君野×堀田「くだらない会話」
「堀田くん。僕も猫に育てられたら猫になるのかな」
朝は、そんな君野の一言で始まった。
「……どうだかな」
俺はそう返しながら、リビングで朝シャンを終えて出てきた君野の濡れた髪をタオルで拭く。
同棲してからというもの、君野は髪を拭ききれず、いつも床を濡らしてやってくる。
本人はちゃんと拭いたと言い張るのだが。
毎朝こうして俺が拭くのが、いつの間にか日課になっていた。
「じゃあさ」
君野は期待に満ちた目で俺を見上げる。
「僕がライオンに育てられたら、立派な百獣の王になるのかなぁ」
「なんでなりたいんだよ」
タオル越しに頭をわしゃわしゃとかき回すと、不満そうだった顔が少しだけ緩んだ。
「なりたいわけじゃないよ。なるかどうかって話」
「……」
「だって、お肉は焼いて食べたいし、調味料がないと、しまうまは生じゃ無理だよ」
「そうだな」
相変わらず独特の感性だ。
俺はタオルを肩に掛けると、今度はドライヤーを手に取った。
温風を当てながら指を通し、乾いたところで櫛を入れる。
最後に首筋を軽くマッサージすると、君野は気持ちよさそうに目を細めた。
……世話の焼けるやつだ。
「堀田くんは動物になったら何になりたい?」
「俺?うーん……なんだろな。ワシとか」
「ワシ?空飛ぶ方だよね?」
「ワシ以外の【方】ってあるのか?」
思わず笑う。
「空高く飛んでみたいだろ。それに見た目もかっこいいし、天敵もほとんどいない」
「確かに!」
君野はぱっと表情を明るくした。
「堀田くんはワシみたいだね。かっこいいし、強いし、空高く飛んでそう!」
その一言だけで、顔が気持ち悪いくらいへにゃっと緩む。
首筋をマッサージする手にも、自然と力が入った。
……このまま誰も知らない場所まで、空高く連れて行けたら。
「ほら、終わったぞ」
そう言って、整えた癖っ毛を最後に軽く撫でる。
その瞬間だった。
「がおー!」
「おわっ!」
君野は振り返るなり両手を頭の横まで上げ、堀田の首筋へ噛みつこうと飛びかかってきた。
「おい!髪の毛…」
せっかく整えたのに。
そのまま後ろのベッドに勢いよく押し倒される。
だが、覆いかぶさってきた君野を両腕で軽く受け止める。
「ガオーー!」
君野はそのまま俺の胸へぐりぐりと頭を押し付けてきた。
さっき整えたばかりの髪は、静電気でぴょんぴょんと跳ねている。
ライオン……ではないな。
どちらかと言えば、寝癖だらけのヒヨコだ。
思わず笑みがこぼれる。
「きー!」
俺はワシの真似でもするように指を軽く曲げ、君野の脇腹を捕まえる。
「うわっ!」
そのままくるりと体勢を入れ替えると、今度は俺が上になった。
「あー!!堀田くん!僕は百獣の王だって言ってるでしょ!」
「ああ、お前は間違いなくライオンだ」
君野は満足そうに笑う。
その笑顔を見ていると、自然と口元が緩んだ。
……こいつを百獣の王だと思ってるのは、たぶん俺だけだ。
こんな頼りない王様だからこそ、放っておけない。
「お前は王様だ」
君野はきょとんと目を瞬かせる。
「だから、俺に忠誠を誓わせてくれ」
そう言って、堀田は君野の唇へ静かに口づけを落とした。
【完】




