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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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17/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 17

…忙しくなった…


 …忙しくなった…


 家に帰った私は、落ち着かなかった…


 誰も、私に、なにも、していないが、とにかく、私の中で、忙しかった…


 焦っていたのだ…


 パーティーに出席する…


 これは、滅多にないことだからだ…


 この平凡な矢田トモコが、クールの社長、葉尊の妻として、パーティーに出席する…


 当然、パーティーに出席した人間は、皆、私をチヤホヤするだろう…


 そのとき、どうすれば、いいか…


 考えて、おかねば、ならん…


 ただ、ニコニコと、笑っているのが、一番だが、ずっと、それをしていると、ただのバカだと思われる…


 一体、どうすれば?…


 考える…


 悩む…


 それとも、私は、クールの社長夫人として、なにか、難しい、今後のクールの日本での活動について、語らねば、ならんのか?


 クールの経営方針について、語らねば、ならんのか?


 いや、


 そんなバカなことはない(笑)…


 たとえ、クールの社長夫人とはいえ、まったくの経営の素人の私が、クールの経営について、語れば、まさに、失笑ものだ…


 なにも、わからぬ人間が、少しは、わかったような口を利けば、周りは、皆、失笑する…


 たとえ、態度に出さなくても、腹の中では、文字通り、抱腹絶倒だ…


 当たり前のことだ…


 だったら、やはり、私は、ただ、ニコニコとしていれば、いいのだろうか?


 いや、


 やはり、35歳にもなって、それは、難しい(苦笑)…


 これが、十代や、二十歳ぐらいの女ならいい…


 なにも、わからないからだ…


 周囲の人間も皆、子供だと思う…


 だから、ただ、ニコニコ笑っていても、許される…


 まして、それが、バニラやリンダじゃないが、美人なら、OK…


 ただ、ニコニコ笑っているだけで、OKだ…


 しかし、私のように、35歳ともなれば、それも難しい…


 やはり、相手の会話に合わせて、適切なコメントを出さなければ、ならない…


 それを、考えると、実に厄介…


 難しい…


 私も歳を取ったものだ(笑)…


 なぜ、歳を取ったかといえば、若ければ、なにも悩まないからだ…


 せいぜいが、どんな服を着れば、いいかとか、パーティーの作法について、周囲の人間から、事前に、教えてもらえばいい…


 それが、今の私のように、歳を取ってくると、


 …もし、こんな質問をされたら、どう答えればいいか?…


 とか、


 …こう答えては、相手に失礼だろうか?…


 とか、色々、考える…


 そして、考えれば、考えるほど、悩む…


 なぜなら、適切な答えなど、ないからだ…


 数学の解ではないが、正確な答えなど、存在しない…


 だから、悩むのだ…


 私が、自宅で、悩み続けていると、


 「…ピンポン…」


 と、チャイムが鳴った…


 誰か、やって来た…


 …一体、誰だろう?…


 私は、思った…


 実は、自宅を訪れる友人・知人は、少ない…


 って、いうか、ほとんど、いない…


 夫の葉尊は、会社とプライベートは、分ける人間なので、会社関係の人間は、誰一人、この自宅を訪れた者は、いない…


 私にしても、それは、同じ…


 すでに、35歳になった今、私の学生時代の友人は、皆無…


 誰もいない…


 仲が良かったのは、皆、バイト先の仕事仲間だった…


 そして、その仕事仲間も皆、バイト先が、変われば、疎遠になった…


 あくまで、同じバイト先だから、いっしょに、飲みに行ったりして、仕事の後も、楽しんだ…


 が、


 仕事先が変われば、それもなくなる…


 付き合いがなくなる…


 残念ながら、それが、真実…


 これは、以前、書いた、学生時代の友人と同じ…


 あくまで、同じ環境=学校にいるから、仲がいい…


 だから、学校を卒業して、数年すれば、付き合いがなくなる…


 学校では、行けば、会えるが、卒業すれば、互いに、時間を作って、会わなければ、ならない…


 だから、手間がかかる…


 が、


 最初は、誰もが、その手間をかけても、会うのが、大半だが、次第に、疎遠になる…


 その手間をかけるのが、億劫になるし、なにより、会話が噛み合わなくなる…


 学校を卒業して、皆、様々な経験をする…


 皆、会社が、違うから、体験が違う…


 すると、皆、体験が、違うから、それぞれの話が、噛み合わなくなる…


 誰かが、なにか、言っても、大げさに言えば、


ホントにそんなことがあるの?


