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悪女令嬢は、断罪式のあとで領収書を切る  作者: 海空
第五章 聖女様は、正しすぎる
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第95話 聖女様は、正しさに非常口をつける

「止められません」


 医師は、そう言った。


 リリアは聞き返した。


「何を?」


「祭りです」


「……祭り?」


「はい」


 聖協国南部、ラウネ地方。


 人口一万四千ほどの小さな町と、周囲の六つの村。


 そこで百年以上続く、春迎えの祭りがある。


 屋台。


 音楽。


 踊り。


 巡礼。


 そして、三日間で約二万人が集まる。


「感染症が?」


「まだ、この地方では確認されていません」


「では、なぜ?」


「西へ四十キロの町で出ています」


 医師は地図を指した。


「三日前に十二人。昨日までに三十一人です」


「祭りには、その町からも?」


「毎年かなり来ます」


 リリアは地図を見た。


「延期できないんですか?」


 地方官が、困った顔をした。


「できます」


「なら」


「ただし」


 来た。


 最近、リリアはこの「ただし」が少し怖い。


「この祭りで一年分の売上の三割を稼ぐ店があります」


「三割」


「宿屋はもっとです」


 ◇


 祭り。


 ただの遊びではない。


 宿。


 酒場。


 屋台。


 仕立屋。


 馬車。


 花。


 菓子。


 肉。


 木工。


 楽師。


 旅商人。


 祭り。


 一つ。


 止める。


 町。


 全部。


 少しずつ。


 止まる。


「去年は?」


「大雨で一日短縮しました」


「影響は?」


「倒産が二軒」


「……」


「今年も中止なら、さらに出るでしょう」


 ◇


 リリアは聞いた。


「医師としては?」


「中止を勧めます」


「地方官としては?」


「開催したいです」


「商工組合は?」


「開催」


「学校は?」


「中止」


「宿屋組合」


「開催」


「高齢者施設」


「中止」


「住民は?」


「割れています」


「どのくらい?」


「ほぼ半分です」


 ◇


 最悪。


 だった。


 九対一。


 なら。


 まだ。


 分かる。


 半分。


 全員。


 理由。


 ある。


「最高導師様に決めていただければ」


 地方官。


 言う。


 リリア。


 すぐ。


 返す。


「嫌です」


「……はい?」


「嫌です」


 ◇


「私が中止と言ったら、中止になりますよね」


「おそらく」


「開催と言ったら?」


「開催されるかと」


「じゃあ、私が決めたら駄目です」


「しかし」


「私、この町の宿屋で働いてないです」


「……」


「祭りの屋台も出してない。高齢者施設にも住んでない。子どもも通わせてない」


 地方官を見る。


「ここで暮らしている人が決めるべきです」


 ◇


 正しい。


 たぶん。


 とても。


 正しい。


 ◇


 二日後。


 町。


 決める。


 開催。


 ただし。


 規模。


 縮小。


 巡礼。


 中止。


 屋台。


 間隔。


 広げる。


 手洗い場。


 増やす。


 発熱者。


 来場。


 控える。


 医師。


 臨時。


 待機。


「かなり考えましたね」


 リリアは資料を読んだ。


「はい」


 地方官。


 少し。


 誇らしい。


「私たちで決めました」


 ◇


 リリア。


 笑う。


「いいと思います」


 その言葉を口にしてから。


 少し。


 気になる。


「今のは」


「はい?」


「最高導師としての承認ではなく、私個人の感想です」


「……難しいですね」


「私もそう思います」


 ◇


 祭り。


 開催。


 一日目。


 晴れ。


 人。


 多い。


 でも。


 例年。


 七割。


 ほど。


 屋台。


 並ぶ。


 子ども。


 走る。


 楽師。


 演奏。


 肉。


 焼ける。


 パン。


 匂う。


「行きたい」


 リリア。


 窓。


 外。


 見る。


