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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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16/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 16

…思わぬ展開だと?…


 …一体、どういう展開だ?…


 私は、思った…


 思いながら、夫の葉尊を見た…


 が、


 時間切れだった…


 葉尊が、時計を見て、


 「…もう、こんな時間だ…今日は、これから、出かける用事がある…」


 と、言った…


 「…どこに、行くんだ?…」


 と、私は、聞いた…


 「…経団連です…」


 「…経団連だと?…」


 「…ハイ…今度、アラブの王族が、やってきたときに、クールだけじゃなく、日本の企業も参加させて、もらいたいと、経団連の方から、要請を受けてまして…」


 「…そうか…」


 「…誰もが、同じ…せっかく、アラブの王族が、やって来るわけだから、日本の企業も、パーティーに参加して、とりあえず、顔を合わせたいわけです…」


 「…」


 「…アラブの王族が、堂々と、日本にやって来ることは、そんなに、あることじゃないですから…実は、これには、日本政府というか…経済産業省にも頼まれていて…」


 「…日本政府だと?…」


 これには、私も絶句した…


 …まさか?…


 …まさか?…


 話が、そんな大きなことになっているなんて?…


 想像もできんかった…


 が、


 考えてみれば、当たり前かもしれん…


 なにしろ、相手は、ハリウッドのセックス・シンボル…リンダ・ヘイワースだ…


 世界中に知られた美の化身だ…


 そんな、大物をパーティーに呼ぶのだ…


 普通なら、できんことだ…


 だから、クールが、リンダ・ヘイワースを、パーティーに呼べば、それを、聞きつけて、我も我もと、他の企業が、パーティーに参加したいと、言い出しても、不思議ではない…


 私は、そう思った…


 が、


 それだけではなかったかもしれない…


 「…やるわね…葉尊…」


 と、バニラが、口を出した…


 …どういう意味だ?…


 …一体、バニラは、なにを言いたい?…


 …謎だった…


 「…葉尊…アナタ、わざと、今度、アラブの王族がやって来るときに、リンダが接待すると、あちこちで、言って回ったでしょ?…」


 …なんだと?…


 …どういうことだ?…


 「…企業のお偉いさんは、世界中、どこでも、みんな男だらけ…女は、ごくわずか…そんな中で、ハリウッドのセックス・シンボルのリンダ・ヘイワースが、パーティーに参加するといえば、70歳のおじいちゃんも、一目、リンダを見たいと言い出すに決まっている…そうなれば、自然と、パーティーを主催するクールの株が上がる…」


 「…」


 「…それを見抜いて、わざと、あちこちで、リンダが、参加すると、触れ回っているんじゃないの?…」


 「…なにもかも、お見通しって、わけか…」


 葉尊が、苦笑した…


 私は、驚いた…


 まさか?…


 まさか、夫の葉尊が、そんな器用な真似ができるとは、思わなかったからだ…


 夫の葉尊は、真面目で、不器用な男…


 ただ、真面目で、融通の利かない男とばかり、思っていた…


 それが…


 こんな芸当ができるとは?…


 私は、夫の葉尊を見直した…


 見直したのだ…


 ただの融通の利かない、真面目な男ではなかった…


 ただのイケメンではなかった…


 長身のイケメンで、実は、頭も良かった…


 キレキレだった…


 うーむ…


 なんと、私にふさわしい!


