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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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114/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 114

私は、しめたと、思った…


 つい、無意識に、オスマン殿下の名前を出したのが、功を奏したのだ…


 「…お姉さん…オスマン殿下が、どうかしたんですか?…」


 と、バニラが、塩らしい声で、続けた…


 バニラにとって、オスマン殿下は、最重要人物…


 オスマン殿下の動向は、なにより、大切かもしれない…


 なにしろ、バニラの娘のマリアは、オスマン殿下のお気に入り…


 が、


 バニラは、それを、憂慮している…


 オスマン殿下は、外見が、3歳にしか、見えないが、本当は、30歳…


 片や、


 マリアは、本物の3歳だ…


 そのマリアを、オスマン殿下が、気に入っている…


 だから、もしやと思うが、オスマン殿下が、マリアを、将来、サウジに、連れていったりしたら、困ると、心配しているのだ…


 と、


 ここまで、考えて、気付いた…


 もしや、


 もしや、


 これこそが、オスマン殿下の素(す)の姿ではないか? と、気付いたのだ…


 マリアを好きなオスマン殿下…


 これこそが、オスマン殿下の素(す)の姿ではないか? と、気付いた…


 夫の葉尊のいう、素(す)のオスマン殿下の姿では、ないかと、気付いた…


 そして、そんな諸々(もろもろ)のことを、考えてくると、段々と、オスマン殿下の狙いが、読めてきた…


 どうして、3歳の子供たちに、紛れて、あのセレブの保育園に身を隠しているのか、わかってきた…


 それは、きっと、気疲れしないからだと、気付いた…


 子供相手だから、変に、気疲れしない…


 安心して、素(す)の姿を見せられるからだと、気付いた…


 夫の葉尊が、言うように、自分の本当の性格を見せないことに、常に腐心しているならば、疲れるに、決まっているからだ…


 ちょうど、芸能人のようなものだ…


 有名な芸能人は、すでに、イメージが、ついている…


 イメージが、出来上がっている…


 有名な芸能人の例で、言えば、高倉健だろう…


 寡黙で、男らしいイメージの高倉健だが、本名の小田剛一(たけいち)は、むしろ、陽気で、おしゃべりな人物だったそうだ…


 それが、画面の中では、必死になって、高倉健を演じていた…


 それが、真相だった…


 だが、そんな高倉健が、仮に、オスマン殿下だったら、どうだろう?


 やはり、今の殿下と、同じように、普段は、自分と、同じ年齢に見える、保育園に、身を置くのではないか?


