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やり直しの終わりに  作者: カンヌワルト
第2章1995年
41/43

対面 ――そして、二人の選択

 枝を踏み折る音。

 同時に、ふたりの動きが止まる。

 振り向く。

 そこに、美咲がいた。


 息が荒い。

 肩で呼吸をしている。

 白いブラウスは土で汚れ、髪は乱れている。

 その手に薄いピンクのワンピース。

 握りしめられている。


「……勇、さん」

 声は、小さい。

 でも、はっきり届く。

 勇は、何も言えない。

 喉が、動かない。

 目だけが、美咲を見る。


 そして、その視線がゆっくりと下に落ちる。

 土。

 掘り返された場所。

 そこに、のぞくもの。

 ——髪。

 美咲の指が、わずかに震える。

 ワンピースを、強く握る。


 音がしない。

 風さえ、止まったように感じる。

「……見つけたんです」

 ぽつりと、言う。

 誰に向けたのか、わからない。


 ただ、事実だけを置くように。

「咲を」

 勇の体が、こわばる。

「違う——」

 言葉が、ようやく出る。


 もう遅い。

 美咲は、首を振る。

 ゆっくりと。

「……大丈夫です」

 やさしい声だった。

 あまりにも。

 それが、余計に痛い。


「咲をひとりに、しません」

 その言葉で。

 すべてが、決まる。

「待て!」

 勇が踏み出す。

 でも美咲のほうが、早い。

 一歩、下がる。


 崖の縁。

 風が、強く吹く。

 髪が揺れる。

 ワンピースが、ひらりと翻る。

 まるで。

 あの子が笑っていたときみたいに。

 同じ色が、揺れる。

 美咲が、こちらを見る。

 その目は。

 泣いていない。


 ただ、静かだった。

「……ごめんなさい」

 誰に向けた言葉か。

 わからない。

 でも、すべてを含んでいた。


 次の瞬間。

 足が、離れる。

 身体が、ふっと軽くなる。

 ワンピースが、風に広がる。

 薄いピンクが、空に溶ける。


 落ちていく。

 何も掴まず。

 何も残さず。

 ただ、まっすぐに。


「——っ!!」

 声にならない叫び。

 手を伸ばす。

 届かない、距離が、ある。

 どうしても届かない。


 風が、すべてをさらう。

 音が、消える。

 残るのは崖の上の静けさと。

 掘り返された土と。

 そして動かない、髪の毛。


 勇は、その場に立ち尽くす。

 もう、何も間に合わなかった。



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