表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/7

君野×堀田×きいろ×貴聞「【早口】モノクロの盤面【言葉】」


挿絵(By みてみん)




堀田(ほった)くん!」


君野(きみの)は屋敷の召使いである堀田へ、何やら嬉しそうに駆け寄ってきた。


堀田が園庭の円卓へ運んできたローズティー。


それを囲んでいたのは、御曹司の貴聞(きぶん)と画家のきいろだった。


「……ん?どうした?」


「僕ね、早口言葉言えるようになった!」


「へ?」


「聞いててね!」


君野は一度深呼吸すると、得意げに胸を張る。


「生麦……生米……生卵!」


ゆっくり。


一文字一文字を大切にするように。


丁寧に言い切った。


その場が静まり返る。


庭園では小鳥のさえずりだけが響いていた。


「……」


「どう?」


期待に満ちた瞳が向けられる。


堀田の肩が震えた。


「……っ」


「ぶっ……あははははっ!」


堪えきれず吹き出す。


「君野、それ早口言葉か?ただゆっくり言ってるだけだろ!」


「え?」


「ただ単語並べてるだけだ!」


「……あれ?」


君野は固まった。


思っていた反応と違ったらしい。


助けを求めるように貴聞ときいろを見る。


「で、でも、僕も早い方だよ……」


肩が少し落ちた。


その様子を見た貴聞が、すっと隣へ立つ。


「そんなことないよ。」


優しく肩へ手を置く。


「とても上手だった」


「……そ、そうだよね。素質あるって言ってくれたもんね」


君野の表情がぱっと明るくなる。


「吉郎は遅くない。堀田が早すぎるだけ」


「はぁ?」


堀田は一瞬で悪者にされた。


「堀田くん、じゃあ僕より早い早口言葉言える?」


「いや……」


言える。


だが、今ここで証明したら君野はまた落ち込む。


返答に困っていると、


黙って紅茶を飲んでいたきいろが口を開いた。


「……お前、わざと刷り込んだな」


「わざと、とは?」


貴聞は小首を傾げる。


「でかい屋敷に住む割に、みみっちいことをする可愛い坊ちゃんだな」


貴聞の眉がぴくりと動いた。


「貴聞くん……僕、やっぱり速くないのかな」


「そんなことないよ」


貴聞は即座に否定する。


「白黒さんは吉郎が羨ましいだけ」


きいろは貴聞を見たまま、小さく呟いた。


「……新春シャンソンショー」


「!」


堀田が目を丸くする。


「魔術師手術中、手術室出身助手手術助手。」


一息だった。


「まじゅ……しゅじゅ……」


君野は途中で舌が絡まる。


「お前、寡黙なくせに舌だけはよく回るな……」


堀田も思わず感心した。


貴聞は面白くなさそうに腕を組む。


「だから、言えたから何なんですか。吉郎が喜ぶとでも?」


きいろは紅茶を一口飲んだ。


「……お前は君野のことを何も分かってない」


そう一言だけ返した。





翌日。


「みんな聞いて!」


君野は三人を広間へ集める。


「僕、言えるようになったんだ!」


右手の指を一本折る。


「生麦、生米、生卵」


もう一本。


「生麦、生米、生卵」


また一本。


「生麦、生米、生卵」


指が増えるだけで、


速さはまったく変わらない。


本人だけが得意げだった。


十本言い終えた君野は満面の笑みを浮かべる。


「どう!?昨日より言えてたよね!」


三人は顔を見合わせた。


静かに拍手が起こる。


「……」


貴聞は君野を見つめた。


――違った。


あいつとのチェス盤に、まるでハンマーを振り下ろされた気分になった。


だが、それでも奴は微笑んでいた。



『お前は君野のことをなんも分かってない』


その意味が、


少しだけ分かった気がした。



【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