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【力とは何か編】第十一段 由井正雪、最後の反逆

【力とは何か編】第十一段 由井正雪、最後の反逆


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天下はすでに定まったはずだった。だが、その定まった秩序に、最後の一撃を加えようとした男がいた。しかも、この男の企てが暴かれたことで、下界はまた一つ、大きな方向転換を遂げることになる。

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篁様へ申し上げ候。

此度、下界にて見届け候仔細、左の如くに候。

慶安四年、三代将軍・家光身罷り、わずか十一歳の家綱、四代将軍の座に就き候。この政情不安につけこみ、兵学者・由井正雪なる者、牢人どもを糾合し、江戸城・駿府城、あわせて大坂をも奪わんと企て候えども~~~~~

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現代語訳

篁様、報告します。

今回見たことを書いておきます。

慶安4年(1651年)、3代将軍の家光が亡くなり、わずか11歳の家綱が4代将軍の座に就きました。この政情不安に付け込んで、由井正雪という兵学者が、牢人たちを集め、江戸城・駿府城・大坂を同時に奪おうという企てを起こしました。

由井正雪は、諸大名や幕府自体からも仕官の誘いが来るほどの軍学者でありながら、それには応じず、江戸で軍学塾を開いて多くの門人を集めていた人物です。これまでの武断政治によって、多くの大名家が改易され、行き場を失った牢人が世に溢れていました。正雪は、こうした牢人たちの不満を吸い上げ、幕府転覆の企てへと導いたのです。

ですが、この企ては、仲間の一人の密告によって、実行の直前に露見してしまいました。7月23日、江戸で丸橋忠弥という者が捕らえられ、正雪自身は駿府にて捕り方に囲まれ、自ら命を絶ちました。7月30日には大坂の仲間も自害し、企ては完全に潰えました。

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刀を持たぬ軍学者が、言葉と知略だけで牢人たちの心を集め、天下を揺るがそうとする。これもまた、これまで我が見てきた「人の心を掴む力」の一つの現れだったのでしょう。ただ、之長や光秀がそうであったように、この企てもまた、身内からの裏切りによって潰えました。人の心を集める力を持つ者は、いつも、その集めた心のどこかに、裏切りの芽を抱えているものなのかもしれません。

だが、この一件が下界に残した爪痕は、正雪という一個人の野心よりも、はるかに大きなものでした。幕府はこれを機に、これまでの武断政治――力によって大名を厳しく取り締まる政――を見直し、後継ぎのないまま急死した大名家が末期に養子を取ることを許す「末期養子の禁」を緩和しました。牢人の発生そのものを防ぎ、学問や礼法によって世を治める、いわゆる文治政治への転換が、ここから本格的に始まったのです。

刀による支配から、法と学問による支配へ。之長の代からこれまで、我はずっと「力」の中身が移り変わっていく様を見てきたが、ここに来てようやく、力そのものに頼らない統治のあり方が、幕府の側からも模索され始めたように見受けられます。しかも、それを主導するはずの将軍は、わずか11歳の幼子だという。この危うい時代の舵取りを、この先いったい誰が担っていくのか。我は、次の下界の動きを、注意深く見届けたいと思う。


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