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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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66/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 66

…リンダ…


 …リンダ・ヘイワース?…


 …まさか?…


 …まさに、まさか? だ…


 私は、急いで、隣のヤンを見た…


 ヤン=リンダを見た…


 リンダ…リンダ・ヘイワースは、隣にいるはずだ…


 私の隣にいるのは、本物のリンダ・ヘイワースであるはずだ…


 まさか、偽者というわけでは、あるまい…


 私が、そんなことを、考えて、隣のヤン=リンダを見た…


 すると、あろうことか、ヤン=リンダは、うっすらと、笑っていた…


 笑っていたのだ…


 これは、一体どういうことだ?


 私が、考えていると、


 「…ママ…」


 と、小さくマリアが、呟いた…


 すると、すぐに、


 「…マリア…」


 と、ヤン=リンダが、声をかけた…


 マリアが、ヤンを振り向いた…


 そして、無言で、首を横に振った…


 それだけで、マリアは、すべてを察した…


 マリアが、バニラの子供で、あることは、秘密…


 売れっ子のモデルである、バニラ・ルインスキーに、子供がいると、世間にバレては、困る…


 困るのだ…


 23歳のバニラ・ルインスキーに、3歳の子供がいると、世間にバレては、困る…


 それでは、バニラの人気が、急落するかも、しれないからだ…


 そして、そんな内情を、マリアは、子供ながら、わかっている…


 だから、公の場で、バニラの名前を呼ぶことは、ない…


 要するに、今、眼前に現れた、リンダ・ヘイワースは、偽者…


 バニラが、リンダに化けた偽者だ…


 思えば、バニラが、リンダに化けたことは、これまでも、何度か、あった…


 私は、今、それを思い出した…


 思い出したのだ…


 そして、その事実に、気付いた人間が、もう一人いた…


 他ならぬ、ファラドだった…


 ヤン=リンダと、いきなり現れた、リンダ・ヘイワースと、交互に見て、


 「…なるほど…」


 と、ファラドは、呟いた…


 「…そういうことですか?…」


 が、


 リンダ=ヤンは、


 「…」


 と、黙ったままだった…


 「…面白い…実に面白い…」


 ファラドが、続けた…


 すると、リンダ=ヤンが、いきなり、


 「…ファラド…」


 と、声をかけた…


 「…なんですか?…」


 「…リンダ・ヘイワースのハリウッドのエージェントに、日本の化粧品のCMに出るように、圧力をかけたのは、ファラド、アナタなの? …それとも、オスマン?…」


 「…もちろん、オスマン殿下です…」


 「…」


 「…ただし、実際に動いたのは、このボクです…」


 「…」


 「…オスマン殿下は、今、日本にいる…だから、この日本で、リンダ・ヘイワースに会いたかった…それに、サウジでは、どうしても、目立つ…話題になる…それを避けたかった…」


 「…そう…」


 「…そして、それに手を貸してくれたのが、あのお嬢様…」


 「…なんだと?…」


 私は、思わず、口を挟んだ…


 「…あのお嬢様が、一体、どうしたと言うんだ?…」


 「…あのお嬢様は、自分の経営する店で、ハラールの食品を扱いたかった…それで、さまざまな、イスラム教徒の国々の人間たちと、会った…情報を得るために…ハラールについて、知るためにです…」


 「…」


 「…そして、その過程で、リンダ・ヘイワースの話題が出た…」


 「…リンダの話題だと? …どうしてだ?…」


 「…お姉さん…仕事の話でも、なんでも、雑談は、あります…だから、ボクと、あの矢口のお嬢様が、ハラールについて、あれこれ、話していると、いつのまにか、好きなタイプの女性の話になって、それで、リンダ・ヘイワースの話になって…」


