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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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133/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 133

あのバカめ!


 バカ、バニラめ!


 今に見ていろ!


 今に見ていろ…だ!


 この善良な矢田トモコが、怒りに、身を震わせていると、


 「…どうしたの? …お姉さん…そんなに、真っ赤な顔をして…」


 と、リンダが、言った…


 私は、即座に、


 「…バニラさ…」


 と、答えた…


 「…バニラが、どうしたの?…」


 「…あのバカ、バニラに、騙されたのさ…」


 「…バニラに騙された? …どういうこと?…」


 「…今日、ここにやって来た理由さ…」


 「…お姉さんが、ここにやって来た理由?…」


 「…そうさ…今朝、あのバカ、バニラに、頼まれたのさ…」


 「…バニラに?…」


 リンダが、驚きの声を上げた…


 正直、意外だった…


 「…そうさ…だって、考えて見ろ…なにも、なければ、今日、ここに、私が、やって来るわけがないだろ?…あのバカ、バニラに、マリアが、心配だから、と言われて…ひとのいい私は、つい、わかった…私が、なんとか、してやるさと、言ったのさ…」


 私は、言った…


 すると、リンダと、ファラドが、目を見合わせた…


 正直、困った様子だった…


 ファラドが、


 「…それは、たぶん、偶然だと思う…」


 と、遠慮がちに、言った…


 「…なに、偶然だと?…」


 私は、言った…


 「…そんな偶然が、あるか!…」


 私は、怒鳴った…


 怒鳴ったのだ…


 「…いや、ホントに、偶然だと、思う…今日、オレが、ここに、逃げ込んだのは、兄貴が、この保育園から、出たのを、見たから、だ…」


 「…なんだと?…」


 「…オレは、兄貴の監視役だ…だから、オヤジの命を、守っただけだ…」


 「…それに…」


 と、今度は、リンダが、口を挟んだ…


 「…今さっき、お姉さんは、ひとのいい、私は、バニラに頼まれてと、言ったけれども、それは、ホントは、調子のいいの、間違いではないの…」


 リンダが、言った…


 私は、頭に来た…


 そんなことはない…


 そんなことは、あるはずがない…


 私が、ムキになって、反論しようとすると、


 「…プッ!…」


 と、ファラドが、吹き出した…


 「…まったく、アンタを、見ていると、楽しいというか…」


 「…なんだと?…」


 「…見ていて、飽きない…それでいて、根は、善良…善良そのもの…兄貴が、憧れるのも、わかる…」


 ファラドが、笑う…


 実に、楽しそうに、笑う…


 「…まったく、アンタを見ていると、実に楽しくなる…なんというか、いつも、いっしょに、いたくなるというか…」


 ファラドが、続けた…


 「…まるで、アンタといると、人生が、楽しくなる…生きていると、いうことが、楽しくなる…」


 ファラドが、言う…


 すると、隣のリンダが、


 「…でしょ?…」


 と、相槌を打った…


 「…ホント、このお姉さんは、誰からも、好かれる…どんな人間も、お姉さんを見て、嫌いになる人間は、皆無…誰も、いない…」


 リンダが、笑いながら、言う…


 「…このリンダ・ヘイワースが、世界中を飛び回り、さまざまな人間に会ったけれども、このお姉さんのように、魅力のある人間は、いない…」


 リンダの顔が、いつのまにか、真顔に、なった…


 「…このお姉さんには、どんな美人も、お金持ちも叶わない…このお姉さんを前にすると、美人に生まれるとか、お金持ちに生まれるとか、いうのは、確かに、大事だけれども、

それが、どれほどの意味を持つのか、考え込んで、しまう…」


 リンダが、なにやら、難しいことを、言い出した…


 「…このお姉さんは、どこに、行っても、誰が、相手でも、自分の味方にすることが、できる…だから、どこに、行っても、誰かが、助けてくれる…そして、それが、生きてゆく上で、どれほど、大切なのか、教えてくれる…」


