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第一話(3)

「ただいま。」

俺は靴を脱ぎ、リビングを通る。

「おかえり。」

母がiPadで韓国ドラマを観ながらスマホでゲームをしていた。机にはコンビニのお惣菜が食べ終わったままの状態で置かれていた。ソファにも取り込んだ洗濯物の山が積み上げられ畳まれている物は一切ない。

―だから離婚話とか出てくるんだよ。

脳内で吐き捨てて自室に向かった。

なんだかんだ重たいリュックを下ろし、ベッドに座る。

「やってみたい…なんていつから言わなくなっただろう。」

そのまま後ろに倒れこみ、天井に視線を向ける。

小学生の時は純粋だったと思う。

やりたいことがあって、欲しいものがあって、意味もなく「世界が欲しい」とか言っていた。

でも、中学入ってからだ。心の全てが崩れる音が聞こえたのは―。


中学校に入ったばかりの頃、友達―小島春樹の両親が離婚した話が出回った。それを聞いて俺は思っていた。

―俺の所は大丈夫だ。仲いいし。

でも、それはケーキなんかよりも甘い考えだった。

「母さん、春樹の家が離婚しちゃったんだって。」

「それは大変だね。春樹くんもショック受けてるかもね。」

母は皿を洗いながらそう返した。母の言葉に俺も賛同した。でも、次の問いかけが間違いだった。

「うちって結構、仲いい方だよね?」

母の皿を洗う手が止まり、振り返って俺を見る。疲れたような顔で。

「…そんなことないよ。」

当時の俺は謙遜している、そう思っていた。でも、同時に胸の奥が冷えていったのを覚えている。

―この家…壊れるのかな。

そこから少し経つと分かった。胸が冷えた原因が。

両親のため息。重たい空気。増えていくお金の話。互いに失望している視線。

気づけば、俺は親の機嫌を窺って、無難にやり過ごすようになった。

―あぁ、もう母さんも父さんも……信じられないや。

そう俺も失望した瞬間、心の全てが崩れた音が聞こえた。

―もっと幸せな愛の溢れた家庭に生まれたかった。

俺はもうこの家が”大嫌い”になっていた。

そう思う程に。

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