「駄目です」


 ルーメン。


「まだ何も言ってない」


「顔が言ってます」


「視察」


「人を増やします」


「ですよね」


「あと、最高導師が来たら予定以上に人が集まります」


「ですよね……」


 ◇


 リリア。


 宿。


 残る。


 祭り。


 音。


 遠く。


 聞く。


 少し。


 寂しい。


「串」


「ありません」


「まだ何も」


「顔が」


「私、そんなに顔に出ます?」


「かなり」


 ◇


 二日目。


 患者。


 出る。


 一人。


 祭り。


 参加者。


 西の町。


 から。


 来た。


 男性。


 三十八。


 発熱。


 ◇


 三日目。


 六人。


 ◇


 祭り。


 終了。


 四日後。


 二十三人。


 ◇


 一週間。


 七十四人。


 ◇


 リリアは報告書を握っていた。


「重症は?」


「九人」


「子ども?」


「二人」


「高齢者?」


「五人」


「死者」


 医師。


 一瞬。


 止まる。


「一人」


 ◇


 リリアは何も言わなかった。


「七十六歳の男性です」


「祭りには?」


「参加していません」


「……」


「家族が参加しました」


 ◇


 部屋。


 音。


 消える。


 リリア。


 椅子。


 座る。


「私が」


 ルーメンが見る。


「中止って言ってたら」


「分かりません」


「でも」


「分かりません」


「感染は」


「減った可能性は高いです」


「じゃあ」


「でも、ゼロになったかは分かりません」


 ◇


 リリア。


 拳。


 握る。


「私」


 声。


 小さい。


「決められた」


「はい」


「止められた」


「はい」


「止めなかった」


 ◇


 その夜。


 寝ない。


 資料。


 読む。


 祭り。


 中止。


 場合。


 経済。


 損失。


 感染。


 予測。


 開催。


 場合。


 感染。


 予測。


 実績。


 死者。


 一。


 数字。


 そこ。


 だけ。


 大きい。


 ◇


 翌朝。


 ルーメン。


 入る。


「寝ました?」


「少し」


「何時間」


「二」


「寝てください」


「その前に」


「寝てからです」


「ルーメン」


「セレナ様は三日三晩」


「分かりました!」


 ◇


 六時間。


 寝る。


 起きる。


 まだ。


 死者。


 一。


 変わらない。


 ◇


 遺族。


 会う。


 自分。


 希望。


 ではない。


 でも。


 行く。


 老人。


 妻。


 八十。


 息子。


 五十一。


 孫。


 十七。


 ◇


「申し訳ありません」


 リリア。


 頭。


 下げる。


 妻。


 言う。


「何が?」


「祭りを止めませんでした」


 ◇


 妻。


 長く。


 リリア。


 見る。


「あなたが決めたの?」


「いえ」


「じゃあ、なんで謝るの」


 ◇


「止める力がありました」


「それで?」


「使いませんでした」


「それで?」


 リリア。


 言葉。


 ない。


 ◇


 妻。


 座る。


「うちの爺さんね」


「はい」


「祭り、好きだったよ」


 ◇


 若い。


 頃。


 太鼓。


 叩いた。


 五十。


 過ぎ。


 屋台。


 手伝った。


 七十。


 過ぎ。


 足。


 悪い。


 家。


 窓。


 祭り。


 音。


 聞く。


「今年も」


 妻。


 言う。


「窓開けてた」


 ◇


「感染しなきゃ、まだ生きてたかもしれない」


「……はい」


「祭りがなきゃ、感染しなかったかもしれない」


「はい」


「でも」


 妻。


 少し。


 笑う。


「爺さんに《お前のために祭りをなくす》って言ったら、怒ったと思うよ」


 ◇


 リリア。


 顔。


 上げる。


「それでも」


「うん」


「亡くなりました」


「死んだよ」


 妻。


 言う。


 逃げない。


「だから悲しい」


 ◇


「でもね、聖女様」


 妻。


 手。


