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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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122/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 122

「…それは、そうと、お姉さん…」


 と、葉敬が、いきなり、話を変えた…


 「…リンダの件ですが…」


 「…リンダ? …リンダが、どうか、したんですか?…」


 「…ちょっと、困った事態になりました…」


 「…困った事態?…」


 「…そうです…」


 そう言って、葉敬が、言葉を切った…


 途端に、私は、バニラが、言ったことを、思い出した…


 リンダが、この葉敬から、離れようとしている事実を、だ…


 リンダは、今、オスマン殿下の庇護を受けて、葉敬から、離れようとしている…


 リンダは、学生時代、この葉敬に世話になった…


 そして、それは、成功するまで…


 ハリウッドのセックス・シンボルといわれるほど、成功するまで、金銭的に、援助を受けてきた…


 そして、それゆえ、葉敬と離れられない…


 世話になった、葉敬から、離れられない…


それゆえ、ハリウッドのセックス・シンボルとまで、呼ばれる地位に就いても、台北筆頭や、クールの宣伝を優先する…


過去の恩義に、報いるためだ…


 だから、本当は、もっと割のいい、仕事が、あるに違いないが、それを差し置いても、台北筆頭や、クールの宣伝を優先する…


 葉敬の恩に、報いるためだ…


 そして、それを、今、リンダが、嫌がっている…


 ハッキリ言えば、葉敬の元にいることを、嫌がっている…


 なんにもまして、葉敬の指示を優先することに、嫌気がさしたのだ…


 当たり前のことだ…


 すでに、ハリウッドのセックス・シンボルといわれるまでの地位を得たにも、かかわらず、ある意味、かごの鳥に近い…


 常に、葉敬の指示を優先しなければ、ならないからだ…


 だから、そんな生活に、嫌気がさしたに違いなかった…


 それゆえ、オスマン殿下の力を借りて、葉敬の元から、逃げ出したい…


 それが、リンダの狙いだと、バニラが言った…


 そして、そのバニラとリンダの違いは、葉敬との関係…


 葉敬との距離感の違いとも、言っていい…


 なにしろ、バニラは、葉敬の愛人…


 葉敬との間には、娘のマリアもいる…


 が、


 リンダには、それがない…


 リンダと葉敬は、他人…


 まったくの他人だ…


 だからこそ、葉敬の元から、逃げ出したいのだろう…


 バニラには、それが、できないからだ…


 と、


 ここまで、考えて気付いた…


 もしかしたら、この矢田とリンダは、同じ…


 同じかもしれんと、気付いた…


 つまりは、


 …奇貨居くべし…


 と、いうことだ…


 リンダも、また、葉敬の援助を受けてきた当時は、無名…


 世間では、まったくの無名だった…


 が、


 美貌は、すでに、抜きん出ていたに違いない…


 だから、葉敬は、もしかしたら、リンダの美貌に、投資したのかも、しれない…


 将来、モデルや女優として、目が出るかもしれんと考えて、金を投資したのかも、しれん…


 まさに、


 …奇貨居くべし…


 将来、もしかした、宝になるかもしれんから、リンダに投資したのかもしれん…


 私は、その事実に、気付いた…


 私は、その可能性に、気付いた…


 だから、この矢田トモコと、リンダ・ヘイワースは、同じ…


 同じということだ(爆笑)…


 …奇貨居くべし…


 将来、なにかの役に立つと、思って、この葉敬は、私に甘いのかも、知れんと、気付いた…


 リンダは、今、ハリウッドのセックス・シンボルと、呼ばれるほどの地位に就いても、依然、台北筆頭や、クールの宣伝をすることで、十分過ぎるほどの、見返りを、葉敬は、受けている…


 そして、この矢田は、オスマン殿下に、気に入られたことで、やはり、台北筆頭や、クールに、莫大な利益をもたらした…


 アラブ世界で、台北筆頭や、クールの発展に寄与したからだ…


 つまりは、この葉敬は、将来、自分の役に立つかもしれんと、睨んだ人間に、投資する…


 そんな人間かも、しれんと、気付いた…


 要するに、生粋の商売人…


 常に打算…


 常に計算…


 損得勘定が、頭の中に、あるのかもしれん…


 そう、気付いた…


 そして、何度も言うように、バニラは、別格…


 すでに、葉敬の愛人にすることで、取り込んだ…


 そして、それを言えば、この矢田トモコもまた、息子の葉尊の妻にすることで、取り込んだ…


 が、


 リンダは、取り込んでない…

 

 そういうことだ…


 が、


 ならば、一体?


 ならば、一体全体、この葉敬は、今、一体、なんのために、この矢田と、ここにいるのか?


と、考えた…


 この葉敬が、この矢田が、思うように、計算高い人物で、ある以上、今現在も、ここで、この矢田と話している…


 そのための打算があるからだ…


 そのための、計算が、あるからだ…


 すると、一つの可能性が、ふと、脳裏に浮かんだ…


 もしや…


 もしや…


 この矢田に、リンダを引き留めてくれ…


 リンダの気持ちを翻意させてくれ…


 と、頼むかも、しれんと、気付いた…


 すると、


 「…ところで、お姉さん…」


 と、葉敬が、口を開いた…


 「…ハイ…なんでしょうか?…」


 「…お姉さんは、リンダが、好きですか?…」


 来た!


 来た!


 単刀直入だった…


 やはり、そう来たか!


 私は、思った…


 だから、一瞬、考えた…


 「…好きです…」


 と、いうのは、容易い…


 簡単だ…


 が、


 だからこそ、あえて、


 「…いえ、別に、好きでは…」


 と、言えば、いいのではないか?


 そう、気付いた…


 そう、答えれば、この目の前の葉敬は、どう答えるか?


