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やり直しの終わりに  作者: カンヌワルト
第1章2005年
3/43

山へ向かうまでの数日間

 時間の感覚が、曖昧だった。

 昼なのか夜なのか、よくわからない。


 カーテンは閉めたまま。

 部屋の中は、薄暗い。


 テレビはつけっぱなしになっていた。

 音だけが流れている。

 内容は、ほとんど頭に入ってこない。


 テーブルの上に、現金が置かれている。

 束になった紙幣。

 これのためだった。

 これを手に入れるために——


 そこまで考えて、思考が止まる。


 続きが、うまく繋がらない。

 手を伸ばして、一枚だけ取る。

 指先に触れる紙の感触。


 軽い。

 あのときより、ずっと軽い。


(……こんなもんか)

 ふと、思う。

 もっと何かが変わると思っていた。

 全部が解決して、楽になると思っていた。


 なのに。


 何も変わらない。


 むしろ——

 何かが、確実に消えている。


 テレビから、ニュースの声が流れる。

「——昨日、行方不明となっている少女について——」


 反射的に、リモコンを探す。

 見つからない。

 音は、そのまま続く。


「——警察は事件の可能性も視野に——」

 電源を抜いた。


 静寂が戻る。


 でも、音は消えなかった。

 頭の中で、同じ言葉が繰り返される。


 眠れなかった。


 横になっても、目を閉じても。

 暗闇の中で、何度も同じ光景が浮かぶ。


 顔。

 目。

 こちらを見る視線。


 数時間か、数分か。

 時間の区別がつかない。

 ただ、疲れているはずなのに、眠れない。


 水を飲もうとして、手を止める。

 コップの水面に、自分の顔が映る。


 ひどい顔だった。

 見覚えがあるようで、ない。


「……誰だよ」

 小さくつぶやく。


 返事はない。

 そのまま、しばらく見つめていた。


 やがて、視線を逸らす。

 それ以上、見たくなかった。




 外に出た。

 理由はない。


 ただ、部屋にいるのが耐えられなかった。

 昼間のはずなのに、光がやけに眩しい。


 人の声が、遠くに聞こえる。

 普通の会話。


 笑い声。

 どこにでもある風景。

 その中に、自分はいなかった。




 足が、勝手に動く。

 どこへ向かっているのかも、よくわからない。


 ただ、歩く。

 気づけば、人気のない道に出ていた。

 木々が増え、空気が変わる。


 静かだ。

 音が、少ない。


(……ここなら)

 ふと、思う。

 理由はない。


 でも、ここがいいと感じた。





 数日後。スコップを持って、同じ場所に立っていた。


 風が、吹く。

 木々が揺れる。

 音は、それだけ。


 勇は、地面を見つめた。

(ここに埋めれば、終わる)


 そう思った。

 それが、すべてを終わらせるための、最後のつもりだった。


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