第24話「太陽の贈り物」
どこまでも続く真っ青な空と。
澄み切って深く透明な蒼の海、潮騒が涼やかに波を飾り立てる
四人は岩場の横で軽くストレッチをしてラッシュガードを着込む
小声で仁がちょっと残念そうに
「おい航、なんであの二人にあれ着せたんだ」
「しょうがないだろ、仁が最初は飛び込みからだ
とか言うからだ、岩場だから傷だらけになっちまうぞ」
「そりゃそうだな、安全第一、そういえば足からだったな」
そう言って仁は一気に岩場を登って飛びこむ、
その後に3人も続く、航がすっと静かに飛び込み
エミリーが優雅に背中から飛び込む、
響が上から声を張り上げる
「なんかここ低くなってない、こんなんだっけ?」
「そりゃ俺らが大きくなったからだ、岩場は変わってないはずだ」
「そっか、それじゃいっくよー」
響は岩場から勢いよく飛び込み、歓声を上げる。
航は潜水しながら水中を見る、どこまでも透明な海は
きらきらと波紋を砂地の底に描く、そこへたくさんの魚たちが
群れをなして横切っていく、航は遠い思い出を胸に、気持ちが温かくなる
「すごいぞ、今日は海も澄んでるし、良さそうだ
仁、東山さんに連絡してあるか」
「ああ、漁協の東山パイセンに連絡してある、ビクも用意してあるぞ」
「とっちゃダメな奴はその場でリリース、しっかり採るぞー」
その時、響が航のラッシュガードにタコをつっこむ
「航の背中にリリースしてみた」
「わわわ、それやめろって、それ何回やれば気が済むんだ、
これ吸盤引っ付いて大変なんだから」
背中からタコをひっぺがして、即座にリリースする
「だってこれやらないと海に来た気がしないもの」
「なんで、毎回たこ捕まえられるの、特技なのか」
響に文句言いつつ、深く潜水していく
岩場の水の流れかたや、砂の上がり方を見て岩の間に素早く手をいれ、
手の中で暴れる感触で素早く掴み、その勢いのままビクに突っ込む
横ではエミリーがサムズアップして、得意げにビクを見せた
すでに4匹捕まえている、航とエミリーは次々と獲物を捕まえていく
水面で見ている響と仁はとりあえず3匹ずつ、捕まえてあったが
「あいつら、いつになったら浮いてくるんだ?」
「すごいねー、めったに顔出さないよ、えらで呼吸してんじゃないの」
その時二人とも水面から顔を出して、採った獲物を見せ合った
「俺は魚10匹ぐらいかな、貝がいっぱい、エミリーは?」
「わたし、魚が同じぐらいで、こっちも貝が人数分ぐらいあるよ、いい勝負ね」
二人の間にちょっとした競争心が湧く。
「おい、航とエミリー食える分にしておけ、採りつくしちまう勢いだ」
「わかったー、後はリリースする、航勝負よ」
「OK、でもお前らこのくらい全部食っちまわねえか」
響はそれを見て、しょうがないなって顔をして
「それでもほどほどにねー、お昼に火を起こさないといけないからね」
太陽はさらに高く昇り、海は光を反射して眩しくきらめく。
仁と響はバーベキューの用意をしている、
炭をやぐらのように積み上げ、着火剤に火をつける
航とエミリーは陽炎に揺れる灯台に
泳いでいった、白い波の上を滑るようだ
「ねえお兄ちゃん最近エミリーはどうなの」
「ああ、新しいことばかりだ、いろいろ大変なところはあるが
楽しいぞ、お前こそ何かあったか」
「うん、ちょっと心配なんだ、私でよかったのかと」
「おまえは、もっと自信を持て、以前の航は
あんな楽しそうな顔しなかったぞ」
「わたし、中学のころ……陸上、やめてるし」
「怪我もあったし……」
「ただ、競うのが嫌になっただけかもしれない」
炭は少しずつ火を弱め、にぶく赤くなっていた
「弓道は楽しいけど、私逃げたのかな」
響は言葉を探すように、炭を見つめた。
「私、航の横に立つ資格、あるのかなって」
響はそう言って目を伏せた、炭のはぜる音が静かに響く
「なあ響、心ってのはなケガするんだ」
仁は炭を静かに広げる
「でも、治った心は――前より強い」
「そう、いつもじいちゃんが言ってたじゃないか」
仁は響のあたまにポンと手を置いて
「だから、お前はにげてない」
「お前は航の一番なんだから安心しろ、これはあいつではなく
お前にしかできないことだから」
「ありがとうお兄ちゃん」
その時、少し風が強くなった海からエミリーが上がってきて
息を弾ませながら、遠くの航に大きな声で呼ぶ
「もう用意できてるみたいよ、早く戻ってきてネー」
航は手を振り、こちらに向きを変え、しばらくして
こっちに戻ってくる
「おまたせ、なんか止まんなくなった、わるいな」
まったく息を乱さずおどけて答える
エミリーは一瞬、航の胸元に目をやった。
呼吸は、さっきと何も変わっていない。
「ほっときゃ、何時間でも泳ぐからなこいつは、
さっさと焼くぞ、腹減った」
「もーお兄ちゃん、さっきから早くってさんざん急かすんだもん」
その笑顔はまぶしく夏空に溶ける、
エミリーは獲物を高く掲げ、
「いっぱい焼くよー、がんがん食べよー」
と、いつもの調子で声を張り上げる。
網の上で海の幸が音を立て、
潮の匂いと炭の煙が混じり合う。
誰かが笑い、誰かが文句を言い、
それでも手は止まらない。
航はその光景を、少し離れたところから眺めていた。
胸の奥に、温かいものが静かに沈んでいく。
――ああ、これはきっと、
いつかまた思い出す「夏」なのだ。
太陽はまだ高く、
この一日は、もう少しだけ続いていく。




