第三話(1)
俺は家に帰ってからも、ベッドに潜ってもずっとそわそわしていた。
それは、起きてからも治らなかった。
「やるしかないっしょ!」
この言葉が脳裏にこびりついている。
このことばかり考えてしまうのだ。
遠くを眺め、ぼんやりしていると時計の針の音がうるさく感じた。
―こっちは頑張ってそのワクワクを抑えようとしてんのに。
チクタク・チクタク・チクタク
「うるさいなぁ…。」
振り返って、時計を見ると素早く立ち上がって、筆記用具などをまとめる。
「塾の時間じゃん!」
すぐに準備して、自転車を車に負けない速さで漕いだ。
塾に着くころには足が棒になっていたが、ぎりぎり間に合った。
息が荒く、じんわり汗をかいたまま教室に入り、同じ中学の男友達が俺を見て少し笑う。
「お前、ギリじゃん。」
「いや、知らない間に時間すぎてて。圭太こそ、今日は珍しく早いじゃん。」
「まぁ、お前と違って優等生だからな。」
そういたずらに俺の腕をツンツンする。
「なんだよ。」
「で、なんでこんな遅いんだよ。音楽にふけってたか?」
「いや、そんなこともないんだけど。」
「ふーん。」
圭太はクスクスと笑いながら、座り直し、お得意のペン回しをし始める。
ため息をつきたくなるが、黙ってテキストにノート、筆箱を広げ、授業の準備をした。
―ピンポン・パンポーン
チャイムと同時に授業が始まった。
「この関数によってグラフがこうなり…」
先生が解説している。
だが、手はずっと止まっていた。
黒板をずっと見ながら自分がなにをしたいかを考え始める。
音楽やりたい。
―じゃあそれを職にする?
…さすがに無理あるか。
―それを親が認めるのか?
…一番の問題だよな。
―まずは動画から始めようか…。
…縦動画みたいな?
なんて考えていると、90分はあっという間だった。
―ピンポン・パンポン
「おい、透!」
「んぇ?」
「”んぇ?”じゃねぇよ。お前、今日どうしたよ。」
「いや、なんともないけど。」
「いやいやいや。お前、いつも狂人みたく問題解くじゃん。」
「誰が、狂人だよ。」
俺は口を尖がらせて少し拗ねたフリをする。しかし―
「でも、今日はペン回ししながらボーっとしてるだけだし。」
「…ヤバ。」
顔からすっと血の気が引き、焦りに襲われた。しかし、少し笑う圭太を見る と焦りが引いて血の気が戻ってきた。
「ノート、写メで送っといてやるから。早く休めよ。」
「いつもより優しいじゃん。」
「いや、さすがにお前の様子が変で怖ぇし。」
「ありがと。」
「じゃあな。」
そう言って圭太は教室を後にし、俺も片づけて教室を出た。
「様子が変…ね。」
俺はヘッドフォンで音楽をかけ、夜の電車に揺られるのだった。
―今日くらい音楽に逃げても、誰も咎めやしないだろう。今日は、色々考えすぎた。