 今さらながら、その事実に、気付いた…


 「…でも、それで、このバニラも安心した…」


 と、バニラが、ニヤリとした…


 「…安心? …どうして?…」


 と、葉尊…


 「…だって、そんな大規模なパーティーならば、私もリンダも、アラブにお持ち帰りされる危険は少ないわけでしょ?…」


 バニラが、語る…


 「…でも、案外、それを見越して、葉尊は、パーティーを大げさにしたわけ?…」


 バニラが、からかうように、言った…


 が、


 葉尊は、生真面目な顔で、バニラの言葉を否定した…


 「…すべては、父の指示さ…」


 「…葉敬の?…」


 「…クールは日本の企業…ただし、経営陣は、台湾から来ている…」


 「…」


 「…だから、まずは、日本に馴染まなきゃ、いけないし、そのためには、大規模なパーティーでもして、それをクールが主催するのが、一番の近道だと、教えられたのさ…それで…」


 「…そう…」


 バニラが短く、答えた…


 「…たしかに、葉敬らしい指示ね…」


 バニラは、言った…


 が、


 言いながらも、どこか、バニラの表情は、浮かない感じだった…


 それは、葉尊も、すぐに、気付いた様子だった…


 「…どうした? バニラ…なにか、不満なのか?…」


 葉尊の質問に、バニラが、苦笑した…


 「…これは、葉尊…アナタに言っても仕方がないことだけれども…」


 と、口を開いた…


 「…つくづく、私もリンダも、葉敬の手駒の一つだと、認識させられる…思わされる…」


 「…どういうことだ?…」


 と、葉尊…


 「…私もリンダも、世界に知られたモデルや、女優…だから、私たちが、パーティーに参加すれば、パーティーの格も上がるし、そこに、参加する人間も、そんなパーティーに参加できたことを、喜ぶ…大げさにいえば、パーティーに参加できたことが、名誉と、思える…」


 「…」


 「…それが、葉敬の狙い…つくづく、商売人だと思う…」


 そう言って、バニラは、ため息をついた…


 私は、バニラの気持ちがわかった…


 バニラが、なにを言いたいのか、わかった…


 バニラもリンダも、駒…


 葉敬の、手駒の一つに過ぎないと言いたいわけだろう…


 そして、バニラもリンダも、若く、美しいから、価値がある…


 駒として、利用価値がある…


 が、


 その若さも、美しさも失われたら、どうだ?


 その不安が、あるに違いない…


 葉敬は、商売人だから、利用できるものは、利用する…


 利用できるうちは、利用する…


 そんなスタンスかもしれない…


 だが、


 利用できなくなったら、どうする?


 利用価値が、なくなったら、どうなる?


 バニラは、不安なのかもしれない…


 バニラもリンダも、誰が見ても、美しいが、それは、なにより、若いから…


 どんな美人でも、50歳になれば、美人を売りにできない…


 40歳でも、無理…


 もっと、若く美しい女に、とって代わられる…


 それが、バニラは、わかっている…


 いや、


 バニラだけではない…


 リンダも、わかっている…


 そして、世間の女、誰もが、わかっている…


 だから、若さがなくなったときが、心配なのだろう…


 自分の唯一の武器…


 美人という武器がなくなる…


 おおげさにいえば、美人は、魔法…


 だから、美人は、魔法使い…


 たとえば、同じことでも、会社でも、学校でも、男に頼んだ場合、効果が違う…


 私のような平凡な女が頼んでも、男が、適当にスルーすることがあるが、美人が頼めば、真摯に向き合ってくれる…


 つまり、男の態度が、違うのだ…


 これが、魔法…


 美人という魔法の効果だ…


 が、


 その魔法も、いつかは、使えなくなるときがくる…


 それが、歳をとったとき…


 誰もが、一番それが、わかりやすいのが、AVの世界…


 いくら、キレイで、可愛くても、歳を取れば、あっと言う間に、需要がなくなる…


 それが、誰もが、わかりやすいほど、わかっている真実…


 しかも、


 しかも、だ…


 バニラもリンダも、その美人で、飯を食っている…


 世間には、バニラやリンダには、足元にも及ばないが、美人は、それなりにいる…


 が、


 美人を売りにして、生きている女は、ごくわずか…


 モデルや芸能人ぐらいのものだ…


 だから、美人を売りにする女は、若さが、なくなったときが、怖いのだろう…


 例えば、バニラのように、葉敬という大金持ちの愛人という、今の立場は、歳を取れば、微妙になる…


 バニラが、歳を取り、価値がなくなれば、葉敬は、別の、若い美人を愛人にする可能性が高いからだ…


 そして、そのときに、バニラは、どうすればいいか?


