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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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72/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 72

「…葉尊!…」


 思わず、私は、叫んだ…


 そして、一体なぜ? 葉尊が、ここに?


 と、考えた…


 すると、


 「…大丈夫…」


 と、つい、今さっき、言ったヤン=リンダの姿が、私の目に飛び込んだ…


 …それは、こういうことか?…


 私は、内心、得心した…


 つい、今さっき、ヤン=リンダが、大丈夫と言ったのは、ここに葉尊が、現れるから…


 そう、ヤン=リンダが言いたかったのかもしれない…


 が、


 一瞬、そう思ったが、考えて見れば、葉尊が、ファラドに勝てるわけがなかった…


 葉尊は、おとなしい…


 真面目だ…


 だから、ファラドに勝てるわけがない…


 いや、


 おとなしいから、ファラドに勝てる、勝てないでなく、葉尊に、ケンカは、似合わない…


 似合うのは、葉問…


 葉尊のもうひとつの人格である、葉問だ…


 私は、思った…


 そう思って、葉尊を見ると、すぐに、葉尊でないことに、気付いた…


 ファラドの前に立ちはだかるのは、夫の葉尊ではない…


 葉問だ…


 やんちゃの葉問だった…


 それがわかると、なんとなく、安心したというか、ホッとした…


 同時に、ヤン=リンダを思った…


 ヤン=リンダが、一体、この騒動の裏で、なにを画策しているのか、考えた…


 おそらくは、この騒動を事前に、察知していたに、違いない…


 どこまで、この騒動の内幕を知っていたか、わからないが、なにか、起こることを、知っていたに違いないのだ…


 そして、それは、あのバニラも同じ…


 同じだ…


 そうでなければ、リンダに化けて、真紅のドレスをまとって、この場に現れるわけがなかったからだ…


 そして、それは、あのお嬢様も同じ…


 矢口のお嬢様も同じだ…


 今も、壇上で、なにも、言わず、騒動を見守っている…


 もし、事前に、この騒動が、起こることを知らなければ、なにも、言わず、黙っているわけがない…


 つまりは、このお嬢様も事前に、なにが、起こるか、知っていた可能性が、高い…


 また、そうでなければ、壇上に、あの大型モニターを置かなかったのではないか?


 私は、ふと、気付いた…


 あの大きなモニターを置くことで、事前に、なにが、起こるか、あらかじめ、知っていた可能性が、高い…


 なにしろ、あのお嬢様は、この矢田に、


 「…AKBの恋するフォーチュンクッキーを、踊れ…」


 と、声をかけた…


 そして、その見本のAKBの恋するフォーチュンクッキーのプロモーションビデオを、あの大きなモニターで、見せると思った…


 なぜなら、いきなりAKBの恋するフォーチュンクッキーを踊ろうと言われても、誰も踊れるわけはないからだ…


 おそらく、AKBの恋するフォーチュンクッキーを踊ったAKBの当時のメンバーにしても、いきなり言われたら、踊れないに違いない…


 振り付けを忘れているに違いないからだ…


 だからこそ、あの大型モニターで、恋するフォーチュンクッキーの振り付けをみんなに、見せると思った…


 が、


 違った…


 実際に始まったのは、ファラドとオスマンのやり取りだった…


 もっと、ハッキリ言えば、ファラドを追求するきっかけの映像だった…


 この一連の騒動を振り返ってみれば、要するに、オスマンが、裏切り者のファラドを、追及する場に過ぎなかった…


 お遊戯大会という名目で、ファラドを油断させ、ファラドを追い詰める場に過ぎなかったわけだ…


 と、そこまで、考えて、ふと、気付いた…


 要するに、私だけ、この騒動の内幕を知らされてなかった…


 そういうことではないか?


 あらためて、気付いた…


 私だけ、なにも知らされず、本当に、この保育園で、お遊戯大会が、開催されると、信じてやって来た…


 そういうことではないか?