 膝。


 置く。


「悲しいことが起きたら、誰かが間違ってたことにしないと駄目なの?」


 ◇


 リリア。


 答えられない。


 ◇


 帰り。


 歩く。


 ルーメン。


 少し。


 後ろ。


「私」


 リリア。


 言う。


「最近、数字を見すぎてました」


「数字は必要です」


「はい」


「一人亡くなったことも、記録しないといけません」


「はい」


「でも」


 振り返る。


 老人。


 家。


 見る。


「その一人にも、好きな祭りがあった」


 ◇


 命。


 だけ。


 残せば。


 暮らし。


 残る。


 わけではない。


 クラリス。


 言っていた。


 似た。


 こと。


 守りたい暮らしを知らずに、人を救ったことにはならない。


 リリア。


 自分。


 ノート。


 にも。


 書いた。


 ◇


「……忘れてた」


 ◇


 でも。


 感染。


 まだ。


 終わっていない。


 町。


 周辺。


 広がる。


 百二十六人。


 重症。


 十五。


 医師。


 足りない。


 ◇


 次。


 判断。


 来る。


 町。


 市場。


 閉鎖。


 する。


 か。


「市場は毎日?」


「はい」


「食料は?」


「別途配給できます」


「商人の補償」


「予算があれば」


「感染リスク」


「高いです」


「期間」


「まず十日」


 ◇


 リリア。


 聞く。


「市場を閉めたい?」


 町長。


 頷く。


「今回は」


「なぜ?」


「祭りの反省?」


「それもあります」


「他には?」


「市場を続ける方が危険だと、今は判断しています」


「最高導師が言うから?」


「違います」


 町長。


 答える。


「私がです」


 ◇


 リリア。


 少し。


 笑う。


「分かりました」


 ◇


 でも。


 条件。


 付ける。


「十日」


「はい」


「延長するなら再審議」


「はい」


「商人へ補償」


「はい」


「食料配給」


「はい」


「異議申立て窓口」


「はい」


「閉鎖の効果を毎日公開」


「はい」


「感染状況が基準を下回ったら、十日を待たず解除」


「分かりました」


 ◇


 町長。


 書く。


「多いですね」


「強制には」


 リリア。


 言う。


「出口を書きます」


 ◇


 市場。


 閉鎖。


 七日目。


 新規感染。


 基準。


 下回る。


 八日目。


 再開。


 十日。


 待たない。


 ◇


「まだ二日ありますが」


 担当者。


「終わる条件を満たしたので」


「念のため十日やった方が」


「何のため?」


「安全のため」


「どれくらい安全になる?」


「……」


「分からないなら」


 リリア。


 言う。


「二日分の自由を、《念のため》だけでは買わないでください」


 ◇


 市場。


 開く。


 商人。


 戻る。


 野菜。


 魚。


 パン。


 肉。


 声。


 戻る。


 ◇


 リリア。


 遠く。


 見る。


 今回は。


 行かない。


 人。


 集まる。


 から。


「串、ありますよ」


 ルーメン。


「え?」


「買ってきました」


「……」


「食べます?」


「食べます」


 即答。


 ◇


 一本。


 食べる。


「おいしい」


「比較します?」


「今日はしません」


「成長しましたね」


 二本目。


 取る。


「これは?」


「予備です」


「何の?」


「非常口」


「その使い方は違うと思います」


 ◇


 光秩院。


 戻る。


 リリア。


 制度。


 作る。


 名前。


 《期限付き公衆保護措置》


 官僚。


 もっと。


 格好いい。


 名前。


 提案。


 する。


「《聖護令》はいかがでしょう」


「嫌です」


「《慈恵特別措置》」


「もっと嫌です」


「では《最高導師緊急保護権限》」


「私の名前を入れるな!」


 ◇


 内容。


 単純。


 非常時。


 感染症。


 災害。


 大規模。


 事故。


 人。