 「…なんだと?…」


 「…たしかに、リンダの言うことは、わかる…あの猜疑心の塊(かたまり)の兄貴が、このお姉さんにだけは、別格…心を開いたというか…まるで、鎧(よろい)を、脱ぐように、心を開いた…」


 ファラドが、言う…


 すると、リンダが、すぐさま、


 「…それが、お姉さんよ…」


 と、言った…


 「…このお姉さんの力…どんな地位のある人間も、このお姉さんの前では、形無し…骨抜きに、される…」


 「…たしかに、そうだな…」


 ファラドが、苦笑した…


 「…このお姉さんには、このリンダ・ヘイワースも、形無し…このハリウッドのセックス・シンボルと、言われた、このリンダ・ヘイワースも、このお姉さんと、男を争えば、このお姉さんに、負ける…」


 「…なんだと?…」


 そ、そんな、バカな…


 この矢田トモコが、リンダに、勝つ…


 ハリウッドのセックス・シンボルに、勝つ…


 そんなことが、あるはずがない…


 そんな夢みたいなことが、あるはずが、ない…


 私は、思った…


 「…現に、ファラド、アナタも、この私と、お姉さんのどっちを、取るかと、言われれば、お姉さんを、取るでしょ?…」


 リンダの質問に、ファラドは、苦笑するだけで、


 「…」


 と、答えなかった…


 だから、それが、不満なリンダは、


 「…答えて…」


 と、催促した…


 すると、ファラドが、


 「…外に、連れて歩くのは、リンダで、ウチで、いっしょに、過ごすのは、このお姉さんかな…」


 と、笑った…


 その答えを聞いて、


 「…うまく、逃げたわね…」


 と、リンダが、笑ったが、私は、笑えんかった…


 なぜなら、


…外では、リンダ…


…内では、この私…


ということは、この矢田トモコを、外に連れて歩けんということだ…


たしかに、リンダと、私を比べて、私が、劣るのは、わかる…


が、


それを、ハッキリと、目の前で、言われて、嬉しい人間は、いない…


いないのだ…


だから、


「…ファラド…オマエ、ちょっとばかり、イケメンだからと言って、この矢田トモコを、甘く見てもらっては、困るゾ…」


と、言ってやった…


「…たしかに、この私は、リンダよりも、少しばかり、ルックスが、劣るさ…だが、それは、少しばかりさ…ちょっとだけさ…誤差の範囲さ…」


私は、言った…


きつく、言ったのだ…


すると、目の前のファラドが、当惑した…


どう返答して、いいか、わからない様子だった…


すると、リンダが、


「…お姉さん…ファラドを、困らせないで…」


と、ファラドに助け舟を出した…


「…こんなイケメンが、お姉さんを、好きだと、言うんだから…それで、いいでしょ?…」


私は、リンダの言葉を、聞きながら、ふと、気付いた…


なにか、親密というか…


昨日、今日、会ったばかりじゃない…


そんな感じだった…


だから、


「…オマエたち、知り合いなのか?…」


と、聞いた…


とりわけ、ファラドではなく、リンダに聞いた…


「…ええ…」


リンダが、恥ずかしそうに、笑った…


「…このリンダ・ヘイワースの守備範囲は、広いの…」


「…なんだと?…」


「…よく言うよ…」


と、ファラドが、口を出した…


「…そのルックスと、知名度を武器に、どんな世界にも、触手を伸ばして、知り合いを作ろうとしているだけだろ…」


「…なんだと?…」


「…アンタが、なんの目的で、そんなことを、しているかは、わからないが、今度ばかりは、それが、役だった…感謝するよ…」


「…なに、感謝だと? …どういう意味だ?…」


「…このリンダが、真っ先に、兄貴の野心を、伝えてくれた…だから、今回の騒動に対処できた…」


「…対処だと?…」


「…簡単なことよ…」


リンダが、口を開いた…


「…さっきも言ったように、オスマンが、園児に嫌われていた…だから、どうして、嫌われていたのか、考えた…ちょうど、お姉さんが、子供たちを引き連れて、壇上で、列車ごっこやムカデごっこを楽しんでいたでしょ? それを、見て、気付いたの?…」


