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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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134/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 134

「…矢田ちゃん…こんなところで、なにをしているの?…」


 マリアが、繰り返した…


 「…なにを、していると、言われても…」


 私は、言い淀んだ…


 すぐには、答えられんかった…


 「…ママに頼まれたの?…」


 「…バニラに? …どうして、そう思うんだ?…」


 「…だって、矢田ちゃんと、ママは仲良しだから…」


 「…なんだと?…」


 思わず、口走って、しまった…


 つい、マリアの前で、口走って、しまった…


 さすがに、マリアの前で、母親のバニラの悪口を言うのは、マズいと、思ったが、つい、口走って、しまったのだ…


 「…だって、ママは、いつも、言っているよ…私も、矢田ちゃんのように、生きたいって…」


 「…私のように、生きたいだと?…」


 「…うん…誰にも、気兼ねせず、自分の思うままに、生きたいって…」


 マリアが言う…


 なんだと?


 あのバニラが、そんなことを?


 あのバカ、バニラが、そんなことを?


 私が、考えていると、


 「…誰もが、思うことは、同じね…」


 と、リンダが、言った…


 「…みんな、同じ…」


 「…たしかに…」


 と、ファラドが、同調した…


 「…誰もが、このお姉さんに、憧れる…このお姉さんの生き方に、憧れる…」


 リンダが、言う…


 「…ママは、矢田ちゃんが、好き…だから、お願いだから、矢田ちゃんも、ママを好きになって…」


 マリアが、私に、頼み込んだ…


 私は、どうして、いいか、わからんかった…


 私は、バニラが、嫌いだ…


 なぜなら、あのバニラは、バカだからだ…


 バカ、バニラだからだ…


 しかも、


 しかも、だ…


 バカなくせに、この矢田トモコを、バカにする…


 私は、それが、許せんかった…


 ハッキリ、言って、バニラの取り柄といえば、そのルックスと、知名度だけだ…


 180㎝の長身と、彫りの深い顔…


 まるで、大げさに言えば、ギリシャ彫刻の美女のようだ…


 が、


 ただ、それだけだ…


 ただ、それだけの女だ…


 要するに、取り柄は、顔だけ…


 顔だけの女だ…


 それが、この矢田トモコ様を、バカにするとは…


 私は、それが、許せんかったのだ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…お姉さんは、どうして、バニラが、嫌いなの?…」


 と、あろうことか、リンダが、直球で、聞いた…


 マリアの前で、聞いたのだ…


 だから、さすがに、私も、答えられんかった…


 さすがに、娘のマリアの前で、母親のバニラの悪口を言えんと、思ったのだ…


 だから、


 「…」


 と、答えられんかった…


 だから、


 「…」


 と、なにも、言えんかった…


 すると、リンダが、


 「…きっと、お姉さんは、バニラが、男なら、夢中になるに、決まっている…」


 と、言い出した…


 私は、驚いた…


 驚いたのだ…


 なぜ、驚いたかと、いえば、そんなことは、考えたことも、ないことだったからだ…


 「…どうしてだ?…」


 私は、聞いた…


 「…どうして、そんなことを、言うんだ?…」


 私は、聞いた…


 聞かずには、いられんかった…


 「…だって、お姉さん…イケメン好きでしょ?…」


 リンダが、笑いながら、答える…


 「…きっと、バニラが、男なら、物凄いイケメンよ…」


 「…なんだと?…」


 思わず、口走った…


 たしかに、バニラが、男なら、物凄いイケメンかも、しれん…


 だが、


 だが、だ…


 それでも、バニラは、気に入らん…


 気に入らんのだ…


 だから、


 「…そんなことは、ないさ…」


 と、答えた…


 「…バニラが、男に、生まれて、イケメンでも、私は、好きには、ならんさ…」


 と、言った…


 強く、言った…


 「…とにかく、美人だろうが、イケメンだろうが、バニラは、嫌いさ…嫌いなのさ…」


 私は、強く、断言した…


 強く、断言したのだ…


 誤解があっては、困ると、思った…


 たとえ、少しでも、私が、あのバニラを好いていると、誤解されては、困ると、思ったのだ…


 すると、


 「…矢田ちゃん…お願いだから、ママと仲良くして…」


 と、マリアが、私に懇願した…


 私は、


 「…ダメさ…」


 と、言いたかったが、言えんかった…


 さすがに、言えんかった…


 だが、マリアの頼みを、断ることも、できん…


 だから、


 「…バニラ次第さ…」


 と、私は、言ってやった…


 「…ママ次第?…」


 「…そうさ…あのバニラが、これまでの私に対する行いを、悔い改めて、接すれば、考えて、やっても、いいさ…」


 私は、提案した…


 「…が、今のままでは、ダメさ…百万年経っても、ダメさ…」


 私は、いつしか、マリアの前で、威厳を保つため、腕を組んで、言った…


 「…まあ、すべては、バニラ次第さ…バニラのこれからの態度次第さ…」


 と、私は、いわば、あのバニラにボールを投げた…


 決めるのは、バニラ…


 バニラ次第と、言ってやったのさ…


 が、


 マリアは、なぜか、


 「…矢田ちゃんは、それで、いいの?…」


 と、聞いた…


 「…なんだと? …どうしてだ?…」


 「…だって、ママ…この前、お仕事の関係者から、ジャニーズや、エグザイルのコンサートのチケットを、もらって、私は、行けないから、今度、お姉さんに、あげると、言ってたよ…」


