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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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71/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 71

 …なんだ? …この笑いは?…


 私は、思った…


 …一体、なんだ? …このファラドの笑いは?…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 そして、それは、オスマンも同じだった…


 「…なんだ、ファラド…その笑いは?…」


 オスマンが、ファラドに聞いた…


 すると、


 「…オスマン殿下…」


 と、ファラドが、ニヤニヤと、笑いながら、答えた…


 「…なんだ?…」


 「…性的倒錯者は、アラブでは、認められません…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…アナタは、失礼ながら、外見は、子供…だから、今、保育園に通っている…そうすれば、目立たなくて済む…アナタは、陰で、アラブの至宝と呼ばれるほど、優れた頭脳の持ち主だ…だから、敵も多い…それゆえ、保育園に通った…保育園に通うことで、正真正銘の子供を演じることができる…だが、その弊害か、アナタは、子供が好きになった…」


 「…子供が好きに?…」


 「…そうです…そのマリアさんが、いい例です…」


 ファラドが、笑って言った…


 「…そして、それは、アラブ世界では、決して、認められない…30歳の立派な男が、3歳の幼児に好意を持つことは、絶対に、認められない…」


 ファラドが、ニヤニヤと、笑った…


 「…だから、このことを、ボクが、国王陛下に申し上げれば、オスマン殿下…アナタとて、どうなるか、わかりませんよ…いくら、陛下のお気に入りのアナタとて…」


 ファラドが、オスマンを脅した…


 脅したのだ…


 私は、焦った…


 焦ったのだ…


 たしかに、このファラドの言う通り…


 アラブでは、30歳の成人男子と3歳の恋愛が、認められるわけがない…


 いや、


 それは、この日本も同じだろう…


 いや、


 日本に限らず、世界中、どこも同じだろう…


 認めるわけがない…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 私は、オスマンを見た…


 オスマンは、


 「…」


 と、無言だった…


 どう答えていいか、わからなかったのかもしれない…


 どう対応していいか、わからなかったのかもしれない…


 それを見たファラドが、勝ち誇った顔になった…


 明らかに、勝ち誇った表情になった…


 形勢逆転…


 ファラドが、オスマンに形勢逆転した…


 私は、そう思った…


 そう思ったときだった…


 突然、


 「…ファラド…アンタ…バカ?…」


 という声がした…


 私は、急いで、声の主を見た…


 声の主は、他ならぬマリアだった…


 「…バカ? …ボクが?…」


 ファラドは、呆気に取られたようだ…


 まさか、3歳のマリアが、口を挟むとは、思ってなかったのだろう…


 「…どうして? ボクが、バカなんですか?…」


 ファラドが、からかうように、マリアに聞いた…


 子供のマリアに聞いた…


 マリアが、子供だから、ファラドもそういう態度を取ったのだろう…


 が、


 マリアは、


 「…オスマンが、30歳だろうと、なんだろうと、関係がないの!…」


 と、大声で言った…


 …関係がない?…


 …どういうことだ?…


 オスマンが、3歳の外見にもかかわらず、30歳の成人男子であることは、わかっている…


 …一体、それが、どうして、関係がないのか? …


 疑問だった…


 やはり、マリアは3歳の子供だから、ダメなのか?


 意味がわからないのか? 


