重なっていく時間
それからの時間は、静かに進んでいった。
特別なことは、あまりない。
休みの日に会って、食事をする。
少し遠くまで歩く。
どうでもいい話をして、笑う。
それだけの繰り返し。
でも、その“それだけ”が、少しずつ形を変えていく。
「ここ、前にも来ましたよね」
「ああ」
「二回目ですね」
そんな会話が増える。
初めてじゃなくなる。
それが、少しうれしい。
ある日。
部屋に、美咲が来る。
「……なんか、落ち着きますね」
そう言って、部屋を見回す。
「何もないけどな」
「それがいいんです」
笑う。
その笑顔が気付けば自然にそこにある。
“自分の場所”に、“誰かがいる”ことが当たり前になっていた。
仕事の帰り。
今日は何を食べるか考える。
ひとりのときは、適当だった。
でも今は。
(あいつ、これ好きだったな)
そんなふうに考える。
それだけで、少し楽しい。
別の日。
言い合いになる。
「そんなに無理しなくていいじゃないですか」
「大丈夫だって言ってるだろ」
小さな衝突。
沈黙。
気まずい空気。
でも。
「……悪い」
先に言う。
意地を張るのは、もうやめた。
美咲も、少しだけ困ったように笑う。
「私も、言いすぎました」
それで終わる。
壊れない。
前とは違う。
ちゃんと、戻れる。
その感覚が、どこか安心だった。
季節が、ひとつ巡る。
同じ道。
同じ店。
隣にいる人は、もう“特別”だった。
ある夜。
並んで歩く帰り道。
言葉は、少ない。
でも。
沈黙が、苦じゃない。
むしろ、心地いい。
勇は、ふと立ち止まる。
「……なあ」
美咲が振り返る。
「はい?」
少しだけ、迷う。
でも今回は、言葉が詰まらなかった。
「……このまま、一緒にいないか」
シンプルな言葉。
飾りもない。
しかし、逃げてもいない。
美咲は、少しだけ驚いて——
それから、やわらかく笑う。
「……はい」
静かな返事。
それだけで、すべてが決まる。
風が、ゆっくりと流れる。
変わらない夜。
確かに、ふたりの関係は変わっていた。
もう、“ただの恋人”ではなくなっていた。
これから先を、一緒に歩く存在。
その始まりだった。