 「…なんだと?…」


 私は、驚いた…


 私は、ジャニーズも、エグザイルも、嫌いではない…


 いや、


 イケメンは、嫌いではないのだ…


 だが、


 果たして、それが、本当か、どうかは、わからん…


 マリアの話を疑うわけではないが、それが、本当か、どうかは、わからん…


 すべては、チケットを手にしてから…


 イケメンのコンサートのチケットを、手に入れてからだ…


 だから、


 「…マリア…それは、バニラが、コンサートのチケットを、私に、くれてからだ…」


 「…矢田ちゃんに、上げてから…」


 「…そうさ…別に、マリアの話を疑ってるわけじゃないさ…でも、現物を見ないとな…話だけでは、ダメさ…」


 私は、言った…


 言ったのだ…


 すると、隣で、


 「…まったく、このお姉さんは…」


 と、リンダが、苦笑した…


 「…ずる賢いと、いうか…調子が、いいと、いうか…」


 「…それでいて、憎めない…」


 ファラドが、後を継いだ…


 「…誰もが、アンタを好きになる…ホント、得な性格だよ…」


 と、ファラドが、笑った…


 笑ったのだ…


 私は、頭に来たが、態度には、出さんかった…


 損して、得取れという言葉ではないが、花より団子…


 実物をもらって、ナンボだからだ…


 言葉よりも、行動…


 どんなに、褒められることよりも、なにか、もらった方が、得だ…


 誠意は、金で、示せ…


 それが、私の行動基準だ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…そんなことより…」


 と、いきなり、ファラドが、言い出した…


 「…そんなことより、兄貴が、どう出るかだ?…」


 「…いきなり、この保育園に、突入してくるということは、あり得るの?…」


 「…それはない…この保育園には、世界中のセレブの子弟が、集まっている…いかに、兄貴と、いえども、このセレブの保育園の子弟に、キズをつけたり、ケガをさせたりすれば、どれほど、厄介か、わかっている…」


 「…だったら、どうするつもり…」


 「…兄貴を、説得できるのは、さっきも、言ったように、このマリアだけだ…そして、このマリアを説得できるのは、このお姉さんだけだ…」


 ファラドが、言った…


 「…たしかに…」


 リンダも、相槌を打った…


 そして、リンダと、ファラドは、同時に、私とマリアを見た…


 見たのだ…


 すると、


 「…私が、どうしたの?…」


 と、マリアが、不思議そうに、言った…


 私は、


 「…オスマンさ…」


 と、言ってやった…


 「…オスマンが、どうかしたの?…」


 「…オスマンは、悪いヤツだったのさ…」


 「…悪いヤツ? …どうして、悪いヤツなの?…」


 「…どうしてって、言われても…」


 私は、言い淀んだ…


 すると、リンダが、


 「…オスマンは、偉くなりたがってるの?…」


 と、告げた…


 「…偉く?…」


 「…そう…」


 「…でも、オスマンって、ホントは、偉いんでしょ?…」


 マリアが、意外なことを、言った…


 だから、私と、リンダと、ファラドが、驚いて、互いの顔を見合わせた…


 そして、


 「…どうして、そんなことが、わかるんだ? マリア?…」


 と、私は、真っ先に、聞いた…


 「…だって、オスマンは、迎えのクルマが、やって来て、それに、乗り込むときも、なんだが、偉そうだったもの?…」


 「…偉そう?…」


 今度は、リンダが、言った…


 「…でも、それを、言えば、この保育園は、セレブの子供たちが、通う保育園だから、皆、迎えのクルマが、来ても、偉そうじゃないの?…」


 「…違う!…」


 マリアが、すぐさま反論した…


 「…迎えのクルマは、皆、大抵が、ママたちが、やって来るけれども、オスマンは、いつも、大人の男のひとたちが大勢やって来て、それに、偉そうに振る舞うの…」


 「…偉そうに?…」


 と、リンダ…


 「…そうよ…」


 マリアが、したり顔で、言う…


 それから、ファラドの顔を、ジッと見て、


 「…このオジサンも、よく、オスマンを迎えに来ていた…」


 と、言った…


 その言葉に、ファラドは、


 「…オジサン…」


 と、苦笑した…


 「…たまんねえな…オレは、まだ二十代だよ…」


 と、ファラドは、ぼやく。


 「…オレが、オジサンで、このお姉さんが、矢田ちゃんなんて…」


 と、続ける…


 「…オレは、このお姉さんのはるか年下なのに…」


 「…矢田ちゃんは、いいの…」


 マリアが、怒鳴った…


 「…矢田ちゃんは、矢田ちゃん…矢田ちゃんで、いいの…」


 マリアが主張する…


 「…どうして、矢田ちゃんで、いいの?…」


 リンダが、不思議そうに、聞いた…


 その答えは、


 「…矢田ちゃんは、仲間だから…」


 と、マリアが、言った…


 「…仲間?…」


 と、リンダ…


 「…ウン…アタシたちと、いっしょに、なって、楽しそうに、遊ぶ大人は、矢田ちゃんだけだから…」


 そのマリアの回答に、リンダと、ファラドが、顔を見合わせた…


 「…たしかに…」


 リンダが、同意する…


 「…子供は、よく見ている…」


 ファラドが、感心したように、言う…


 「…誰が、自分の味方だか、よく、わかっている…」


 すると、マリアが、


 「…オスマンが、どうかしたの?…」


 と、心配そうに、聞いた…


 私は、そんなマリアの顔が、不思議だった…


 これは、もしや、マリアは、なにか、知っているのでは?


 ふと、気付いた…


 女の直感だった…


 矢田トモコの直感だった…


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