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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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80/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 80

…なんだ?…


 …あのお嬢様の目は?…


 私は、思った…


 実に、楽しそうに、私を見ている…


 この矢田トモコを見ている…


 一体、私を見て、なにが、楽しいんだ?


 自分と、同じ顔やカラダを持った女が、踊っているのを見て、なにが、楽しいんだ?


 謎だった…


 いくら、考えても、わからなかった…


 当たり前だ…


 他人が、考えていることが、わかる人間は、いない…


 親子や兄弟ですら、なにを考えているか、わからないときが、ある…


 ましてや、他人…

 

 あのお嬢様は、他人だ…


 しかも、あのお嬢様と私は、たいした知り合いではなかった…


 だから、余計に、わからなかった…


 が、


 なにか、あると、思った…


 あの矢口のお嬢様の大きな口が、いかにも、楽しそうに、笑っていた…


 その笑いは、不気味の一言!…


 この矢田トモコに、とっては、不気味の一言だった!…


 別に、私そっくりな女が、笑っているから、不気味だと言ったのではない…


 あの六頭身で、幼児体型のお嬢様が、笑っているから、不気味なのではない…


 断じてない!…


 なぜなら、それを言えば、この矢田トモコが、笑っていることが、不気味だと、言っているようなものだからだ…


 だから、私そっくりの女が、笑っているから、不気味だとは、断じて、言っていない…


 問題なのは、笑っているのが、矢口のお嬢様だからだ…


 矢口トモコだからだ…


 あのお嬢様には、さんざ、煮え湯を飲まされた…


 ハッキリ言えば、利用された…


 あの矢口のお嬢様は、狸(たぬき)…


 文字通り、煮ても焼いても食えぬ女だ…


 なにを考えているか、わからん…


 ただ、わかることは、ただ一つ…


 この矢田トモコを利用しようとしていることだけだ…


 自分そっくりの人間と、出会うことは、滅多にない…


 これは、誰もが、同じ…


 そして、これが、例えば、独裁者なら、自分の身代わりとするだろう…


 例えば、歴史上の独裁者…


 スターリンや、ヒトラーなら、そうするだろう…


 なぜ、そうするかと、問われれば、一番は、暗殺の危険から、逃れられる確率が、高くなるからだ…


 危険な場所には、自分が、行かず、自分そっくりの他人を、派遣すればいい…


 そうすることで、自分が、暗殺される危険が、低くなる…


 そして、もう一つは、疲労の軽減…


 誰もが、二十四時間、三百六十五日、働くことは、できない…


 誰もが、休憩や休息が、必要だからだ…


 だから、自分が、出席しなくても、構わない場所には、自分のそっくりさんを、派遣すればいい…


 例えば、式典で、なにか、祝辞を述べるような仕事は、自分そっくりの人間に任せればいい…


 そうすれば、自分は、その時間に、極秘裏に、他の仕事をしてもいいし、真逆に、休んでもいい…


 そういうことだ…


 が、


 今、言ったのは、あくまで、独裁者=権力者の場合だ…


 いかに、矢口のお嬢様が、スーパージャパンの社長でも、ヒトラーや、スターリンのような権力者ではない…


 だから、彼らのように、私を身代わりにすることはない…


 なにより、私は、ここで、矢口のお嬢様から、なにも、言われていない…


 なにも、命じられていない…


 いや、


 一つだけ、言われた…


 それは、ここで、子供たちといっしょに、AKBの恋するフォーチュンクッキーを踊ることだ…


 が、


 私が、子供たちとAKBの恋するフォーチュンクッキーを踊ることで、なにかを得られるのか?


 この矢田トモコが、子供たちと、AKBの恋するフォーチュンクッキーを踊ることで、あの矢口のお嬢様は、なにかを得られるのか?


 否、


 得られるはずがない…


 たかだか、自分と同じ顔やカラダを持つ、女が、AKBの恋するフォーチュンクッキーを踊ることで、得られることなど、あるはずが、なかった…


 当たり前のことだ…


 ということは、どうだ?


 当然、なにか、別の目的があるはずだ?


 それは、一体、なんだ?


