君野×堀田×きいろ×貴聞「【早口】モノクロの盤面【言葉】」
「堀田くん!」
君野は屋敷の召使いである堀田へ、何やら嬉しそうに駆け寄ってきた。
堀田が園庭の円卓へ運んできたローズティー。
それを囲んでいたのは、御曹司の貴聞と画家のきいろだった。
「……ん?どうした?」
「僕ね、早口言葉言えるようになった!」
「へ?」
「聞いててね!」
君野は一度深呼吸すると、得意げに胸を張る。
「生麦……生米……生卵!」
ゆっくり。
一文字一文字を大切にするように。
丁寧に言い切った。
その場が静まり返る。
庭園では小鳥のさえずりだけが響いていた。
「……」
「どう?」
期待に満ちた瞳が向けられる。
堀田の肩が震えた。
「……っ」
「ぶっ……あははははっ!」
堪えきれず吹き出す。
「君野、それ早口言葉か?ただゆっくり言ってるだけだろ!」
「え?」
「ただ単語並べてるだけだ!」
「……あれ?」
君野は固まった。
思っていた反応と違ったらしい。
助けを求めるように貴聞ときいろを見る。
「で、でも、僕も早い方だよ……」
肩が少し落ちた。
その様子を見た貴聞が、すっと隣へ立つ。
「そんなことないよ。」
優しく肩へ手を置く。
「とても上手だった」
「……そ、そうだよね。素質あるって言ってくれたもんね」
君野の表情がぱっと明るくなる。
「吉郎は遅くない。堀田が早すぎるだけ」
「はぁ?」
堀田は一瞬で悪者にされた。
「堀田くん、じゃあ僕より早い早口言葉言える?」
「いや……」
言える。
だが、今ここで証明したら君野はまた落ち込む。
返答に困っていると、
黙って紅茶を飲んでいたきいろが口を開いた。
「……お前、わざと刷り込んだな」
「わざと、とは?」
貴聞は小首を傾げる。
「でかい屋敷に住む割に、みみっちいことをする可愛い坊ちゃんだな」
貴聞の眉がぴくりと動いた。
「貴聞くん……僕、やっぱり速くないのかな」
「そんなことないよ」
貴聞は即座に否定する。
「白黒さんは吉郎が羨ましいだけ」
きいろは貴聞を見たまま、小さく呟いた。
「……新春シャンソンショー」
「!」
堀田が目を丸くする。
「魔術師手術中、手術室出身助手手術助手。」
一息だった。
「まじゅ……しゅじゅ……」
君野は途中で舌が絡まる。
「お前、寡黙なくせに舌だけはよく回るな……」
堀田も思わず感心した。
貴聞は面白くなさそうに腕を組む。
「だから、言えたから何なんですか。吉郎が喜ぶとでも?」
きいろは紅茶を一口飲んだ。
「……お前は君野のことを何も分かってない」
そう一言だけ返した。
翌日。
「みんな聞いて!」
君野は三人を広間へ集める。
「僕、言えるようになったんだ!」
右手の指を一本折る。
「生麦、生米、生卵」
もう一本。
「生麦、生米、生卵」
また一本。
「生麦、生米、生卵」
指が増えるだけで、
速さはまったく変わらない。
本人だけが得意げだった。
十本言い終えた君野は満面の笑みを浮かべる。
「どう!?昨日より言えてたよね!」
三人は顔を見合わせた。
静かに拍手が起こる。
「……」
貴聞は君野を見つめた。
――違った。
あいつとのチェス盤に、まるでハンマーを振り下ろされた気分になった。
だが、それでも奴は微笑んでいた。
『お前は君野のことをなんも分かってない』
その意味が、
少しだけ分かった気がした。
【完】