 命。


 重大。


 危険。


 迫る。


 時。


 一定。


 自由。


 制限。


 できる。


 ただし。


 必ず。


 最初。


 書く。


 ◇


 何を守るためか。


 誰の自由を、どこまで制限するか。


 何日間か。


 代替手段はないか。


 損失を誰が補償するか。


 誰が異議を申し立てられるか。


 何が起きたら終了するか。


 ◇


 そして。


 最後。


 一つ。


 追加。


 《措置終了後、必ず“やりすぎなかったか”を監査する。》


 ◇


 ルーメン。


 読む。


「良いと思います」


「本当に?」


「はい」


「怖いんですけど」


「何が?」


「これ」


 紙。


 持つ。


「使えば、人の自由を止められます」


「はい」


「合法的に」


「はい」


「私が」


「最高導師ですから」


 ◇


 リリア。


 紙。


 見る。


「作らない方がいい?」


「それもリリア様が」


「それ禁止」


「何がです?」


「最近、何でも《あなたが決めることです》って返すの」


「ご自分で決める練習かと」


「たまには意見ください」


 ◇


 ルーメン。


 少し。


 考える。


「私は」


「はい」


「作った方がいいと思います」


「理由は?」


「権力は、無いことにすると監査できないからです」


 ◇


 リリア。


 顔。


 上げる。


「……」


「最高導師には、もともと緊急時にかなりの権限があります」


「はい」


「今まで、それを《慈悲》《慣例》《緊急対応》という曖昧な言葉で使っていた」


「はい」


「なら」


 ルーメン。


 紙。


 指す。


「書いてしまった方がいい」


 ◇


 何が。


 できる。


 何が。


 できない。


 いつ。


 終わる。


 誰が。


 見る。


「権力を作るんじゃない」


 リリア。


 呟く。


「もうある権力に、柵をつける」


「そう思います」


 ◇


 リリア。


 少し。


 安心。


 する。


 その安心。


 自体。


 少し。


 怖い。


 ◇


 制度。


 議会。


 出す。


 反対。


 出る。


 百九十。


 賛成。


 百二十一。


 反対。


 三十八。


 保留。


 三十一。


 ◇


「反対、三十八」


 リリア。


 見る。


「嬉しそうですね」


「はい」


「理由を?」


「読みます」


 ◇


 反対。


 一。


 最高導師。


 権限。


 強すぎる。


 反対。


 二。


 地方。


 自治。


 侵害。


 反対。


 三。


 補償。


 財源。


 不明。


 反対。


 四。


 感染症。


 名目。


 拡大。


 解釈。


 危険。


 ◇


「全部」


 リリア。


 言う。


「もっともです」


「法案を取り下げます?」


「いいえ」


「では?」


「直します」


 ◇


 最高導師。


 単独。


 発動。


 できない。


 医療。


 災害。


 専門家。


 複数。


 承認。


 必要。


 地方。


 代表。


 一人。


 必須。


 七日。


 超える。


 場合。


 議会。


 承認。


 必要。


 終了後。


 外部。


 監査。


 ◇


 再提出。


 賛成。


 百五十八。


 反対。


 十八。


 保留。


 十四。


「通りました」


 ルーメン。


「はい」


「嬉しいですか?」


 リリア。


 少し。


 考える。


「半分」


「残りは?」


「怖い」


 ◇


 夜。


 ノート。


 開く。


 書く。


 《自由を守るために、自由を制限しなければならない時がある。》


 止まる。


 その文章。


 見る。


 怖い。


 ◇


 次。


 書く。


 《だから、この言葉を簡単に言えるようになったら止まる。》


 ◇


 もう一行。


 《非常口は、毎日の出入口にしない。》


 ◇


 ペン。


 置く。


 少し。


 笑う。


「これなら」


 自分。


 まだ。


 大丈夫。


 そう。


 思う。


 ◇


