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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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67/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 67

「…リンダ・ヘイワース…そこまでか?…」


 「…そこまでかって? どういう意味?…」


 「…そこまでしか、読めないのかと、言うことさ…」


 ファラドが、リンダを皮肉る…


 私は、いつのまにか、このファラドとリンダが、名前で呼び合っていることに、気付いた…


 お互いに、名前は、名乗っていないはずだ…


 にもかかわらず、すでに名前で、呼び合っている…


 これは、凄い…


 凄いことだ…


 なにしろ、リンダは、男装している…


 男の格好をしている…


 ヤンの格好をしている…


 にもかかわらず、ファラドは、ヤンの正体に気付いているのだ…


 リンダ・ヘイワースで、あることに、気付いているのだ…


 …一体、どうして?…


 ふと、思った…


 一体、どうして、ファラドは、リンダの正体に気付いているのだろうか?


 ふと、考えた…


 普通に、考えれば、事前に情報を得ていると、考えるのが、一般的だ…


 いわば、リンダ・ヘイワースの日常を、すべて、探っているわけだ…


 おそらく、サウジの諜報機関にでも、頼んだに違いない…


 と、なると、どうだ?


 オスマンは、それを知っているのか?


 ふと、気付いたのだ…


 要するに、情報だ…


 オスマンが、その情報を握っているか、否かだ…


 もしかして、情報が、オスマンに届いていない、可能性もある…


 ファラドが、情報を握って、自分の下で、止めている可能性もあるからだ…


 私が、なぜ、そんなことを、考えたかと言えば、オスマンの顔だ…


 オスマンの表情だ…


 オスマンは、リンダに化けたバニラにキスをされて、天にも昇る表情で、喜んでいる…


 あのオスマンの表情を見る限り、本物のリンダ・ヘイワースに、キスをされたと、考えていると、思っていい…


 また、それをいえば、バニラ…


 あのバカ、バニラは、どうして、この場に、リンダに化けてやって来たのか?


 謎がある…


 いや、


 謎というより、冷静に考えれば、バニラは、このリンダの了承を得ているに違いない…


 本物のリンダ・ヘイワースの了承を得ているに違いない…


 いや、


 リンダの了承を得ているのではなく、リンダに頼まれた可能性の方が、高い…


 そう考える方が、自然だ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…お互い、まだまだ、なにか、ありそうですね…」


 ファラドが、突然、言った…


 言ったのだ…


 リンダは、ファラドの問いかけに、笑ったままだった…


 「…リンダ・ヘイワース…ハリウッドのセックス・シンボル…しかし、その実態は?…」


 「…その実態は、なに?…」


 リンダ=ヤンが、聞いた…


 「…いや、止めましょう…ボクだって、まだ命は惜しい…」


 ファラドが、苦笑した…


 「…どんな人間も、言ってはいけないことがある…踏み込んではいけない領分がある…」


 ファラドが、意味深に言った…


 「…これを、アナタに言った三日後に、ボクが、路上で、見知らぬ人間に、襲われて、死んだら、困る…」


 ファラドが、言った…


 言ったのだ…


 まるで、冗談のように、言ったのだ…


 が、


 目が笑ってなかった…


 少しも、笑ってなかった…


 それどころか、妙に、緊張したというか…


 ハッキリ言って、怯えた表情だった…


 私は、驚いた…


 驚いたのだ…


 まさに、まさかだ…


 リンダの闇…


 私は、それを、たった今、垣間見た思いだった…


 180㎝のファラドが、175㎝のリンダ=ヤンの言葉に、怯えている…


 そして、その間近で、159㎝の、この矢田トモコが、焦って、それを見ていた…


 ファラドと、ヤン=リンダ…


 共に、美男美女…


 絵になる二人…


 まさに、映画のワンシーンのように、絵になる…


 まるで、リンダ・ヘイワース主演の映画のワンシーンのようだ…


 と、


 そこに、この矢田トモコがいる…


 どう見ても、ギャラリーの一人(涙)…


 一般の通行人かなにか…


 そんな立ち位置だ…


 それが、合う…


 実に、似合っている…


 うーむ…


 世の中、なにかが、間違っている…


 世の中、なにかが、おかしい…


 なぜ、この矢田トモコも、もっと、美人に生まれなかったのか?


 それが、わからん…


 わからんのだ(怒)…


 なぜ、六頭身の幼児体型に生まれたのか、わからんのだ…


 やはり、これは、神様か?


 神様の仕業か?


 私は、ふと、思った…


 神様が、この矢田にイジワルをしているのか?


 ふと、気付いた…


 それとも…


 それとも、前世で、この矢田が、なにか、悪いことをして、その報いでも、あるのか?