 とでも、言うような反応をされることも、しばしばだ…


 そもそも、同じ体験をしていないから、これも仕方がない…


 だから、会わなくなる…


 そもそも、なにを話しても、話が噛み合わなくなるから、共通の体験といえば、過去の思い出話…


 だから、過去の思い出話が中心になるが、いつも、会うたびに、それでは、誰もが、辟易する…


 だから、会わなくなる…


 そういうことだ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…ピンポン…」


 と、もう一度、チャイムが鳴った…


 だから、私は、慌てて、インターホンに出た…


 そして、カメラ越しに映った画像で、そこに誰がいるのか、見た…


 そこには、長身の男がいた…


 いや、


 よく見ると、それは、長身の男装した女だった…


 リンダ・ヘイワースの男装した姿だった…


 「…リンダ?…」


 私は、思わず、叫んだ…


 「…お姉さん…」


 リンダは、インターホン越しに、恥ずかしそうに、照れ笑いを浮かべた…


 「…この姿のときは、ヤンと、呼んで、もらいたいな…」


 恥ずかしそうに、言う…


 実は、このリンダ…


 リンダ・ヘイワースは、普段、男装している場合が、多かった…


 それは、リンダ・ヘイワースであることが、バレると、すぐに、大騒ぎになるからだ…


 だから、普段は、男装している…


 男の格好をしている…


 そうすれば、リンダ・ヘイワースであることが、周囲にバレないからだ…


 いつも、リンダ・ヘイワースでいることは、それほど、大変なのだろう…


 リンダ・ヘイワースは、ハリウッドのセックス・シンボル…


 いい女の代表だ…


 だから、どこにいっても、いい女と見られる…


 おそらく、それが、リンダ本人にとっては、とてつもないプレッシャーなんだろう…


 リンダ・ヘイワースで、いるときは、パーティーでは、真っ赤なロングドレスだったり、真逆に、それ以外では、胸がこぼれそうな服を着て、パンツの見えそうな短いスカートを履いている…


 言葉は悪いが、目いっぱい女を売りにしている…


 わざと、女を売りにする格好をしている…


 それが、嫌なのだろう…


 それが、苦痛なのだろう…

 

 だから、普段は、リンダではなく、ヤンとして、過ごす…


 男の格好をして、男として、過ごす…


 女ではなく、男として、過ごす…


 そうすれば、誰も、リンダ・ヘイワースが、身近にいても、気付かないからだ…


 実にいいアイデアだ…

 