 「…そうか…」


 私は、言った…


 たしかに、好きな女のタイプの話になって、リンダの名前が出るのは、わかる…


 なんといっても、ハリウッドのセックス・シンボルだ…


 世界中に知られた美女だ…


 そういわれれば、確かに、私も、納得する…


 納得するのだ…


 だから、


 「…ファラド…オマエも男だな…安心したゾ…」


 と、言ってやった…


 少しは、ファラドにも、良いところがあると、認めてやったのだ…


 私は、てっきり、ファラドは、ただのゲイだと思っていた…


 だから、この矢田トモコの評価も、低かったのだ…


 すると、


 「…いえ、ボクは、リンダ・ヘイワースのファンでも、なんでも、ありません…」


 と、ファラドが、否定した…


 「…なんだと?…どういうことだ?…」


 私は、慌てて、近くにいるヤンの顔を見た…


 ヤン=リンダの顔を見た…


 が、


 ヤン=リンダの顔は、まったくの無表情…


 表情が、なかった…


 なかったのだ…


 「…リンダのファンは、今も言ったように、オスマン殿下です…ボクでは、ありません…」


 「…」


 「…それで、どうすれば、この日本で、オスマン殿下が、リンダさんと、会えるかという話になったんです…そしたら…」


 「…そしたら…なんだ?…」


 「…あの矢口さんが、知り合いの女が、リンダ・ヘイワースと仲がいいと、言い出して…」


 「…なんだと? …お嬢様が…」


 私は、驚いた…


 驚いたのだ…


 が、


 少し考えてみれば、その謎が解けた…


 どうして、お嬢様が、そう言ったのか、謎が解けた…


 金田一ではないが、謎が解けた…


 なぜなら、私は、リンダと初めて会ったときに、リンダ・ヘイワースと、テレビの前で、勝負をした…


 だから、その勝負は、日本中で、放映された…


 私とリンダは、書道の勝負をした…


 私は、書道二段…


 その書道の腕で、リンダに勝とうとしたのだ…


 そして、それを、きっかけに、リンダと仲良くなった…


 きっと、その情報を、あの抜け目ないお嬢様は、どこかで、掴んだのだろう…


 いや、


 ただ単純に、お嬢様も、テレビで、見ただけなのかもしれない(笑)…


 いずれにしろ、私が、リンダと仲良くなったのは、つい最近だ…


 35歳になってからだ…


 が、


 あのお嬢様と、この矢田トモコが、知り会ったのは、29歳のとき…


 この矢田トモコ、29歳のとき…


 もうすぐ30歳になる手前の時期だった…


 同時に、二度と思い出したくない出来事だった(涙)…


 が、


 忘れることは、できんかった…


 なぜなら、あのお嬢様は、私そっくり…


 この矢田トモコとそっくりなのだ…


 だから、毎朝、鏡を見るたびに、思い出す…


 正直、二度と思い出したくない、私にとっての黒歴史だったが、なにしろ、同じ顔だ…


 そんなに似た顔の持ち主と会うことは、人生で、二度とないだろう…


 だから、忘れることはできん…


 できんかったのだ…


 私が、そんなことを、考えていると、リンダ=ヤンが、


 「…そうだったの?…」

 

と、言った…


 「…ハイ…」


 と、ファラドが、答えた…

 

 「…で、その話、どこまでが、本当なの?…」


 ヤン=リンダが、聞いた…


 私は、思わず、ファラドの顔を見た…


 見たのだ…


 すると、あろうことか、ファラドの表情が、凍りついていた…


 明らかに、引きつっていた…


 「…どこまで、本当かって? …一体、なにを根拠に…そんなこと?…」


 「…ファラド…アナタ…私が、アナタのことを、なにも知らないと、思っているの?…」


 「…なにも、知らない? 一体、どうして、そんなことを?…」


 「…リンダ・ヘイワースのファンは、世界中にいる…とりわけ、セレブの間では、イギリス王室のウィリアム王子を筆頭にね…」


 「…」


 「…それが、どういうことだか、わかる?…」


 「…」


 「…そして、それは、当然、イスラム世界にも、及ぶ…アラブにも、そして、サウジにも…」


 リンダ=ヤンが、脅すように、言った…


 明らかに、ファラドの表情が、固まった…


 緊張で、固まった…


 私は、固唾を飲んで、ファラドを見守った…


 一体、ファラドが、なにを言うのか、知りたかった…


 が、


 そのときに、


 「…ワーッ…」


 と、周囲から、歓声が上がった…


 私は、何事かと、声のする方を見た…


 すると、そこには、なんと、深紅のドレスを着た、リンダ・ヘイワースが、オスマンを抱き上げて、オスマンの頬にキスをしたのだ…


 …だからか?…


 私は、なぜ、歓声が上がったのか、わかった…


 オスマンは、顔を真っ赤に上気して、感激していた…


 私は、それを見て、内心、複雑だった…


 なぜかといえば、オスマンにキスをした相手は、本物のリンダ・ヘイワースではないからだ…


 オスマンが喜ぶのは、いいが、それを、思うと、オスマンが、ちょっぴり、可哀そうになった…


 どうせなら、本物のリンダに、キスをさせてやりたいと思ったのだ…


 なにしろ、本物のリンダ・ヘイワースが、目と鼻の先にいるのだ…


 私が、そう考えるのは、至極当然だった…


 が、


 それを見たファラドが、


 「…あのとっつぁん坊や…」


 と、呟いた…


 …とっつぁん坊や?…


 珍しく、その言葉を聞いた…


 私は、驚いた…


 驚いたのだ…


 「…いい歳をして…」


 「…あら、だったら、本当は、オスマンは、いくつなの?…」


 「…30歳…」


 「…エッ?…」


 「…ビックリでしょ?…」


 ファラドが、笑った…


 が、


 その笑いは、ぎこちなかった…


 明らかに、その前にリンダ=ヤンに、言われた、


 「…で、その話、どこまでが、本当なの?…」


 という言葉が、心に引っかかっていると、思った…


 一体、この後、リンダ=ヤンが、どう出るか?


