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やり直しの終わりに  作者: カンヌワルト
第2章1995年
9/43

最初の出会い

 雨が、降っていた。


 仕事帰り。

 予報にはなかったはずなのに、ぽつぽつと降り出して、気づけば本降りになっていた。


「……最悪だな」

 小さく呟く。

 傘はない。

 コンビニまで走るかと考えて、足を止める。


 軒先に、人がいた。

 同じように雨宿りをしている女性。

 濡れた髪を、軽く払いながら空を見ている。


 目が合う。

 ほんの一瞬。

 すぐに逸らす。



 沈黙。

 雨の音だけが続く。


「……降りましたね」

 先に口を開いたのは、彼女だった。

「ああ……急に」

 ぎこちない返事。

 それだけで、会話は途切れる。


 気まずくはない。

 でも、何かを話すほどでもない。

 ただ同じ場所にいる、他人。


 しばらくして、彼女が小さく笑う。

「こういうときに限って、傘ないんですよね」

「……わかります」


 少しだけ、空気が柔らぐ。

 雨は、まだやみそうにない。


 勇は、少し迷ってから言う。

「よかったら……あの、駅まで」


 言葉を探す。

「一緒に行きますか。走れば、そんなに遠くないんで」


 言い終わってから、少し後悔する。

 唐突すぎたかもしれない。

 彼女は一瞬だけ驚いた顔をして——

 それから、軽くうなずいた。


「じゃあ……お願いします」

 ふたりで、走り出す。


 雨が強くなる。

 足元が跳ねる。

 息が少し上がる。


 笑い声が、こぼれる。

 駅に着く頃には、少しだけ濡れていた。

「……すみません、付き合わせちゃって」

「いや、大丈夫です」


 それだけのやり取り。

 名前も知らない。


 連絡先も交換しない。

 ただの、偶然。

 それだけのはずだった。



 けれど。

 改札の前で、彼女がふと振り返る。

「……また、どこかで会いそうですね」


 一瞬、言葉に詰まる。

「……そうかもしれませんね」

 それだけ返す。


 彼女は、小さく笑って。

 人の流れの中に、消えていった。


 勇は、その場に少しだけ立ち尽くす。

 胸の奥が、わずかに静かだった。

 理由は、わからない。

 

 ただ。

 ほんの少しだけ、思う。

(……悪くないな)

 雨は、まだ降っていた。




2部5

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