 とも、思った…


 が、


 違った…


 違ったのだ…


 「…オスマンが、30歳なら、30歳の女のひとと、並んで歩ける? できないでしょ?…並んで歩けば、誰もが、母子と思うでしょ?…」


 「…」


 「…だから、オスマンの相手は、アタシでいいの!…このマリアでいいの!…」


 マリアが、ファラドに告げた…


 告げたのだ…


 ファラドは、唖然とした表情になった…


 まさに、マリアの言葉は、子供ながら、正論…


 正論だった…


 正鵠を射ていた…


 いかに、30歳だろうと、外見が3歳では、30歳の女と付き合っても、似合わない…


 母子にしか、見えないからだ…


 それを考えれば、まさに、マリアの指摘は、的確だった…


 まさに、正鵠を射ていたのだ…


 それを指摘されたファラドは、戸惑った…


 ぐうの音も出なかった…


 それを見た、ヤン=リンダが、


 「…マリアの勝ち…」


 と、言って、パチパチと手を叩いた…


 実に、楽しそうだった…


 「…マリア…やるじゃない!…」


 ヤン=リンダが、言うと、マリアは、恥ずかしそうだった…


 明らかに、照れていた…


 しかし、


 しかし、だ…


 そのマリアのカラダを、ファラドが、いきなり、掴んだ…


 あまりにも、とっさの出来事などで、驚いた…


 マリアのカラダをファラドが、とっさに、駆けよって、持ち上げたのだ…


 面目を失ったファラドが、どうして、いいか、わからず、マリアを人質に取ったのだ…


 正直、ファラドが、オスマン殿下に、向かっても、オスマン殿下を、人質に取ることは、できなかっただろう…


 なぜなら、この周囲にいる人間は、皆、オスマン殿下の私兵…


 ファラドが、オスマンに近付けば、慌てて、ファラドの行動を阻止するだろうが、まさか、マリアに、ファラドが、向かうとは、予想外だったのだろう…


 いわば、ファラドは、盲点を突いたのだ…


 だから、誰も、ファラドの動きを止めることは、できんかった…


 できんかったのだ…


 ファラドが、勝ち誇った顔になった…


 「…オスマン殿下…ガールフレンドを、人質に取りましたよ…」


 と、言って、ファラドが、笑った…


 笑ったのだ…


 途端に、オスマンの血相が、変わった…


 子供ながら、憤怒の表情になった…


 「…ファラド、マリアに手を出すのは、止せ…」


 血相を変えた、オスマンが、命じた…


 「…だったら、殿下…ボクの身を国王に引き渡すことを、考え直して、頂けますか?…」


 ファラドの問いかけに、オスマンは、返事をしなかった…


 「…」


 と、黙ったままだった…


 が、


 少しして、


 「…ファラド…こんなことをして、なんになる?…」


 と、冷静に、ファラドを説得した…


 「…たとえ、マリアを人質に取って、この場を去ることが、できても、後は、どうする? ボクを怒らせれば、サウジに身の置き所は、ないゾ…」


 当たり前のことだった…


 ファラドが、追い詰められて、見境なく、行動したのは、明らかだった…


 マリアが、まだ3歳の幼児だから、人質に取りやすいと、判断して、とっさに、行動したに過ぎないのは、明らかだった…


 だから、オスマンに、そう言われると、ファラドも、どうして、いいか、わからなかった…


 だから、


 「…」


 と、なにも、言わなかった…


 いや、


 言えなかったのだ…


 と、


 いきなり、ファラドが、


 「…痛い…」


 と、声を上げた…


 なんと、マリアが、ファラドの手に嚙みついたのだ…


 ファラドは、マリアに噛みつかれて、とっさに、抱き上げていたマリアを離してしまった…


 …さすが、マリア…


 私は、納得した…


 元ヤンのバニラの娘だけは、ある…


 元ヤンのバニラの血を引くだけは、ある…


 私が、そう思っていると、今度は、バニラが、ファラドの元に、近付いた…


 深紅のドレスを着て、リンダ・ヘイワースに化けた、バニラが、ファラドの元に、近付いた…


 ファラドが、当惑するのが、わかった…


 その直後、バニラは、いきなり、ファラドを殴りつけた…


 まさに、電光石火の早業だった…


 あまりの出来事に、私は、目が点になった…


 私は、元々、目が細いが、その細い目が、さらに、細くなった(笑)…


 しかも、


 しかも、だ…


 バニラのファラドに対する攻撃は、それだけでは、終わらんかった…


 左右の拳で、ファラドを数発殴りつけると、今度は、足で、ファラドを蹴りつけた…


 普通でも、大柄な美女が、そんな行動を取れば、誰もが、驚くところだ…


 しかも、


 しかも、だ…


 バニラは、深紅のドレスを身にまとっている…


 しかも、


 バニラは、身長180㎝とデカい…


 さらに、10㎝は優に高いヒールを履いている…


 だから、身長180㎝のファラドよりも、明らかに高い…


 男の履く靴が、女の履くヒールよりも、高いわけがないからだ…


 だから、傍目には、バニラとファラドは、互角どころか、体格で、バニラが勝っていた…


 それゆえだろうか?