 不安に駆られるのだろう…


 私は、思った…


 と、


 思ったとき、ふと、


 …報いが来る!…


 と、私は、思った…


 予言した…


 このバニラ…バニラ・ルインスキーは、糞生意気な女…


 性根のねじ曲がった糞生意気な女だ…


 その女が、若さがなくなり、路頭に迷う…


 私はそれに気付いたとき…


 この矢田トモコの勝ちだと、気付いた…


 なぜなら、私は、平凡…


 美人でも、なんでもない…


 だから、歳を取っても、平気…


 なにも、変わらないからだ…


 ただ、歳を取っただけだからだ…


 美人を売りにする女は、美人でなくなったときが、怖い…


 が、


 この矢田トモコに、そんな心配はない…


 心配は、無用…


 自分が、美人でないことは、ちょっぴり、悔しいが、この、目の前のバニラや、あのリンダが、歳を取り、若さがなくなることを、恐れることを、思うと、そんな心配は、少しもしない、私が、良かった…


 若さが、なくなり、自分が、美人でなくなることで、周囲の人間の態度が、変わってくる…


 周囲の人間の対応が、変わってくる…


 それは、まるで、身近な例えでいえば、それなりに、世間で、知られた会社の経営者が、破産したようなもの…


 破産したことで、世間の人間の態度が、変わって来る…


 それまで、ちやほやした人間が、皆、いっせいに離れる…


 要するに、その人間に利用価値がなくなったから、離れるのだ…


 これは、会社でも、芸能人でも、同じ…


 その人間が、会社で、偉かったり、芸能界でも、それなりに、成功しているから、周囲が、チヤホヤする…


 それと、同じだ…


 美人の場合は、男の下心が大半だが、まあ、似たようなものだ(笑)…


 つまりは、美人でも権力でもなんでも、力を、持っている…


 それがなくなれば、周囲で、ちやほやした人間は、大半が離れるということだ…


 話が、いささか、長くなったが、バニラの天下も、もはやこれまで…


 後、何年、続くか、知らんが、いずれ、この矢田トモコの軍門に下るときがくる…


 美人という魔法がなくなり、ただの一般人になる…


 そして、私は、そのときも、今と同じ、クルールの社長夫人…


 葉尊の妻だ…


 つまり、私の勝ちだ…


 この生意気な女が、美人でなくなり、この矢田トモコが、社長夫人のまま…


 そのときは、このバニラを、私の秘書にでもして、こき使ってやる…


 私は、ふと、思いついた…


 あるいは、


 私の専用の使用人として、こき使ってやる…


 そう、思った…


 私は、決して、悪い人間ではない…


 性格も、決して、悪くはない…


 そう、信じている…


 が、


 それでも、このバニラは、許せんかった…


 このひとのいい、矢田トモコですら、許せんかったのだ…


 シンデレラの継母ではないが、いずれ、このバニラをこき使ってやる…


 せいぜい、今のうちに、調子に乗っていれば、いいさ…


 私は、思った…


 なぜか、バニラが、歳を取り、若さがなくなり、美人でなくなることを、恐れる不安に、同情するつもりだったが、それが、いつのまにか、バニラをこき使う、私の未来が見えた…


