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やり直しの終わりに  作者: カンヌワルト
第2章1995年
25/43

5年後公園で

 5年が過ぎていた。


 田中勇、34歳。

 課長に昇進し、仕事はさらに忙しくなった。

 それでも——

 この時間だけは、欠かさなかった。


 休日の午後。

 近くの公園。

 ベンチに座り、ゆっくりと息を吐く。

「パパー!」

 声がする。


 顔を上げる。

 咲が、走ってくる。


 肩くらいまでの柔らかい髪。

 陽の光を受けて、きらきらと輝く。

 薄いピンクのワンピース。

 最近のお気に入りらしい。

 風に揺れて、その色がやわらかく広がる。

(……天使みたいだな)

 ふと、そんな言葉が浮かぶ。


 大げさじゃなく。

 本当に、そう思った。


「見て!」

 手を広げる。

 何かを拾ったらしい。

 小さな石。


「すごい?」

「うん、すごいな」

 しゃがんで、目線を合わせる。

 咲が、うれしそうに笑う。


 その笑顔が、まぶしい。

 周りの子どもたちの声。

 風の音。

 遠くで鳴く鳥。

 すべてが、やわらかく混ざる。

 平和だった。

 これ以上、何もいらないと思えるくらいに。


 咲は、少し離れてまた遊び始める。

 ひとりで何かを想像しているように、手を動かしている。

(……そういうとこ、似てるな)

 おとなしい、と言われることが多い。


 でも、勇から見れば違った。

 ただ静かなだけじゃない。

 ちゃんと、自分の世界を持っている。

 それが、どこか誇らしかった。


 しばらくして。

「パパ」

 呼ばれる。

「ん?」

 振り向く。

 咲が、少し離れた場所に立っている。

 木のそば。

 その影の中。


「ここ、知ってる」

 一瞬、言葉の意味がわからない。

「……え?」

 聞き返す。

 咲は、木の根元を指さす。

「ここ」

 当たり前のように言う。

「前にも来たことある」


 胸の奥が、ざわつく。

「……来たこと、あるだろ」

 笑って返す。

 この公園には、何度も来ている。

 そういう意味だと思う。


 でも。

 咲は、首を振る。

「ううん」

 静かに。

「もっと前」


 風が、止まる。

 音が、遠くなる。

「……いつだ?」

 声が、少しかすれる。


 咲は、少し考えてから。

「わかんない」

 でも、すぐに続ける。

「でも、知ってるの」

 その言い方。


 あまりにも自然で。

 疑いがない。

 だからこそ——

 怖い。


 心臓が、強く打つ。

 視線が、咲に向く。

 陽の光の中。

 やわらかい髪。

 ピンクのワンピース。

 無邪気な顔。

 それなのに、なぜ。

 どこかで——

(……見たことがある)


 違和感が、形になる。

 逃げ場がなくなる。

 咲が、こちらを見る。

 まっすぐな目。

 逃げ場のない視線。

 ——あのときと、同じ。


「……どうしたの?」

 咲が、首をかしげる。

 その一言で、現実が戻る。

「……いや」

 すぐに笑う。

「なんでもない」

 嘘だった。


 でも今はそう言うしかなかった。

「つづき、遊ぼ」

 咲が笑う。

 また走っていく。


 その背中を、見送る。

 光の中に、溶けていくように。

 勇は、動けなかった。

 

 ただ1つだけ、確かなことがあった。

 この違和感は、もう消えない。

 どこかで、繋がっている。

 そう思ってしまった。


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