 ――その頃。


 王国。


 クラリス。


 リリア。


 送った。


 制度案。


 読んでいた。


 ルシアン。


 隣。


「どうです?」


「よくできています」


「百点?」


「採点しません」


「最近ずっとそれですね」


 ◇


 クラリス。


 最後。


 条文。


 読む。


 《措置終了後、過剰な制限がなかったか外部監査を行う。》


「リリアらしいですね」


 ルシアン。


「はい」


「安心?」


 クラリス。


 答えない。


 ◇


「お嬢様?」


「制度は」


 紙。


 置く。


「とても良いです」


「なら?」


「良い制度を作れる人ほど」


 クラリス。


 窓。


 見る。


「自分は権力を正しく使える、と証明できてしまうんです」


 ◇


 ルシアン。


 黙る。


「それって悪いこと?」


「いいえ」


「じゃあ?」


「だから難しいんです」


 ◇


 ヨル。


 足元。


 寝る。


「わふ」


 クラリス。


 耳。


 触る。


「権力を持つ資格がない人なら、止めるのは簡単です」


 ルシアン。


「うん」


「問題は」


 ヨル。


 頭。


 撫でる。


「誰より上手に使える人が、それを持った時です」


 ◇


 同じ夜。


 聖協国。


 リリア。


 眠る。


 夢。


 見る。


 ◇


 大きな。


 町。


 人。


 たくさん。


 いる。


 道。


 左右。


 二つ。


 一方。


 暗い。


 一方。


 明るい。


 人。


 迷う。


 ◇


 リリア。


 立つ。


「好きな方へ行ってください」


 人。


 動かない。


「自由です」


 誰も。


 動かない。


「どうして?」


 一人。


 聞く。


「聖女様は、どちらが安全だと思いますか?」


 ◇


 リリア。


 明るい。


 道。


 見る。


「……こちら」


 その瞬間。


 全員。


 明るい。


 道。


 歩き出す。


 ◇


「待って」


 誰も。


 止まらない。


「私は、選んでって」


 人。


 笑う。


「選びました」


 ◇


 全員。


 同じ。


 道。


 行く。


 誰も。


 強制。


 されていない。


 ◇


 最後。


 一人。


 少女。


 残る。


 暗い。


 道。


 見る。


「そっちに行きたいの?」


 リリア。


 聞く。


 少女。


 頷く。


「じゃあ」


 言いかける。


 ◇


 明るい。


 道。


 行った。


 人々。


 振り返る。


 少女。


 見る。


 誰も。


 何も。


 言わない。


 ◇


 少女。


 その視線。


 見る。


 そして。


 明るい。


 道。


 歩き出す。


 ◇


「待って」


 リリア。


 追う。


「そっちでいいの?」


 少女。


 笑う。


「はい」


「本当に?」


「はい」


 ◇


 その笑顔。


 どこか。


 見た。


 こと。


 ある。


 ◇


 白い。


 教室。


 三十二人。


 二十八。


 三。


 一。


 《別にいいよ》


 ◇


 リリア。


 目。


 覚ます。


 朝。


 まだ。


 暗い。


「……」


 枕元。


 ノート。


 取る。


 書く。


 ◇


 《安全な道を示すことと、他の道を消すことは違う。》


 ◇


 少し。


 考える。


 次。


 書く。


 《でも、私が安全だと言っただけで、他の道が消えることがある。》


 ◇


 そこで。


 手。


 止まる。


 そして。


 もう一行。


 書く。


 《なら、危険な道を残すことまで、私の責任なの?》


 ◇


 リリアは、その問いを消さなかった。


 消せなかった。


 なぜなら。


 昨日。


 一人。


 死んだ。


 から。


 ◇


 そして今のリリアには。


 自由を残すことより。


 命を失うことの方が。


 ほんの少しだけ。


 怖くなり始めていた。

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