「…なんだと?…」


「…なにより、私は、そのときのオスマンの顔を見ていた…すると、オスマンは、心底、羨ましそうに、お姉さんを、見ていた…それで、気付いたの…」


「…私を羨ましがってた…」


「…そう…」


リンダは、短く、答えた…


が、


その短い返答が、すべてだった…


どんな長い説明よりも、わかりやすかった…


「…オスマンが、なぜ、お姉さんを羨ましがってみていたのか? 考えた…それが、今度の騒動の根幹というか…」


リンダが、説明する…


「…オスマンが、なぜ、お姉さんを、羨ましそうに、見ているか、考えた…そこから、オスマンの狙いと、いうか…本当の性格に気付いたの…」


リンダが、続ける…


「…本当の性格だと?…」


「…策士策に倒れるというか…策士は、常に、自分が、他人に、どう見られ、どう、評価されるか、考える…大げさに、いえば、自分の一挙手一投足が、他人に、どう見られるか、考えて、行動する…だから、疲れる…家に、帰って、誰にも、見られない、ひとりきりの時間になったときに、ホッとするというか…」


「…」


「…そして、そんな生活を送るファラドは、お姉さんが、羨ましくて、仕方がなかった…」


「…私が、羨ましい?…」


「…そうだ…アンタが羨ましい…」


ファラドが、口を出した…


「…さっきも、言ったが、アンタは、天衣無縫…誰からも、束縛されず、言いたいことを、言い…やりたいことを、やる…にも、かかわらず、誰かも、嫌われず、むしろ、好かれる…兄貴のように、常に、他人の動静に、気を遣い、生きてきた人間にとっては、これほど、羨ましい存在は、ない…誰にも、気を遣わず、好き勝手に、生きているにも、かかわらず、誰からも、好かれる…兄貴にとって、アンタは、あり得ない存在…夢のような存在だ…」


ファラドが、絶賛する…


私は、嬉しかった…


実に、嬉しかった…


ファラドのようなイケメンが、私を絶賛する…


実に、嬉しかったのだ…


が、


続けて、


「…まあ、アンタも、お世辞にも、美人でも、なんでもない…それゆえ、小人症の兄貴も、アンタに、親近感を、持ったのかもな…」


と、言った…


「…なんだと?…」


その言葉で、それまで、有頂天だった私の心が、冷や水を浴びせられた気分になった…


それまで、絶好調だった私の気分に、冷や水を浴びせられた気分に、なった…


だから、私は、


「…オマエ…ファラド…少しばかり、イケメンだからって、調子に乗ってるんじゃ、ないさ…」


と、言ってやった…


「…人間、顔じゃないんだ…少しばかり、顔がいいからって、生意気、言ってるんじゃないさ…」


 私が、顔を真っ赤に、して、言ってやった…


 私は、このファラドが、許せんかった…


 許せんかったのだ…


 たしかに、この矢田トモコは、リンダと、比べれば、少しばかり、ルックスが、劣る…


 が、


 あくまで、少しばかりだ…


 誤差の範囲だ…


 だから、私は、頭に来たのさ…


 私が、ファラドに、文句を言うと、


 「…オレは、別に、顔の話は…」


 と、戸惑った…


 「…ウソを言うんじゃないさ…」


 私は、言ってやった…


 「…オマエは、イケメンだからって、調子に乗っているのさ…」


 私は、頭に来て、ファラドを、睨んだ…


 私の細い目を、さらに、細くして、睨んだのだ…


 ちょうど、そのときだった…


 「…矢田ちゃん…そんなところで、なにを、しているの?…」


 と、いう声がした…


 私は、その声に聞き覚えがあった…


 誰が、聞いても、子供の声…


 しかも、女のコの声だった…


 振り向くと、そこには、


 マリアの姿があった…


 あの、バカ、バニラの娘のマリアの姿が、あった…


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