 そうすれば、変に気疲れしない…


 なにより、子供相手だから、正体が、バレない…


 だから、安心して、素(す)の姿を見せられる…


 安心して、子供たちと、戯れることができる…


 そして、公(おおやけ)の舞台では、オスマン殿下を演じる…


 そういうことだ…


 いわば、公私をキッチリと、分けて、生活する…


 いつも、公(おおやけ)のイメージを演じているのは、疲れるから、普段は、素(す)の姿でいる…


 ちょうど、サラリーマンが、スーツを脱ぐのと、いっしょだ…


 私は、思った…


 すると、


 「…お姉さん…殿下が、一体?…」


 と、バニラが、切羽詰まった口調で、聞いてきた…


 だが、私は、考えた…


 このまま、本当のことを、言った方が、いいのか、どうか、考えたのだ…


 「…お姉さん…」


 と、バニラが、すがるように、私に聞いてきた…


 だから、私は、バニラを焦らすことにした…


 バニラを焦らして、バニラが、どんな態度を取るか、見ることに、した…


 我ながら、性格が悪いと思ったが、相手が、バニラだから、構わんかった…


 バカ、バニラだから、構わんかったのだ…


 私は、


 「…知らんな…」


 と、とぼけた…


 「…今、私が、なにか、言ったか?…」


 「…お姉さん…」


 「…バニラ…幻聴じゃないのか?…」


 私は、わざと、言った…


 が、


 バニラは、


 「…」


 と、なにも、言ってこんかった…


 私は、


 …やはりな…


 と、内心、ほくそ笑んだ…


 やはり、このバニラの前では、オスマン殿下の名前を出すに、限ると、思ったのだ…


 さんざん、この私を、バニラは、バカにしてきたが、所詮は、顔だけの女だ…


 顔が、取り柄だけの女だ…


 この矢田トモコが、顔が負けているからと、言って、人間が、負けているわけじゃない…


 人間が、負けているわけではないのだ!…


 私は、そう、あらためて、思った…


 私は、そう、あらためて、気付いたのだ…


 すると、


 「…お姉さん…すいません…」


 と、バニラが、私に詫びてきた…


 「…スイマセンだと? …バニラ…オマエ…なにか、私に謝ることがあるのか?…」


 と、言ってやった…


 途端に、バニラが、


 「…」


 と、黙った…


 だから、私は、


 「…私に謝るぐらいだから、なにか、後ろめたいことでも、あるんだろ?…」


 と、言ってやった…


 どんな小さな弱点でも、見つければ、それをネチネチと、いびるのが、私だ…


 この矢田トモコだ…


 我ながら、性格が、良くないと、思ったが、相手が、バニラだから、いい…


 いつも、この矢田トモコに、逆らってきたバニラだから、いいのだ…


 「…どうした? …なにか、あるのか?…」


 と、私は、上から目線で、言ってやった…


 それでも、バニラは、


 「…」


 と、なにも、言わんかった…


 だから、私は、ここぞとばかりに、


 「…バニラ…私が、今、どうして、オマエに対して、厳しいか、わかるか?…」


 と、聞いてやった…


 「…わかりません…」


 「…わからんだと? …だから、オマエは、ダメなんだ?…」


 「…」


 「…いいか、バニラ…よく聞け!…」


 「…ハイ…」


 「…私だけだゾ…」


 「…お姉さんだけ?…」


 「…そうだ…オマエは、今、少しばかり有名になって、天狗になってるのさ…」


 「…天狗に?…」


 「…そうさ…だから、いつも、威張っている…態度が、デカくなっているのさ…」


 「…」


 「…だが、私は、そんなオマエを心配して、オマエにアドバイスをしてやってるのさ…そのままの態度では、いずれ、オマエから、皆、ひとが、離れて行く…すると、どうだ? …オマエは、ひとりぼっちさ…誰も、オマエのために、指一本動かしてくれんさ…だから、どこかで、失敗して、今の地位から、転げ落ちるのは、目に見えているさ…そしたら、どうだ? …マリアは、どうなる?…」


 「…マリアが、一体、どうなると、言うんですか?…」


 「…保育園で、イジメられるさ…いや、保育園では、まだイジメられんかも、しれんが、いずれ、小学校に上がって、高学年になれば、イジメられるさ…オマエの母ちゃんは、ダメな女だと、子供たちが、知って、それをネタに、マリアをイジメるさ…」


