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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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113/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 113

私は、その夜、ベッドに、横になって、考えた…


 さっきの葉尊の話を、だ…


 リンダ…


 リンダ・ヘイワース…


 ハリウッドのセックス・シンボル…


 リンダのことを、考え続けたのだ…


 考えてみれば、リンダとは、不思議な因縁だった…


 当初、私と葉尊の結婚を知った、リンダは、激怒して、私に勝負を挑んだ…


 つまりは、勝負をして、リンダが、勝てば、葉尊から、身を引けと、私に迫ったのだ…


 勝負といっても、ボクシングでも、剣道でも、なんでもない…


 勝負は、書道だった…


 事前に、リンダが、自信満々な態度で、どんな勝負でも、受けると、言ったのだ…


 私は、悩んだ…


 すでに、何度も言ったが、私は、平凡な女…


 誰かと、勝負して、勝つ見込みなど、なにも、なかった…


 だから、悩んだ…


 が、


 これも、偶然、ヤンのアドバイスで、書道に決めた…


 が、


 それを、アドバイスしたのが、ヤン=リンダ当人だと、知って、後に仰天したものだ…


 が、


 結局、勝った…


 いや、


 引き分けた…


 そして、それを、機会に、ヤン=リンダと、仲良くなった…


 いわば、肝胆相照らす仲になったのだ…


 元々、ヤン=リンダは、夫の葉尊の親友…


 だから、夫の葉尊も、私が、リンダと仲良くなることに、賛成だった…


 そして、バニラ…


 あのバカ、バニラだ…


 バニラは、生意気だった…


 初めて会ったときから、気に入らんかった…


 いつも、私に歯向かった…


 立ち向かってきた…


 だから、普段、温厚な私も、許せんかった…


 あのバカ、バニラを、許せんかったのだ…


 が、


 今は、あのバニラの力が、必要かも、しれんかった…


 ハッキリ言えば、バニラの力は、どうでもいいが、バニラの娘のマリアの力が、必要だった…


 リンダを助けるために、必要だったのだ…


 私は、思った…


 思いながら、一方で、なぜ、私が、リンダを助けねば、ならんのだ? とも、思った…


 実は、私にとって、リンダは、邪魔な存在だった…


 私とリンダは、仲がいい…


 だが、


 邪魔な存在だった…


 なぜなら、リンダは、美人だからだ…


 ハリウッドのセックス・シンボルだからだ…


 心は、男だ、なんだ、と言っているが、絶世の美女であることは、変わらん…


 いかに、夫の葉尊の親友とはいえ、近くに、いてもらっては、困る…


 葉尊も男…


 近くに、あんな美人がいては、いつ、リンダと、男女の関係になるか、心配で、堪らん…


 男女の関係になった結果、この矢田トモコが、葉尊の妻の座から転げ落ち、追放されては、困るからだ…


 実は、この矢田は、密かに、それを、恐れていた…


 誰にも、バレることは、なかったが、密かに、それを、恐れていたのだ…


 だから、今、リンダが、もしかしたら、オスマン殿下の逆鱗に触れて、殺されでも、したら、可哀そうだと、思いながら、一方で、それを、喜ぶ私が、いた…


 もちろん、リンダが、死んでは、困る…


 だから、本当は、いなくなれば、いい…


 葉尊の近くから、いなくなればいい…


 それが、偽りのない本音だった…


 所詮は、女同士の友情は、儚い…


 脆い…


 友情よりも、金…


 金だ(笑)…


 そうは、言いながら、一方で、リンダの身を案じる私が、いた…


 一方で、リンダが、いなくなれば、いいと、思いながら、一方で、リンダの身を案じる…


 我ながら、バカバカしい…


 矛盾するにも、ほどがあると、思いながらも、それが、真実だった…


 この矢田トモコの心の真実だったのだ…


 だから、悩んだ…


 悩んだのだ…


 すると、隣のベッドに寝ている葉尊が、


 「…お姉さん…リンダのことを、頼みます…」


 と、言った…


 私は、驚いた…


 まさか、葉尊が、まだ起きているとは、思わなかったのだ…


 だから、


 「…葉尊…オマエ…」


 と、声をかけた…


 が、


 反応は、なかった…


 だから、私は、ベッドから降りて、葉尊の近くに、いった…


 そして、葉尊を見た…


 葉尊は、眠っていた…


 それゆえ、今のは、葉尊の寝言で、あることが、わかった…


 と、同時に、思った…


 葉尊が、そんな寝言を言うほど、リンダを思っている事実を、だ…


 …これは、なんとかせねば、なるまいな…


 私は、そう、心に決めた…


 私は、そう、固く、心に誓った…


 