 言葉は、悪いが、見ものだ…


 一体、どういう反応をするのだろうか?


 見て見たく、なった…


 だから、


 「…嫌いじゃ、ありません…」


 と、答えた…


 「…いえ…別に、好きじゃ、ありません…」


 とは、言えんかった…


 さすがに、言えんかったのだ(笑)…


 すると、やっぱりというか…


 目の前の葉敬の顔が面食らった表情に、なった…


 「…嫌いじゃ、ない?…」


 私の言った言葉を、オウム返しに、繰り返した…


 「…ということは、それほど、好きじゃないということですか?…」


 啞然として、葉敬が、続けた…


 私は、答えるのも、頷くのも、おかしいと思い、反応しなかった…


 あえて、無表情を装った…


 すると、


 「…そうですか…」


 と、目の前の葉敬が、落胆した…


 「…残念です…」


 …残念?…


 …どういうことだ?…


 「…お姉さんは、リンダと、仲がいいと思ったのに…」


 葉敬が、呟く…


 ハッキリ言えば、嘆いた口調になった…


 これは、


 …しまった!…


 と、私は、気付いた…


 もしかしたら…


 もしかしたら…


 私が、葉尊の妻で、いられることは、私が、リンダや、バニラと、仲がいいからではないか?


 と、考え直した…


 だから、ハッキリ言えば、今回のように、リンダが、葉敬の元から、逃げ出したいなんて、言えば、それを、私が、引き留めてくれると、見込んだのかも、しれん…


 それゆえ、私を、葉尊の妻として、認めて、くれたのかも、しれんかった…


 だから、それに、気付いた私は、慌てて、


 「…いえ、違うんです…お義父さん…」


 と、葉敬に、言った…


 「…違う? …なにが、違うんですか?…」


 「…私が、リンダを、嫌いじゃ、ありませんと言ったのは、リンダの気持ちが、わからないからです…」


 「…リンダの気持ち? …それは、一体、どういう意味ですか?…」


 「…私は、リンダが、好きです…」


 と、大声で言った…


 全力で言った…


 「…でも、リンダが、私を好きか、どうか、わからないじゃないですか?…」


 葉敬は、私が、なにを言いたいのか、わからず、キョトンとした表情に、なった…


 「…つまり、私が、言いたいのは、私は、リンダが、好きですが、リンダが、私を好きか、どうかは、わからない…それなのに、私が、一方的に、リンダを好きなんて、言うのは、恥ずかしいと、思ったんです…」


 私は、必死になって、説明した…


 私は、必死になって、弁明した…


 ここが、


 …勝負だ…


 と、思ったからだ…


 ここが、


 この矢田トモコが、葉尊の妻で、いられるか、否かの、


 …勝負だ!…


 と、思ったからだ…


 ここで、私が、リンダと、仲が、良くないと、葉敬に、思われれば、下手をすれば、


 …葉尊と離婚!…


 と、いう結末が、待っているかも、しれんかった…


 そうなれば、


 …ジ・エンド…


 おしまいだ…


 私は、再び、実家に、戻って、35歳のフリーターに、逆戻りするかも、しれんかった…


 が、


 それは、できんかった…


 もはや、それは、できんかった…


 なぜなら、この矢田トモコは、35歳のシンデレラとして、マスコミに取り上げられた経験を持つ…


 だから、今でも、それを覚えている、世間の人間も、少なからず、いるだろう…


 人の噂も七十五日というが、アレは、ウソ…


 アレは、無名の人間の場合だ…


 現に、テレビでは、つい最近まで、


 …あの人は、今…


 というような、30年も、40年も前に、一世を風靡した人間の特集を組んで、放送してきたではないか?…


 それは、視聴率が、高いからだ…


 それは、人々の関心が、高いからだ…


 つまり、そういうことだ…


 だから、この矢田が、葉尊と離婚して、元のフリーターに戻り、どこかの会社の面接にでも、行って、


 「…もしかしたら、失礼ですが、35歳のシンデレラ?…」


 と、訊かれたら、目も当てられない…


 ちょうど、それは、芸能界で、一発屋として、名をなした人間が、


 「…もしかしたら、〇〇さん?…」


 と、初対面の人間に言われるのと、同じだ…


 恥ずかしくて、堪らない…


 正常な神経では、なかなか、耐えられんだろう…


 そして、それは、この矢田トモコも例外ではない…


 例外ではないのだ!…

 

 私は、思った…


 だから、今、力を込めて、リンダとの繋がりを、強調した…


 いかに、私が、役に立つか、葉敬に、強調したのだ…


 君子豹変す…


 つい、今の今まで、言ってきたことと、まるで、違うことを言う…


 が、


 それが、私だ…


 それが、矢田トモコだった…


 恥ずかしいも、へちまもなかった…


 なかったのだ…


 だから、私は、いかに、自分が、有能か、葉敬に訴えるべく、葉敬を睨んだ…


 この矢田トモコが、渾身の力を込めて、睨んだのだ…


 ひとは、そんな私を見て、


 「…お姉さんじゃない!…」


 とか、


 「…目が笑ってない!…」


 とか、


 言うに違いない…


 が、


 この矢田トモコも、もはや、35歳…


 いつまでも、目が笑っている女ではなかった…


 なかったのだ…


 すると、そんな私の気持ちが、通じたのだろう…


 葉敬が、


 「…わかりました…お姉さんに、お任せします…」


 と、言った…


 そして、


 「…リンダのわがままを直して下さい…」


 と、続けた…


 「…リンダのわがまま?…」


 …一体、どういう意味だ?…


 「…リンダは、今、自分が、性同一性障害だと、世間に発表しようとしているんです…」


 …な、なんだと?…


 思ってもいない、葉敬の言葉だった…


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