 終始、バニラが、ファラドに圧倒していた…


 バニラが、一方的に、ファラドを殴りつけ、蹴り続けた…


 まさに、母の怒りだった…


 一刻とはいえ、娘のマリアを人質に取られた、母親の怒りだった…


 私は、それを目の当たりにして、ビビった…


 まさに、今、バニラの力を知ったのだ…


 バカ、バニラの力を思い知ったのだ…


 180㎝の身長のバニラが、怒ると、いかにすさまじいか、知ったのだ…


 バニラが本気で怒れば、この矢田トモコなど、吹き飛んで、しまうだろうと、わかったのだ…


 159㎝の矢田トモコなど、180㎝のバニラの前では、子供同然…


 まさに、娘のマリア同様、幼稚園児に過ぎない…


 その現実を目の当たりにしたのだ…


 これから、絶対、バニラを怒らせては、ならん…


 この瞬間、私は、肝に銘じた…


 しっかり、心に刻んだ…


 今日をもって、バニラに歯向かう矢田トモコは消えた(汗)…


 きれいさっぱり、いなくなった…


 なにしろ、バニラを怒らせれば、怖い…


 怖いということを、この瞬間、学んだのだ…


 一方的に殴られ続け、蹴られ続けたファラドだったが、さすがに、バニラも、疲れた様子だった…


 バニラの怒涛のパンチとキックが、止むと、ファラドは、身構えた…


 態勢を整えたのだ…


 すると、バニラの顔色が変わった…


 緊張したというか…


 それまでは、ただ怒って、その怒りに任せて、ファラドを殴りつけ、蹴り続けただけだったが、慎重になったというか…


 ボクシングのファイティングポーズをとったファラドに対して、慎重になったのだ…


 次の瞬間、ファラドは、攻撃に転じた…


 実際、ファラドは、攻撃に転じると、強かった…


 ファラドは、まずは、バニラの顔めがけて、パンチを繰り出した…


 バニラは、それを避けたが、ファラドは、すぐに、バニラの腹を蹴った…


 足で、蹴ったのだ…


 バニラは、直後に、腹を抱えて、その場にうずくまった…


 やはり、ファラドは、男…


 男だった…


 ファラドと、バニラは、体格は、互角だったが、やはり、性差がある…


 仮に、同じ体格ならば、普通に考えれば、男と女が本気で、殴り合えば、男が、勝つ…


 当たり前のことだった…


 私は、バニラが、心配になった…


 いかに、大柄でも、やはり、バニラは女…


 女だった…


 うずくまったバニラを見て、


 「…ママ…」


 と、マリアが叫んだ…


 たぶん、無意識に、叫んだに違いない…


 マリアは子供ながら、賢明…


 頭がいい…


 だから、リンダに化けたバニラを見ても、ママと呼ぶことは、できない…


 しては、ならないと、知っていた…


 それにも、かかわらず、つい、

 

 「…ママ…」


 と、呼んでしまった…


 つまりは、それほどの危機だったということだ…


 私は、どうする? と、思った…


 考えた…


 この矢田トモコが、ファラドに立ち向かっても、到底、勝てない…


 歯が立たない…


 なにしろ、180㎝のバニラですら、勝てないのだ…


 159㎝の矢田トモコが、勝てるわけがない…


 私が、そう思っていると、オスマンが、指示を下した…


 ゆっくりと、無言で、手を動かした…


 すると、会場にいる父兄に化けたオスマンの私兵が、ゆっくりと、ファラドに向かって、歩き出した…


 ジリジリと、ファラドに迫った…


 もはや、ファラドに逃げ場はなかった…


 なかったのだ…


 バニラは、まだうずくまったままだった…


 それを見て、マリアが、泣きながら、


 「…ママ…」


 と、呟いた…


 すると、


 「…大丈夫…」


 と、いう声がした…


 声の主は、他ならぬバニラだった…


 バニラ本人だった…


 すると、それに、呼応して、


 「…大丈夫…マリア…心配しないで…」


 という声がした…


 あまりにも、意外な言葉なので、その声の主が誰か、知りたくなった…


 声の主は、ヤン=リンダだった…


 本物のリンダ・ヘイワースだった…


 私は、なぜ、ヤン=リンダが、そんな発言をするのか、不思議だった…


 なぜ、そんな根拠のない発言をするのか、不思議だった…


 たしかに、ファラドは、追い詰められている…


 だが、バニラが、今、うずくまっているのは、事実だった…


 紛れもない事実だった…


 追い詰められたファラドは、バニラになにをするか、わからない…


 なにしろ、バニラは、ファラドの目の前で、うずくまっているのだ…


 私が、どうなるか、固唾を飲んで、見守っていると、まもなくバニラが立ち上がった…


 ヨロヨロと立ち上がった…


 だが、その状態では、立ち上がったところで、結果は、火を見るより明らか…


 明らかだった…


 そのバニラに、ファラドが、


 「…まだ、やるのか?…」


 と、余裕をもって、聞いた…


 薄ら笑いを浮かべながら、聞いた…


 まさに、上から目線…


 上から、目線の言葉だった…


 「…もちろん…」


 バニラは、短く答えた…


 いや、


 それ以上は、苦しくて、答えられない様子だった…


 それを見ていた、園児の父兄になりすましたオスマンの私兵たちが、距離を縮めて、ジリジリと、ファラドと、バニラに近付いた…


 が、


 ファラドは、それに構うことなく、バニラに襲いかかった…


 万事休す…


 私は、目をつぶった…


 私の細い目をつぶった…


 それから、少しして、私が、バニラを見ると、バニラは、立っていた…


 立ったままだった…


 私は、なぜ、バニラが立ったままか、不思議だった…


 バニラが、ファラドに勝てるわけが、なかったからだ…


 が、


その理由は、すぐにわかった…


ファラドの前に、人影が、立ちはだかったからだった…


 私は、それが、誰か、一目で、わかった…


 その人物は、まがうことなく、私の夫の葉尊だった…


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