 要するに、除け者…


 私だけ、除け者だ…


 それに、気付いた私は、文字通り、腹の中が、煮えくり返った…


 怒りで、煮えくり返った…


 …どうして、私だけ、除け者なんだ?…


 声を出して、叫びたかった…


 リンダとバニラには、内幕を知らせることは、まだ我慢できよう…


 夫の葉尊に伝えるのも、まだ、我慢できる…


 が、


 あのお嬢様に伝えて、私に伝えないのは、我慢できん…


 あの矢口トモコに伝えて、この矢田トモコに伝えんことだけは、我慢できんかった…


 勘弁できんかった…


 私は、思った…


 なぜなら、あの矢口トモコは、この矢田トモコのライバル…


 ライバルだからだ…


 私が、なぜ、あの矢口トモコに対抗心を燃やすか?


 それは、私とあの矢口トモコが、そっくりだからだ…


 何度も言うように、私と矢口トモコは外見が、瓜二つと思えるほど、似ているからだ…


 が、本当は、私と矢口トモコが、並べば、実は、微妙に違うことが、わかる…


 あたりまえだ…


 たとえ、一卵性双生児でも、微妙に違うものだ…


 瓜二つは、存在しない…


 私と矢口トモコは、これも、何度も言ったが、身長は、私が1㎝高く、胸も私の方が、少し大きい…


 つまりは、極めて、微妙ではあるが、私の方が、勝っている…


 この矢田トモコの方が、矢口トモコに勝っている…


 そういうことだ…


 そして、なぜ、私が、矢口トモコに対抗心を燃やすか?


 実は、以前は、私は、矢口トモコに対抗心を燃やしたことなど、微塵もなかった…


 これっぽっちもなかった…


 なかったのだ…


 なぜかと、いえば、私と矢口トモコは、違い過ぎる…


 外見は、同じでも、矢口トモコは、金持ちの生粋のお嬢様…


 スーパージャパンのご令嬢だ…


 片や、


 この矢田トモコは、生粋の平民だ…


小市民だ…


 つまり、以前は、比較の対象ではなかった…


 比べることなど、できんかった…


 が、


 なぜか、今や、この矢田トモコは、台湾の大企業、台北筆頭の子会社である、日本の総合電機メーカー、クールの社長夫人になった…


 しかも、夫の葉尊は、サラリーマン社長ではない…


 オーナー社長だ…


 要するに、今や、私は、あの矢口トモコを、名実ともに、追い越し、追い抜いたのだ…


 なぜなら、矢口トモコは、たかだか、日本の安売りスーパーの創業者の娘…


 片や、


 この矢田トモコは、世界中に知られた日本の総合電機メーカー、クールのオーナー社長夫人…


 もはや、論ずるまでもない…


 すでに、この矢田トモコは、あの矢口トモコを追い抜いた…


 追い抜いたのだ…


 同じ外見を持つ、女は、この世に二人とは、いらぬ…


 いつか、あの矢口トモコと、この私は、雌雄を決するときが、来る…


 私は、そう見た…


 私は、そう睨んだ…


 私は、そう決意した…


 と、


 そのときだった…


 誰かが、カメラを回しているのに、気付いた…


 もちろん、テレビや映画で見る大きなカメラではない…


 が、


 明らかに、カメラだった…


 しかも、複数…


 園児の父兄と偽って、この場にやって来た、オスマンの護衛の何人かが、カメラを回していた…


 いや、


 カメラだけではない…


 スマホもだった…


 明らかに、スマホをカメラ代わりに、この騒動を撮影している人間もまた複数いることに、気付いた…


 私は、考えた…


 誰の指示によるものか?