 私に、どうせよと、命じるつもりだ?…


 私に、なにをさせたい?…


 と、考えた…


 AKBの恋するフォーチュンクッキーを必死になって、踊りながら、考えたのだ…


 が、


 それが、いけなかった…


 「…矢田ちゃん…もっと、必死になって…」


 と、いう声がした…


 マリアの声だった…


 見ると、マリアが鬼のような形相で、私を睨んでいた…


 「…矢田ちゃん…考え事をしてたでしょ?…」


 鬼のような形相で、言った…


 「…し、してないさ…」


 とっさに、答えた…


 「…ウソ!…」


 マリアが、言った…


 「…矢田ちゃんのウソつき!…」


 マリアが、喝破した…


 すると、いつのまにか、踊りを止めた、隣のオスマン殿下が、


 「…矢田さん…マリアを怒らせちゃ、いけません…矢田さんも、大人なんだから、3歳の幼児に目くじらを立てて、どうするんですか? 反論して、どうするんですか?…」


 と、穏やかに、私を諭した…


 そう言われると、私はなにも言えんかった…


 なにしろ、アラブの至宝といわれる、オスマン殿下すら、マリアに従っているのだ…


 オスマン殿下は、マリアを好きだから、従うのかもしれんが、オスマン殿下ほどの立場の人間が、3歳のマリアに従うことは、普通は、あり得ない…


 そのオスマン殿下が、マリアに従っているのだ…


 この矢田トモコも従うしか、なかった…


 「…マリア…すまんかった…」


 と、私は、マリアに、詫びた…


 「…つい、考えことをしていて…」


 「…わかれば、いいの…しっかり、やって…矢田ちゃん…」


 「…わかったさ…」


 私は、力なく答えた…


 力なく答える一方で、これでは、真逆…


 私とマリアの立場が、真逆だと気付いた…


 なぜ、35歳の私が、3歳の幼児に叱られなきゃ、ならんのか?


 正直、わけがわからんかった…


 冷静に考えると、むかっ腹が、立った…


 が、


 そんな私の心中を察するように、


 「…矢田さんは、偉い…」


 と、隣のオスマン殿下が、私を褒めた…


 「…偉い? …この私が?…」


 一体、私のどこが偉いんだ?


