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やり直しの終わりに  作者: カンヌワルト
第2章1995年
18/43

結婚

 報告は思ったよりもあっさり受け入れられた。


「そうか、結婚するのか」

 課長が、少し驚いたように目を細める。

「……はい」

「いいじゃないか」

 短く笑う。

「最近の仕事ぶり見てればな、そういう流れになるのも納得だ」


 周りからも声が飛ぶ。

「おめでとうございます」

「やるじゃないですか、田中さん」

 照れくさい。

 でも。

 うれしかった。


 ちゃんとここにいる。

 ちゃんと認められている。

 その実感が、胸に残る。




 式は、大きなものじゃなかった。

 派手さはない。

 招いた人も、多くはない。

 それでも。

 十分だった。


 並んで立つ。

 美咲が、隣にいる。

 白い衣装。

 少し緊張した顔。

 でも、目が合うと——

 やわらかく笑う。


 それだけで、胸がいっぱいになる。

 誓いの言葉。

 声に出すたびに、現実になる。

 逃げ場はない。

 でも。

 逃げるつもりも、もうなかった。


 拍手が、静かに広がる。

 振り返る。

 職場の人たち。

 課長。

 見慣れた顔が、そこにある。


 誰も、遠くない。

 その中に、自分がいる。


 ふと、思う。

 昔の自分には、何もなかった。

 繋がりも。

 居場所も。

 ただ、流されるだけの日々。


 でも今は。

 違う。

 隣に、美咲がいる。


 それだけで、十分だった。

 式が終わる。

 少しだけ静かな時間。

 ふたりきりになる。

 言葉は、少ない。


 でもその沈黙が、心地いい。

「……なんか、実感ないな」

 ぽつりと呟く。

 美咲が、少し笑う。

「そのうち、わかりますよ」

 やわらかい声。


 その言葉に、うなずく。

 ふと、空を見上げる。

 光が、やさしく差し込んでいる。

(……これが)

 胸の奥で、言葉になる。

(これが、幸せか)

 静かに、噛みしめる。


 誰に向けるでもなく。

「……ありがとう」

 小さく、呟く。


 神様に向けてか。

 それとも——

 ここまで来た時間すべてに向けてか。

 わからない。

 ただ。

 確かに、そこにあった。

 自分の居場所。


 そして——

 初めて手に入れた、“家族”。

 その温もりが、胸に残っていた。


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