 そして、その翌日、バニラに、電話した…


 バカ、バニラに、電話を、してやったのだ…


 私は、夫の葉尊が、会社に出勤して、すぐに、あのバカ、バニラに、電話を、かけた…


 本当は、かけたくないのに、電話を、かけたのだ…


 なにしろ、その前に、会社に、出勤する葉尊に、


 「…葉尊…心配するな…リンダのことは、私に任せておけ!…」


 と、自分の大きな胸をポンと叩いて、大見えを切ったのだ…


 それを、見て、


 「…お姉さん…」


 と、葉尊は、絶句した…


 葉尊は、すでに、泣きそうだった…


 涙が、流れる寸前だったのだ…


 「…そんな目で、私を見るな…」


 私は、葉尊に言った…


 「…葉尊…オマエの気持ちはわかる…」


 私は、元気いっぱいに、朝食を取りながら、言った…


 ごはんの箸を止めずに、言った…


 「…リンダは、オマエの親友さ…そして、私にとっても、かけがえのない友人さ…」


 「…お姉さん…」


 「…そんな目で、私を見るな…オマエの気持ちは、わかる…私に任せておけ…」


 私は、同じ言葉を繰り返した…


 「…でも、お姉さん…一体、どうするつもりですか?…」


 「…あの、バカ、バニラに、頼んでみるさ…」


 「…バニラに?…」


 「…バニラは、バカだが、娘のマリアは、オスマン殿下のお気に入りだ…マリアを使えば、なんとか、なるかも、しれん…」


 「…マリアが、オスマン殿下のお気に入り?…」


 葉尊が、驚いた…


 「…そうさ…だから、マリアを通じて、オスマン殿下に、頼むに、限る…」


 私が、相変わらず、箸を止めずに、言うと、葉尊は、なにかを、考えているようだった…


 「…どうした? …葉尊?…」


 「…い…いえ?…」


 なんとも、歯切れの悪い口調だった…


 「…なんだ、葉尊…その言い方は?…」


 私は、怒った…


 「…言いたいことが、あれば、ハッキリ、言え…」


 私が、言うと、葉尊は、ちょっと考えてから、


 「…オスマン殿下に、関する噂ですが…」


 と、前置きして、言った…


 「…殿下が、リンダ・ヘイワースの大ファンであるという噂は、掴みました…ただ…」


 「…ただ、なんだ?…」


 「…それが、真実か、どうか? までは、わかりません…」


 「…なんだと? …どういう意味だ?…」


 「…殿下は、アラブの至宝と呼ばれるほどの人物です…」


 「…それは、知っている…」


 「…そして、そんな人物は、決して、素顔を見せないことが、多いです…」


 「…素顔を見せない? …どういう意味だ?…」


 「…例えば、自分の好きな食べ物…好きな女性のタイプなど、他愛もない、ことも、一切、話さない…」


 「…どうして、話さないんだ?…」


 「…素(す)の自分を知られるのが、怖いからです…」


 「…怖いからだと? …どうして、怖いんだ?…」


 「…素(す)の自分を知られることで、自分の行動が、読まれる危険が、あるからです…」


 「…行動が、読まれる?…」


 「…昔、聞いた話ですが、日本では、豊臣秀吉が、よく、配下の大名に、すごろくのようなゲームをさせていたと、あります…自分は、参加せずに、です…」


 「…ゲーム?…」


 あまりにも、意外な話だった…


 秀吉が、ゲームとは?


 「…要するに、すごろくをさせることによって、配下の大名の性格を見ていたんです…」


 「…性格だと?…」


 「…ほら、当時は、戦国…戦(いくさ)が、ありふれてました…だから、すごろくのようなゲームをさせて、その大名が、どんな、戦い方をするのか、見るのです…」


 「…戦い方だと?…」


 「…ある大名は、キチンと、基本通りに、進めたとします…すると、その大名が、秀吉に逆らって、戦(いくさ)を仕掛けてきても、キチンと、基本通りに、兵を動かすだろうと、考えます…真逆に、博打というか、常に、一か八かで、ゲームをするものは、兵を動かすときも、いわば、基本ではなく、奇策を持ちうると、判断します…」


 そんなことが…


 たかだか、すごろくで、わかるとは?


