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この小さな花があの海に届きますように  作者: 富田 来蔵 / Kizō Tomita


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第39話「眩しき翼」

英一から白い花を一輪受け取った航たちは、

帰り道を、バスに乗らず二人で走っていた。


遠くに海を眺め、夕日を背に走る。


歩道のアスファルトは少し冷め、

顔に当たる空気はひんやりと心地よかった。


「ちょっと待って響、なんでいきなり走り始めるんだよ」


「なんでもないよ、風にあたりたかっただけ」


「お前、早いからついてくだけで、大変なんだよ」


「その靴、私が履いてたやつの最新版じゃない?」

「いい靴なんだから、もっと出せるよ」


「元、陸上部と一緒にするな、息が上がってきたわ」


バタバタと音を立てて走る航に対して、


「航、体ちょっと前。

かかとより、ほんの少し前で着地。ミッドフットってやつ」


ちょっとだけアドバイスを聞いただけなのに

身体が急に軽くなり、スピードが増す。


「やっぱ、響にはかなわないや、

この靴だってお前の真似しただけだぜ」


「よく覚えてたね。見せたの、二年前じゃない?」


航は頭をかいて斜め向こうに顔を向けた


前方で、海へと続く川が大きく広がり、

その上に橋の影が浮かんでいた。


航は、その影を目指すように足を強め、

響に追いつこうとスピードを上げる。


「だめ、急にペースを乱さないで」

響が横目で言う。

「ほら、呼吸合わせて。ゆっくり並んで」


前には、橋を照らす少し凝った街灯。

海には、沈みかけた夕日が、長い光を引いていた。

並んで走る響の横顔は、その残光をまとっている。


そのとき、背後に――

あの時と同じ気配があった。


夕日が海に消えた……


その直後、海面が朱と翡翠に瞬き、


光の束が鋭く走った――


橋の段差を飛び越えるように、

響が少し蹴り上げた、その瞬間に


朱に燃える雲がまっすぐ空の彼方へ伸び上げ

翡翠の雲が大気を抱きしめるように下から支える――



―――まるで、響が鳳凰の翼を持つユニコーンが飛翔する姿のように―――



光は一瞬で消え、空はまた静かに戻った。

だが航の心には、その翼の鼓動まで残った気がした。


「ユニコーンだ……響のユニコーンがいる……」


航はあまりのことに、足が止まる



「ほら航、あともう少しで『私たちの場所』だから手をつなごう」


「ああ…、そうしよう、俺たちはもう何があっても迷わない」


航はなぜか、そんな気がしていた。

ゴールは、あの白い花のあった場所だ。


不安と期待が入り混じるが、失ったものは

そんなに簡単に戻らない、だけど見届けねばならない


そうしているうちに公園の入り口が見えてくる

航たちは息を整え、公園の奥に入っていく。

鉄筋の骨組みの横を通り―


その先に、とても小さな、花壇が見えてきた


その横に腰を下ろし二人は花壇を見つめる





何かの苗が置かれ、白い花はどこにもない…





航は、このようなことは、どこか

想像していた通りと感じていた。


街灯の、人工的な冷たい光が、

花壇の土を、かすかな薄明りで照らしていた。


「わたしはね、ここはここで良いの、

思い出なんて、心の中にそっとしまっとくのが良い」


「おれはもう、いつでも前を向ける、

だって、お前がいる、心がいつも温かい…」


この世は出来損ないの、ファンタジー

人が生き返るわけでもなく、傷が魔法で直ることもない、


それでも人を思うことが、これだけ価値があり、いとおしいと思う。


この世界は、ちょっと気まぐれで、

それでいて、とても眩しく、どこまでも美しい。


航と響は、静かに公園に戻る。

その顔に、もう迷うことがなかった。


遠くの海を見つめる


その下の奥で真っ白な灯台が光を放っている


「航、あの灯台、もう直ったみたい。ちょっと見に行こうよ。

あの向こうの海岸では、毎年おじいさんと、おばあさんが、

花を手向けていたんだ」


「そうだな。この町のシンボルが、また光を取り戻したんだ」


そう言って、灯台に向かう階段を下りていく。

船のような形の月だが、暗がりの海岸を照らすには、十分な明るさだ


近づくと遠くで見るより大きな灯台が

航たちを迎える、少しだけペンキのにおいがした


その匂いにかすかに小さな甘い香りが混じる


「まさか・・・」


その横には真新しい小さな道が通っていた


挿絵(By みてみん)





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