祈りの行き先
何も、変わらない。
あれほど願ったのに。
あれほど祈ったのに。
何も。
ひとつも、変わらなかった。
(……なんでだ)
頭の中で、何度も繰り返す。
あのときは、届いた。
崖の上で。
すべてを失う直前で。
確かに届いた、はずだった。
なら、なぜ今は。
なぜ、今回は。
(……足りないのか)
祈りか覚悟か。
何かが、足りないのか。
考えても、答えは出ない。
それでも。
じっとしてはいられなかった。
翌朝。
「今日は、出張なんだ」
食卓で、そう言う。
美咲が顔を上げる。
「そうなんですか」
「急で悪いけど、今日と明日」
「大丈夫ですよ」
やわらかく笑う。
疑いもなく。
その顔を見た瞬間。
胸が、痛む。
初めてだった、美咲に嘘をつくのは。
喉の奥が、少しだけ詰まる。
それでも言葉は、止まらなかった。
「帰り、遅くなるかも」
「気をつけてくださいね」
ただ、それだけのやり取り。
それなのに。
妙に重く残る。
「パパ、いってらっしゃい!」
咲が、手を振る。
「ああ、いってくる」
その笑顔が、刺さる。
背を向け、ドアを開ける。
外に出て扉を閉める。
静寂。
暫くその場で立ち止まる。
(……これでいい)
自分に言い聞かせる。
これは、守るためだ。
この家を。
この時間を。
壊さないために。
だから。
仕方ない、 そう思う。
思うしかなかった。
足を動かす。
向かう先は、決まっている。
各地の有名な神社。
名前を聞いたことがある場所。
人が、願いを持って集まる場所。
そこでなら。
何かが変わるかもしれない。
何かが、返ってくるかもしれない。
そんな期待が、胸の奥に残る。
自然と、足が速くなる。
自分は焦っている。
わかっている。
でも、止められない。
ただ、前へ。
願いを抱えたまま。
救いを探すように。
勇は、神社へと向かっていった。