 なにを言い出すのか、不安だったのだろう…


 私は、そう思った…


 「…ファラド…アナタ…ウソは、いけない…」


 突然、リンダ=ヤンが、言った…


 「…ウソ? …なにが、ウソなんですか?…」


 ファラドが、ぎこちない表情で、聞いた…


 「…アナタとオスマンの関係…」


 「…ボクと、オスマン殿下の関係ですか?…それが、どうかしましたか?…」


 「…ひょっとしてだけど、アナタとオスマンは、兄弟じゃないの?…」


 「…兄弟…どうして、ボクが、あのとっつぁん坊やと…」


 「…そう…その言い方…自分が、仕えている、殿下に、普通、そんな言い方はできないはず…」


 「…」


 「…そして、そんな言い方をするのは、よっぽど親しい間柄だけ…違う?…」


 「…」


 「…そして、普通、そんなに親しい間柄というのは、親子や兄弟…血の繋がった関係か、よっぽど、仲のいい友人だけ…」


 「…」


 「…そして、ファラド…アナタは、オスマン殿下の庇護を受けたと言ったそうね…つまり、オスマンの権威の下に、守られてる…それを、考えれば、血の繋がった兄弟の可能性が高い…」


 「…兄弟だと? …ホントか?…」


 思わず、私は、口を挟んだ…


 挟まずには、いられなかった…


 「…お姉さん…サウジの王族を、日本の基準に当てはめては、ダメ…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…サウジは、一夫多妻…複数の妻を持つことが、認められてる…」


 「…なんだと?…」


 「…だから、兄弟姉妹は、多い…まあ、一夫多妻が、認められているといっても、実際は、一部の王族やお金持ちだけだというけれども…法律では、男は、4人まで、妻を持つことができると言われている…でも、王族は、違う…」


 「…違う?…」


 「…そう…だから、数も多い…王族は、何千人もいると、言われている…」


 「…何千人だと?…」


 「…だから、敵の多いファラドが、兄弟で、地位の高いオスマンを頼るのは、当然…当たり前…」


 リンダが、笑った…


 リンダ=ヤンが、笑ったのだ…


 ファラドの顔は、引きつったままだった…


 私は、ファラドが、この後、どう言うのか、興味津々だった…


 「…さすがは、リンダ・ヘイワースといったところか…」


 ファラドが、口を開いた…


 「…いや、リンダ・ヘイワースの持っている情報網というところか…」


 ファラドが、苦笑する…


 「…世界中に張り巡らされた、リンダ・ヘイワースのファンの情報網…とりわけ、セレブの間に張り巡らされた情報網は、誰も太刀打ちできない…下手をすれば、CIAでも、勝てないかもしれない…セレブの間の情報網は、貴重だ…」


 「…」


 「…オスマンは、国王のお気に入り…秘蔵っ子だ…」


 「…秘蔵っ子だと?…どうしてだ?…」


 「…きっと、ハンデを持って生まれたからよ…」


 リンダ=ヤンが、言った…


 「…ハンデだと?…」


 「…小人症(こびとしょう)で、大人になれない…そんなハンデを持って、生まれた子供を親は溺愛する…そのハンデが、深ければ、深いほど、溺愛する…きっと、オスマンが、日本にやって来たのも、それが、原因でしょ?…」


 が、


 ファラドは、リンダ=ヤンの質問に、


 「…」


 と、答えなかった…


 だから、私が、ファラドの代わりに、


 「…原因って、なんだ?…」


 と、ヤン=リンダに聞いた…


 「…サウジにいれば、例えば、普通の保育園に身分を隠して、入れても、いずれは、バレる…ひとの口に、戸は立てられない…」


 「…」


 「…だから、いっそ、国外に出した方がいいと思ったんじゃないの? …おそらく、サウジにいれば、小人症(こびとしょう)だと、知れれば、好奇の目で、見られる…そして、それは、本人が、一番傷付く…それを恐れたんじゃないかしら…」


 ヤン=リンダが、説明した…


 私は、それを聞いて、思った…


 たしかに、ヤンーリンダの言うことは、わかる…


 説得力がある…


 が、


 なぜか、しっくりしない…


 本当に、それだけかと、思うのだ…


 すると、


 ファラドが、笑った…


 笑ったのだ…


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