 考えたのだ…


 撮影しているのは、オスマンの配下…


 そして、映しているのは、この騒動だ…


 つまりは、この撮影は、オスマンの指示の元、サウジ本国の国王陛下に、見せるものだと、私は、思った…


 一体、なにがあったか、国王に報告するものだと、思った…


 なにより、口で、説明するよりも、一連の騒動をカメラに収めて、説明するのが、一番だ…


 その方が、ウソがつけないし、相手も、信用する…


 私は、そう思った…


 しかも、一台だけのカメラでは、心もとない…


 失敗する可能性もあるからだ…


 だから、複数のカメラで撮影するのだろう…


 その方が、仮に、一台、撮影に失敗しても、問題はない…


 他のカメラが、撮影しているからだ…


 私は、そう思った…


 と、


 そのときだった…


 ドタンと、大きな音がした…


気が付くと、ファラドが、床に倒れていた…


 おそらくは、葉問にやられたに違いなかった…


 一方の葉問は、無表情で、床に倒れたファラドを見ていた…


 それを見て、私は、驚いた…


 と、


 同時に、ガッカリした…


 私が、肝心のファラドと葉問のバトルを見損なったからだ…


 一体、なぜ、見損なったのか?


 考えた…


 すると、あっけなく、その答えがわかった…


 つまりは、私は、それほど、葉問を信頼している…


 信用している…


 葉問が、ファラドごときに、負けることはないと、信じていた…


 確信していたということだ(笑)


 だから、私は、勝った葉問に、


 「…葉問…オマエ…強いな…」


 と、声をかけた…


 葉問が、私の声で、私を振り向いた…


 「…お姉さん…まだ、終わってません…」


 葉問が言った…


 「…終わってないだと?…」


 私は、オウムのように、葉問の言葉を繰り返した…


 私は、驚いて、葉問を見た…


 と、


 そのときだった…


 なんと、ファラドが、私の目の前にやって来たのだ…


 おそらくは、マリア同様、私を人質に取ろうとしているに違いなかった…


 と、


 これは、後で、冷静になって、振り返ってから、わかったこと…


 このときは、目の前に、ファラドが、やって来たことで、慌てて、言葉も出なかった…


 恐怖で、言葉も出なかったのだ…


 万事休す…


 本当なら、恐怖で、私の細い目をつぶるところだが、それも、できんかった…


 とにかく、予想外…


 私の想定外だったからだ…


 だから、とっさに、どうすれば、良いのか、わからなかった…


 誰でも、そうだが、後から、考えれば、あのとき、こうしていれば、良かったとか…


 ああしていれば、良かったと言えるものだ…


 が、


 それは、あくまで、後からだから、言えること…


 そのときは、わからない…


 いや、


 できない…


 私も同じだった…


 この矢田トモコも同じだった…


 私は、ただ、ビビッて、目の前に現れたファラドを見た…


 ただ、ビビッて、ファラドを見た…


 もはや、なすすべもなかった…


 私は、ただ、ビビッて、ファラドを見るだけだった…


 逃げることも、できんかった…


 恐怖で、カラダが、金縛りにあったように、動かんかったのだ…


 私は、ただ、ただ、その場に、棒のように、立ち尽くしていた…


 まるで、スローモーションの映像を見るように、ファラドが、私に襲いかかって来るのが、見えた…


 それでも、私は、どうすることも、できんかった(涙)…


 が、


 そこまでだった…


 ファラドの動きが、いきなり止まったのだ…


 背後から、葉問と、バニラが、それぞれ、ファラドに、殴りかかったのだ…


 それで、ファラドは、まるで、ボクシングかなにかの試合で、見るように、ゆっくりと、膝から、ガクンと、崩れ落ちた…


 まるで、ボクシングの試合のKОシーンを見るようだった…


 私は、一瞬、なにが、起こったのか、わからなかった…


 が、


 終わってみて、わかった…


 物事は、なんでも、そうだ…


 渦中では、なにが、起こっているか、わからない…


 後になって、わかるのだ…


 後になって、このとき、命拾いしたことが、

わかったのだ…


 バニラと葉問が、ファラドを背後から、殴りかかって、倒したのは、一瞬のことだったので、なにが、起こったのか、わからなかった…


 私は、ただ棒のように、その場に、突っ立っていた…


 何の感情もなく、ただ突っ立っていた…


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