 さっぱり、謎だった…


 「…3歳の幼児に従うなんて、大人なら、なかなかできないことです…」


 オスマン殿下が、告げた…


 「…ボクは、矢田さんを尊敬します…」


 「…私を尊敬?…」


 「…ハイ…」


 オスマン殿下が、真顔で言った…


 そして、そんなことを言われると、たった今、マリアに叱られたことなど、どうでも、よくなった…


 なにしろ、オスマン殿下に褒められたのだ…


 アラブの至宝に、褒められたのだ…


 この矢田トモコが、褒められたのだ…


 こんなことは、空前絶後…


 もはや、一生ないかもしれない、出来事だった…


 オスマン殿下は、見かけは、3歳の幼児に過ぎないかもしれないが、実際は、違う…


 権力者だ…


 そして、こんな権力者に、褒められることなど、生涯ないだろう…


 それを、思うと、自然と顔がニヤニヤした…


 表情が、崩れた…


 そして、それを、見て、あの矢口のお嬢様の顔もまた嬉しそうになった…


 ついさっきよりも、もっと、楽しそうな表情になった…


 私は、どうして、あのお嬢様が、そんな嬉しそうな顔をするのか、わからなかった…


 文字通り、謎だった…


 だから、考えるのは、止めた…


 これ以上、考えても、わかるはずは、ないからだ…


 答えが出るはずが、ないからだ…


 だから、ただ無心で、AKBの恋するフォーチュンクッキーを踊っていた…


 すると、久々の爽快感だった…


 カラダを動かすのが、こんなに、楽しいとは、思わなかった…


 元々、私は、スポーツ万能…


 なんでもできる女だ…


 それが、歳を取って、さっぱりカラダを動かさなくなった…


 だからこそ、楽しいのだ…


 ハッキリ言って、無性に疲れるが、楽しいのだ…


 だから、自然と顔が、ニヤついた…


 ニヤついたのだ…


 が、


 お嬢様の顔は、違った…


 笑いながらも、どこか、真剣だった…


 目が、笑ってなかった…


 だから、不気味だった…


 だからこそ、不気味だった…


 人間、なにが、怖いと言っても、目が笑わない人間ほど、怖いものは、ない…


 これは、私が、子供の頃から、思っていることの一つ…


 誰もが、楽しければ、笑い…哀しければ、泣く…


 それは、当たり前だ…


 ごく自然の感情だからだ…


 が、


 稀に、顔は笑ってはいるが、決して、目が笑わない人間が、いる…


 子供の頃、見た、昔の大相撲で、いえば、元大関の小錦…


 笑ってはいるが、目が笑ってない…


 真逆に、元横綱の曙は、楽しそうに、目が笑っていた…


 そして、私は、どうして、目が笑ってないのか? 考えた…


 一番は、心の底から、楽しんでいないからだろうと、思う…


 誰もが、楽しければ、目が笑うものだ…


 が、


 それがない…


 つまり、楽しくないのだ…


 ある場面で、目が笑わないのは、わかる…


 が、


 どんな場面でも、顔や口だけ、笑って、目が笑ってないとすれば、それは、一体、どういう人間か、考えてしまう…


 性格に二面性があるとか…


 もっと、言えば、簡単に笑うことが、できないほど、困難な人生を歩んできたのかと、思ってしまう…


 生まれつきの性格なのか?


 はたまた、


 人並み以上の困難な人生を歩んで来た結果なのか?


 わからない…


 答えは出ない…


 が、


 ただ、そういう人間を、間近に見て、困惑するのは、確かだ…


 私は、今、矢口のお嬢様の目を見て、そんなことを、考えた…


 もしかすると、このお嬢様…


 この矢口トモコ…


 案外、苦労しているのかもしれない…


 そう、気付いた…


 金持ちのお嬢様に、生まれ、なに不自由のない暮らしをしてきたのかと、思っていたが、案外、違うのかもしれない…


 そう、思った…


 いわば、考え直したのだ…


 そして、そこまで、考えると、この矢口のお嬢様と、私、矢田トモコとの違いに、気付いた…


 私は、よく目が笑っていると、ひとに、言われる…


 が、


 真逆に、この矢口のお嬢様は、目が笑わない…


 それが、このお嬢様と、私との差だと、気付いたのだ…


 矢口トモコと、矢田トモコの決定的な外見の差だと、気付いたのだ…


 が、


 そんな差に、気付いていて、どうする? とも、思った…


 目が笑おうが、笑うまいが、それが、どうした? と、思ったのだ…


 例えば、それが、わかれば、私や矢口トモコと、偶然、街で会っても、それが、矢口トモコなのか、私、矢田トモコなのか、わかるに過ぎない…


 見分けることが、できるに、過ぎないのだ…


 私は、あらためて、気付いた…


 そして、これ以上は、考えるのは、止めた…


 いくら、考えても、答えが出ないからだ…


 ふと、周囲を見ると、ヤン=リンダと、リンダに化けたバニラは、踊ってなかった…


 踊りに、参加しなかった…


 これも、また、当たり前だった…


 大人で、この踊りに参加したのは、この矢田トモコだけ…


 後は、全員、子供…


 オスマン殿下は、本当は、30歳の大人だが、外見は、3歳の子供…


 だから、この矢田トモコを除いては、全員が、子供だった…


 保育園児だった…


 が、


 それが、一体、なんだと言うんだ?


 現に、カートに、お菓子を載せて、この部屋にやって来た屈強な男たち…


 オスマンの配下の男たちも、当然ながら、踊りに参加していない…


 園児たちの父兄に化けた、他のオスマンの配下たちも同じ…


 当然ながら、私を筆頭に、AKBの恋するフォーチュンクッキーを踊っている園児たちを見守っている…


 だとすれば、一体、このお嬢様の狙いは、一体?


