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この小さな花があの海に届きますように  作者: 富田 来蔵 / Kizō Tomita


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エピローグ 「白き風、響き航る」

その小道を抜けると、

そこには息をのむ真っ白な光景が浮かび上がっていた


毎年誠と響乃が献花していたのだろうか

その種がこぼれた海岸は、一面の白い花・・白嫁菜しろよめなで覆われていた


それは失われた人々の心が再生していくような

希望の光のように見えた


航は息をのみ、響は口元に手を当て

失われたはずの思い出に、目頭が熱くなるのを感じた


航の手の中には、小さな白い一輪の花があった。


その花をそっと波に置くと、

潮に揺られてゆっくりと沖へと進みはじめる。


その瞬間——


優しい風がふたりを包んだ。


懐かしい気配が確かに混じっている。

誠の風。

響乃の風。

言葉にはならないけれど、

ふたりを見守るような温度だけが、確かにあった。


響は涙を拭いながら、笑う。


航は海を見つめたまま小さく呟く。


「……響、ずっと…」


言葉が風に溶ける。


響が静かに寄り添い、

航の袖を指先でつまむ。


ふたりの影が重なり、

白い花が月明りの波の上をゆっくり進む。


航は響の方を向き、

やわらかく笑った。


「……毎年、この日に来よう。ここに」


響は照れたように肩をすくめる。


「それ、プロポーズみたいだよ」


「……それも、いいかなって」


響は息を詰めて——

そして、少しだけ涙があふれそうな笑顔でうなずいた。


「……うん。

 それも、いいね」


そっと風が止み、

代わりに花びらがふわりと舞う。


響が顔を上げ、

囁くように言う。


「ねえ航……

 キスしよっか」


航は響の頬に手を添え、

ふたりはゆっくりと唇を重ねた。


音もなく、

船のような月が海の端へ落ちていく。


白い花は遠く、

“向こう”へ向かって流れていく。


やがて響が、

海に浮かぶその小さな点を見つめながら呟く。


「……届くかな、どこまで」


航が、波の向こうを見つめたまま言った。


「……どうか」


響も、少し遅れて息を吸う。


「どうか」


航の手のひらで、白い花が揺れる。


「この小さな花が」


響はその花を見つめ、同じ言葉を重ねた。


「この小さな花が」


ふたりは顔を見合わせる。

それ以上、言葉を分ける理由はなかった。


「あの海に届きますように」



-fin-



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