得意だった…


 この矢田トモコは、スポーツ万能…


 なんでも、できる女さ…


 そう言いたかった…


 この矢田トモコに、できないことは、ないのさ…


 そう言いたかった…


 そう、思いながら、ふと、周囲を見回すと、あの矢口のお嬢様の姿が、目に飛び込んだ…


 私そっくりの顔が、目に飛び込んだ…


 そして、その顔は、なぜか、楽しそうに、笑っていた…


 いかにも、満足げに笑っていた…


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