 考えるなと、思っても、つい、考えてしまう…


 つい、考えてしまうのだ…


 

 結局、その日は、園児たちと、みんなで、AKBの恋するフォーチュンクッキーを踊って、後は、みんなで、お菓子を食べて、終わった…


 矢口トモコの実家である、スーパージャパンが、提供したお菓子を、園児たちと、みんなで、食べて、終わった…


 園児たちは、皆、楽しそうだった…


 誰もが、皆、お菓子を食べる時間は、楽しいものだ…


 これは、大人も子供も関係ない…


 誰もが、おいしいものを、食べるときは、嬉しいものだ…


 お菓子は、山ほど、あるので、私や、園児たちだけでなく、ヤン=リンダや、バニラ、そして、他のオスマンの配下の人間たちも食べた…


 それを見て、矢口のお嬢様が、


 「…どうです? …スーパージャパンで、扱う、お菓子は、おいしいでしょ?…」


 と、みんなに、声をかけた…


 すると、


 「…うん…」


 と、園児たちが、口々に、言った…


 「…だったら、今度は、パパやママに頼んで、スーパージャパンで、お菓子を買ってね…」


 と、矢口のお嬢様が、優しく、園児たちに、呼びかける…


 「…うん…わかった…」


 「…そうする…」


 と、いう声が、あちこちから、上がった…


 私は、その光景を見ながら、これは、まるで、CMにでも、使えば、いいような場面だな? と、思った…


 スーパージャパンの社長自ら、園児たちに、自分の店で、売っている商品をPRする…


 これ以上の宣伝は、ないからだ…


 そう思っていると、この光景をカメラに映している人間が、いることに、気付いた…


 さっき、私を映していた人間たちだった…


 これは、一体、どうして?


 これは、一体、なぜ?


 謎が、深まった…


 が、


 そのときは、その謎が、解けなかった…


 後日、その謎が、解けた…


 呆気なく、解けた…


 ヤン=リンダから、電話があり、


「…今日の徹子の部屋を、見て…」


と、言われたのだ…


「…徹子の部屋を見ろ、だと? …どうして?…」


私が、聞くと、


「…とにかく、見て!…」


と、だけ、言って、リンダが電話を切った…


なにやら、忙しそうだった…


私は、リンダに言われるままに、徹子の部屋を見た…

 

すると、なんと、あの矢口のお嬢様が、登場したのだ…


 私は、仰天した…

 

 あの黒柳徹子が、例のトレードマークの玉ねぎ頭で、


 「…今日のお客様は、スーパージャパンの矢口トモコさんです…」


 と、紹介したのだ…


 「…テレビの前の皆さんもよく行くスーパージャパンの社長が、こんなに若くて、かわいらしいお嬢さんだとは、思いませんでした…」


 と、黒柳徹子が、お世辞を言った…


 「…いえ…とんでも、ありません…」


 矢口のお嬢様が、謙遜する…


 「…おまけに、東大を出ていらっしゃるんですって…完璧ですね…」


 「…とんでも、ありません…」


 お嬢様が、遠慮がちに答えた…


 すると、今度は、


 「…たしかに…」


 と、徹子が、意味深に、言った…


 「…実は、このお嬢様、意外な一面をお持ちなんですよ…テレビの前の皆さん…」


 「…意外な一面?…」


 お嬢様が、当惑したようだ…


 「…では、時間がないので、早速、この番組のスタッフが、入手した、お嬢様の意外な一面を、テレビの前の皆さんにも、知ってもらいましょう…」


 徹子が宣言した…


 「…VTR、スタート…」


 徹子の掛け声と共に、場面が、変わった…


 場所は、見覚えがあった…


 すぐに、わかった…


 つい先日、あのお嬢様と、会った、セレブの保育園だった…


 園児たちが、集まっていた…


 そして、すぐに、VTRが、次の場面に、変わった…


 私が、センターに立ち、AKBの恋するフォーチュンクッキーを踊っている姿に、変わった…


 すると、その場面を見て、


 「…このお嬢様、東大を出て、この若さで、大きなスーパーの社長さんをなさっているのに、こんな子供たちと、踊って…ホント、意外な一面をお持ちなのね…」


 と、言った…


 すると、それを受けて、


 「…この歳で、まだ、童心が抜けなくて、ホント、お恥ずかしい…」


 と、矢口のお嬢様が、照れ笑いを見せた…


 それを、見て、悟った…


 またも、私が、あのお嬢様に、身代わりにされたことを、悟ったのだ…


 利用されたことを、悟ったのだ…


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