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やり直しの終わりに  作者: カンヌワルト
第2章1995年
32/43

崩れはじめる

 神社から戻っても。

 何も、変わらなかった。


 むしろ。

 悪くなっていた。

 夜眠れない。

 目を閉じるたびに、浮かぶ。

 土の感触。

 暗闇のあの目。

 そして。

 “穴”。


 何度も、繰り返す。

 夢と現実の境目が、曖昧になる。


 気づけば、朝になっている。

 体が重い、頭が、働かない。

 それでも。

 会社へ行く。

 行こうとする。


 でも、足が止まる日が増えた。

「……今日は、休みます」

 電話越しに、そう告げる。

 自分の声が、遠く感じる。


 欠勤が、続く。

 一日、二日。

 やがて、それが“珍しくないこと”になる。


 会社。

「大丈夫ですか」

 部下が、気遣うように言う。

「顔色、よくないですよ」

「……ああ、ちょっと寝不足でな」

 笑ってごまかす。

 でも上手く笑えていないのは自分でもわかる。


 視線が、合わない。

 言葉が、遅れる。

 ほんの少しのズレが、積み重なる。

 それを、周りは見ている。


 ある日。

「田中」

 上司に呼ばれる。

 会議室の扉が閉まる。

 静かな空間。


「無理してないか」

 単刀直入な言葉。

「……大丈夫です」

 反射的に答える。

「そうは見えないな」


 否定される。

 まっすぐな視線。

 逃げ場がない。

「最近、ミスも増えてる」

 言葉が、刺さる。


「休め」

 短く言われる。

「一度、ちゃんと」

 それ以上は、続かない。

 でも十分だった。


 席に戻る。

 周りの空気が、少しだけ変わっている気がする。

 気のせいかもしれない。

 でもそう思えなくなっていた。


(……まずいな)

 わかっている。

 崩れ始めている。

 仕事も。

 そして自分自身も。


 帰り道。

 足取りが重い。

 家が、見える。

 灯りがついている。

 その光が、やけに遠く感じる。


 ドアの前で、立ち止まる。

 手が、止まる。

(……戻れるか)

 何に対してなのか、自分でもわからない。

 でもその一歩が、妙に重い。


 それでも。

 ドアを開ける。

「おかえりなさい」

 美咲の声。

「パパ!」

 咲の笑顔。

 変わらない光景。

 守りたかったもの。

 そこにある。

 確かに、ある。


 なのに、胸の奥が痛む。

 守れていない。

 もう、壊れ始めている。

 それが、はっきりとわかった。


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