 考えもせんかった…


 私は、驚いた…


 「…ですが、秀吉が、いくら、勧めても、決して、そのゲームに参加しない大名が、一人だけ、いたそうです…」


 「…誰だ? …それは?…」


 「…徳川家康です…」


 「…家康?…」


 「…要するに、秀吉の意図を見抜いていたんでしょ? …これだけで、家康のしたたかさというか、慎重さが、見て取れます…」


 「…」


 「…もちろん、これが、本当か、どうかは、わかりません…後世の作り話かも、しれません…ですが、それで、性格を見抜くことが、できます…だから、その性格を見抜かれることを、恐れて、家康は、決して、ゲームをしなかった…」


 「…」


 「…これを、オスマン殿下に当てはめたとします…すると、どうですか?…」


 「…なにが、言いたい?…」


 「…殿下は、小人症と聞きました…すると、リンダのような、大柄な美人に憧れるというのは、至極、真っ当な判断です…」


 「…至極、真っ当な判断だと?…」


 「…外見が、子供に見える人間が、成熟した大人の女に憧れる…つまりは、自分にないものを、相手に求める…至極、真っ当な判断です…」


 「…」


 「…だから、それを聞いた者も、皆、納得します…」


 「…」


 「…ですが、ボクは、それを信用していません…」


 「…どうして、信用していないんだ?…」


 「…殿下が、アラブの至宝だからです…だから、そんな、女性の好みのように、些細なことでも、表に出すか、どうかは、わからない…」


 「…」


 「…むしろ、殿下は、家康に近いのでは、ないかと、思います…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…決して、自分の素顔は、明かさない…素(す)の姿は、見せない…」


 「…」


 「…そう、考えるのが、むしろ、自然です…」


 「…だったら、リンダは? …リンダが、好きだと言うのは?…」


 「…単なるパフォーマンス…当て馬の可能性も、あります…」


 「…当て馬だと?…」


 「…本命は、別にいて、それを、カムフラージュするのに、リンダは好都合です…なにしろ、リンダは、ハリウッドのセックス・シンボルです…リンダに憧れていると、言えば、誰もが、納得する…」


 「…」


 「…本命を…本心を隠すには、好都合です…」


 葉尊が、言った…



 私は、そんな葉尊の言葉を胸に秘め、バニラに、電話をかけた…


 バカ、バニラに、電話をかけたのだ…


 が、


 ちっとも、出んかった…


 あのバカ、バニラ…


 どうして、電話に出ん!


 私は、電話に向かって、一人、悪態をついた…


 「…だから、アイツは、ダメなんだ…」


 私が、思わず、愚痴ると、


 「…なにが、ダメなんだって…」


 と、いう声が、聞こえてきた…


 だから、つい、


 「…あの、バカ、バニラさ…」


 と、言ってしまった…


 「…バカ、バニラ?…」


 「…そうさ…所詮は、顔だけが、取り柄の女さ…ダメな女さ…」


 と、付け加えた…


 すると、


 「…」


 と、沈黙があった…


 間があった…


 それから、


 「…朝っぱら、ひとんとこに電話をかけてきて、いきなり、ひとをバカ呼ばわりするとは、どういう了見だ!…」


 と、電話の向こう側から、大声で、激怒する声が聞こえてきた…


 私は、さすがに、マズいと、思った…


 だから、とっさに、


 「…オマエも歳だな…なにか、聞こえたのか? …幻聴だろ?…」


 と、言ってやった…


 とっさに、ごまかすことにしたのだ…


 が、


 それが、火に油を注いだ…


 「…このクソチビが! わかるウソを!…」


 と、電話の向こう側で、私を罵った…


 だから、私は、このバニラに電話をするのは、嫌だった…


 ろくなことが、起こらん…


 そう思った…


 これまで、このバカ、バニラと、関わって、なにか、一つでも、良かったことがなかった…


 考えてみれば、なに一つなかったのだ…


 が、


 電話を切るわけには、いかんかった…


 なにしろ、リンダの身が、心配だ…


 正直、リンダの身よりも、夫の葉尊との約束の方が、大切だった…


 なにしろ、


 「…リンダのことは、心配するな…私に任せておけ…」


 と、大見えを切ったのだ…


 だから、夫の葉尊との約束を破るわけには、いかんかった…


 私が、そんなことを考えていると、


 「…このクソチビが…ホント、朝っぱらから、胸糞悪い…」


 と、散々、私の悪口を言っていた…


 私は、頭に来たが、耐えた…


 臥薪嘗胆…


 今に見ていろ! と、いう気持ちだった…


 そして、とっさに、


 「…オスマン殿下が…」


 と、つい、口にした…


 すると、私を罵る声が、止んだ…


 急に、止まった…


 私は、なにが、あったか、わからんかった…


 もしや、電話が切れたのでは、ないか? と、思って、


 「…バニラ…聞こえるか?…」


 と、聞いた…


 すると、


 「…聞こえます…お姉さん…」


 と、一転して、塩らしい声が、聞こえてきた…


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