 私が、そんなことを、考えていると、


 「…お姉さん…開けてくれる?…」


 と、インターホン越しに、リンダ、いや、ヤンが、言ってきた…


 私が、葉尊といっしょに住む、このマンションは、来訪者が、インターホンで、訪れるときは、部屋から、ボタンで、マンションのエントランスを開けることができる…


 だから、私は、


 「…わかった…」


 と、言って、ボタンを押した…


 すると、ドアが開き、マンションの中に、ヤンが入るのが、わかった…


 それを確認すると、私は、慌てて、玄関に向かった…


 もう少しすれば、ヤンがやって来るからだ…


 事実、5分もしないで、ヤンが、私の部屋のチャイムを押した…


 だから、私は、急いで、ドアを開けた…


 そして、ヤンの姿を見ると、


 「…リンダ…オマエ、その恰好は?…」


 と、聞いた…


 が、


 返ってきた答えは、


 「…お姉さん…この格好でいるときは、ヤンと呼んでもらいたいな…」


 だった…


 思えば、このリンダと、初めて、会ったときも、ヤンとしてだった…


 葉尊の友人ということで、会ったのだ…


 それが、実は、ハリウッドのセックス・シンボル…リンダ・ヘイワースとは、思いもよらなかった…


 しかも、


 しかも、だ…


 私は、そのときに、リンダと対戦する予定だった…


 が、


 私は、そのときは、まだ、ヤンがリンダであることは、気付かず、


 …どうすれば、リンダに勝てるか?…


 と、ヤンに相談していた…


 我ながら、呆れるほどの失態だった…


 今、思い出しても、顔が、羞恥で、赤くなる…


 この矢田トモコの35年の人生を振り返っても、一番か、二番かの失敗だった…


 が、


 その勝負の後、私とリンダ=ヤンは、仲良くなった…


 無二の親友になった…


 リンダが、私を認めたのだ…


 そして、


 私も、リンダを認めた…


 あのバニラとは、大違い…


 あの糞生意気なバニラとは、大違いだった…


 「…オマエ…その恰好は?…」


 私は、これまでのリンダ・ヘイワースと、私との奇妙な縁を心に感じながら、リンダ…いや、ヤンに聞いた…


 すると、目の前のヤンが、恥ずかしそうに、


 「…この格好って…普段は、私は、この格好でいるときが、多いでしょ? …お姉さん…忘れたの?…」


 と、答えた…


 そう言われると、私は、


 「…」


 と、返答に詰まった…


 まさに、その通りだった…


 「…それとも、お姉さん…私が、どこかに、逃げ出すとでも、思った?…」


 私をからかうように、聞いた…


 が、


 一見、からかうような、言い方だったが、その表情は、真剣だった…


 明らかに、真剣だった…


 だから、私は、またも、


 「…」


 と、答えに、窮した…


 どう、答えて、いいか、わからなかった…


 すると、リンダ…いや、ヤンが、


 「…逃げ出すと、思った?…」


 と、繰り返した…


 私は、とっさに、


 「…オマエは、そんなヤツじゃないさ…」


 と、答えた…


 「…そんなヤツじゃないって?…」


 「…オマエは、葉敬に恩義がある…だから、葉敬を裏切れないさ…」


 私は、断言した…


 が、


 本当は、適当に、言っただけだった…


 このリンダ…いや、ヤンは、以前、葉敬に世話になった…


 それを、思い出したのだ…


 だから、私は、それを言っただけだったが、目の前のヤンは、明らかに、ショックを受けたようだった…


 「…そう…そうよね…」


 と、言いながら、一人納得していた…


 「…やはり、お姉さんも、そう思うんだ…」


 ヤンが、寂しそうに、呟く…


 だから、私は、ヤンを、元気づけるべく、


 「…ヤン…いや、リンダ…オマエは、他人様から、受けた恩義を忘れる人間なんかじゃないさ…」


 と、言った…


 リンダの美点を、上げたのだ…


 「…オマエは、美人で、性格もいい…いいところだらけさ…あのバニラとは、似ても似つかんさ…」


 「…バニラ?…」


 私の言葉に、ヤンが、呆気に取られた…


 「…そうさ…あのバニラも、オマエ同様美人だが、性格が、悪い…それに、比べ、オマエは、性格もいい…」


 私が、言うと、


 「…お姉さん…バニラと仲がいいものね…」


 と、今度は、私が、絶句する言葉を吐いた…


 「…仲がいい? …私が、あのバニラと?…」


 ありえん…


 ありえん、言葉だった…


 よりによって、私が、あのバニラと?