 いや、


 もしかしたら、前世では、このリンダよりも、はるかに、美人に、生まれて、次に生まれ変わったときは、わざと平凡なカラダに生まれたいと、神様に、申し出たのかも、しれん…


 私は、気付いた…


 なにしろ、美人は、面倒だ…


 これまで、美人の女を、それなりに、見てきたが、結構、大変なことも、多い…


 男に口説かれるのは、当然としても、同性の女に、その美貌を妬まれ、イジメられる女を見てきたことも、多々ある…


 正直、そんな光景を目の当たりにして、美人に生まれたかったなんて、これっぽっちも、思わなくなった(笑)…


 美人には、憧れる…


 これは、ウソではない…


 が、


 そのために、理不尽なイジメでも、受けたりしたら、困る…


 困るのだ…


 それに、なにより、この矢田トモコは、実は、結構、気が小さい…


 だから、それに、耐えられるかは、疑問だ…


 だから、そんな思いをするぐらいなら、今のままで、いい…


 美人に生まれなくていい…


 私は、そう思った…


 思ったのだ…


 すると、


 「…矢田…」


 と、私の名前を呼ぶ声がした…


 私は、その声に聞き覚えがあった…


 いや、


 ホントは、聞きたくない声だったからこそ、聞き覚えがあった…


 いや、


 忘れたくても、忘れられん声だった…


 声の主は、当たり前だが、あの矢口のお嬢様だった…


 と、


 ここに至り、ようやく、気付いた…


 この矢口のお嬢様…


 他ならぬ矢口トモコ、お嬢様のことを、だ…


 このお嬢様は、今、この壇上で、マイクを握って、司会をしている…


 が、


 今ここで、言いたいのは、そのことではない…


 今、ここで、言いたいのは、例えば、バニラのことだ…


 リンダに化けて、この場に現れたバニラのことだ…


 おそらく、このバニラが、リンダに化けて、この場に現れるのは、あのお嬢様には、わかっていたに違いない…


 つまり、ドラマでは、ないが、筋書きが、わかっているに、違いない…


 いや、


 ドラマや、映画、果ては、コンサートやライブに限らず、司会=MCは、あらかじめ、筋書きを、知っている…


 そうでなければ、次に、どう進めたら、いいか、わからないからだ…


 それに、これは、バニラだけではない…


 そもそも、あのお菓子を載せたカートを押してきた屈強な男たち…


 あの屈強な男たちの素性はなんだ?


 正体は、なんだ?


 ただの筋肉マニアではあるまい(笑)…


 さっぱり、わからん…


 私は、思った…


 そんなことを、考えていると、


 「…矢田…オマエも、リンダさんの元へ、行け…」


 と、矢口のお嬢様が、言った…


 なんだと?