 はっきりと、見えたのだ(笑)…


 それに、気付いた今、私は、余裕をもって、バニラ…


 バニラ・ルインスキーを見ることができた…


 圧倒的な知名度を持つ、目の前の桁外れの美人を見ることができた…


 …せいぜい、今のうちに調子に乗っていれば、いいさ…


 …勝負は、二十年後…


 …いや、三十年後さ…


 そのときは、私の使用人にして、徹底的にこき使ってやるさ…


 それを、思うと、自然と、笑みがこぼれた…


 私の大きな口が、自然と、笑いだしそうだった…


 すると、それを見た、バニラが、


 「…なに…その笑い?…」


 と、怯えた…


 「…なに、その笑い? …私が、今、なにか、お姉さんに、面白いことでも言った?…」


 「…なんでも、ないさ…」


 私は、笑みをこぼしながら、言った…


 「…なんでも、ないって、そんな顔をして、なんでもない、わけは、ないでしょ?…」


 「…私が、なんでもないと言ったら、なんでもないのさ…」


 私は、笑いながら、言った…


 自分でも、自分の笑いが、止められなかったのだ…


 「…ちょっと、葉尊…なにか、言ってやって…」


 バニラが、葉尊に助けを求めた…


 葉尊は、戸惑ったが、


 「…お姉さん…その笑いは…」


 と、戸惑いつつも、私に聞いた…


 が、


 さすがに、夫の葉尊でも、将来、バニラをこき使ってやるなどという、本当のことは、言えない…


 それでは、この矢田トモコの性格が、悪く思われる…


 矢田トモコの人間性が、疑われるからだ…


 だから、夫の葉尊の質問にも、


 「…なんでもないさ…」


 と、答えるしかなかった…


 「…なんでもないって、お姉さん…でも、その笑いは…」


 葉尊が、戸惑う…


 しかしながら、いかに夫の葉尊でも、本当のことは、言えんかった…


 言えるはずが、なかった…


 すると、隣のバニラが、


 「…わかった…」


 と、大声を出した…


 …ナニッ?…


 …わかった?…


 私は、動揺した…


 私の性格の悪さが、夫の葉尊にバレては、困るからだ…


 だから、とっさに、なにか、言おうとしたが、その前に、バニラが、


 「…お姉さん…きっと、パーティーに出れるのが、嬉しいのよ…」


 と、答えた…


 「…パーティーに出れるのが、嬉しい?…」


 と、葉尊…


 「…このお姉さん…元々、目立ちたがり屋でしょ? …だから、パーティーで、注目されるのが、嬉しいのよ…」


 …目立ちたがり屋?…


 …この矢田トモコが?…


 私は、頭にきて、


 「…私は、目立ちたがり屋じゃなんかじゃないさ…」


 と、言おうとしたところ、夫の葉尊が、


 「…バニラ…お姉さんは、目立ちたがり屋なんかじゃないよ…」


 と、穏やかに言った…


 「…お姉さんは、そんなひとじゃない…」


 穏やかだが、力強い調子だった…


 私は、嬉しかった…


 夫の葉尊は、私をわかってくれていると、思ったのだ…


 と、同時に、


 …やはり、将来、バニラを、使用人にして、こき使うことはできん…


 と、諦めた…


 夫の葉尊に、


 「…お姉さんは、そんなひとだったんですか?…」


 と、言われるのが、辛かったのだ…


 やはり、夫の葉尊の前では、性格のいい、善良な矢田トモコを演じ続けなければならん…


 そう、気付いた…


 そう、考えると、自然と、私の顔から笑みが消えた…


 あれほど、楽しそうだった私の顔が、至極、真面目になった…


 むしろ、深刻な顔になったというのが、正しかった…


 そして、私は、夫の葉尊を見た…


 バニラではなく、夫の葉尊を見た…


 考えてみれば、今、この場所に、クールの社長夫人として、いれるのは、夫の葉尊のおかげ…


 葉尊と結婚できたから、ここにいれるのだ…


 だから、夫の葉尊は、私の恩人…


 この平凡な矢田トモコを、妻に選んでくれた大恩人だ…


 それを、思ったとき、どんなことが、あっても、この葉尊を裏切ってはならんと、思った…


 葉尊が、哀しむことも、してはいかんと、思った…


 結果、バニラを将来、私の使用人として、こき使う、私の夢は、潰えた…


 残念ながら、夢と消えた(涙)…


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