 ふざけてもらっては、困る…


 「…ふざけて、もらっては、困るさ…私は、バニラとなんか…全然仲良くなんて、ないさ…」


 私が、怒って言うと、なぜか、目の前のヤンが、笑った…


 笑ったのだ…


 「…なんだ…オマエ、その笑いは?…」


 「…ケンカするほど、仲がいいって、言葉もあるものね…」


 「…なんだと?…」


 「…お姉さんのキャラよね…」


 と、目の前のヤンが笑う…


 「…バニラも、少し前までは、あんなキャラじゃなかった…いつも、ツンとして、突っ張っている印象だった…元々、日本でいえば、ヤンキー上がり…学もなく、あるのは、あの美貌だけ…だから、顔だけの女とか、さんざ、周囲から陰口を叩かれた…だから、余計に突っ張るというか…ある種、殻に閉じこもった印象だった…」


 「…」


 「…でも、お姉さんに会って、変わった…ビックリするほど、変わった…」


 「…どう、変わったんだ?…」


 「…明るくなった…」


 「…明るくだと?…」


 「…なにか、毎日が、楽しいような…それが、バニラの日常に現れた…そして、周囲の人間は、皆、その変化に気付いた…あの葉敬も…」


 「…お父さんもだと?…」


 「…だから、葉敬も、お姉さんに、感謝している…」


 「…そうか…」


 私は、言った…


 なんだか、わからんが、皆、私を過大評価しているようだ…


 私は、平凡な女…


 絵に描いたような、平凡な女だ…


 にもかかわらず、まるで、私が、特別な才能があるように、持ち上げる…


 そんなことがあるはずがない…


 バカバカしい(笑)…


 そんな特別な才能があれば、今、私は、東大を出て、財務省で、キャリア官僚になり、将来の事務次官と、言われ、将来を嘱望されているだろう…


 が、


 現実は、就職氷河期に、もろにぶち当たり、

就活は、全滅…


 仕方なく、バイト生活というか、フリーター生活に突入して、今日まで、生きてきた…


 葉尊と結婚しなければ、今も、どこかで、バイトをしていたはずだ…


 そんな私に、特別な才能なんて、あるはずが、なかった…


 実に、バカバカしいことだ…


 「…でも、お姉さんの言う通りかも…」


 ヤンが、突然、言った…


 「…なにが、だ?…」


 「…私が、葉敬から、受けた恩…要するに、学生時代に金銭的に援助を受けて…」


 ヤンが、しんみりと、言う…


 それから、一転、笑って、


 「…こんなことなら、葉敬と関係を結んで、援助交際でも、すれば、よかった…」


 「…なんだと?…」


 「…だって、そうすれば、葉敬に恩を受けたとは、思えなくなる…男女の関係になれば、お金をもらう代わりに、カラダを提供したことになる…」


 「…それは、無理さ…」


 「…どうして、無理なの?…」


 「…オマエのキャラさ…オマエは、基本的に真面目だ…だから、売春も援助交際もできないさ…」


 私が断言すると、


 「…」


 と、ヤンが黙った…


 反論できなかった…


 「…オマエは根が真面目なのさ…だから、今もこうして、ここにいる…根が真面目でなければ、とっくに逃げだしているさ…」


 「…たしかに…」


 ヤンが、同意した…


 「…でもね…お姉さん…」


 「…なんだ?…」


 「…それを言えば、バニラも真面目よ…」


 「…あのバニラが、か?…」


 「…そうよ…だって、真面目でなければ、とっくにモデルの仕事から逃げ出している…

」


 「…逃げ出す?…」


 「…どんな仕事も最初から、華やかなスポットライトを浴びることは、不可能…できない…稀に、二世とか三世で、親や、祖父母が有名人ならば、最初から、スポットライトを浴びることもできるけれども、それも一瞬…」


 「…」


 「…あとは、努力と運…」


 「…努力と運だと?…」


 「…いくら、努力しても、運がなければ、ダメ…成功しない…そんなこと、お姉さんだって、わかっているはず…」


 たしかに、それは、わかる…


 私は、まったくもって、平凡な女だが、テレビに出る芸能人を見ても、どうして、成功したのか? と、首を傾げたくなる人間はいる…


 だから、答えは、


 …ただ、運がいい…


 だけなのだろう…


 だが、普通は、そんな運は、誰も持たない…


 それは、例えれば、一億円の宝くじに当たるようなものだからだ…


 だが、意地悪な見方をすれな、その運がどこまで、続くかだ…


 その運が一生、続けば、それに越したことはないからだ…


 それで、一生、生きて行けるからだ…


 私は、そんなことを、考えた…


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