 私は、心に浮かんだことを、適当に、言った…


 実に、適当に、言ってやった…


 が、


 効果は、抜群だった…


 抜群だったのだ…


 バニラは、すぐには、なにも、言わんかったが、少しすると、


 「…申し訳ありませんでした…調子に乗ってました…」


 と、電話の向こう側から、土下座せんばかりの声が、聞こえてきた…


 「…わかれば、いいのさ…」


 私は、言ってやった…


 実に、気分が、良かった…


 気分爽快だった…


 「…申し訳ありませんでした…」


 と、バニラが、重ねて、私に詫びた…


 だから、ひとのいい、私は、バニラを許してやることにした…


 「…もういい、バニラ…オマエの気持ちは、わかった…これからは、私に逆らうんじゃないゾ…」


 「…ハイ…」


 「…今日、オマエに電話したのは、リンダのことさ…」


 「…リンダのこと?…」


 「…そうさ…実は、ここだけの話、リンダの身が、心配で、な…」


 「…リンダの身が、心配? …どういうことですか?…」


 「…もしかしたら、リンダは、虎の尾を踏んだかも、知れんのさ…」


 「…虎の尾? …どういう意味ですか?…」


 「…つまり、怒らせては、いかん相手を怒らせたのかも、しれんと、いうことさ…」


 「…怒らせては、いけない相手? …誰のことですか?…」


 「…オスマン殿下さ…」


 「…オスマン殿下? …でも、殿下は、リンダのファンじゃ?…」


 「…いや、そうとも、限らんゾ…」


 「…どうして、そんなふうなことを、言うんですか?…」


 「…マリアがいい例さ…」


 「…マリア?…」


 「…オスマン殿下が、マリアを好きなのは、知ってるだろ?…」


 「…ハイ…知ってます…」


 「…きっと、アレこそが、オスマン殿下の素(す)の姿さ…」


 「…素(す)の姿?…」


 「…リンダは…リンダ・ヘイワースは、ハリウッドのセックス・シンボル…世界中の男の憧れさ…だから、リンダのファンだと言えば、誰もが、納得する…」


 「…」


 「…でも、それは、仮面さ…」


 「…仮面って?…」


 「…ホントは、殿下は、自分の好きな女の好みも、周囲に言わない、したたかな男かもしれんさ…」


 「…お姉さん…どうして? …どうして、そう思うんですか?…」


 「…葉尊さ…」


 「…葉尊?…」


 「…そうさ…葉尊が、今、オマエに、電話する前に、教えてくれたのさ…もしかしたら、殿下が、リンダを好きなのは、そう見せかけているだけかも、しれんて、な…」


 「…」


 「…それで、私も気付いたのさ…」


 私が、言うと、バニラは、


 「…」


 と、絶句した…


 答えんかった…


 「…だったら…リンダは…リンダは、一体?…」


 「…だから、私も、今、リンダの身が心配になって、オマエに電話をしてやってるのさ…」


 「…」


 「…オマエ…今、リンダが、どこにいるか、知っているか?…」


 「…いえ…」


 「…そうか…」


 私は、言った…


 「…だったら、リンダは…リンダは、一体、どうなるんですか?…」


 「…それは、私も知らんさ…」


 「…知らない?…」


 「…あくまで、私が、葉尊と話したのは、仮定の話さ…」


 「…仮定の話…」


 「…だが、オスマン殿下が、本当に、リンを好きなら、これまで、どこかで、リンダと会っているんじゃないか?…」


 「…リンダと、会っている?…」


 「…そうさ…オスマン殿下は、アラブの至宝と、呼ばれる権力者さ…だから、いかに、リンダが、ハリウッドのセックス・シンボルと、呼ばれる有名人でも、個人的に、パーティーでも、なんでも、開いて、呼べるだろ?…」


 「…たしかに…」


 「…それを、しなかったというのは、ホントは、殿下は、リンダのファンでも、なんでも、なかったということさ…」


 「…だったら、リンダは?…」


 「…問題は、リンダが、それに、気付いているか、どうかさ…」


 「…」


 「…気付いてなくて、殿下に接すれば、大変なことになるさ…」


 「…大変なこと?…」


 「…リンダ・ヘイワースのファンクラブ…アレは、ただのファンクラブじゃないだろ?…」


 「…ただのファンクラブじゃない?…」


 「…アレは、セレブの情報交換の場さ…セレブしか、知らない貴重な情報を交換する場所さ…リンダは、おそらく、その場に、オスマン殿下を誘おうと、しているさ…」


 「…お姉さん…それが、さっき言った、虎の尾を踏むということなんですか?…」


 「…そうさ…」


 「…リンダが、オスマン殿下を、リンダのファンクラブに誘うことが、どうして、虎の尾を踏むことに、なるんですか?…」


 「…オスマン殿下の私生活さ…」


 「…私生活?…」


 「…殿下は、こう言っては、なんだが、あの外見だ…きっと、自分の存在が、公(おおやけ)になるのを、極端に、恐れているだろ? だから、用心深い…」


 「…用心深い?…」


 「…そんな殿下に、リンダが、下手に近付いてみろ…どうなるか、知ったもんじゃ、ないさ…」


 「…」


 「…しかも、リンダは、オスマン殿下が、自分のファンだと誤解している…だから、殿下に甘えるというか…馴れ馴れしく接するに、決まっているさ…そしたら、どうなる?…」


 「…どうなるんですか?…」


 「…最悪、殺されるかも、しれんゾ…」


 「…殺される?…」


 「…そうさ…権力者というものは、常に、そういうものさ…そうやって、自分の地位を守っているのさ…」


 「…」


 「…だから、今、私は、リンダの身が心配なのさ…」


 私が、言った…


 言いながら、自分でも、思わぬ展開になったと、思った…


 あのオスマン殿下が、実は、リンダのファンじゃない…


 リンダ・ヘイワースのファンじゃない…


 そんなことは、考えもせんかった…


 なぜなら、リンダは、男の憧れ…


 ハリウッドのセックス・シンボルだと、思っていたからだ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…実は…」


 と、バニラが、切り出した…


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