 私は、思わず、リンダに化けたバニラではなく、本物のリンダ=ヤンを見た…


 すると、


 「…矢田…どこを見ている…リンダさんだ…今、オスマン殿下を抱き締めている…」


 と、矢口のお嬢様が、言った…


 私は、その言葉で、悟った…


 というか、


 ピンときた…


 もしかしたら、この矢田トモコを、ファラドと、ヤン=リンダから、離そうとしていることに、気付いたのだ…


 いや、


 違うかもしれんが、そう思った…


 が、


 そんなことは、おくびにも出さず、私は、リンダに化けたバニラの元に向かって、歩いた…


 賢明な私は、この場で、矢口のお嬢様に、歯向かう愚に気付いたのだ…


 ここで、口論する愚に、気付いたのだ…


 私は、黙って、リンダに化けたバニラの元へ、近付いた…


 すると、まずは、私の目に、オスマンが、飛び込んだ…


 やはりというか、オスマンは、子供の外見ながら、肌の色が浅黒い…


 サウジというか、アラブの人間だから、当たり前だ…


 その浅黒い肌のオスマンが、深紅のドレスをまとった、白人のバニラに抱かれている…


 リンダに化けたバニラに抱かれている…


 だから、どうしても、目立つ…


 目立つのだ…


 私が、オスマンに目をやると、オスマンが、ニヤリと笑うのが、見えた…


 その笑いは、子供の笑いではなかった…


 いみじくも、ファラドが暴露したように、30歳の大人の男の笑いだった…


 オスマンは、童顔だから、とっつぁん坊やの笑いだった…


 そして、私は、すぐに、オスマンの笑いの意味に気付いた…


 当たり前だが、オスマンが笑っているのは、バニラに抱かれているからではない…


 もっと、別の意味…


 おそらくは…


 そう思って、私は、ファラドとヤン=リンダを振り返った…


 ヤン=リンダと、ファラドは、そのままだった…


 さっき、私がいた場所と同じ場所にいた…


 が、


 さすがに、ファラドは、なにかに、気付いたらしい…


 「…これは、一体、どういうことだ?…」


 ファラドが、戸惑った様子だった…


 ファラドの戸惑った声が、私の耳まで、届いた…


 そして、傍目にも、なぜ、ファラドが、戸惑ったのか、わかった…


 なぜなら、ファラドとリンダを除く、このお遊戯大会に集まった父兄が、皆、ファラドと、リンダ=ヤンから、距離を置いていたからだ…


 避けていたからだ…


 避難したといってもいい…


 つまりは、ファラドとリンダ=ヤンは、ぼっち…


 二人ぼっちだった…


 そのことに、気付いたファラドは、


 「…なるほど、そういうことですか?…」


 と、ゆっくり、呟いた…


 「…すべて、お見通しって、わけですか?…」


 ファラドが、呟く…


 が、


 その言葉とは、裏腹に、ファラドには、微塵も、悲壮感はなかった…


 むしろ、明るかった…


 「…アナタ…やり過ぎたのよ…」


 ヤン=リンダが、言った…


 「…やり過ぎた…いえ、オスマン殿下を侮り過ぎた…」


 「…殿下を侮った…ボクが?…」


 「…そう…ひとは、誰でも、外見で判断する…要するに、例えば、ルックスが、良くて、この日本でいえば、東大を出ているような、頭のいい人間でも、頼りなかったり、いつも、冗談を言って、ふざけていると、大した人間だと思わない人間も多い…それと、同じ…」


 「…」


 「…まして、オスマン殿下は、小人症(こびとしょう)…3歳の幼児にしか、見えない…だから、ファラド…アナタは、オスマン殿下のことを、知らず知らずのうちに、侮ったのよ…」


 「…」


 「…ホントは、オスマン殿下は、優秀…とんでもなく、優れている…それは、ファラド、アナタも知っているはず…でも、身近にいて、オスマンの殿下のあの外見を見て、それを忘れたんでしょ?…」


 「…」


 「…私も、気付かなかったけども、ウィリアムが…」


 「…ウィリアム? もしかして、イギリス王室のウィリアム王子?…」


 「…そう…」


 そう言って、ヤンが、笑った…


 ヤン=リンダが、笑った…


 まさに、花が咲くような華やかな笑いだった…


 紛れもなく、ヤンではなく、リンダ・ヘイワースの笑いだった…


 ヤン=リンダの周辺が、一気に華やいだ…


 まるで、魔法を見るようだった…


 すると、近くで、


 「…叶わないな…」


 と、いう声がした…


 バニラの声だった…


 リンダに化けたバニラの声だった…


 すると、さらに、


 「…なにが、叶わない?…」


 という声がした…


 私は、急いで、声の主を見た…


 一体、誰が言ったか、興味があったからだ…


 それは、思いがけない人物だった…


 声の主は、リンダに化けたバニラに抱かれたオスマンだったからだ…


 バニラは、驚いた様子だった…


 が、


 すぐに、


 「…やはり、子供じゃないわね…」


 と、言った…


 「…マリアの言う通り…」


 が、


 オスマンは、


 「…叶わないのは、リンダ・ヘイワースの華やかさか…」


 と、バニラの胸の内を喝破した…


 見抜いたのだ…


 バニラが、驚いた表情になった…


 「…でも、ボクはアナタでも、気にならない…全然OK…」


 オスマンが、小さく囁く…


 すると、それを見たマリアが、


 「…オスマン、浮気はダメ…ダメよ…」


 と、いきなり、言った…


 言ったのだ…


 それを見て、思わず、バニラがプッと吹き出した…


 私は、驚いた…


 なにに、驚いたかといえば、マリアが、すでに、オスマンの女房面をしていたからだ…


 わずか、3歳にして、オスマンの女房面をしていたからだ…


 私は、それを見て、つくづく女は、怖いと、実感した…


 外見は、3歳の幼児だが、オスマンは、ホントは、30歳の大人…


 が、


 30歳の大人にも、かかわらず、明らかに3歳のマリアにビビっていた…


 尻に敷かれていた…


 これは、一体、どういうことだ?


 私は、思った…


 思ったのだ…


 すると、


 「…愛の力…」


 と、誰かが、言う声がした…


 私は、その声の主を見た…


 ヤン=リンダだった…


 「…オスマンは、マリアに首ったけ…だから、逆らえない…」


 その通りだった…


 見ると、オスマンは、嬉しそうに、マリアを見ていた…


 その視線は、優しかった…


 優しかったのだ…


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